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【SS】サクラ大戦大活動写真−太正浪漫よ、永遠なれ−

  【SS】サクラ大戦大活動写真−太正浪漫よ、永遠なれ− Rudolf@連投失礼 2016/09/27 19:46:29
  その1. Rudolf 2016/09/27 19:47:09
  その2. Rudolf 2016/09/27 19:48:02
  その3. Rudolf 2016/09/27 19:49:10
  その4. Rudolf 2016/09/27 19:49:32
  その5. Rudolf 2016/09/27 19:50:33
  その6. Rudolf 2016/09/27 19:50:49
  その7. Rudolf 2016/09/27 19:51:11
  その8.(最終章) Rudolf@お付き合い下さりありがとうございます 2016/09/27 19:51:43
   └ようやく感想 夢織時代 2016/09/28 00:16:50
    └東京、仙台、神戸等々と Rudolf@今度は餃子オフゆるぼ中 2016/10/17 21:45:31

【SS】サクラ大戦大活動写真−太正浪漫よ、永遠なれ− [返事を書く]
再びごきげんよう、一介のSS書きにしてネタ師Rudolfです。

SSってーのは二次創作小説のことでして、せっかくの今日という日ですので一旦封印していたけど
某所のオマケでもしかしたら?一部の衆目に触れたかもしれない一作をアップさせて頂きます(^ー^)

内容としては、Vの後の時系列で全都メインキャラほぼ出演、各種ネタバレふんだんに有。
(もはや何がネタバレか分かんないっす・・・)テキスト換算で127kB、63000字超あります。(汗)
段落中の改行はありませんので窓の大きさを適時最適化してもらわなあきませんがm(_ _)m


では、以下から本文の開始です〜。
Rudolf@連投失礼 <lyyurczxxp> 2016/09/27 19:46:29 [ノートメニュー]
Re: 【SS】サクラ大戦大活動写真−太正浪漫よ、永遠なれ− [返事を書く]
その1.

 空中戦艦ミカサの霊子核機関を失い、空前の繁栄にもブレーキがかかると思われていた帝都東京。しかし人類の飽くなき向上心は中世的停滞を許容するほど怠けていた訳ではなかった。全長8キロにも及ぶ物体に空中航行を可能せしめた強大な機関の代替を、帝都は人海戦術に求めた。
 数年前、帝都の建築物の事如くに被害を与えた六破星降魔陣、このエネルギーもまた強大なものである。そこで降魔陣のトリガーとなった7つの地脈ポイント、芝、浅草、深川、九段、日比谷、築地、そして日本橋に設置されていた大型ボイラー機関を再稼働し土地に集まる霊気を吸収させエネルギーを生み出させた。霊子核機関に比すれば低出力はやむなしだったが、計七ヶ所に設置させるというスケールは、ミカサ程とは言わずとも現状のエネルギー消費の上に釣銭が困らない位の供給量を実現させていた。
 地脈の流れを人為的に弄ることへの不安はあった。その代表格が、先の戦いで天海、叉丹に苦しめられた経験を持つ米田一基である。
「地脈なんてもんは人に制御しきれるもんじゃねえんだよ!何か起こる前に止めとけってんだ、このスットコドッコイ。」
 ミカサ、ひいては星龍計画の反省により、この再稼働計画がなされた頃より米田はいつもながらの口調で何度も上層部に掛け合ってきた。しかしながら、いつもの直情的、高圧的な物言いは部下には通じても平和を享受しすぎた上層部の面々には通じないどころか逆効果である。元中将に相応しいとはいえない最低限の礼節を以て丁重に追い出されるのが彼の常だった。
 若い者には助力を頼めない、わざわざいの一番に彼らに対して「頭の固ぇウスラトンカチ共に睨まれるのは俺っちだけで十分だ。」と、手形を切って来ているのだから。故に孤軍奮闘を続けてきたわけだが、老人の信念に実が結びつかず、彼らに誇れる戦果を上げるには至ってなかった。
「大神よお、すまねえなあ。へへっ、デケェ口叩いておきながら平和ボケの莫迦野郎も説得できねえ無能者を情けなく思ってるかい、あやめくん?」
 鬱憤と自責のブレンドに辟易している米田はそう言って、すうっと天を見上げた。夏の日差しが眩しいが、それも蒸気の靄に多少の軽減を余儀なくされていた。天に向かい、自分の危惧が現実化しなければいい、米田は強くそう祈った。

 他方、江戸湾帝都近海。米田の祈りとは裏腹に、異形の者の息吹が海底に低く木霊している。息吹の源すぐ近くを気ままに泳いでいた魚が刹那の瞬間、影に捕らわれ姿を消した−−−

    サクラ大戦 大活動写真
    −太正浪漫よ、永遠なれ−

「せいやあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 幾何か枯れた大神の叫びが後部の操縦席に響く、さもありなん、これで本日だけでも3度目の出撃である。労働者の権利が認められた企業での話であれば、訴訟やストライキが発生している事うけあいであったろう。何も今日に限った事ではない、華撃団はここ数日連日連夜、毎日毎日複数回の出撃を行っており、隊員の皆が疲労を蓄積しつつあった。「隊長・・このままでは花組全体の活動継続に支障が出ます。部隊を2つに分けましょう。」
 意見具申するマリアの声にも本来の生気が欠けていた。華撃団は光武の個体性能差により戦術面の観点から全員の一斉出動が基本である。だがここ数日の出撃に関してのみ事実を述べると、戦術面の大前提、遊兵を作らないという点からして話にならなかった。とかく出現した敵が弱すぎるのだ。毎回2、3体ほどの人の丈よりひと回り大きい程度の降魔が出現するのだが、およそ一人が攻撃すれば一撃で屠る事ができた。全体攻撃に秀でた織姫などに至っては、
「お茶の子サイサイすぎマース!ワタシ一人いればノープロブレムデース!」
と、半分真実半分フラストレーションでの発言で息巻くのであった。マリアが事態の打開を打ち出そうと戦略面での危険、戦力分断を伴う提案を行ったのも隊員、そして隊長の状態を慮ってのことだった。
「そうだな、マリアの言うとおりだ。帰投次第対応を考えるよ。」
 マリアにしても、大神の疲労による枯れた声を聞くのは気持ちのいいものではない、ただそれは全ての隊員が等しく思う、隊員の完全なる総意でもある。
「よし、全機翔鯨丸に帰投せよ!」

「大神くん、お疲れ様。」
 翔鯨丸操縦室では、責任者のかえでが大神達を出迎えた。実戦に出ている花組程ではないにしろ、かえでも他の翔鯨丸クルーにも疲労の跡は徐々に進行の兆しを見せている。
「かえでさん、実は…」
 大神はマリアから具申された案を自分なりの具体例を付与して説明した。
「…という事です。どうでしょう、かえでさん。」
「大神くん!」
「は、はいっ!」
 にわかにかえでは大神に対し、きっと厳しい表情を作った。
「いい、大神くん。今の華撃団の総司令はあなたなのよ。いちいちわたしに許可を求めないこと、いつも言ってるでしょ。」
「は、はいすみません。以後気を付けます。」
「よろしい、よくできました。」
 と、かえでは大神の額に人差し指をあてがう、姉譲りの『でこつん』だった。両人からのでこつん経験を持つ大神としては、これをしてもらえると爽やかな笑顔になれるものの、妹のそれは爪の食い込み感があり場数をまだまだ踏んでいない表れだな、などと生意気な考察を持つのだった。
(ぎゅっ)
「いててっ!!」
 でこつんをされると、いつの間にやら必ずジト目で後ろに立ち背中をつねってくるさくらの姿も相変わらずの風景である。
「また鼻の下伸ばしちゃって、本当にだらしがないですね、大神さん。」
「そ、そうじゃなくって、いててててっ!」
 さくらは口答えなど欲しくはないし、また反論を抱擁する気もさらさらない、その現れが指の力の入れ具合に顕著に出てきている。
「まあまあ、さくらさん。いつまでもそのような事で目くじら立てるなんていつまで経ってもお子様ですこと。中尉も呆れられていますわよ、おーっほっほ。」
「す、すみれさん。そ、そんな事ありませんよ。」
 すみれの横槍に、大神の背中から手を放し頬を紅潮させつつふいと抗弁を試みるさくら。何年も変わらない風景である。疲労の中でもこのようなコミュニケーションは日常茶飯事である。
 直後の作戦指令室でのブリーフィングにて、大神の口から戦力分割の話が隊員に告げられた。
「みんなの疲れも大きい、だから俺は部隊を2つに分けようと思う。」
「隊員の状態を考えるとやむを得ない。だけど隊長、戦力が分断されるのは危険だ。」
「レニの言うことは分かってる、だけどみんなには舞台の方もあるから殆ど休めていないだろ。これ以上の負荷は隊長として認められない。」
 この時花組は、新たに建築された「大帝都スタヂアム」のこけら落とし公演に抜擢され、初めての舞台での計画、稽古等にも時間を費やす日々が続いていた。何しろ収容人員4万人を数える屋外型スタジアムで、今後の国際的スポーツ大会の招聘も視野に入れた国家一大プロジェクトの中核施設なのだ。初物尽くしの舞台で誰もが手探りで公演に向けて進んでいる、という矢先に連日の華撃団としての出撃である。どれほどの疲労になるか、常人には想像に難い話だった。
「隊長がそこまで言うなら、ボクは反対しない。」
「なあに、イザってなりゃあアタイが三人分戦ってやるさ。」
 疲労の色が、唯一見えないといってもいいカンナが威勢良く応えた。
「あ〜ら、筋肉バカのカンナさんらしい答えですこと。なにしろ肉体労働でしか中尉の期待には応えられない方ですからね、おっほほほほほ。」
 カンナの物言いに、いつもいらぬ科白で受けるすみれ。彼女もいつもの成果は出ていないにせよ、疲れを絶対に顔に出さない役者根性と減らず口だけは劣化の兆しすらない。
「ああ〜ん、筋肉バカってのは一体どこの誰のことだってえんだよ。」
「この中で貴女以外にそのような方がいらして?」
「んだと、コノヤロぉ!」
「止めなさい!!」
 これからが本番、という所でマリアの一喝が飛ぶ。本番になってもらっては困るのだ、そしてこの時だけは彼女が全幅の信頼を置く上官に対して全く期待ができずに、自らが先陣を切っていた。
「まったく、これだけ言い争える元気があれば大丈夫ですね、隊長。」 
「あ、ああ。うん、そうだな。」
 期待されていなかった上官は、マリアの予想に違わぬ、期待できない返答を返した。
「とにかくだ、明日以降の出撃は部隊を半分に分ける。第一隊は俺とさくらくん、アイリス、紅蘭、レニ。第二隊はすみれくん、カンナ、織姫くんをマリアに任せる。」
「了解!」
 全隊員の規律良い回答が飛ぶ。大神は各員の表情から彼女たちの意志を確認し、ブリーフィングを終了する。
「以上、解散。」
 大神はこの時、戦術指揮官としての顔より戦略司令官、あるいは想い人をおもんばかる一般人としての思考に傾倒していたのかもしれない。彼は後々、自らの見識の甘さと未熟ぷりを呪うことになる。

 歌劇団としての本日の稽古も終了し、花組の面々が自室に引き上げた後、大神は日課の夜の見回りに部屋を出る。だいたい、少なくとも一人や二人と劇場のどこかで出会うのだが、今日は皆夢をもベッドから追い出して深い眠りについているのだろう、人影一つ見出すことはなかった。かくいう大神も、手に持つ懐中電灯と警棒をいつでも投げ出し、寝床に潜り込んで惰眠を貪りたい心境である。誘惑が沸きだしてくる度、責任感が誘惑を放り投げるという内なる戦いが見回りの間中続いている、何度目かの睡魔との戦いに辛くも勝利した瞬間、大神は背後の違和感に気付いた。
 前方に勢いよく飛び出し、反転しつつ対象を確認すると同時に何者かに対して俊敏に身構える、一部の隙と無駄にも無縁の動作を行った。そして彼の眼前には武者の霊があった。武者といっても全身に槍や矢の突き刺さった落武者などではない。立派な甲冑に身を包んだ、当時はさぞかし名を上げていた将という雰囲気を漂わせている。
「何者だ!帝劇に何の用だ!!」
 大神の怒気をはらんだ質問に、武者の霊は無言の回答を行った。即ち問答無用に斬りかかってきたのだ。 
 すかさず大神は左手の警棒で受け止めにかかるが、警棒は防御の任を果たせずに真っ二つに斬り裂かれた。棒の耐久力を認識するかしないかの内に大神は素早く後ずさり、相手の刀の有効範囲外へと脱出を成功させた。目の前の武者は、霊体ではあろうが人に対して相当な危害を加える能力と意思を持った危険な存在であると判断せざるを得なかった。しかも夢組の結界に守られた大帝国劇場に誰にも気づかれずに侵入してきているのだ、一筋縄ではいかないのはそれだけで理解できた。大神の背筋に緊張が走る。
 間合いをじりじりと詰めてくる相手に対し丸腰の大神は一歩、また一歩と間合いを広げようとする。間を置かず、大神の側に要求を満たせるだけの空間を求められなくなった時、機を見た相手が一気に間合いを詰めて刀を振りかぶった。決めに来たのだ。
「くっ、」
 大神は必死の抵抗で両腕を構える、が、敵の凶刃は彼の腕を切り落とすことなく全身の動きを止めていた。あらぬ方向からの数発の棒手裏剣が両者の間に閃き、床に存在を叩きつけていた。武者はこれを察知し深入りを掣肘させられていた。
(じゃら〜ん)
 不意にギターの音色が暗闇に響いた。
「いよう、大神ぃ。今夜のお相手はむさ苦しいにも程があるなあ。お前、趣味が変わったのか?」
 声の主は加山であった。月組隊長らしく闇に紛れ大神の危機に駆けつけてきた。彼の性格からして、大神が本当の危機を迎えるまでずっと側で忍んでいたとも思えるが、おそらくそれが真実なのであろう。誰あろう大神こそこの意見に最も確証はないが揺るぎない確信を持つ者なのだから。
「そんなわけあるか、加山。とにかく助かったよ。」
「その台詞は、本当に助かってから聞きたいものだな、ほらっ!」
 加山から大神に二本の物体が投げ渡された。正しく彼の得物の二刀。これさえあれば、大神はすらりと刃を抜き放ち、これまでのお返しとばかりに攻勢に転じた。阿云の呼吸で加山が彼の援護に就く。
 士官学校1、2の若者の、計3本に及ぶ力強い剣戟は彼らの類希な霊力も相まって今までいいようにやってくれていた武者をじりじりと後退させていった。
「加山!」
「おう、大神!」
 掛け声と目配せのみでお互いの次の行動を理解し、それぞれが効率的に敵に手を出させずに選択肢を削っていく。霊体相手で向こうの疲弊だけは推し量ることはできないが、霊力攻撃により多少はダメージを追っているはずである。よって二人のコンビ攻撃は敵に息をつかせない速攻を主体としている。
 さすがに堪らなかったか、敵はテラスの窓をすり抜け、劇場の外に出た。二人が追って窓を開けてベランダに出てみると、もう既に武者の姿は影も形もなかった。
「逃がしたか。」
「大神、あれに心当たりはあるのか?」
「いや、全くない。加山、助けてくれたついでに頼みがある。」
「あれの調査だな。それこそ俺達月組の本分だ、任せろ。」
 本分、か…と大神は心の中で独語した。隠密行動、情報収集が月組の本分だが今日に限らず隊長の加山だけには敵と直接対峙している場面がままある事を大神は知っている。隊を率いる男の割にはスタンドプレーが多い。副隊長宍戸の気苦労も生半可なものでないだろう。
「どうした?何をにやついてるんだ、大神ぃ?」
「なんでもないさ、頼んだぞ。」
「あ、ああ。」
 加山も、時折見せる大神の心ここにあらずの行動の真意は測りかねていた。同じ釜の飯をずっと食べてきた割には、分からないところは分からないものである。単に、分かり合えた者同士故に興味のないところまで深く詮索しない男同士の友情の姿だった。
「じゃあな大神ぃ、アディオース、」
「あ、待ってくれ加山。」
 消えようとしていた加山は見事に梯子を外され、ずっこけた。
「な、なんどよ大神ぃ、用があるならもっと早く。」
「あ、ああ、すまん。今夜のことだが、花組のみんなには内緒にしておいてくれ。」
「そうなのか?今度は隊員の誰かが襲われたらどうするんだ、伝えておく方が賢明だと俺は思うぞ。」
「それは分かってる。だけどこれ以上彼女たちの負担を増やすのは、俺はできん。」
 大神の吐露も、加山は理解できるつもりだった。ただ大神と加山は花組の面々に対する思いのベクトルが、いや愛情の深さがまるで違うが故の意見の相違だった。
「気持ちは分かるが…」
「俺が何とかする!」
 叫ぶような大神の決意の声、加山はこういう時の大神に弱かった、そしていつも同じ道に進んで乗りかかって苦労を負担するのが好きだった、今回もまたそれに倣った。
 加山は分からず屋っぷりに呆れた風を装う、だが内心は大神の決意への同調と助力への誓いに熱くなっている。
「分かった分かった、全くお前は相変わらず頑固だな。及ばずながら俺も手を貸す、だから一人で無理に抱え込むなよ。」
「いつもすまん、加山。」
「いつものことだろ、じゃあな。」
 それだけ言い残して加山は今度こそ闇に飛んだ。情報収集は彼や月組に任せるのが最善策である、彼らを信じることとして大神は見回りを続け、部屋に戻った途端にベッドに倒れ伏し、モギリ服のまま深い眠りに身を委ねた。
 明くる朝、朝と呼ぶには些か陽が高く上がっていた時間にようやく大神は睡魔との甘い蜜月時間との別れを惜しんだ。慌てて起き上がり、鏡の前に立った時自分がモギリ服のまま寝入っていた事に気付いた。海軍士官学校主席卒の紳士は、これはまずいとクローゼットより替えのモギリ服を取りだし、先刻とは服の皺が無い以外は全く同じ状態に着替えた。
「すみません、遅れました…あれ?」
 階段を駆け下り、表の職場たる支配人室に飛び込んだ大神を迎えてくれる者は誰もなかった。花組はこぞって舞台で稽古中、かえでは陸軍省、かすみはそのお伴で由里が一人事務局で次回公演の書類整理中、椿も公演用の売店の仕込みで、寝坊の君を柔らかな手で優しく起こしてくれる天女の存在には期待できない状況だった。彼を待っていたのは天女ではなく、山と積まれた書類の大軍のみ。そこに、
「大神さん、しっかりハンコお願いしますね。全部終わるまで寝ちゃだめですよ。」
という由里の置き手紙が添えられていた。
「やれやれ、支配人といってもモギリの頃と大して変わらないな。」
 ぶつくさとは言いながらも、モギリ時代から培ってきた内勤への勤労精神が圧倒的多数への無謀な戦いへと彼を誘った。書類の同じ位置に支配人の判子を押すだけという流れ作業の間に、大神は昨夜の出来事について考えた。
「昨夜のあの武者…なんだったんだ?俺に対しての明らかな敵意、殺意はあった。だが何故だ?それにこの帝劇に易々と現れる事のできる妖力の高さ、あなどれない何かが動いているのか?支配人として、総司令として、注意しなければ。」
 考えるには明らかに情報が不足している。少なくとも加山が何か掴んでくれる事を期待しないと、今は注意する以外にこちらから動く事はできない、と大神は現在を結論付けて書類と格闘していた体に注意を向け、これらに埋もれる覚悟を決めた。
Rudolf <lyyurczxxp> 2016/09/27 19:47:09 [ノートメニュー]
Re: 【SS】サクラ大戦大活動写真−太正浪漫よ、永遠なれ− [返事を書く]
その2.

 一方、舞台でも問題が起きていた。
「だから申してるではありませんか。このような陳腐な舞台では、この神崎すみれの晴れの舞台にしては地味で平凡なのですと。」
「だから何度も言ってるでしょ、今度の舞台はあなた一人が目立てばいいものではないのだと。」
「そうだぜ、ったくおんなじ事ばかりで何回稽古を止めりゃあ気が済むんだよ、このウスラトンカチ。」
「あ〜ら、初めて花組をご覧になる来賓の方々から普段この劇場に足繁く通われているお客さままで、お客様は全てわたくし、わたくしだけをご覧に来て下さるのですわ。それこそ幾度となく申し上げてますのにウドの大木の幹の耳しかお持ちでないカンナさんにはそれがまだお分かりにならなくて?」
 すみれのいつもの我儘が始まっていた。この稽古のお披露目になる次回公演は、件の大帝都スタヂアムこけら落とし公演であり観客も名の知れた来賓から今まで帝劇の舞台を見た事のない市民までが多数来場することうけあいであり、すみれのいつもの我儘にも気合いが増すようである。
「ま、まあまあすみれさん、落ち着いてください。」
「カンナはんもマリアはんもここは抑えて、な、な?」
「さっくらさん!あなたいつでもそんないい子ちゃんぶらないで下さる?わたくしはお客様のご覧になりたいものを説いてるのですわ、あなたに止められる謂れはございませんことよ。」
「なあ紅蘭、ここは黙ってこのバカの脳みそに一発食らわさせてくれよ、今日という今日はもうガマンなんねえんだ!」
「そうよ紅蘭、ちょっと待ってて。こんな事をして無駄に時間と体力を消耗させていいわけないの。」
 さくらと紅蘭が間に割って入るがゴタゴタは収まらない。今回はマリアまでが嵐を起こす側にいたことに抑えようとする側の二人は多少の動揺を余儀なくされた。
「あ〜あ、また始まっちゃった、毎日毎日よく飽きないね。アイリス、疲れちゃってるんだから。」
 花組の中で飛びぬけて素直で正直なアイリスは疲労を隠そうともせず、疲れが増すだけの争いには関わろうとはしなかった。
「そうデスネー、触らぬ神に畳なしってやつデース。」
「織姫、畳じゃなくて祟り。」
「う、うっさいデース!」
 指摘こそ的確に行ったが、レニも喧嘩に対しては傍観を決め込む組であった。無駄な時間と体力の浪費という点ではマリアと意見を一にするのだが、彼女がマリアと違ったのは、すみれとカンナの間にいちいち介入することの非効率さを認めるか否かという点にあった。
「このアマー、根性叩き直してやる!」
「あなたなどに叩き直される根性は持ち合わせておりませんわ!」
「止めなさいって言ってるのが分からないの?!」
 幾度の物理的衝撃の応酬が交わされた後、更なる連鎖が発生する前にようやく大神が異変を察知した。
「な、何をやってるんだみんな?」
 大神は驚きの表情を浮かべると共に一言を発した後、舞台上の様を見渡して絶句した。
「た、隊長、これはその、つまり…」
「マリア…マリアまでどうしてこんあことに。」
「イズヴィニーチェ(ロシア語訳:すみません)。」
 隊員をおもんばかり、隊長に気遣う余り、自分の力で処理しようという気ばかりが焦って結局どちらも立たなかった現実に、マリアは謝罪を述べるに止まった。
「みんな、次は大事な舞台なんだ。それなのにみんなの心ががこんなにバラバラでどうするんだ。」
「中尉、ですから次の舞台のためにとわたくしがもっとよい舞台にしようというのをカンナさんが、」
「んだと、まだ言うかこのヤロー!」
「止めないか!」
 元の木阿弥になろうとする矢先に大神の一喝が飛ぶ。彼が怒鳴るときは相当に高揚があるものなので、すみれとカンナはビクッとして矛を収めた。
「大舞台の前に度重なる出撃だ、みんな疲れて苛立っているのも分かる。けど花組は、帝国歌劇団は家族だろ、苦しいときこそいがみ合ってちゃ駄目だ、俺はそう思う。」
 隊員たちはこぞって赤面した。中には家族という表現をかなり都合よく解釈して大神を見つめる者もいたようだが、大神はそれには気付いていない。
 カンナに至っては、この中で自らが最も多用する語を使って窘められたのがよほど堪えた様子である。
「へへっ、そうだったよな。苦しいときこそ助け合うのが家族。帝国歌劇団なんだよな…すみれ。」
「はい?」
「なんかすまねえな、お前のいつもの癇癪だと思って何も耳貸さなくてよ。」
「い、いいえ。所詮わたくしの独り善がりの発言でしたから。もう、改めてそんな風に言われましたら、もうっ。」
 先刻までの険悪な雰囲気は一変、九人は和やかなムードに包まれた。やはり花組に彼、大神一郎は必要不可欠なのであると皆が再認識する。
「わーい、だからお兄ちゃんだーい好き。」
 8人を代表してアイリスが大神の胸に飛びつき、謝意を全身で表現した。この行為にまんざらでもない大神を見て、さくらならずとも冷徹な視線を向けざるを得なかった。

(ビーッ、ビーッ、ビーッ)
 直後、劇場中に警報が鳴り響いた。彼女達が歌劇団から華撃団に変わる瞬間である。
「出動だ、行くぞみんな!」
「了解!!」
 調律の整った美しい返答が響き、隊員達はダストシュートに一目散に駆け出す。稽古中のために全員稽古着でダストシュートに飛び込んだ彼女達はその出口、即ち作戦指令室では凛々しい戦闘服に包まれていた。
「隊長!花組、全員集合しました。」
「分かった。」
 大神も戦闘服を纏い、既に指令室にあった。隊員が揃ったのを確認した大神は総司令として矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「昨日言った通り、部隊を2つに分ける。まずは第一隊、出撃準備をせよ。第二隊は指令室にて待機。もしもの場合は俺が出撃命令を出す、いいな。」
「了解!」
「由里くん、敵の状況は?」
「はい、降魔が日比谷公園に出現、確認された数は4体。公園内の施設を破壊しているとの月組からの報告です。」
 現地に急行し、状況を時々刻々伝えてくる月組からの報告を由里がまとめ読む。
「そうか、その程度なんだな。」
「はい、増加の傾向はないようです。」
 大神は安堵した、昨夜の一件もあったため考え過ぎていたきらいもあったろうが実際は部隊の半分でも十二分に退治できる程度の敵勢力だったからである。
「椿ちゃん、かえでさんとかすみくんは?」
「陸軍省を出発、こちらに向かっています。あと10分はかかる見込みです。」
 降魔出現の報はかえでにも間を置かず伝わり、用事を切り上げ陸軍省を発っていた。現在の指令室スタッフはつまり、由里と椿だけという事になる。
「そうか、よし。第一隊は俺と一緒に日比谷公園に出撃する。俺の出撃後、かえでさんの到着までの間、総司令代理をマリアに任せる。」
「わ、私がですか?」
 マリアには先刻の揉め事で嵐を起こした側に立った引け目が少なからずあった。それを氷解させたのは、大神の次の言葉だった。
「君が必要なんだ、疲れているところをすまない。」
 彼に必要とされている、求められているのを眼前で直接言われてはくよくよしてなどいられなかった、いつもの自分を取り戻し、責任感を持つマリアの目が蘇る。
「了解しました、隊長。副司令が戻ってくるまでの間、大任務めさせて頂きます。」
「ありがとう、マリア。それでは、帝国華撃団・花組、出撃!」
「了解!!」
 大神の号令一下、マリアが司令官席にあり、第一隊のさくら、紅蘭、アイリス、織姫が光武に向かう。腕利き揃いの整備班の手によって光武は九機全てが出撃可能状態にあった。
「大神さん、光武は今日もバッチリ整備しときやした、霊子エンジンも快調ですよ。」
「ありがとう、親方。」
 舞台の脇を固めて良し、大道具係をして良し、更には華撃団装備の整備士をも任せて良しの中嶋親方。縁の下の力持ちとは正に彼の事である。帝国華撃団、帝国歌劇団共に彼あってこそ屋台骨が立つものである。
 親方の仕立てた光武に颯爽と搭乗する花組、各機の霊子エンジンが彼の言うとおり機嫌のいい音を立てて動きだす。
「ええ音や、丁寧に扱うてもろてよかったなあ、ホンマに皆はんおおきにやで。」
 光武を我が子の如く可愛がっている紅蘭には、整備班もまた光武やその他装備をよく愛しんで手をかけていてくれるのがよく分かっていた。
「よし、轟雷号に搭乗するぞ。」
 起動した光武達をロボットアームが機械的な動作で釣り上げ、轟雷号コンテナへの格納位置へと運び出す。常日頃の約半分の格納庫が埋まったところで車体は発進位置へとじわじわと動き出した。停止位置まで着たところで列車は台に固定され、台自体が世界と垂直を成す位置まで後部を持ち上げた。
 やがて垂直を形成したところで固定が外れ、轟雷号は重力の力を得て猛スピードで発進していった。

 所は日比谷公園、異形の降魔共は自らの力量の爪痕を刻むかのように、公園内にある目に付いた物全てに対して破壊の衝動をぶつけていた。
「てーやんでぇ、魔物が怖くて紙芝居屋がやってられっかよ!」
 息巻く紙芝居屋、千葉助の前に降魔が殴り折った大木の枝が落下してきた。
「お、お、お、とっとぉ。こりゃコッチ行っといた方がよろしいですね、はいよちょいとごめんなさいよ…さいならぁー!」
 千葉助は競輪選手も青ざめるかの勢いで自転車を漕いでその場を立ち去った。その様子を大木の枝に乗りつつ眺める人の目。
「逃げ遅れた最後の一人の紙芝居屋が逃げ仰せました。」
「よし、これで光武の枷になる物はなくなったな。花組に信号を送れ。」
「了解。」
 避難誘導を監督していた月組隊員である。市民の避難が完了したところで、花組及び指令室に登場可能の信号を送る。刹那、公園の一角に五色の煙が舞い上がり中からこれまた五色の光武が現れた。
「帝国華撃団、参上!」
 人語を介する事が可能とは思えぬ相手に対して見栄を切り、花組が戦場に到着した。月組の任務もここより戦況報告へと移行する。
「いたな、降魔。」
「相変わらず、破壊の限りを尽くしてマスネー。」
「相手は数で劣る、一気にせんめつするぞ。」
「了解!」
 前衛攻撃機たる大神、さくら機が先頭を切り、紅蘭、織姫機が後に続く。後衛に回復役のアイリスが控える理想的な陣形である。
「食らえ、降魔!」
 大神の二刀が降魔の一匹の頭を確実に捉えた。降魔は断末魔の悲鳴を残して即死した。続いてさくらの一太刀が次の降魔を一刀両断する、直前に異変が起こった。
「あ、あああっ。」
「ど、どうしたんださくらく、ううっ。」
「いたい、いたいよ、頭がいたいよー。」
「な、なんなんデスカー、頭が割れそうデース。」
 大神を含めた花組の身体に変調が生じた。事の強弱はあれど一斉に頭痛が襲ってきたのだ。特にさくらとアイリスのそれは酷く、光武の中で意識を失ってしまった。自然、光武も動きを止めた、止めを刺されかけていた降魔は攻勢に転じ目の前のさくら機を禍々しい爪で薙ぎ倒した。
「さくらくん!」
 大神の問いかけにさくらは答えなかった、気を失ったままであり彼の声を聞く事もできていなかった。この時大神は後悔の念に駆られた。予想し得なかった隊員の不調からの危機、このような形で隊を2つに割った弊害が出ようとは。危機管理の希薄さを呪わずにはいられなかった。
 しかし今は呪っている場合ではない、尚も残った3体の呪いを体現したような敵がいきり立ち、他の光武にも襲いかかる。
「がんばってや、うちのチビロボ達!」
 降魔が不用意に間合いを詰めた時、紅蘭の必殺技が機先で炸裂した。チビロボの攻撃に降魔は耐えきれずに全てが滅した。
「あ、ありがとう、紅蘭。」
「ええて、多分この中では今うちが一番元気やろし。」
「どういう事だ?」
 何か気付いたような紅蘭の発言は大神の関心を引いた。
「そこや、大神はん。せやけどここは一旦退いた方がええわ。」
「そ、そうだな。全機帝劇に帰投せよ。」

 帰投後、作戦指令室。かえでとかすみも戻ってきており彼女らを含めた全員が紅蘭の意見に耳を傾ける用意に入っている。
「いいぞ紅蘭、始めてくれ。」
「はいな、とその前にさくらはんとアイリス。」
「はい。」
「なぁに?」
 さくらとアイリスも帰投の途中には意識を取り戻していた。
「二人とも、もうなんともあらへんやろ?」
「あ、は、はい。大丈夫です。」
「アイリスもへいきだよー。」
「ほか、やっぱりな。」
 一人だけ解に辿り着いたように紅蘭は頷く。置いてけぼりに耐えられなかったカンナがたまらず立ち上がった。
「おいおい、一人で分かった顔すんじゃねえよ紅蘭。ちゃんとアタイたちにも説明してくれよ。」
「分かった分かった、カンナはんでも分かるように説明したるさかい、よう聞きや。」
「おう。って、アタイでも分かるようにってのはどういうこったよ!」
「カンナ、だまってて。」
 アイリスから注意されるのは大の大人としてさすがに恥じ入るものがある、カンナもそう思わされてしなしなと着席した。
「うおっほん。」
 紅蘭が一つ咳払いをして、皆の目がそちらに向いた。緊張の糸がぴんと張りだす。
「さっきの戦闘中、うちの光武の霊子センサーに変な波長の妖力が引っかかったんや。」
「妖力?降魔のものでは。」
 レニが現場の状況から察し得る発信源を挙げてみる。
「ちゃうちゃう、今までの降魔の妖力とは全く別物やねん。ただ、妖気自体は降魔から出てるねん。指令室におった方には影響なかったやろ。しかも月組はん等によるとあの時公園一帯には降魔以外に妖気を発するモンはなかったっちゅうこっちゃ。しかも、もっと強力な妖気を放っとるっちゅうなかなか厄介なシロモノやで。」
「降魔を中継して、何者かが強い妖気を発していたということですわね。」
 読みの鋭いすみれが、紅蘭の意図を察知した。なにしろ強い妖気はそのまま妖気を発する魔物の強さに直結している、それはカンナでも理解していた。
「で、そのことと今回のさくら達の症状の関連性は?」
「かえではん、それなんや。推論なんやけどな、この今までと違う妖気はうちらの霊力に干渉しよるみたいやねん。」
「干渉?」
「せや、その現象がさくらはんみたいに霊力の強いモンに顕著に現れたっちゅうことなんやろな。現にこの中で霊力の低いうちなんかは症状が軽かってん。」
「そうなのか、基本的に花組は霊力が強い。またこんな事が起こってはまともに戦えないぞ。何か打開策はないのかい。」
 大神が事態の本質を突いた。霊力そのものが枷となっては戦うどころか光武の指一つさえ動かすことはできないのだから。
「あるには、あるねん。」
「えっ。」
「以前、金色の蒸気で使うた手の二番煎じやけどな。妖気の波長と真逆の波長の霊力で光武を包むんや。」
「霊子バリア、というわけね。」
 マリアがらしくネーミングした、以後この呼称が便宜上として用いられることとなる。
「但しや、常にバリアに霊力を送り続けることになるさかい、」
「攻撃力は削がれるし、操縦者の負担が増すとおうことデスネ。」
 戦闘センスに秀でた織姫が言う。同じく秀でたレニも気付いたかもしれないが、唇をぴくりとも動かしてはいなかった。
「そうなると、これまでの降魔クラスにも今まで通りというわけにはいかなくなりますね。」
 さくらの不安は的を得ていた。彼我の戦闘力差があればこそ隊を2つに割るなどの戦略は取れたのだが、一対一で互角程度の戦いとなるとまた全員一隊で対処する必要が生じてくる。
「しかたないな。で、紅蘭。その霊子バリアはいつできるんだ?」
「せやなあ、今から取りかかれば明日の朝にはいける思います。」
 案外早いな、そう思った。が、これは彼女なりの目標数値なのだろう、これから不眠不休で作業するのは分かりきっていた。故に大神は深く追求はしない。
「そうか、では頼むぞ、紅蘭。」
「まーかしとき!」
「隊長、もし霊子バリアの完成までに敵が現れたときは提案がある。」
「レニ、言ってみてくれ。」
「敵と距離を保って攻撃可能な隊員を出撃させれば、影響は最小限で済むと思う。」
「ロングレンジ攻撃ね、となるとまずは私ね。」
 先程は留守番組の隊長をかこっていたマリアが先んじて挙手する。
「そうだな。それと織姫くんと…アイリス、大丈夫かい?」
 離れて攻撃することは可能だが、先の戦闘で影響の大きかったアイリスを大神は庇う素振りを見せた。同程度の影響を受けていたさくらにはそれが面白いものでなく思えた。
「だいじょーぶだよ、離れて戦えばいいんだよね。アイリス強いからだーいじょうぶ。」
「そうだ、その通りだよアイリス。」
「なんでえ、それじゃあアタイはまた留守番じゃねえかよぉ。」
 反対に、近接戦闘主体のカンナが欲求不満とばかりに残念がる。
「ま、仕方ありませんわね。何しろ目の前の敵を殴ることしかできない筋肉バカのカンナさんではものの役にも立ちはしませんわ。」
「だからオメーはいつも余計なことしか、」
「はいはいはい。」
 手を打ちながら、すみれとカンナの間にかえでが割って入る。名漫才を見ている余裕はこの際ないのだ。
(ビーッ、ビーッ、ビーッ)
 再び劇場内に警報が鳴り響く。
「椿ちゃん、今度は何だ?」
「敵です、また降魔が現れました。今度は浅草寺です。」
「こっちの都合で休ませてくれるわけはないか、マリア!アイリス!織姫くん!出撃だ。但し無理は禁物だ。」
「了解!」
 この日、彼女達は更にもう一度の出撃を強いられることとなった。この夜も、負担の大きくなった三人は特に深い眠りにつき、朝まで自室のドアが開くことはなかった。
Rudolf <lyyurczxxp> 2016/09/27 19:48:02 [ノートメニュー]
Re: 【SS】サクラ大戦大活動写真−太正浪漫よ、永遠なれ− [返事を書く]
その3.

 星の動きにまで干渉しない限り明けない夜はない、それはかの天海や長安にも成し得なかった。深い眠りにあった者、まる一晩格納庫に詰めた者、指令室で事の成り行きを最後まで見つめていた者、万人に等しく朝は来る。紅蘭も、一晩詰めて朝の息吹に目覚めた整備班の面々同様、格納庫で目を覚ました。作業の完了した途端、全員が疲れ伏してその場で寝息を立てていたのだ、ひと眠りして息を吹き返した整備班達は改めて労を労い合った。
 本日の花組は歌劇団の顔をしている、次回公演会場の視察であった。完成間近で今もまだ大型蒸機がひしめき合ってスタヂアムを完成へと誘っている。マリアや紅蘭、カンナ、アイリスにはこのような大型蒸機が我が家、大帝国劇場を建てていた頃を知るだけに、懐かしい感情にもなる。
「ふわ〜あぁ。」
 大きな大きな大神の欠伸が花組全員に聞こえた。代表したわけではないが、しれっと彼の隣の空間を確保していたさくらが気にかける。
「大神さん、寝不足なんですか?」
「ああ、でもこのくらい大丈夫だよ、さくらくん。」
 寝不足の理由は紅蘭だけが察していた。今朝起きた時、自身に被さっていたベストがすべてを物語っていたので。
「なんだなんだ隊長、だらしがねえなあ。メシ食って寝る!健康の基本だぜ。よし、これからみんなで旨いメシ食いに行くか。隊長、どっちが食えるか勝負しようぜ。」
「あ、あははは・・」
 元気が取り柄といえば他の追随を許さないカンナ、これが彼女なりの気遣いである。しかしさすがにカンナの食欲に付き合わされる方は冷汗の1つ2つを垂らすのも無理はない。
「まあまあカンナはん、今日はスタヂアムの見学やさかい。旨いメシやったら明日うちが付き合うたるわ。」
「お、紅蘭。いいねえ。」
「但し一杯だけな、せやかてうちら、『レディ』やさかい。あっはははは。」
「おっと、そう来たか。」
 紅蘭の機転で大神の事はうやむやになった、これが彼女の礼だったことを大神はまるで気付いてない。
「うあ〜、大きいし広〜い。」
「そうね、こんなに大きな舞台を任せてもらえるなんて光栄だわ。」
 スタヂアム内に入ってきた花組はその広さに驚かされた。何せ座席だけで4万席。フィールド上、いわゆるアリーナ席を作れば5万人は収容できよう。メインステージの大帝国劇場が屋内とはいえ座席数800余席と比較にならない数では、アイリスどころかマリアすらも少々浮かれる所があっても不思議ではなかった。
「おっほっほ、これですわ。このステージこそ神崎すみれの真骨頂を見せるのにふさわしい舞台ですことよ、おーっほっほっほ。」
「また始まったデース。いつもいつも同じ事ばかり言って進歩ないデスネ。」
「まっ、今日は織姫さんが相手ですの?」
 相手と称するには論点がずれているようである。すかさずレニが口を挟んだ。
「織姫も大差ない。前からずっと今日のことをしきりに気にかけていた。」
「レ、レニっ、いい加減な事言わないのデース。そんな嘘つきな口はこうしてやりマース。」
 織姫は両の手でレニの両の頬を無造作に掴んで左右に引っ張った。
「おにひめ、ひたひ(織姫、痛い)」
「ざまあ見るデース、悪は必ず滅びマース、フフン。」
 レニの口は退治できたかもしれない織姫であったが、他の花組の白々しさを思う視線を回避することはできなかった。
「で、大神さん、いかがですこの舞台は?」
「うん、これだけ広いと何でもできそうだけど、何から考えていいのか迷うなあ。」
 大帝国劇場支配人でもある大神は、当然花組公演の総指揮もとる立場にあり、こけら落とし公演のプロデューサー的な立場にあった。
「いい舞台にします、最高の演出を考えてくださいね。」
「も、もちろんさ。」
 さくらに期待されて悪い気のしなかった大神、自らへの戒めにもなる約束を口にした。彼はこの手の約束を違えた事は一度もない。勿論今回もそのつもりであるし、軽口の奥に存在する確固たる信念は何者にも屈しないものである。
(ズズズズズズズズッ)
 和気藹々仲睦まじい彼女たちを地響きが襲った。
「な、なんですの?!」
「へんなカンジデース…」
「こ、降魔か?」
 花組全員が直感したであろう予想は的中した。地響きとともにスタヂアムのフィールドから降魔が湧きだしてきた、それも次から次へとアリーナ席を埋め尽くさんが如く。気付いた次の瞬間、花組は降魔の壁で十重二十重に包囲される格好となっていた。
「くっ、囲まれたか。」
「大神さん、どうしましょう?」
「とにかく総員、戦闘準備だ。なんとしても切り抜けるぞ!」
「了解!」
 それぞれが自分の得物を手に取る。さくらの霊剣荒鷹、すみれの携帯長刀、マリアのエンフィールド改、紅蘭の小型蒸気ランチャー、レニのランス。後は体術、というよりも個々の霊力を武装とした。大神も二刀を手にしつつ脳は危機打開策を模索していた。視認できるだけで何百という降魔に囲まれ、どういった手があるか。それにこれらから発せられる謎の妖気がいつまた花組に襲いかかるや分かったものではない。状況は圧倒的に不利である。考えを巡らせてる間にも降魔は前後左右からじわじわと花組の領域を侵してくる。
「どうする…」
 迫る降魔に焦りつつ冷静な判断を求められる難題に、大神は未だ解を示せない。マリア、紅蘭の火器が火を噴き数体の降魔が倒されるのも時間稼ぎにすらなっていなかった。
「待たせたわね、大神隊長。」
 3つの影がスタヂアムの客席から太陽の下に躍り出して来た。その影こそ、誰あろう、
「帝国華撃団・薔薇組、参上!」
「薔薇組の皆さん、来てくれたんですか。」
 彼の驚きの表情の中にも、加勢への喜びを見て取った琴音は少々ご満悦だった。
「当たり前よ、大神中尉。私たち薔薇組は大神中尉への愛こそ全て。愛する方の危機に颯爽と登場してお救い申し上げる、これぞ愛、至上の愛よ。」
「そうよ一郎ちゃぁ〜ん。アタシ達がコイツラの相手をしちゃうから、終わったらチュ〜してあげる。」
「斧彦さん、コイツラだなんて下品です。あ、あの、大神隊長。ぼく達の活躍、その目に焼き付けてください。」
 一癖どころではない集団だが、元々は魔神器を守るために米田が集めた者達である。決して侮れない男達、というか心は女、体は男の頼れる者達である。
 花組の面々としては、加勢に喜びながらも大神の前で愛だのなんだのと臆面もなく言ってのける彼らの表現に嫉妬心と羨望の両花を咲かせる。
「ありがとうございます、助かります。」
「待って、私達もいますよ。」
 更にあらぬ方向から、6人の男女の影がフィールドに降り立った。花組の甲高い声とも、薔薇組の野太い声とも異なる、澄んだ男性の声による見得が響き渡る。
「帝国華撃団・奏組、参上!」
「奏組のみんなまで…ありがとう。」
「いいえ、私達は花組さんの負担軽減の部隊、こんな時こそ私達の出番ですから…あ、は、初めまして花組のみなさん。ようやくお会いできました。わ、私、奏組と隊長を務めてますみみみ、雅音子と申します。」
 ついに宿願を果たして花組全員を目の前に拝めることとなった音子は、状況を一瞬忘れ、深々と頭を垂れた。
「あ、ご丁寧にどうも。真宮寺さくらと申します。」
 同じく状況を忘れて丁寧な礼を返却するさくらの相変わらずな所にすみれがすかさず反応を見せる。
「さっくらさん!貴女今の状況がお分かりになって?もう少し空気を読んで緊張感を持ってくださいな。」
もっともな言を放つすみれの怒りを柔和させようと、ジオが歩を一歩進めてくる。しかし彼の発言はすみれに柔和どころか更なる険悪化を呼びこむ事態となる。
「これはうちの隊長が失礼した。花組を守るのは奏組の役目、庶民を守るのは貴族の役目。ここはこの俺、G.O.バッハにお任せあれ。」
「ま、そこの貴方!わたくしの事を庶民とおっしゃって?」
「ハイハイハイハイハイ、すみれさんが突っかかると収集が付かなくなるデース。ここはワタシと同じ、ノブレス・オブリージュの精神を理解してるジオに任せるデース。ジオ、後はお任せシマース、チャオ。」
「ありがとうございます、織姫さん。」
「へっ、貴族のしきたりなんかは分かんないけどさ。俺だって負けちゃいないぜ。」
「おっ、ナリは小せえけど威勢がいいな。気に入ったぜ。」
「ナリが小さいだけは余計だよ、カンナさん…っと、総楽団長もデカいけどやっぱりカンナさんさすがだぜ、とんでもねえデカさだね。」
「なんだ?オメェも男だろ、メシ食っとけばすぐにアタイよりデカくなれるさ。」
 いくらなんでもさすがにそこまでは無理だとは言い出せなかったが、源三郎に背丈を馬鹿にされるのにはいつも虫唾の走る源二だが、世間の標準を軽々と超越しているカンナに背丈を言われては、そこは腹を立てるのはお角が違ったようだ。
「兄さん、もっと真剣になりなよ。周りが見えてるの?」
 いつものように兄に対してだけは冷たい、源三郎の言葉遣いが放たれる。
「なんだと!いつもいらねえ事言うんじゃねえよ、源三郎!」
「見えてないから言ってるんだろ。まったく、どうしてそうお調子者なのさ。信じられないよ。」
「きゃはっ、二人は仲良しなんだね。」
 すみれとカンナにも似たやりとりを行う桐朋兄弟に興味ありげなアイリスがちょっかいを出してきた。怒りを誰彼に構わず当てる悪癖のある源三郎にとって、これは格好の獲物である。
「ふぅ〜ん、オチビちゃん。君からはそんな風に見えるんだ。」
 笑っていない、むしろ悪意のある目つきでアイリスを見下ろす源三郎。54センチ差という事実は彼女の心の中では天空の高みから見下ろされているような感にありいい感じは全くしなかった。
「ぷぅ〜、アイリスちっちゃくないもん。」
 背丈、いやさ子供っぽい要素の何れをしても小馬鹿にされるのはアイリスに対する最大の禁忌である。知ってか知らずか源三郎は兄に対する調子でアイリスにちょっかいを出す。
「見たまんま小さいじゃないか、あの兄さんよりもこんなに低いとはなあ。」
 実際にアイリスは、普段弟からチビと連呼される源二よりも実に40センチも下回っている。
「小さくなんかないったらないもん。」
「小さい、小さい、小さいーっ。」
 源三郎の蔑むような目つきにいよいよアイリスのさして強固に結んであるわけでもない堪忍袋の緒がぷちぷちと崩壊しだした。
「アイリス、ちっちゃくなんかないもん。」
 にわかに雰囲気の変わった目の前の少女に、源三郎はようやく自分が踏み越えてはいけないラインを大股で越えていたことに気付かされた。
「はいはい、ここは皆さんで仲良く協力し合いましょう。」
 後悔先に立たず、冷汗を流しかけていた源三郎の肩にぽんと手を置く彼にとっての救世主、ルイスのいつもながらのにこやかな笑みがそこにあった。
「アイリス、無駄に爆発するもんやないで。爆発はな、ここや!っちゅう時にやってこそウケんねん!」
「え、きゃはは。紅蘭だっていつもいつも爆発してるじゃないー。」
「お、こら一本取られたわ。」
 爆発に関しては他の追随を全く許さない程の第一人者である紅蘭に爆発論を説かれては暴走寸前のアイリスとはいえ笑いを禁じ得ない。かくて二人の活躍により味方に無駄な同士討ちが発生する事態は避け得た。ばつの悪い源三郎も、救いの神だけに聞こえるような声でこっそり謝辞を述べて弓を番えていた。
 そのような花と奏の逢瀬に乗って来ず、じっと降魔の群れを凝視しつつ短剣を構える男が一人いた。
「ほら、ヒューゴもきちんと花組さんに挨拶しておきましょう。」
 彼の何を知っているのかやたらとヒューゴの事を気に掛けるルイスがここも彼の世話を焼いてきた。往々にして焼かれる世話はお節介と取られがちであり、現状ヒューゴの心境もそれに近かった。
「…貴女達は俺達が守る。」
「ありがとう。」
 ぶっきらぼうなヒューゴの挨拶に返したのはレニだった。花組側のぶっきらぼうとの掛け合いに彼女の世話焼きである織姫が黙っていられなくなった。
「あー、もう!鬱陶しいのが増えマシター、イライラするデース。」
 レニだけでも持て余す織姫がヒューゴにまでいらぬ母性本能を波及させようという。ヒューゴにしてみれば迷惑に思う度合いはレニが彼女に思うよりも数段増しである。
「もっとフレンドリーに語ることは出来ないデスカー?」
 フレンドリーはおろか、一言も発していなかった花組副隊長の彼女が眉間に皺を寄せていることを織姫は気付いていなかった。尚もヒューゴとレニを玩具せしめようという彼女の行動でついに山は動いた。
「いい加減にしなさい!今は非常時よ、冷静に自分のすべきことを判断なさい!!」
 我慢の限界点を突破したマリアの雷が花と奏の只中に落とされた。悪い意味でこの事象に慣れている花組と違って免疫のない奏組にとっては、特に花組に対して精神の脆い所のある音子には心の深奥にまで貫かれたようなショックを受けた。それでも任務を果たそうという生真面目さは隊長らしさが表れている。
「お、大神司令。雅音子以下六名、花組の援護に参りました。」
「う、うむ。」
 奏組に課せられた使命を思い出した音子が、動揺に咽び、震える声を振り絞りつつ踵を揃えて総司令に敬礼を施した。同じく敬礼で返した大神だが、音子の姿に滑稽さを感じずにはいられないでいた。だがマリアの怒りが沸点を越えて間もない時間帯に司令たる自分が吹き出したりなどして場を振り出しに戻すことは避けねばならず、緊張感を持続させる為に彼は忍耐と努力を要した。
 翻って、帝国華撃団にとって大神に向かい、まともに形式張った態度を取る隊長職などは眼前の歳若い女隊長ただ一人であるため、むしろこういったまともな態度のほうが大神には新鮮な、小さい驚きをもたらせてくれていた。
「まだまだ、更にいるわよ。ほらっ。」
(ドーン!ドーン!ドーン!)
 琴音が天を指した直後、降魔の群れの中で爆発がいくつも発生した。
「翔鯨丸、かえでさんも来てくれたんですか。」
 花組がこぞって外出しているのである、不測の事態に備えて機動兵器が準備を整えてあるのは至極当然の話である。
「大神くん、光武の出撃準備は整っているわ。早く翔鯨丸まで飛び乗って。」
「はい、総員翔鯨丸まで走るんだ!」
 大神の号令と共に花組が一斉に走り出した。翔鯨丸の支援砲撃で降魔は混乱して隊列を乱しそこかしこに隙間が生じている、間隙を突いて走り抜ける事は困難ではないように見えた。また、後方、左右から迫る降魔には薔薇組と奏組が当たったのも花組は前方にだけ注視して走り抜ければいい事で大いなる助けとなっている。。
「ヒューゴさん、ルイスさん。左前方からの降魔を攻撃してください。斧彦さんと菊之丞さんは右方向に、左後方の群れには琴音さん、ジオさん、源二くん、源三郎くんで対処してください。」
「シー、マエストロ!」
「ちょ、ちょっとぉ。なんでアタシ達が小娘の指示で動かなきゃいけないのよ。」
 とは言いつつも琴音は、斧彦も菊之丞も、反射的に音子の指示と同じ行動を取っていた。磨かれた彼らの戦闘センスが本能的に取った行動が、音子の指示と合致しているのだ。
「でも、的確な指示だろ?凄いんだ、彼女の素質は。」
「そ、それは認めるわよ。」
 ジオの発言に琴音は口ぶりとは裏腹に全肯定で返した。平和な島根で普通の女子として育った音子に戦闘のセンスや経験を期待されていない。しかし彼女には、彼女だけに備わった霊音を五感で感じ取れるという戦闘経験の無さを差し引いてお釣りの来る能力がある。これにより魔の強弱に対して自陣戦力を適切に配置すること、1つの絵画や楽曲のごとし。
 ヒューゴの短剣が踊る中ルイスのチャクラムが裂く、ジオのレイピアが光りつつ源二の拳が唸り、源三郎の矢が貫けば薔薇組の体術が美しく閃く。全員が異形の者に対して互角以上に戦っている。ひとえに帝都を守るため、そのために花組に戦場を託さんがために。
 一方の花組の方は、
「どりゃあぁぁぁぁ!よし隊長、ここからなら翔鯨丸に乗り移れるぜ。」
 カンナの猛る拳が、花組の前の道を貫通させた。花組はすぐさま翔鯨丸に乗艦し、各人の光武起動シークエンスに入った。
「よし、光武起動。みんな、霊子バリアの状態を確認してくれ。」
「了解。大神さん、さくら機バリア展開。」
「すみれ機異常なし、バリア発生させますわ。」
「隊長、マリア機異常ありません。」
「紅蘭機、快調やでぇ〜。」
「お兄ちゃん、アイリス大丈夫だよ〜。」
「カンナ機問題ないぜ。」
「織姫機、いつでも行けマース。」
「隊長、レニ機発進準備完了。」
 八種の問題ない回答が次々に返ってくる。全員の返事を確認してから大神は出撃命令を下す。
「いいな、みんな。霊子バリアに霊力を回している分いつもの通りに光武は動いてくれない、それだけは覚えておくように。よし、帝国華撃団、出撃だ!」
「了解!」
 隊長の命令を受け各機が翔鯨丸より放たれ、やがて本日は九色の煙と共に光武は地上に降り立った。
「帝国華撃団・花組、参上!」
 光武の登場に薔薇組、奏組の面々は俄然色めきたった。
「皆さん、後は俺達が受け持ちます。安全な所に退避してください。」
「分かったわ大神中尉。さあみんな、退くわよ。」
 琴音の号令一下、九人は花組の足手まといにならないように安全圏まで退避していった。その様は、出場も見事であったが退場もまた引けを取らない機敏さだった。
「大神はん、例の妖気の発生を確認したで。」
「そうか、さくらくん、アイリス。気分はどうだい?」
 大神は先の戦闘で妖気の影響を大きく受けた二人に指標を求めた。彼女達が無事なら他の隊員も無事だろうという計算だったが、特別扱いと誤解した二人は大神への気持ちが少し高まった。
「は、はい。大丈夫です。アイリス、そっちはどう?」
「アイリスもなんともないよー。」
 霊子バリアは成功した。多少の力落ちがあるにせよ相手がただの降魔レベルならばもうこちらのものである。
「よし、いいぞ。紅蘭のおかげだ、ありがとう。」
「おおきに、せやかて大神はん、これからやで。」
「ああ、分かってる。」
 とはいえ大神は紅蘭ほどに現状を嘆いてはいなかった。それは隊員全員を信頼しているからこその安堵感からである。
「行くぞ、みんな!降魔を片付けるんだ、さくらくん!」
 大神の意図を過不足なく読み取ったさくらが気合を高める。
「はい!…破邪剣征……桜花天昇ーっ!」
 さくら機から放たれた強い霊力の塊は軌道上の降魔を悉く滅ぼし、大群の中に一筋の直線路を生じせしめた。すかさず直接攻撃力に自信のあるカンナとレニが直線路に躍り出て、存分に思いの丈を奮った。
「行くぜ、公相君!」
「ブラウァーフォーゲル!」
 二人の必殺技がさくらの敷いた道を押し広げる。足場のできたところで織姫、すみれ、紅蘭が先頭に立ち降魔の前面に強かな一撃を与える。
「退きなサーイ、オーソレミオ!」
「行きますわよ、神崎風塵流・孔雀の舞!」
「がんばってや、うちのチビロボ達!」
 必殺技の乱舞に降魔の群れは前線を大きく下げた。花組はこの間に戦線を上げつつ気合を貯めなおす戦術を取る。知能は所詮動物並で統率のとれた戦術行動を取る術を知らない降魔には、何百何千集まろうと力押しで十分対処できるので有効である。ところが降魔の次の行動は大神の脳内データベースにはなかった。降魔が花組との距離を開け後方に大きく下がり、一か所に集まり出したのだ。必殺攻撃のオンパレードとはいえまだ何百という個体数を保持しているそれらの行動はむしろ無気味であった。
「何をしようというんだ…?総員、一旦距離を取れ。」
 敵の不可解な行動には深追いしないのが兵家の常、大神はそれに則った。彼らには何分にも感じられた十数秒の後、降魔群の上方に一つの影が現れた。
「あ、あれは夕べの!?」
 大神には影に見覚えがあった。昨夜帝劇にて彼を襲った武者の霊、それであった。
「やはりこの降魔との間に関係があったんだ、ならば今度こそ倒す!」
 光武の出力を目いっぱい上げ、大神機は上空にあった武者に襲いかかった。対する武者は、恐れの感情を持ち合わせていないのか動じる事もなく、ただ印を組んだ。
「我は、氏綱。お前達よ、我の手足となりて我にその身を捧げよ。」
 大神機の二刀が武者に振り下ろされようとした瞬間、武者が下から伸びあがってきた黒い物体に飲み込まれた。二刀も同時にその物体に抑え込まれ、大神機は上空で身動きが取れなくなってしまった。物体は降魔の群れが原型をなくし、スライム状に寄り集まり一つの塊と化した物であった。
「隊長!おのれ、リディニーク!」
 堪らずマリアが物体に対して必殺攻撃を仕掛ける、しかし彼女の氷の一閃は物体に到達した瞬間に空しく四散してしまった。
「くっ、攻撃用の霊力が足りないの?」
 動けないままの大神機を加えたまま、黒い物体は徐々にその形を鮮明化し、やがて一体の巨大降魔へとその姿を到達させた。
「な、なんなんデスカーこれは!」
「妖力が飛躍的に増大している、危険だ。早く隊長を!」
 レニの叫びと同時に、巨大降魔はその腕をおよそ眉間の位置に剣を突き刺す格好となっていた大神機に向けた。危険を感じた大神は敢えて刀を放し、自由落下の方策を取った。大神機が重力の干渉に耐えられず、勢いをもって下方に加速した一秒後、大神機のあった位置に降魔の腕が到達した。刺さっていた二刀は無残に砕け散り、大神機本体の後を追って、本体が地上と接吻を交わしてからそれの頭上に降り注いだ。
「お兄ちゃん!今助けるよ。」
 テレポート移動のできるアイリス機が降魔の足元まで一気に飛び込み、大神機共々に一瞬で離脱し花組の陣内に舞い戻った。
「イリス・プロディジュー・ジャンポール。」
 アイリスの回復技が大神たちを包み込む。しかしここにも霊力の不足が影響し、本体の傷はほぼ回復すれども二刀を蘇らせるにまでは至らなかった。
「ありがとう、アイリス。」
「どーいたしまして、でも…」
「ああ…」
「大きすぎます、どうすればいいんでしょう。」
 先刻、渾身の必殺攻撃を放ちつつもいとも容易く弾き飛ばされたマリアが悩んだ。大神により花組の最大霊力を叩きこめばなんとかなるやもしれないが、霊子バリアに霊力を供給し続けている現状ではそれはできない。あまつされ霊子バリアを切ってしまえばまた何人かの意識が無くなってしまうかもしれない。自体は急転し圧倒的不利な状況に追い込まれて大神はまた決断を迫られている。
 降魔は翔鯨丸からの砲撃も意に介さず、ずしんずしんと鈍く重い音を上げつつ、今度は花組との距離を詰めてきていた。
Rudolf <lyyurczxxp> 2016/09/27 19:49:10 [ノートメニュー]
Re: 【SS】サクラ大戦大活動写真−太正浪漫よ、永遠なれ− [返事を書く]
その4.

 帝国華撃団の危機をモニタ越しに見つめる目があった。
「こいつはいけないね。」
「司令、どうします?」
 モニタの向こうの状況を心配しつつ、司令と呼ばれる女性に意見を求める青髪の女性。
「まあ落ち着きなよ、班長、そっちの状況はどうだい?」
 表面上は落ち着きはらったように見える司令の声が伝声管越しに行くと、班長とおぼしき男の声での声が返ってくる。
「問題なしだ、全作業終了してますぜ。」
「市民の退避も完了しています、起動準備も問題ないですぅ。」
 茶色い髪をした女性の報告まで耳に届いた司令の目付きが変わったのを、共にいた男は確認した。
彼女の名はイザベル=ライラック。またの名をグラン=マ、巴里華撃団総司令である。そして舞台は凱旋門支部司令室。
「メル、リボルバーカノン起動用意。シー、隊員に下令。今から巴里華撃団はニッポンに向けて出撃。」
「ウィ、オーナー。」
「ハイハーイ、わたし達、もうコンテナに乗っちゃってまーす。」
 エリカが真っ先に通信を送ってきた。次の指令、すなわち出撃が待ち遠しくて堪らないようだ。
「許せグラン=マ。命令を待ってるほど悠長なときでもないからな。」
 帝都の状況は光武F2にも逐一モニタリングされていた、切羽詰まる様子にグリシーヌも痺れを切らせる寸前である。
「エリカさんとグリシーヌがわたしが先です、いいや私だと譲り合わないので後がつかえて大変でしたわ、ぽっ。」
「バ、バカを申すな花火。何故私がエリカと同レベルで競い合うなどということ、あ、ありえん!」
 花火の状況説明に恥じらいを覚えたグリシーヌが、必死に無意味な抗弁を始める。
「ハッ、いつもながらにバカな奴らだ、付き合う方の身にもなってみろってんだ。」
 ロベリアが相も変わらず我関せずの口調で物申すのにエリカは批判があった。
「えー、ロベリアさんだってまだかまだかって怒りいかけてたじゃないですか。」
「そんな細かい事はいいんだよ、燃やすぞ!」
「はいはい、もぉみんなイチローに会いに行けるのが嬉しいならそう言えばいいのに。」
 コクリコの指摘に、分別ある者は皆黙りこくった。
「はいはーい、大神さんにまた会いに行けるの、エリカとーっても嬉しいでーす。」
 正直な者は、コクリコの指摘をそのまま受け止めていた。
「お喋りはそのくらいにおし。トーキョーの状況は見ての通りだよ、のっぴきならない様子だから覚悟して行きな。」
「了解!」
 通信を介して司令室に五人の声が響きわたる、了解を得たグラン=マはいよいよリボルバーカノン起動プロセスに入る。
「メル。」
「はい、リボルバーカノン、リフトアップ。」
 メルの操作により凱旋門に秘匿されていた巴里華撃団の秘密兵器、リボルバーカノンが動き始めた。凱旋門本体内の弾倉とシャンゼリゼ通下から飛び出した砲身部が結合され、リボルバーカノンがその全体像を太陽の下に現した。
 時同じくして、指令室のレーダーが妖力を検知したとシーが報告を上げる。
「巴里上空に無数の妖力が出現。こちらに向かってくきますぅ。」
「なるほど、簡単にはトーキョーへ行かせないってことかね。」
「司令、私が。」
 グラン=マの目つきが変わるのを確認していた男、迫水典通が声を上げた。
「ああ、頼んだよムッシュ迫水。」
「はい、では。」
 迫水はそう言い残すと指令室後方の滑り棒で颯爽と階下に姿を消した。
 階下、新設された凱旋門支部戦闘指揮所。迫水が下りてくるより先に戦闘班員が出現した魔物の状況を掴んでいた。この戦闘指揮所は新設されたもので、オーク巨樹との戦闘の際、凱旋門支部自体の戦闘能力の脆弱ぶりに被害が甚大であった反省に立ち、戦闘力を飛躍的に増加させた中核施設である。
 凱旋門頭頂部のレーダーで敵を素早く察知し効率的に迎撃するためのものであり、指令室と違い窓のない部屋の壁一面にレーダーから解析された敵のモニタリング情報を映し出す大小様々なスクリーンや計器類が犇めき合っている。凱旋門支部長にして「鉄壁」の二つ名を持つ迫水典が戦術力を買われて此処の指揮を執る。着地してきた彼は、早速状況の確認に入った。
「敵の状況はどうだ?」
 決して焦っていない風な、いつもの静かな口調で迫水は指揮所のレーダー手に尋ねる。
「北北東の上空より大群がこちらに向かってきます。あ、地上にも反応が。エトワール広場を囲むように出現、やはりこちらに向けて進行を開始しました。」
「敵は物量に物を言わせてこちらを包囲するつもりだな。司令、花組の出撃は一旦中止してください。例の物を使います。」
 上階で迫水の具申を聞いたグラン=マは直ちに出撃準備を停止させた。リボルバーカノンも一旦分離し、弾倉部が凱旋門に収納された。
「このやろ、ここまで来て中止はねえだろ。アタイは気が短いんだ!」
「黙っておいで、アンタ達の出発に盛大な花火を打ち上げてやるんだからさ。」
「え、花火さんを打ち上げるんですか?やっぱりグラン=マって残酷〜。」
「エリカ、お前は黙ってな。アンタが出てくると話がややこしくなるんだ。」
「はぁ〜い、しゅん。」
 グラン=マに一喝入れられたエリカは先程の明るさを何処かに失いすっかりしょげ返ってしまった。
「もぉ〜、いっつもそうなんだからエリカはいい加減に空気読もうよ。」
 コクリコがやや嘆息気味にエリカを諭した。
 戦闘指揮所では格納庫の漫談も聞こえず、淡々と皆がそれぞれの責務を果たしている最中である。
「ジャン班長、それでは例の物をお願いします。」
「よしきた!」
 迫水からの支持を今か今かと待っていたかのようにジャン班長は手短に言葉を発すると同時に手が作業に入っていた。
 花組を乗せた弾丸の詰まった弾倉がリボルバーカノンから取り外され、新たに違う弾丸が装填されている断層がせり上がってきてリボルバーカノンに接続される。
「よっしゃ、準備完了だぜ。」
「よし、リボルバーカノン迎撃モード、再リフトアップ。」
「リボルバーカノン、リフトアップ。」
 迫水の指示で、司令室のメルがリボルバーカノンを再起動させる。リボルバーカノンはやがて再び弾倉と砲身が合わさり雄姿を巴里の街に現した。
「リボルバーカノン、再起動完了しました。」
 シーの報告で迫水の視線が動く。
「戦術長、上空の目標にリボルバーカノン照準合わせ。」
 戦術長と呼ばれた隊員は復唱する。
「了解、上空の目標にリボルバーカノン照準合わせ。」
「目標敵集団、リボルバーカノン全自動射撃。」
 照準のセットと共に次の命令が走る。
「目標敵集団、リボルバーカノンに動力伝達。」
 リボルバーカノンの土台がやにわに回転しだす。
「方位盤、目標を補足。」
「自動追尾装置、セット完了。」
「圧力、臨界点を突破。装薬充填完了。」
「測的完了。誤差修正、上下角3度。」
「発射準備完了。」
「発射!」
「発射。」
 迫水の命令と戦術長の復唱のトーンが一層大きくなった所でリボルバーカノンから一発の弾丸が上空に放たれた。大きな弾丸は魔物の大群めがけて一直線に飛んでいき、進路上に陣取ったものは薙ぎ倒しやがて集団の中心部に達した時、大爆発を起こした。爆発によるものもあったが、更に戦果を高めたのは、弾丸内に仕込まれていた無数のシルスウス鋼の子弾が弾丸の爆発と共に四方八方へと飛び散り、魔物に突き刺さったものであった。
 金属としてのシルスウス鋼自体は大した強度を持ち合わせていないので、魔物と共に溶け消えた子弾以外の外れた弾も地上に落ちるまでに物理的破壊力を持ち合わせない位に細かく削られる。爆発地点に人的被害がない場合にのみ用いられる強力兵器であった。
「た〜まやぁ〜。」
「なるほど、見事な花火ですわ。同じ名前の者として誇りに思います、ぽっ。」
「すごいや、ボクのマジックでもあのくらい派手な仕掛けやってみようかな。」
 格納庫のギャラリーとは対照的に指令室、及び戦闘指揮所のスタッフは至って真面目だった。
「霊子クラスター爆弾、どうやら成功ですな。」
「ああ、じゃあ地上の残りも頼んだよ、ムッシュ。」
「お任せを。砲雷長、地上迎撃を開始だ。」
「了解、ガトリング砲撃ち方始めー。」
 砲雷長の命令によりエトワール広場に進軍してきた魔物たちも、凱旋門を中心として放射状に地下からせり上がってきたガトリング砲の一斉斉射で葬られた。これが武装強化を施した新生凱旋門支部の実力である。
「凄い威力だ、さすがはグラン=マ。抜け目がない。」
「ああ、あの女だけは本気にさせるとどんな手でも使ってくるからね。」
 自分一人を捕縛するために街一つを代価にする剛胆さを身を持って体験したロベリアは背筋に冷たいものを感じていた。
「敵、残らず殲滅しました。」
「よし、今度こそ行くよアンタ達。」
「待ちわびたぞ!さあ改めて出撃だ、私達が隊長を救うのだ。」
 グリシーヌの檄に花組の気合が入り直す。気持ちはひとつ、大神を救うために。
「リボルバーカノン、仰角最大。」
「目標、トーキョー大帝都スタヂアムを捉えましたぁ。」
「行くよ、リボルバーカノン、発射!」
 グラン=マの引鉄により、5発の弾丸が次々と発射された。さっきの霊子クラスター爆弾よりももっと高く、遥か空の彼方へ。自然と弧を描く軌道により弾丸が最高点を越え落下体制に入ってしばしの後、弾頭が二つに割れ、収容されていた積荷、光武F2が姿を現した。
「大神さん、もうすぐ参ります。あと暫くだけ我慢してくださいね。」
 宇宙からの視点では光武F2達の光は再び地上へと吸い込まれていった。

 大帝都スタヂアムの空気は重いままであった。歩幅も巨大化した降魔が一歩進む毎に光武は三歩の後退を余儀なくされた。後退しつつも幾度か食らわせた必殺攻撃もまるで効果がなく、気合を浪費しないよう山作戦で耐えるようになっていた。とはいえこのままではじり貧である、隊員の心に焦りが生じる。
「どうするよ隊長。下がるにしてももう後もないぜ。」
 カンナの言うことはもっとも
だった。降魔があと二歩も進めば花組の最後尾はスタヂアムの壁面と背中を付け合う仲に進展してしまう。そうなってしまえば大神は自らの身を挺して血路を開き、隊員達だけでも戦場を離脱させるつもりでいた。
 そして降魔の次なる一歩が踏まれた時、いよいよを覚悟した大神機の気合が上がっていく。だが、それを阻むかのように大神機の左腕をマリア機が、右腕をレニ機が押さえつけた。
「隊長、これから隊長がなさろうとしてる事は誰も望んでません。行き急ごうとなんてしないでください、みんな悲しみます。」
「そうだよ隊長、ボクに生きる翼を与えてくれたのは隊長だ。その隊長が命を投げ出すことはボクには肯定できない。」
「マリア…レニ…」
 他の隊員も意見は同じであり、皆が大神に頷いた。決して諦めない心を教えたのも大神である、今自分が全てを投げ出しては隊員に示しが付かない、大神は変心した。
「そうだな、みんなで力を合わせてこの場をなんとしても切り抜けよう。」
 大神の言葉に呼応したのは帝国華撃団・花組だけではなかった。遙か上空より声が届く。
「それでこそ我々隊長だ、隊長!」
 声のした空を見上げると、5つの点が見えた。点はみるみると大きく地上に近付き、やがてはっきりと五色の機体が確認できた。
「巴里華撃団、参上!」
 5体の光武F2が地上に降り立つ、彼女達の時ならぬ来訪に帝国華撃団の面々は沸き立った。
「巴里華撃団のみんな、来てくれたのか。」
「水くさいですわ、大神さん。大神さんにお呼びいただければわたし達は地の果てからでも参ります、と以前申しませんでしたか?」
「すまない、花火くん。呼びたいのはやまやまだったんだが、おっと。」
 大神の言葉を遮り降魔が腕を光武達の真ん中に降り下ろした。
「隊長、アタシが来たからにはもう安心だぜ。」
「もーロベリアさん、それを言うならアタシ達ですよ。言葉はちゃんと使いましょ。」
「ああ?バカかテメェは。いやバカだったな。」
 ロベリアは承知の上で一人称を単数で用いていたのだが、エリカがいたがために突っ込まれる論点が全くずれていたのに拍子が抜けてしまった。
「まあまあまあ、落ち着けよ。それよりオメェ達が来てくれたらもう百人力だぜ。」
「そうとも言えないわ。」
 カンナの楽観主義を、マリアの現実主義がひっくり返す。
「巴里もやはり私達と同じく、妖気にあてられていては無駄に帝撃と巴里双方の戦力を消耗するだけよ。」
 マリアの危惧は当然である。そもそもが謎の妖気があるがために苦戦を強いられているのに、同じ特徴にして同じ弱点になるもの、霊力を持つ巴里華撃団が援軍に足るかと言えば、この時点での答えはNONである。
「その点は大丈夫だ、マリア。」
「えっ?」
「その通りだ。わたしの力をとくと見るがよい。」
 勇んでグリシーヌ機が降魔に駆け出した。握りしめた斧が強い霊力により輝きを放つ。如何なく斧に霊力が伝わっている証拠だ。
「食らえ、ゲール・サント!」
 グリシーヌの一撃が降魔にまともに入った。斧が深く斬り込まれて降魔が苦悶の動きをする、彼女の一撃は確かに効いていた。
「こ、これは…どういう事?」
「えっとね、夕べイチローから通信があって霊子バリアの事を聞いたんだ。それで朝からジャン班長達がボク達の光武にもバリアを搭載してくれてね。」
「すぐに起動試験をしていましたら、F2に帝都の皆さんの光武二式に搭載されている追加蒸気ユニットを乗せることで出力を上げると、バリアを張りつつ普段の攻撃力を出せることが分かりましたの。」
「で、その起動試験中にココで木偶の坊が調子に乗ってるってんで片づけにやって来てやったのさ。」
 光武F2の基本出力は光武のそれとは比較にならない大きさがある。そこに光武二式の高出力を実現させた追加ユニットを搭載させれば、バリアに回した分の霊力を蒸気で補填することは数字上では可能である。巴里華撃団はそれを実現させていた。
「それでは皆さんに神のご加護がありますように、エヴァンジル。」
 エリカの回復行動で光武に蓄積されていたダメージが全て回復した。大神機の手にも得物の二刀が刀身を顕わにして完全回復ぶりを誇示していた。
「ありがとう、エリカくん。これでもう大丈夫だ、みんな行くぞ!帝国華撃団、巴里華撃団、出撃だ!」
「はい!」
 13人の一斉の返事が聞こえた、各機は機動力の上位を活かし降魔の周囲に展開していく。
「攻撃の効く光武F2を中心に各方向から攻撃する、帝国華撃団のみんなは巴里華撃団をフォローしてくれ。」
「ま、仕方ありませんわね。今日のところは遠い所からやって来て下さった皆さんに花を持たせてあげますわ。」
「はっ、珍しく話が分かるじゃねえか。暫く見ない間に角が取れたな。」
「言ってなさいな。」
 口では棘がある組もあれど、光武二式と光武F2のコンビネーションはどれも見事である。両華撃団同士の信用、信頼はもはや不動のものなのだ。F2が渾身の力をもって攻撃を叩き込み無防備になるF2を防御しつつ協力攻撃も放つ二式の様はさながらレビュウの様に優雅で美しい流れに乗っていた。
 戦場で唯一、この美しさが理解できない存在は光武の攻撃によって徐々に追い詰められていった。
「祈りなさい!」
「天罰デース!」
 そこでついに巨大降魔は片膝を突いた。
「よし、今だ!みんなの力を俺に預けてくれ!」
「了解!」
 ここで決着をつけるべく、大神機が前に飛び上がった。隊員たちの霊力を貰い受け、大神機の全体が光り輝く。
「これが俺たちの正義だ、帝都に仇なす降魔よ消えろ。狼虎滅却・震天動地!!」
 大神の繰り出す最強技に巨大降魔は断末魔の悲鳴を上げつつ、光の彼方へと滅し去った。華撃団の勝利である。
「やった、やったでえ。」
「やったぁ、イチローすごーい。」
「やっぱり中尉サンは頼りになりマース。」
「みんなのおかげだよ、ありがとう。」
 戦い終わって、光武から飛び出して大神の周りに集まってくる隊員たち。帝都と巴里が顔を直接合わせるのも久しぶりであり、四方山話にも花が咲く。
「みんな、話したいことはまだまだあるだろうけど先にアレをしましょう。」
 マリアの提案に、皆が乗った。
「じゃあ、言い出しっぺのマリアさんがここはやってもらいましょうか。」
「え、さ、さくら。私でいいの?ここはやっぱり隊長にやってもらったほうが。」
「構わないさ、やろうマリア。」
「は…では行くわよ、せーの。」
「ちょおっと待った。勿論アタシ達も参加させてもらうわよ。」
「琴音さん、当然ですよ。」
 琴音が薔薇組を代表して権利を主張してきた、無論花組にそれを拒絶する意志はない。
「あ、あの…」
 琴音とは対照的におずおずと手を挙げる緊張感と場違い感に胸が張り裂けんばかりの少女もあった、音子である。隊長として、奏組にも権利を主張したいところだが、こちらは隊長が最も奥ゆかしく最も花組と縁の薄い位置にいた。ましてや花組といってもこの場には巴里華撃団・花組も同席していたのだから。
「なんだ、このちんくしゃなガキは?」
「この子は帝国華撃団・奏組隊長の雅音子くんだ。これでも立派な帝国華撃団の隊長さ。」
「そ、そんな大神司令。立派だなんてわたしなんてまだまだ!」
「まあ、奥ゆかしいのですね。帝国華撃団の女性にこのような方がおられるとは新鮮ですね。わたくしは北大路花火、巴里華撃団・花組の一人ですわ。」
「は、はじめまして。ああー、帝国華撃団の花組さんにもお会いできた日に巴里の花組さんにまで、あああ。」
「よっと、音子くんはこういう子なんだ、長い目で見てやって頂きたい。」
 卒倒の音子を支えたジオがフォローを入れる。
「という事ですので、私達もお仲間に入れてもらいたいところです。」
「もちろんだよ、ルイス。という事で、いきなり待たせたねマリア、改めていいかい?」
「は、はい。それでは行きますよ、せーの。」
『勝利のポーズ、決めっ!』
 総勢23人になる久しぶりの大所帯の勝利のポーズ。大神はよく分からないが、全員収まっているかな?という謎の疑問に囚われた。

「あのぉ、ところでずっと前から不思議に思ってた事があるんですけど。」
「どうしたんですか、エリカさん?」
「この『勝利のポーズ』って、マリアさんが始めたというのは本当なんですか?」
「なっ…!!」
 エリカの奇襲にマリアは言葉を失った。思いがけない所から攻撃されるという点では、これ程見事な奇襲は華撃団の歴史の中でも随一であったろう。
「なんだぁエリカ?なんだってマリアなんだよ。」
「えー、だって大神さんに聞いたらそうだって。」
「隊長・・どうしてそういう事になってるんですか?」
 大神を見るマリアの目は先程までの喜びや嬉しさといった正の感情をかなぐり捨てた冷たいものであった。クワッサリーの血が呼び起されたのかもしれない。
「いいっ!?だって俺の前任の隊長はマリアだったし、マリア以外には考えられなくて、」
「違います。」
「でも、」
「断じて違います。」
 大神はマリアからのプレッシャーが一言ごとに増していたのをようやく感じ取った。このままでは危険だ、磨き抜かれた危機意識が心の中でそう囁いた。
「そ、そうだね。エリカくん、実は違ったんだよ、ははは。」
「なーんだぁ違うんですか。じゃあ、誰が始めたんですか?」
「いいっ?!」
 あちらを立てればこちらが立たず、次はエリカの純粋な瞳が大神に向けられた。
「ねぇー、誰なんですか?ケチケチしないで教えてくださいよー。」
「そ、それは…」
「はいぃ?」
「あの…」
「はいはい。」
「実は…」
「はいっ。」
「あっ、大変だエリカくん。巨大なプリンが空を飛んでるぞ!」
「えっプリンですか。どこどこどこ、どーこですか、おっきなプリンどこですかー?」
 大神の突拍子の無い、誰も騙されるはずのない大嘘にエリカはあっさりと騙された。エリカが『くるくるぽん』でよかった、大神は今心の底から思った。
 しかし、平和な時間はそう長くは続かなかった。スタヂアムの入口から大神に来客があった事から、事件はより一層の展開を見せる。
「お、大神…」
「加山じゃないか!どうしたんだこんなに傷だらけで。」
 大神の所まで辿り着いた加山はそこで膝を落とした。自慢の白スーツはあちこちが裂け、鮮血が滲み地が白なのか赤なのかを判別させないでいた。息も絶え絶えでかなり重い状態なのは誰の目にも明らかである。
「大神さん、私に。」
「そうか。エリカくん、頼む。」
 さっきの今まであらぬプリンを追いかけていた筈のエリカが状況に気付き、手当てを申し出てきた。彼女がさっと手をかざすと、加山の傷はみるみるうちに塞がっていき、呼吸も平常になっていった。
「これで大丈夫、神様が奇跡を起こしてくださいました。」
「ありがとう、エリカ君。奇跡を起こせる君がここにいてくれて俺は幸せだなぁ〜。」
 身体の回復と共に心も軽くなったと見える加山の軽口が出た。
「これも神の思し召しです、祈りましょう。」
「ああ、はいはい、と。い、いやそんなのんびりしてる場合じゃないんだ大神。」
 のんびりしていたのはお前だろ、と大神は心の中で呟いた。血まみれで現れているくらいだからよほどの事態なのは理解に易い。
「落ち着いて聞けよ、大神」ーーー
 話は数時間前に遡る。夕べ件を交えた武者の手がかりを追っていた加山は、日本橋で目撃例が多いことを察知し、付近を調査していた。
「日本橋か、ここは天海のアジトがあった所だったな。」
 あの頃は自分も若く、月組も未熟だった。ために天海のアジトは結局自分達で発見することあたわずさくらの予知とも言うべき能力の後塵を拝した、加山にとって苦い記憶である。常々その時の辛酸を心に留め、隠密部隊月組の実力を上げ、実績を重ねるようになっていた今である。
「昔を振り返ってる場合じゃないな、急がないと。」
 彼には胸騒ぎがあった。何かまたとてつもない何かが動いてる、そんな予感が夕べの事件から収まっていない。隠密にとって焦りは禁物、その位理解はしている。しかし時として本能は理解を越えて動くものである。彼の足は天海のアジトへと通じる入口へと向かっていた。虫の知らせ、表現する言葉に適切性を見いだす必要はなかった。
「あそこへ行っても入口は埋まっているのにな。」
 日本橋での戦いで天海を倒した時、洞窟の崩壊とともにアジト全てが落盤してきた岩で埋め尽くされているのは周知の事実であった。だが加山が入口跡に到着したときは我が目を疑った。
「何だと、岩が…」
 入口を塞いでいたはずの岩に大人が余裕で通れるような穴がぽっかりと空いていた。岩を退かしたのではなく岩自体を何か鋭く強い力で削り取った感じの穴だった、その不自然な光景に加山は危険を省みずに穴へと飛び込んだ。
 穴は奥まで深く続いていた。正に天海のアジト跡まで続いている、そう思って間違いなさそうだった。加山の額に緊張の汗が流れる。
 一時間は潜り続けただろうか、穴はやがて広さを大きく増した。天海のアジト、そのなれの果てに着いたのだ。
「いったい誰がいつの間にこんな空間を。」
 目標物の力の大きさに思考しつつ広い空間に足を踏み入れたとき、加山は得体の知れない恐怖を感じて物陰に素早く身を隠した。
 恐る恐る身をちらっと乗り出して前方を確認したところに、彼は件の武者の姿とさらに驚く物の存在を確認した。
「いたな、大当たりだぞ。なっ!?」
 武者の霊は加山に背を向けた格好で印を結んで何やら呪文を唱えていた。
「オンキリキリバサラウンバッタ、オンキリキリバサラウンバッタ、オンキリキリバサラウンバッタ…」
 武者の視線の先にこそ加山を震撼させた物体、楔があった。太正12年、帝都を震撼させた六破星降魔陣を呼び起こさせたキーアイテムが今また帝都の地下にあったのだ。これが何を意味するのかは加山には判断が付かない、ただ人にとってろくでもないことに用いられるのはまず間違いない。
「あんな物を出してくるなんて、やはりあの武者の奴只者じゃないな。」
 そう認識した加山は武者の行動をより確認するためにさらに前方の物陰に移動しようとした、その時焦りからか隙が生じた。足下の小石を蹴り飛ばしてしまったのだ。
 音に過敏に反応した武者は振り向きざま、何者か認識できてない間で攻撃を放った。どす黒い妖力の大きな塊が加山を直撃した。
「うわあああああああっ!」
 敵を討ち取ったと思い込んだ武者は再び楔に向き直し、再度印を組み呪文を唱え直した。
「この氏綱の悲願、誰にも邪魔はさせぬ。オンキリキリバサラウンバッタ、オンキリキリバサラウンバッタ、オンキリキリバサラウンバッタ…」
「う、氏綱だと?」
 加山は無事だった、無事というには体中に傷を負っていたが今の所地獄よりの御使いが彼を誘うには至っていなかった。
「こうしちゃおれん、大神にこの事を伝えねば。」
 傷をおして加山が氏綱に気付かれないようアジト跡から姿を消した。加山は気付いていなかったが、その後この氏綱はこの地に封印された巨大降魔の霊体を引き出し、共に地上に上がって行った。スタヂアムに現れた降魔の集合体はまさにこの巨大降魔の姿をしていた。
 そして舞台は再び、戦い終わった大帝都スタヂアム。
「氏綱だと!加山、あいつは確かに氏綱と名乗ったんだな。」
「ああ、この耳でしっかりと聞いた。」
 氏綱、その名には覚えがあった。北条氏綱、400年の昔に降魔実験を行いその失敗により大和という陸地一つを歴史から消し去った男。降魔はその大和に住まう住民達の怨念が基となっていることを考えれば、氏綱こそ全ての元凶といえる。大神は突然のとんだ大物の登場に狼狽を感じた。
 一方、上空の翔鯨丸には帝劇より一報が入っていた。
「副司令、大変です!」
「かすみ、一体何が大変なの?」
「東京湾に妖力の集中を確認、妖力が急激に増大していってます。」
「何ですって!」
 かすみの報告はかえでに周章を感じさせた。
「まさか、ミカサに?」
「いいえ、ミカサではありません。もっと下、海中に妖力が集まっています、きゃあ!」
 かすみの叫びと共に通信が著しく不安定になった。
「どうしたの、かすみ!応答してちょうだい。」
「副司令、どうやら地震です。地上が揺れています。」
 妖力の増大に地震、吉兆とは言い難い事象の連鎖にかえでは嫌な予感がいよいよ極まった感覚になった。
「花組、薔薇組、奏組及び巴里華撃団を速やかに翔鯨丸に収容。収容後直ちに現空域を離れます。通信士は本部との回線復旧に努めて。砲術班は万一の事態に備えて戦闘態勢のまま待機。」
 矢継ぎ早に翔鯨丸各所にかえでの指示が飛ぶ。乗組員は指示の元、迅速且つ確実に職責を全うする。光武が順次収容され、地表の蠢きに悪戦苦闘していた花組達が翔鯨丸に乗艦してくる。
「かえでさん、いったい何が起こってるんです?」
「おかえり大神くん。でも呑気に出迎えていられそうにはないわ。」
 かえでの言い回しが、事の緊急次第を告げていた。そこに通信士から報告が上がる。
「副司令、本部との回線回復しました。」
「ありがとう、早速モニタに映して。」
 復旧なったばかりで不安定感の残る本部との回線にかすみの姿が映った。地震は既におさまっていたがかすみの表情には不安さが伺える。
「副司令、先程からの妖力の増大ですが、地震が収まるのと同時に妖力の増大も止まりました。恐らく必要量が貯まったものかと。」
「分かったわ、東京湾の方はこちらで確認します。本部の被害は?」
「劇場の外壁が剥がれたり、場内の荷物が散乱していますが、華撃団施設には特に影響ありません。人的被害もありません。」
「それは何よりだわ、」
「ああっ!」
 二人の会話を遮り、椿が叫んだ。
「どうしたのよ、椿?」
「由里さん、これを見てください。」
「どれどれ、ああっ!」
「どうしたの!」
 二人の驚嘆の内容が全く伝わらないのに業を煮やしたかえでの声が大きくなる。
「妖力集中地点の海底の隆起を確認…これは…」
「大和が…浮上します。」
 由里と椿は声が出ないところを振り絞って翔鯨丸に状況を伝えた。
「な、なんですって!」
「かえでさん、至急翔鯨丸を東京湾に。」
「ええ。カンナ、お願いね。」
「任しとけ、超特急でぶっ飛ばすぜ。」
 言うが早いか、翔鯨丸は大きく舵を切って東京湾に急行した。音子にしても憧れの花組を目の前にして話したいことは山ほどあったはずが、事態の推移を見守る一心で一言も話さずにいた。そのような重々しい空気の翔鯨丸が東京湾を視界に臨む位置まで到着したとき、一同はそこにある筈のなかった陸地を発見した。大和は確かにまたも太正の御世にその威容を現したのだ。そして大和の表面にはあのミカサまでもが突き刺さったままの状態であった。
「な、なんという姿なんだ。」
 大神は光景の異様さを嘆いた。海よりせり上がった大地は通常の生命の跋扈を許さぬ岩だらけの寂しい風景を広げ、大和の地図に特徴を与えてくれるような存在は、天に尻尾をそそり立たせたミカサと主を失った聖魔城跡くらいのものであった。
「隊長、光武も調整が必要だ。ここはすぐに帰還して対策を考えた方がいい。」
 冷静な戦略眼を持つレニが大神に助言する。体制を立て直し作戦を練る必要もあるところなので、彼女の言を用いるべしと考えた大神は全軍に一旦退却を命じ、翔鯨丸は花やしき支部へと踵を返した。
Rudolf <lyyurczxxp> 2016/09/27 19:49:32 [ノートメニュー]
Re: 【SS】サクラ大戦大活動写真−太正浪漫よ、永遠なれ− [返事を書く]
その5.

 銀座本部、作戦指令室は翔鯨丸の重々しさをそのまま複写したかのような雰囲気に包まれていた。大神、巴里花組を含めて14人の実戦部隊とかえで、三人娘が見た目以上に質量を感じる空気に対し不利な戦いを強いられていた。
「かすみ、これまでの調査結果を報告して。」
「はい。」
 かえでの指示に従い、かすみがコンソールを操作して調査結果を出力すると、ディスプレイに大和の全体図が浮かび上がった。
「月組、夢組の調査で大和の大地には大変な妖力が充満していることが分かりました。これがその流れです。」
 大和の透過図に更に幾本もの矢印が重なり合う。半分ほどは帝都各所から大和に伸びていたがもう半分の出所は違った。
「これは、ミカサ?」
「はい。ミカサの霊子核機関の稼働を確認しています。そこからの霊力、いえ妖力とで大和を浮上させるだけのエネルギーを得たものと考えられます。」
「せやな、恐らくミカサの機関を再起動させる為に降魔をうろつかせ、人の恐怖を増大させることで妖力を大和に送りこんどったんやろな。せやったらこのところ降魔の出現がやけに多かったんにも合点が行くっちゅうわけや。」
「加えて度重なる出撃でボク達に疲労を蓄積させて戦力を削ることもできた、敵ながらにして一挙両得の巧い作戦だ。」
 紅蘭やレニの洞察からは敵の第一ラウンド勝利を裏付けるものだけで、ここからの逆転策を導出することはできなかった。
「ミカサから妖力が出てるのはどうしてですの?」
「推測ですが、ミカサ内にも多数の降魔が確認されています。この降魔を媒介として霊力を妖力へと変換しているものかと。」
「そんなことできるんですか?」
「妖力と霊力の差は紙一重よ。ましてやミカサは一度長安に乗っ取られたこともあるから分からない話ではないわ。」
「身に詰まらされる話だな。」
 かえでの発言にグリシーヌはぽつりと嘆いた。巴里花組の5人は、元を辿れば以前巴里を襲った怪人達と同じパリシィの血を引く者であり、そのために霊力が強いのだから。
「妖力の坩堝に出撃するわけか。親方、光武二式の蒸気ユニットのバージョンアップはどうですか?」
 格納庫で光武二式の改修作業にあたっている中嶋親方がモニタに現れる。
「もうちょいでさあ。ですが間に合わせなもんで蒸気量も稼働時間も限られるのはどうしようもありやせん。」
「せめて降魔と一対一で互角以上には戦えるだけにはしたいんです、お願いします。」
「分かりやした、できる限りのことはさせていただきやす。」
 満額回答を出せない心苦しさを残しながら親方は作業に戻って行った。
「椿ちゃん、やっぱりこれは全て氏綱の仕業なのかい?」
「はい。大神さんたちが大帝都スタヂアムで戦った降魔が倒される間際、聖魔城に向かって強い妖力の移動が確認されています。恐らくそれが…」
「北条氏綱の本体、という事ね。その本体ですが今も聖魔城で妖力を吸収し続けています。」
 言葉に詰まる椿の後を受け、由里の現状報告が入る。
「次は何を起こすつもりなのデスカー。中尉サン、一刻の猶予もありマセン。」
「分かってる、分かってるよ織姫くん。だが真正面からぶつかっても被害が大きくなるだけだ。」
「隊長、では夜襲はいかがでしょう?」
 一計を思いついたマリアの提案が入る。
「夜襲、降魔相手に夜に戦うのかい?」
 基は何であれ、降魔は通常定義できる生命体ではない、寝込みを襲う奇襲性が本分の夜討ちに如何程の効果があるのか大神には見当が付かない。
「今度の降魔出没は昼間に限られています。もしかしたら降魔を総べている氏綱のライフサイクルが影響を与えているのかもしれません。」
「確かに夜間出撃はなかった、可能性はないわけではない、か。」
 大神の胃に不快感が走った。不確定要素が多い中で決断の迫られることのなんと多い事か、先の戦いでも米田はこのような気苦労を背負っていたのだろうか。先人の労苦を思えば胃痛の1つや2つ何ということはない。今は自分が総司令だ、全ての決定責任は彼にある。
「マリアの言うとおりにしよう、夜襲を仕掛ける。それが最善策だと俺も思う。」
「でも隊長、夜襲を仕掛けるにしてもよ、あの狭っ苦しい聖魔城でこの人数がまとめて動くのには無理があり過ぎるぜ。」
 暴れるにも味方間の距離がある。隣の光武を巻き添えにしてられないカンナが注意を喚起してきた。
「それは俺も分かってる。今ここには14機の光武がある。最小限のグループで潜入するので2機ずつ7隊に分けよう。」
「最小限の集団での複数同時多方展開か、理には叶っているな。よかろう、隊長の作戦案に私も賛同するぞ。」
 方針の定まったことに賛辞を示すかのようにグリシーヌが意気を上げた。隊員たちの目に真剣さと希望が映し出される。しかしアイリスの次の一言が、隊員全員の目の色を全面的に塗り替えることとなる。
「はいはーい、じゃあアイリスはお兄ちゃんといっしょに行くー。」
「お、おっと待った。やっぱ一番腕っぷしの立つアタイが隊長を守らねえとな、隊長!アタイと組んでくれよ。」
「はっ、さっきのデカブツに手も足も出なかったヤツが粋がってんじゃねえよ。」
「んだとぉ。」
「その点アタシの力は見ての通りだし、こんな甘ちゃんの隊長の傍にいてやれるのはアタシくらいのもんだよ。」
 ロベリアがそう言って大神の頬に手を這わせたことで、俄然花組達の熱が上がった。当の賞品がいくら水をかけようと一度燃え上がった炎を消火せしむるにはまるで力不足であった。
「大神さん、あたしと、」
「さっくらさん!貴女はお黙りなさい。中尉に相応しいのはこのわたくしだけですわ。」
「えー、大神さんは私と一緒にプリンを食べるってあの時ベッドの中で約束してくれたんですよ。」
「ホンマかいな、エリカはん!?」
「だからエリカが出しゃばると話がややこしくなるから黙ってて。イチローはボクが連れていくから。」
「あ、あの、コクリコさんもしれっと自己主張が…」
 女三人寄れば姦しいとは言うが、今この作戦指令室では13人もの乙女が参戦している、もはや姦しい程度の単語で片付けられる状態ではない。こんな時大神はまるで頼りにならない、総司令となってもその優柔不断ぶりには些少の進歩も見られていない。隊員達の姦しすぎる様と大神の頼れなさすぎる様との狭間に置かれ、眉間の皺と額の怒筋を引き攣らせていたかえでがいよいよ堪忍袋の緒を引きちぎり、平手をテーブルに思いっきり叩き落とし、主張しあう娘たちの注意を自分に向けさせた。
「いい加減にしなさい、戦いの前に何処に向きになってるの!貴女達はこれから命を懸けて敵の本拠地に乗り込む身なのよ。」
 かえでの叱責に13人はしょげ返った。およそ市民を守る部隊に関わる者として有り得ない喧噪を皆一様に恥じていた。
「他の組み合わせは大神司令に一任しますが、大神司令と組む隊員は私が決めます、いいわね?大神くんも?」
 異論はなかった、自らを恥じた気持ちと怒らせたかえでへの恐怖が、全員の二の句を完全に封じたのだ。
「ではみんな、覚悟はいいわね。大神くんとのペアは…あみだクジで決めます。」
 花組達は急激に自らの足腰の弱さを見せつけてひっくり返った。かえでの意外過ぎる適当な発表に、さっきまで己を恥じていた自分を恥じ入り直していた。
 かえでとしても別に適当とかいい加減という言葉に恋をしての事ではない。大神と組むのなら彼女達の誰もが最も霊力が上がるのはこれまでの経験で明らかな為、隊員の選択は誰になろうと問題がないという認識あればこそのクジ発言である。
 渋々ながらも賛同した隊員たちは各々に紙に記名し、あみだをなぞるかえでの指が自分のもとにやってくるよう切に願い続けた。そして願いが通じたたった一人はさくらに決した。
「大神さん、ほ、本当にあたしでいいんでしょうか。」
「あら、お嫌ならいつでもわたくしが代わって差し上げてよ。」
 負けたせいで苦虫を軽く噛んでいるような表情のすみれが皮肉を投げかける。
「平等に決めたんだから文句は駄目よ。では大神くん、残る隊員の組分けをお願いね。」
「は、はい。」
 一連の流れでは、大神とかえでの役職名は真逆ではないのかとの錯覚を受ける。かえでの持つ男女の機微の経験は不明だが、この場合少なくとも大神よりは高い、この差異が只今の力関係に対し正確に比例しているのであろう。
「決行は今夜午前0時、2時間前には指令室に集合。そこで組み分けを決定する。それまでは半舷休息せよ、解散。」
「了解。」
 大神の解散命令が飛び、隊員達はめいめいに作戦指令室を後にして行った。
「今度の相手は氏綱か…天海や長安、信長とも比較にならないかもしれない。気を付けねば。」
 天海は急速に西洋化する帝都を嫌い、幕藩体制の復活を目論んだ。長安は天海を恨み天海の作った帝都を破壊せんとした。信長は紐育に現れたがその妖力たるや六天魔王の名は伊達ではなかったという。いずれも魔の力を利用した側だが氏綱は魔の力、即ち降魔を作った側になる。故に天海達と一概に重ねあう事が出来ない、何をしでかすか分からないのだ。大神は兜の緒を締め直す気合いを持った。それにしても自分の判断がここまで決して正しい方向に触れていない実感がある。たまたま周囲の助けで事自体はうまく運んだだけの事で、ここまで来て自身の総司令としての力量に疑問符が付き纏っていた。

 聖魔城では、不気味な物体を前にして氏綱の霊が浮いていた。
「我が…我が、この力を用いて天下を…邪魔立てする者は何人たりと…」
氏綱が物体に向かって位置を進めると、物体はまるで食虫植物が獲物を食むかのように二つに割れて氏綱をその中に取り込んだ。直後、氏綱の笑いが木霊する。
「ふっ、ふはははは。わっはははははは、ふわははははははははははははは!」

 氏綱の大笑いなど届かない距離にある帝劇だが、強弱はあれど隊員は皆一様に何らかの嫌な空気を感じ取っている様であった。大神も異様な感覚を感じ、テラスから銀座の夜景を眺めつつ体内では確固たる決意と言い知れぬ不安ががっぷり四つに組んで鬩ぎ合っていた。
「この街がまた脅威に脅かされている…俺達が帝都を、ここに住む人達を守らねば誰が守るというんだ。くそっ、氏綱。」
 大きな危機を前に帝都を逃げ出した人もいれば、居残る人もいる。居残った人の生活の息吹で銀座の夜景はいつもと変わらぬ煌々さを保っていた。
 行き場をなくした憤りが大神の拳を壁に叩き付けさせる。総司令となりいよいよ舞い込んだ大きな脅威を前にして、昂揚感以上に感じる責任感が大神を迷わせる。
「大神さん…」
 不安げな顔を覗かせつつ、物陰からさくらが姿を現した。
「さくらくん、確か半舷休息で休憩時間だったはずじゃ?」
「あたしも、大神さんと一緒です。不安で不安で仕方なくて。」
 心情を見抜かれていたのに大神は無意識に心拍数の変更を行った。
「まいったな、気付いていたのかい?」
「はい、あたしだけじゃなく花組のみんなも、きっと。」
「そ、そうなのかい?」
「当たり前です、みんな何年一緒にいると思ってるんですか。大神さんが、いつも優しい大神さんがずっと厳しい顔をしてるのは見てて辛いんです。」
 そういってさくらは悲しげな表情を見せる。厳しい顔を見るのが辛い事を知らせるのに悲しい顔を見せつけるのはアンフェアに取られかねないが、彼女への愛情と信頼の両者が一定量以上有する大神にはそこは問題にもならなかった。
「ははっ、こりゃ参ったな。」
「笑い事じゃありません!」
 途端にさくらの顔に真剣さのエッセンスが滴り落ちた。
「あたしがどれだけ大神さんのことを心配してると思ってるんですか!いや、あたしだけじゃありません。花組のみんなだってそうですよ。」
「ごめん、そういうつもりじゃ。」
「じゃあ、どういうつもりなんですか?どうしてあたし達には何も言ってくれないんですか?」
「総司令として、俺は前にも増して責任ある立場だし隊員のみんなを気遣わなくちゃならないのに、気ばかり焦ってね。」
「総司令、ですか。総司令だから…でも総司令って何なんでしょう。」
「え?」
「カンナさんもいつも言ってるじゃないですか、帝国華撃団は家族なんだーって。もっとあたし達に頼ってくれていいんですよ。」
「俺は…この間から判断を誤ってばかりで、その度に君たちを危険な目に遭わせてきた。今回も、夜襲を考えないわけじゃなかったけど、心のどこかでマリアの意見に乗ったほうが自分の判断より正しいんじゃないかって迷いながら決めた感覚なんだ。こんな体たらくじゃあ総司令失格だな。」
「いいんじゃないですか、それならそれで。」
「えっ?」
「大神さんは大神さん。隊長でも、総司令でも、あたし達の知ってる大神さんに変わりないですよ。間違いは誰にでもあります、あたしだって配属された時はもう酷い有り様でしたし。」
「ははっ、そうだったね。」
「もうっ、そこで笑わないでください。」
「ご、ごめん。つい。」
「もう、大神さんったら…でも、だからそんなに過ぎたことを引っ張らないでください。米田さんが聞いたら怒りますよ、お前ぇに総司令は10年早かったなって。」
「ははっ、全くだ。」
 時折さくらの説得には舌を巻くところがある、確実な論拠があるわけでもないのに彼女の素直さ、誠実さが対象の心を打つためなのだろう。幾度か実体験者の栄誉に与っている大神にはそう考察できた。
「大丈夫ですよ、大神さん。巴里花組の皆さんもいますから、大神さんも入れて14人が揃えば怖いものなんかありませんよ。」
「ははっ、そうだね。でも雷様は怖いんじゃないかな。」
「もうっ、からかわないで下さい。」
 ふいにさくらが険しい顔に戻る、大神はこうなると退却戦の一手のみである。
「ご、ごめんよさくらくん。そんなつもりじゃあ。」
「もう、知りません…なんて、驚きました?よかった、いつもの大神さんらしくなりましたね。」
「あっ。」
 この段階で大神はさくらにまんまと一杯食わされた事を理解した。そうなると、途端に笑いがこみ上げ、また大神の笑みを見たさくらにもまた笑みがこぼれてくる。
「ひどいなあ、さくらさんったら。あたし達は数に入れてくれないんだあ。」
 柱の陰に、二人の成り行きを見守る三つの頭があった。
「しいっ、椿。今茶化すのはそこじゃないでしょ。」
「二人とも黙りなさい、これからいい所でしょ。」
「はぁ〜い。」
 かすみに窘められた年下二人が生返事する。
「もう、大神さんったら本当に奥手なんだから。」
「あのう、かすみさん。それは今に始まったことでもないと思うんですよ。」
「子供は黙ってて。せっかくここまで条件が揃ってるんですもの。キッスの一つや二つしてくれないと見守ってあげてる甲斐がないってもんよ。」
「由里さんひどぉい、あたし子供じゃないですよ。」
「だから二人とも黙って。」
「は、はい。」
 さっきの窘めよりも明らかに怒気のエッセンスが濃くなったかすみの言に、今度は本気の返事を返す二人であった。
「ありがとう、さくらくん。胸のつかえがとれたようだ。」
「そうですか、ふふっ。お役に立てて嬉しいです。」
「もうすぐ交代の時間だ、少しでも休んでおいてくれ。」
「はい、大神さんも気を張らずに。」
「ああ、おやすみ。」
「おやすみなさい、大神さん。」
 さくらは自室の方に歩みを進めていった。つくづくよい隊員、よい仲間に恵まれたものだと大神は自分の境遇を幸いに思う。
 幸いに思わなかったのは三人娘達であった。
「な、なにこれ。これで終わりなの。」
 二階どころか三階に上っていた彼女たちの気分は、想像以上に堅物な大神に梯子を外され、完全に害された。この憤りは当然のように大神に降り懸かった。
「もう、大神さん。そうじゃないでしょ。どうしてそこまでバカなんですか。」
「いいっ、椿ちゃん?バ、バカってどうして。
「本っ当ですよ。この唐変木、朴念仁、意気地なしの甲斐性なし。」
「ゆ、由里くんまでいったい何を。」
「大神さん…見損ないました。」
 大神をさんざ嘲って三人娘は立ち去っていった。嘲るだけでもまだ消化不良だったのだろう、去り行く彼女たちの顔は揃ってお多福風邪にかかったかのように膨れていた。
「俺は、いったい何をしたんだ?」
 むしろ何もしなかったことに対する怒りであることを気づくには大神はまだその域まで達していなかった。

 午後10時、花組全員が指令室に集合した。不安の色を滲ませる者、恐怖に耐え忍んでいる者、決意を整えた顔の者、十人十色の面々を前に大神がギリギリまで熟考した組み分けを発表する。
「ではペアを発表する。すみれくんとカンナ、グリシーヌと織姫くん。エリカくんにコクリコ、花火くんはレニと。紅蘭がアイリスと、マリアはロベリアとだ。反問は許さない。」
 発表と同時に種々のどよめき、挨拶が発生して大凡受け入れられていると大神は解釈した。特に一組は、いつものように一触即発の雰囲気ではあったが、先んじて反問を許可されなかったので嫌々矛を収めているといったところである。
 更に大神の檄が続く。
「みんな、俺達はいよいよこれから氏綱の待ち受ける聖魔城に攻撃を掛ける。」
 聖魔城、と聞いて表情を濁らせた隊員は少なくとも5人いた、彼女達は一度そこで命を落としているのだから無理もない。
「俺は必ず氏綱を倒す、そして誰一人死なせないと約束する。だからみんなも俺と、絶対に死なないと約束してくれ。みんな揃って生きて帰ろう、次の公演は、また帝都、巴里のみんなの合同レビュウにする、そこで自分の守った人たちの笑顔を目に焼き付けるんだ。俺を信じてついて来てくれ。」
 一瞬の静寂を乗り越えた後、カンナが開口一番、
「隊長を信じろだってぇ?アタイたちゃずっと隊長を信じてきたぜ、今更何言ってんだよ。」
「その通りだ、わたくし達が隊長を信じる心はもはや何にも揺るがぬぞ。」
 カンナに続き、グリシーヌの発言に13人が首肯する。大神何をか言わんや、華撃団の心は常に1つである。
「そうか、そうだったな。やっぱり司令には10年早いのかな。」
「何ですかそれは、隊長?」
「何でもないよ、ちょっと米田さんに言われそうな言葉を思っただけさ。」
 隊員達の顔に笑顔が戻った、いかな不安も大神といれば打ち払えたのだ。
「ほな、さくっと行ってさくっと帰りまひょか。ほんでとっととレビュウの稽古や。」
「ああ、レビュウを絶対に成功させるぞ!」
「おーっ!!」
 気合一番、全員が光武に搭乗した。この後は風組が総力を挙げて大和の四方八方に光武を二機ずつ輸送し、七方向より聖魔城を目指す手筈となっている。

 深夜0時前、草木も眠る丑三つ時にはまだ早いが草木の一本もない大和の大地にこの表現は似つかわしくなかった。既に各機は所定位置より大和に一歩を踏み入れ、作戦開始時刻を待つのみである。夜陰の中、大神機からは暗視装置からさくら機を識別できていた。
「静かですね。」
 無線封鎖も行っているので通信も隣接機とのみ会話できる超近距離モードで動いている、それがさくらの声を届けてきた。
「ああ、命の欠片も感じられないな、さすが大和だ。」
 昼間遠目で見た時も生命活動の微塵も感じられなかったが、いざ地の上に立ってみてもやはり何もない。昼夜を問わず虚無が、いや魔だけが支配する空間。それが大和であった。
「帝都を…こんな姿にはしたくないです。」
「俺もだ。さくらくんも好きな銀座の夜景を消したくはないな。」
 全機の時計が、寸分違わずに日付の変更を搭乗者に告知した。
「いこう、さくらくん。」
「はいっ。」
 光武は一歩、また一歩としっかりした歩を進める。大神とさくらのペアは聖魔城に最も近いルートを行く、当然敵に発見される確率、迎撃を受ける確率は最も高いと思われる。最も危険なルートは自らが歩む、大神らしい選択である。
「みんな、無事で会おう。」
Rudolf <lyyurczxxp> 2016/09/27 19:50:33 [ノートメニュー]
Re: 【SS】サクラ大戦大活動写真−太正浪漫よ、永遠なれ− [返事を書く]
その6.

 午前0時を皮切りに聖魔城に向けて歩みだしたのは当然大神達だけではない。ここまでは全員が無事に目的地に向かって夜道の楽しくはない遠足に勤しんでいた。楽しそうに行進していたのは、唯一エリカくらいのものである。
「あーこれでお弁当でも持ってくればピクニックになったのに残念ですね〜。」
「こんな所でゴハン食べてもおいしくないと思うよ。」
 コクリコもやや呆れ気味に皮肉を交えてエリカに返した。このお気楽な年長者をも無事に大神との約束を守らせるには自分がしっかりせねばならない。コクリコは小さな体に二人分の責任を背負う覚悟を決めていた。
 やがてコクリコ機の少し前を跳ねながら歩いていたエリカ機が何も障害のない道で転んだ時、状況は一変した。這い蹲っているエリカ機の上にぱらぱらと石が落ちてきたのだ。コクリコは石の落ちてきた上を向いて来客を迎えにきた下僕の存在を確認した。
「降魔だ!」
 責任感の倍加のおかげで冴えていたコクリコは即応の体勢を取った。切り立った崖の合間にある道にいたコクリコ機では崖の上から自分たちを見下ろす2体の降魔に対して有効な攻撃手段を持ち合わせていなかったためである。彼女は敵が獲物を食らうため下りてくるのを待った。
「祈りなさぁい!」
 エリカ機のマシンガンが降魔共をハチの巣にした。コクリコが即応して降魔を睨んだ時、視界外になったエリカはコクリコより鋭い反応速度で浮き上がり降魔に対ししたたかに鉛の弾を撃ちこんでいた。
「さあ行きましょう、コクリコ。」
「あ、ああ、うん。」
 何事も無かったかのように平然と歩みを再開した彼女を見つつ、エリカもいつまでも成長してないわけではないのだなとコクリコは反省してほんの少しだけエリカを見直した。
「あれっ。きゃ〜!」
「あちゃあ…」
 またも何もない道で転げる芸当を見せたエリカに、コクリコは直前の彼女に抱いた感情をすぐさまかなぐり捨てた。

 帝撃一の名コンビにして迷コンビの二人に関して、もはや説明は不要である。襲いくる降魔との局地戦の悉くを無人の野を行くが如く労せず突破し、一歩また一歩と着実に目的地へと近づいている。
「無理すんなよ、降魔くらいいつでもアタイの拳が叩きのめすからよ。」
「あ〜ら、カンナさんにご心配していただくほどわたくし、耄碌してはおりませんわよ、おっほほほ。」
「って、あー!だからよ、あの、そのな。」
「なんですの、その口中に物の挟まったような言い草は。カンナさんらしくありませんわね、言いたいことがあるならちゃんと仰ってくださいな。」
「あ、ああ、そのよう…オメェ、体は大丈夫なのかよ。」
「はいぃ?」
 カンナの意外な言葉に、明確な発言を求めた当人が驚きと怪訝の声を上げた。
「だってよぉ、オメェ一度は霊力がなくなるって引退してんじゃねえか。もしこんな所で光武も動かせなくなっちまったらアタイはよ、」
「ま、まあ何を仰るかと思えば。おっほほほ、霊力なぞ一晩休ませていただいたらすっかり元通りになりましてよ。やはりトッップスタァは体の出来もカンナさんのような粗野でお下品だけが売りの筋肉バカさんとは違いましてよ。」
 一晩で回復などはさすがに出任せではあるが、すみれの霊力は光武を並以上に動かすには十分すぎるほど漲っていた。霊力が落ちるのもままならなかったが、復活するのもまたままならぬもののようである。ままならぬだけに、しかも思考する行為自体に苦手意識のあるカンナにはただただ悪口のみが理解の範であった。
「んだとぉ!人が心配してやってりゃつけあがりやがって。誰が筋肉バカだってんだよ。」
「あなた以外の事に聞こえたのでしたら、わたくしの言い方が悪かったのでしょうね。」
「がぁー!もう許さねえ、勝負しや…」
「カンナさん。」
「ああ、またお客さんのご登場ってか。」
 話の腰を折る才能に満ちた降魔が二人の前に現れた。人であれば邪魔を自覚させる罵詈雑言の1ダースも浴びせ倒されて精神が挫ける場面であったが、所詮人語を解する事はできぬ降魔である。二人も無駄な物言いはしなかった。
「丁度よろしいわ、わたくしの霊力の復活具合、その目でご覧になられればよろしくてよ。」
 言うが早いか、すみれ機は猛ダッシュして降魔に対し長刀を振りかざしていた。
「神崎風塵流、孔雀の舞!」
 降魔群の真ん中に長刀を突き刺し四方に炎が燃え上がり、降魔共は一瞬にして焼き尽くされた。実際すみれの霊力は実戦にも問題はなかった。彼女自身も内からふつふつと沸き上がるものを感じ、それが霊力の高まりに直結していた。
「ふっ、ご覧になりまして、カンナさん。」
「ああ、よーっく分かったよ。霊力もそのやかましい口もすっかり元通りになってんのがよ。」
「んまっ。カンナさん、どうしてあなたはいつもいつも一言余計なんですの!素直にわたくしの力をお認めになればそれだけでよろしいのよ。」
「てやんでぇ、やかましいモンをやかましいつっただけだろうがよ、このあばずれ女。」「なんですって、この頭まで筋肉まみれのオバカさん!」
「なんだとこのヤロォ!」

 一方で、赤いイタリア貴族と青いフランス貴族の組は国風の違いか、貴族としてのモチベーションの違いからか、なかなか韻を踏んだステップで行軍というわけにはいっていなかった。
「だーから!フランス貴族は大人しくワタシの後ろをのこのこついて来ればいいでーす、これみよがしに先を歩かないでクダサーイ!」
「ええい五月蠅いぞ、赤い貴族。たとえ相手が平民であろうと貴族であろうとも我が身を盾として守り抜くのが我がブルーメール家だ。イタリア貴族は大人しくわたくしの影で昼寝でもしてるがいい。」
 イタリア人のシェスタ習慣を小馬鹿にされたと思った織姫の口に一段と拍車がかかる。
「だーっ!昼寝なら出発前にたっぷりして来たデース。だいいち今は真夜中デース、シェスタの時間じゃありマセーン。フランス貴族は昼と夜の区別も付きマセンか?」
 さしものグリシーヌも口撃内容の稚拙さに織姫と互角レベルで鍔迫り合いを行おうという気になれないでいた。
「四の五のとつくづく五月蠅い女だ。ソレッタ家というのはただのおしゃべり貴族なのか?」
「太陽の様に明るい貴族なだけデース!ムッツリ貴族は黙ってやがれデス。」
 理性が感情を掣肘している時間は突如終了を迎えた、グリシーヌの口撃も戦端を開くのであった。
「ムッツリとはなんだ、ムッツリとは!無礼にも程がある、そこになおれ、斧の錆としてくれる!」
 前を歩いていたグリシーヌ機が振り返ったと同時に両脇の地表から降魔が1体ずつ文字通り湧いて現れた。降魔としては決してタイミングを狙ったわけではないが二人にとって隙を突かれたことに変わりはなかった。降魔共が爪を振り被り牙を研ぎ澄ませてこれから獲物を狩ろうという矢先、二人の瞳の輝きが左右から交錯する。
 次の瞬間、右の降魔はグリシーヌ機の戦斧に一刀両断され、左の降魔は織姫機のビームを四方から一身に浴びて斃れた。
「…ふっ、やるではないか。」
「…そっちもデース。」
 降魔を屠った姿勢を維持したまま、二人はモニタ越しに互いの顔を見やった、お互いが互いの顔に誇りと自信に満ちた意志を汲み取っていた。
「オホン。イ、イタリアに貴族もなかなかできるようだな。」
「フ、フフン。フランス貴族も見かけ倒しではないようデース。」
 険悪なムードはむしろ降魔が現れたことによって吹き払われた。数分前よりはいくらかましな韻を踏みつつ、彼女達もまた歩を進めていく。

 険悪ではないのだろうが、良好な雰囲気にも傍目には見えない隊もあった。此処までに既に5体の降魔と出くわしながらも、黙々とランスだけがそれらを粉砕せしめていた。
「あの、レニさん。」
 花火が辛抱堪らなくなりランスの主に話しかける。
「レニさんの攻撃能力が高いのは存じています。けど、無理をせず二人で戦った方がよろしいのではないでしょうか。」
「ボク一人の力でも降魔は十分倒せる、そう判断してるだけ。」
「それはそうなのでしょうが。」
 物言いも抑揚も淡白な返答を示すレニに花火は少々困惑する。元々花火も人との付き合い方が得意な方でないのに、相手はそこに輪をかけたように口数の少ないレニである。今日になってから満足に会話したのはこれがやっと初めてだった。
 そんな二人の前にまたしても降魔が、総じて4体現れた。降魔を認識するや否や、レニは最大戦速で間合いを詰め一気に勝敗を決しようとする。これまでの戦闘で、4体程度なら一人で方を付けられる、計算ずくの行動である。
「北大路花火、三の舞。雪月風花!」
 花火が天に向かって矢を放ち、レニ機を跨いで無数に降り注ぐ矢がレニ機が攻撃範囲に降魔を捉えるより先にそれらを全滅させた。
「わたしの弓矢は、複数の敵に対して有効です。レニさんなら貴女のランスよりもわたしの攻撃の方が有効なのは分かってらっしゃると思うのですが。」
 花火の指摘にレニは些か口ごもってから、本音を吐露した。
「ボクは…他の華撃団だからというだけでまだ君たちに距離を置いていたみたいだ。分かった、次からは花火の攻撃もあてにするよ。」
「はい、お任せ下さい、ぽっ。」
 以前の戦闘機械というよりは、ただの人見知りの風なだけと花火は思った。数年前までの彼女は対話性を全く重要視していなかったのだからそんな所があっても不思議でもない。
「行こう、花火。合流地点はまだまだ先だ。」
「は、はい。」
 レニが主体的に話しかけてきたのも本日最初、いや以前に経験していたかも思い出せないくらいの珍事に花火は戸惑いの色を見せた。レニには戸惑った理由が見えてこなかったのだが、戸惑ったためか少し大きく威勢がよくなった声で返してきた花火の肯定に不安材料を感じなかったのでこの問題は考えずにおいた。先を行くレニが、後ろをついて来る花火の表情が少し嬉しそうに柔らかくなったことに気付くことまではなかった。

 無口を貫き通せなかった所があれば、過ぎた会話を楽しむ所もある。
「ほんでな、エリカはんがもう一回さくらはんの裾を踏みつけよってん。さすがに二度目ともなったら怒るやろ。」
「うんうん、すみれもさくらにされたらすっごい怒ってた。」
「せや、大方そのすみれはんにやらかした記憶が残ってたんやろな。さくらはん、必死こいて我慢しとってんよ。もーその時のさくらはんの顔ゆうたら傑作やったで。」
「あっはははははは、面白ーい、紅蘭のお話はいつも面白いね。」
「フッフーン、今更何言うとんねーん。そいでなそいでな、」
「うんうん、次はなぁーにぃ?
 紅蘭の眼鏡が怪しく光った。きっと彼女の眼鏡は光を反射するではなくここぞという時に自ら発光できる細工が施してあるのであろう。
 一連の紅蘭の会話は不真面目の表れではない、妖気渦巻く大和の上を感受性が飛びぬけて高いアイリスを向かわせるには、妖気の塊にまず精神が押しつぶされかねない等の大きなリスクがある。それを和らげるために大神は紅蘭というムードメーカーをアイリスと組ませていた。紅蘭は大神の期待を越えるだけの成果を果たしておりアイリスは今、大和の大地の上で最も正の感情に満ちた人間であった。そしてアイリスの光武は、周囲全ての敵対物に具現化した霊力を直接着弾させるもので、正の感情に溢れるアイリスはただでさえ強い霊力を更に強化していたために迫る降魔を何度も瞬殺の状態で葬っていた。
「えへへ、アイリスほんとーに強いんだよ。」
「ホンマやわ、おかげでウチめっちゃ楽させてもーてるで。」
 実際に一発の弾も撃っていない紅蘭がアイリスを持ち上げる、乗せる上手さも紅蘭ならでわである。
「かまへんかまへん、えへへへー。」
 紅蘭の真似をして慣れない関西弁で返す、そんなアイリスはまさに絶好調といえよう。このようにこの二人の歩んだ道は、終始明るい笑い声が木霊し続けるルートとなっていた。

 陽気に行く隊があれば、レニや花火とは違う意味で真逆の行軍を示す隊もあった。マリアのロベリアに向く冷たい視線が全てを物語っていたのかも知れない。
「やいやい、アタシは敵じゃねえってのになんだよその氷の視線はよ。気に入らないね。」
「気に入られるつもりならこんな目はしないわ。私は懲役1000年の大悪党をまだ確実に信じてはいない。」
 視線だけに留まらず、言葉使いはおろか態度すらもマリアは冷淡であった、その証拠に彼女はロベリアの攻撃範囲に一歩も入らないでいた。彼女の機体は搭乗者よろしく遠距離攻撃を得意とするので絶えず射程にロベリアを捉えている。これがクワッサリーと呼ばれた女の忘れ去っていた感覚なのだろうか、その記憶を置き去ったマリアにも回答できない問題である。
「あー、やだねえ冷たい女は。そんなだと隊長も逃げたくなるぜ。」
「何とでも言ってなさい、もしあなたが少しでも妙な素振りを見せれば私は容赦しない。氏綱と戦う前に昔の、そう昔の血塗られた手を呼び戻させることになろうとも。ロベリア、あなたが感じてるのはその殺気よ。」
「ああん、お前もバカか?自分が何言ってんのか分かってんのかよ。」
「ええ、分かってるわ。」
「おやおや、いよいよバカが本当のバカになっちまったかい。じゃあ妙な素振りってのは…こういうのを言うのかい!」
 言葉を言い終わるが早いか、ロベリアの姿がマリアの視界より一瞬で消えた。彼女がその瞬間ほんのコンマ数秒だけ焦燥した間隙でロベリアはマリア機の真ん前にすっと現れ
、その強靱な刃をマリア機に突き刺した。
 マリアは目を瞑った、覚悟の念仏を唱えはしなかったが、実際に唱えていれば何小節まで行けたことだろう、痛みも何も感じないまま時が過ぎ、彼女は恐る恐る瞼を上げた。
「はっ、どうだい生きてる喜びはよ?」
 現世を確認したマリアをロベリアの憎まれ口が迎えた。ロベリア機の爪はマリア機の頭の横をかすめ、後方にあった降魔の頭部を確実に貫いていた。
「えっ。」
「やれやれだね、アタシに夢中で本来の敵も見失ってんのかい。どうせ夢中になってくれるんならいい男のがいいんだけどね。こんな野暮な所じゃそんな奴もいねえか。」
 不適な笑みを見せつつロベリアは述懐する。
「いいかい、またこんなブザマな真似しやがってもアタシはお前を助けやしねえ、自分で自分の身は守りんな。」
「あ、ありがとう…」
「あと1つ言っといてやる。隊長は何が現れたってアタシ達に辛い昔に戻るような真似、許しゃしねえよ。アタシよりアイツとの付き合いの長いアンタがそんな事も分かってねえとはな、こりゃお笑いだぜ。」
 ロベリアの指摘はマリアの誤った感覚を的確に指摘していた。経歴柄、人物観察に抜群の冴えを見せるロベリアの指摘である、マリアに反論の余地はなく全面的に彼女の言葉を受け入れた。
「参ったわね、まさか私の方が盲目になっていたなんて。」
「実は隊長の奴、アンタにいらねえ気を起こさせねえためにアタシと組ませたのかもしれないね。」
 ロベリアの独り言はマリアには届いていなかった。大神が気負っていたものを吐き出した瞬間、マリアにも同様の気負いを危惧した。その解消のため、気負いなく責任感に執着しない、それでいてマリアが聞き入れられる論を吐ける3点に合致したロベリアに白羽の矢を立てていた。
 ここからは、マリア機もロベリア機と轡を並べる位置で聖魔城に向かい前へと進んでいった。
Rudolf <lyyurczxxp> 2016/09/27 19:50:49 [ノートメニュー]
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その7.

 降魔との戦闘を潜り抜けた隊が、続々と聖魔城前に集結しつつあった。そして大神とさくらの隊がようやく到着した頃には、他の隊が全て集結している状態だった。
「よぉ、遅かったな隊長。途中で道でも間違えたのかと思ったぜ。」
「ははは、カンナほど野生の勘も無いんで北と南も分からなかったみたいだよ。」
「ははは、イチローカッコ悪いね。」
 勿論ジョーク、しかも大して笑えたものでもない類の方である。
「それよりも、みんな無事でよかった。怪我もないか?」
「ああ、全員かすり傷一つない。いつでも出発できるぞ。」
 先達していた内から全員の状態を把握していたグリシーヌより声が上がった。周囲を一目見渡し、彼女の言を正確と認知した大神は前進命令を下す。
「分かった。ここがいよいよ敵の本丸だ、行くぞ。」
「了解!」
 気合の充実した答えが大神の耳に届く。花組は大神機を先頭についに聖魔城の敷地に進入を果たした、とはいえ聖魔城自体は太正十三年の騒乱時と変化はないようで、当時は固く閉ざされていたがミカサの主砲で破壊された正門も残骸の形で残っていた。現在の光武もまた、ミカサがかつてこじ開けたそれを通過した。
 散発的、統制の取れていないように思える数匹単位での降魔の襲来を打ちのめして花組は前進の足を緩めない。
「本当に降魔の抵抗が弱いな、マリアの読みが当たったわけだ。さすがだよマリア、君の意見を聞いて正解だった。」
「そんな、た、ただのまぐれです。」
 マリアは謙遜した。自らの具申に自信はあったつもりだが他の隊員の手前で面と向かって賛辞を贈られるのには気恥ずかしさの増す部分が大きかった。彼にしてみれば思ったことを口にしただけなのはマリアにも理解できるが、そろそろデリカシーや甲斐性の面でも成長を見せてほしいと、上官に願う彼女であった。
 そして実際に組織立った抵抗もなく花組は、かつては霊子砲と呼ばれた兵器の躯が座す櫓まで到達した。霊子砲、かつては帝都、帝国華撃団を恐れさせた恐怖の兵器であったが今や砲身も二つに折れ、海藻も茂り到底兵器としての機能は果たせないことは明白であった。そしてここは大神にとって他の思いが強まる場所でもある。
「ここであやめさんが…俺を庇って…」
 葵叉丹の一撃を、まともに食らいそうになった大神を、身を挺して庇った降魔殺女、いやさ藤枝あやめの姿は大神の心中に永遠に記憶されている。今彼の心が何処を向いているのかが分かるのは、あの時此処に共にいた隊員一人のみである。
「あ、大神さん見てください。あんな所に蝶さんがいますよ。」
 エリカが霊子砲の上の方に、砲身にべたりと貼り付いている繭の様な物体を指し示して蝶と呼んでいた。
「エリカさん…あれは蛹ですわ。」
 花火がすかさず訂正する。確かに蛹のような物が霊子砲にしっかりと引っ付いているようだ。しかしそのサイズは巨大で光武何体分にも匹敵する大きさが見てとれた。蛹であったとしても、蝶などという生易しいものが生まれるとはまず思えなかった。
「あーそっかぁ、ちょうちょさんになる前のサナギさんですね。」
 敵本拠の只中にありながら未だに能天気との友情を忘れていないエリカに愛想をつかしグリシーヌが話を進める。
「隊長、余りにも怪しいと思わんか?」
「うん、さっきまで海の底にあったここに蛹とは不自然だな。全機、一旦進撃を停止せよ。」
 光武が歩行を止めてから間を置かずに櫓へ陽光が差し込んできた、夜が明けたようである。ふと、櫓へと差し込む一筋の輝きが霊子砲を照らし出した。そこが微妙に揺らめいたのをマリアは見逃していなかった。
「隊長、これは!」
「みんな、霊子砲から離れるんだ。」
 霊子砲から距離を置く光武、だんだんと光量が増えていく櫓の中で映し出されたのは、霊子砲の隅々から床にまでも伸びきった蛹の糸だった。糸といえど大木の根のように太く肥えている。
「これは…まさか、やないやろな。」
「何かわかるの、紅蘭。」
「ああ、霊子砲ちゅうのは人々の恐れやらを集積して撃つ大砲やっちゅうのはみんなご承知やろ。この糸がそのエネルギー伝導システムと繋ごうとったら、妖力があの蛹にごっつぅ流れ込んでるっちゅうわけや。」
「もしそうなら、大変じゃねえのか。今のうちに燃やしてやるさ。」
 ロベリアが炎を纏いながら糸に攻撃を掛ける、しかし糸はロベリアを嘲笑うかのように炎の蹂躙にまるでダメージを受けていなかった。
「ちっ、なんて糸だよまったく。」
「ふふふ、ふわはははははははははっ。時は満ちた。」
 櫓中に花組の誰のものでもない重い声が響き渡った。声は繭の方向から聞こえてきている、大神達は嫌な予感をここにきて強めざるを得なかった。
「誰だ!」
 大神は精一杯の声量を吐いた。それすらも嘲笑するかのように笑い声は鳴り止まない。
「ああーっ、気色悪いんデース!」
 溜まりかねた織姫機が繭に向かってビームを吐いたが、やはりそれも相手に対しての有効打とはならなかった。
「我…復活の時なり。この力を用いて天下を、天下を我が手にぃっ!」
 重い声がより一層の声量を持った時、全てが無効であった繭に罅が入った。一片、また一片と繭の破片が落ち行く狭間より巨大な、巨大すぎる腕が繭より伸び出した。
「いやぁぁぁ、アイリス怖いよぉ。」
「駄目だアイリス、怖がればそれが敵のエネルギーになる。」
 冷静さを失っていないレニがアイリスをフォローする。
「大丈夫、アイリスはボクが守るから。」
 この科白が、子供らしさを全快にして恐怖におののこうとしていたアイリスの心を救った、ベソの奥から歓喜の表情が舞い起こる。
「う、うん。アイリス負けないよ。だから、レニ、ずっとそばにいてね。」
「もちろん。」
 レニの強い決意を表した言葉にアイリスはすっかり勇気付けられた、もう涙も出ては来ない。
「ほな、行きまっせ!」
 腕めがけて紅蘭のミサイルが乱舞する。全弾命中したにも関わらず、やはり大したダメージが無いようで腕の次はついに上半身が現れ出た。その姿は、あまりにも巨大である点だけを除けば戦国の武者そのものの姿をしていた。
「これが、北条氏綱なんですの?」
「いかにも…我こそ北条氏綱なり。この大和を以て天下を頂く者なり。」
「やれやれ、ですわ。300年以上も昔のお山の大将ごっこなどをこの太正の御代に持ち込まないでくださる?後に生きるわたくし達に大迷惑ですわ。」
 戦国乱世の大絵巻をお山の大将と言ってのける辺りがすみれらしい。だが氏綱にとっては侮辱の他なかった。
「黙れ、女!見よこの姿、この偉容を。これぞ天下にふさわしい力よ、それっ。」
 とうとう全身を繭より出した氏綱は、花組の眼前に飛び降りてきた。体に見合った大音量を放って床に降り立った氏綱は、巨大降魔にも引けを取らない丈を示していた。
「さあ、我が眷族共よ、我の前に平伏し我の手足となって天下取りに尽力せよ!」
 氏綱の号令と共に櫓の天井、壁が崩落し視界が全体に開けた。
「中尉サン、見てくだサーイ。」
「どうした、織姫くん。な、なんだあれは。」
 織姫の示した方向にはミカサがあった。その内部から黒い物体が無数に飛び出てきては自分達の方に向かってきていたのである、物体が降魔であることを確認するのにさして時間は要さなかった。
「降魔や。そうか、氏綱復活のエネルギーをミカサから取っとったんやな。ほんで氏綱が蘇ったからもうミカサに用はないちゅうこっちゃ。」
 紅蘭の洞察は当たっていた。だがこの場合洞察の正誤を問うよりももっと大きな問題に花組は直面したのだ、即ち前門の氏綱、後門の降魔の大群。氏綱の呼びかけに呼応した降魔共は空中を飛翔することで真っ直ぐに櫓へ向かってくる、もはや一刻の猶予もない。
 地に足を着けた氏綱が得物の大刀を一閃した。横真一文字に光った軌跡は花組の隊列を捉え、大言のすみれ機が狙われた。
「すみれ、危ねえ!」
 すかさずカンナが庇いに入り、大刀の切っ先を両腕でしかと受け止める技を見せる。しかしここは氏綱の方が役者が一枚上手であった、押さえつけられた刀を力任せに軌跡の続きを描き直し、カンナ機を数十メートル、壁まで吹っ飛ばした。
「カンナさん!」
 すみれの悲鳴じみた呼びかけが飛ぶ。崩れた壁の破片と煙の中からカンナ機が姿を見せる。
「へへっ、なんとか大丈夫みてえだ。頑丈なのはアタイの取り柄だからさ。だけど光武が…」
 カンナの方は無事らしいのを通信で確認できたが、光武の方は操縦者を守ってダメージを負っていた。駆動系に障害を発生したらしく、カンナの操縦にも無言をもって応えていた。
「俺が注意を引きつける、カンナの救援を頼む。」
 言うが早いか、大神機は全力加速でカンナの飛ばされたのとは逆方向から氏綱に接近し、自分を誇示させる。彼を追ってレニ機とグリシーヌ機が足を速める。
「一機だけでは危険だ、ボクが援護する。」
「隊長、猪突はならんぞ。わたくしも力を貸そう。」
「すまない、レニ、グリシーヌ。」
 三機が足元をちょこまかと互いの位置を入れ代わり立ち代わりに動き回り、氏綱はそれらの動きに見事に翻弄された。その隙にすみれ機と織姫機がカンナ機に接した。
「しっかりなさってくださいまし、カンナさん。」
「まったくあんなの食らってこの程度なんて、頑丈にも程がありマスネー。」
 すみれの回復機能でどうにか立つことができたカンナ機をすみれ機と織姫機が両側から支えて急ぎその場を離れた。彼女達の成功を見やった大神はレニとグリシーヌを伴い即座に氏綱の攪乱から離れた。
「このままでは不味い、一旦櫓の外に出るぞ。」
 大神の命令に隊員達は整然と踵を返す、筈だったがエリカ機がまたも躓き、先導して退いていたすみれ機共々、一目散に櫓から外に転げ出てしまった。降魔も目ざとく、その様を確認するや否や、二人に照準を絞って上空から襲い掛かってきた。
「すみれくん!エリカくん!」
「きゃああああああっ!」
 大神が届かせられるものは刃にあらず声のみである。縺れ合った二機は互いに相手を振りほどくことで精一杯で降魔への対処にまで対応しきれなかった。皆がもう駄目かと思ったその時、天より新たな炎が巻き起こった。
「ミフネ流剣法、極意!ターニング・スワロー!」
 突如現れたジェミニのスターが二機に向かった降魔を焼き尽くす。大神達は櫓からその様子をあっけにとられて眺めていた。
「あ、あれはスター?」
 続いて氏綱の頭部で3度の爆発が起こった。氏綱自身も何が起こったのか分かっておらず、周囲を見渡したが何も見つけられなかった。それもそのはず、回答は櫓よりも更に更に高い空にあったのだから。
「隊長、あれは紐育華撃団の。」
「ああ、間違いない。エイハブだ。」
 上空にはいつしか、紐育華撃団が誇る武装飛行船エイハブが悠然と全長450mにもならんとす巨体を浮かべていた。船体の砲身が、氏綱の頭部目指して明確に向っていた。先ほどの爆発は、ここから放たれた弾が着弾したものに他ならない。

 エイハブ艦橋にはサニーサイド、ラチェット、それにプラムと杏理のいわゆるワンペアの姿があった。
「やあやあやあ、遅くなって申し訳ない大神司令。でも昔から言うじゃない、真打ちはオイシイ所で登場するって。」
「サニーサイド司令。紐育から来てくれたんですか。」
「ええ、紐育にも魔物が現れてその退治に追われていたけれど、間に合ったみたいでよかった…久しぶりね、大神司令。」
「ラチェット…久しぶりだね。」
「なんだか、いい間柄ですね、お二人さん。」
 二人の思わせぶりな会話の間に、こういう機微に過敏過ぎるさくらがやはり反応した。彼女が日本を発つ直前に大神に真相を吐露した時の事をさくらは知らないままでいた。それはある意味では全員にとって幸せなことなのかもしれない。
「敵巨大武者、砲撃によるダメージ軽微。」
「降魔の群れ、なおも帝国、巴里両華撃団に向かっています。あ、一部が本艦にも向かいだしました。」
 ワンペアの状況分析が入り、ラチェットが状況を分析する。
「分かったわ。大河君、本艦に向かう降魔を迎撃しつつ大神司令達の援護を。」
「はい、ラチェットさん。紐育華撃団、レディー、ゴー!」
「イエッサー!」
 ジェミニ以外の5機のスターもエイハブを発進する。めいめいに大空に弧を描く様は、降魔に対して速度や空中機動性の優位さを無言に語り示す。
「サジータさん、リカ、昴さんはエイハブに向かう降魔を迎撃してください。ダイアナさんは僕と、ジェミニに合流。帝国、巴里華撃団の援護に向かいます。」
「よし、じゃあここはアタシ達に任せてもらって、新次郎は早く叔父さんの胸に抱かれてきな。」
「そうだそうだー、こんなのリカの銃だけで十分だぞー。」
「昴は言った。新次郎は叔父離れしていないな、と。」
「そ、そんなんじゃないですよ昴さん。」
 昴の言い分も全否定されるものではなかった、戦場に向かう新次郎の表情には真剣さの裏にどことなく笑みも含まれるのをスターファイブは全員が確認していたのだから。
「い、行きますよダイアナさん。」
「はいはい。耳まで真っ赤にして、大河さんは大神司令の事が本当に好きなんですね。」
「もう、いいですからぁ!」
 新次郎機が加速を強めて現空域を後にした。しかし進行方向にはジェミニもいたことは新次郎にとって誤算を招いた。
「えー、新次郎は大神司令とあーんなこととかこーんなことを…ふふふ。なんちてなんちてー!」
「もぉ、ジェミニまで。そんなことより行くよ…ジェミニ!」
「オッケー。」
 二人の連携攻撃が周囲の降魔を蹴散らす。櫓から脱出し、すみれとエリカに追いついた花組の隊列まで切り開いた道をダイアナ機が急降下する。
「お待たせしました。さぁ始めます、メジャー・オペレーション。」
 花組各機の幾度にも渡る小競り合いによる蓄積や、氏綱の一撃によるカンナ機の疲弊が一気に回復した。
「助かったぜ、ダイアナ。」
「どういたしまして、カンナさん。」
 回復と同時に新次郎機とジェミニ機が変形して着陸してきた。ダイアナ機は回復の後再上昇してサジータ達の増援に向かった。やがて花組の周囲に地上からも降魔の大群が押し寄せてきた、だが誰一人不安の色も見せず、各機が戦闘態勢に入る。
「お待たせしました、一郎叔父。」
「新次郎、よく来てくれた。お前がいればもう百人力だ。」
「は、はい!ありがとうございます。」
 花組の心も掴む大神の口は、自分を慕う甥の心も掴む力があった。憧れの叔父に、自らが必要とされている旨を語られた新次郎の気力が一気に充実する。
「行きましょう、一郎叔父。氏綱を討って帝都に平和を取り戻すために。」
「頼もしくなったな、その意気だ。」
 新次郎の成長ぶりに喜びを禁じ得ない大神は、父親の心境のそれに等しかった。彼もまた新次郎と同様に気力が充実していく。
「我に、また抗う者か…よかろう。まとめて相手いたそう。さあ、来るがいい。」
 氏綱は悠然と地上の光武を見下ろす位置にあるため、物言いも相対位置も遥かな高みからのものとなった。
「ぬぅ…」
「どうした、新次郎。」
 新次郎のらしからぬどもりが大神の気を引いた。
「い、いえ、なんでもありません。行きましょう、一郎叔父。」
「ま、まあ待て焦るな新次郎。今氏綱のいる櫓に上ってもこれだけの霊子甲冑が自由には動き回れない。ここは氏綱を広いこの辺りに誘き出すんだ。」
「なるほど、でもどうやって誘き出します?」
「うん、それは…」
「ジャストモーメント!そういう事ならボクに任せてもらおう。」
 二人の会話に上空からサニーサイドが割り込んできた。
「サニーサイドさん、でもいったいどうやって。」
「要は簡単さ、あのデカブツをお山から引きずりおろせばいいんだろ。」
 さらっと語ったサニーは、陽気にステップを踏みつつエイハブの操作盤までたどり着き、軽快な手さばきでその表面をなぞった。するとエイハブの全砲門が火を噴き氏綱の立ちはだかる櫓に対して鉄の塊を浴びせ倒した。聖魔城などと大層なネーミングでも実際は400年ほど前の歴史の遺構に過ぎない。最新兵器たるエイハブの集中砲火に見回れては成す術無く瓦解の一途を歩んだ。
「や、やっぱり無茶する人だな。」
「ああいう人なんですよ、ボクもまだあの人のやり方は読めません。」
 二人の隊長が呆然とする目の前で、崩れ行く足場に見切りを付けた氏綱が巨体に似つかわしくない俊敏さで跳んだ。櫓の崩落に巻き込まれることなく、大神と新次郎の真正面に降り立つ。
「おのれ、小癪な者共め。」
 氏綱の視線がエイハブに向かい、足下が疎かになった瞬間を大神も新次郎も見逃さなかった。氏綱の両脇を通り過ぎ、過ぎざまに大きな左右の臑にそれぞれ一撃を加えた。
「ぐわあっ!」
 巨大でも人の形である以上、人としての弱点も持ち合わせていたようである。弁慶の泣き所を一度に両方やられた氏綱はたまらず両膝を地に着けた。
「やった、今だ!」
 ここぞと思い新次郎が反転して再攻撃の態勢に入る、その反転の隙を突いて氏綱は足を伸ばして新次郎機に蹴りを食らわせた。スターとの体躯差も10倍にならんとする巨体の蹴りをまともに食らった新次郎機はどてっ腹を凹まされ仰向けに天を眺めた。
「新次郎!」
「おのれ、下郎…天下も取れなかった分際で余に・・歯向かうとは。」
「し…新次郎、どうした?」
 大神は、新次郎から新次郎らしからぬ発言を聞いた。あるいは、彼の中に宿った信長が近い世代、同じ乱世を生きながら天下人たりえた己を、どこぞの田舎侍が侮辱したと捉え新次郎を揺り動かしたのかも知れない。
 氏綱は大刀を上段に構え、止めを刺すつもりで新次郎機に狙いを定めて刀を振り下ろした。
「くうっ。」
 だが、結果は氏綱の思い通りとはいかなかった。新次郎機を捉えていた筈の大刀はそこに達するまでに外力により刀身の先から半分を粉々に粉砕されたのだ。
「あ、新しいスター?」
 新次郎の危機を救ったのはスターであった、しかし救出元を視認した時に新次郎から出た台詞は謝辞ではなかった。そしてその機体は新次郎はおろか、サニーサイドにしても全くの初見となるスターなのだから。
「あのカラーリング…まさか。」
「あなただけにそっとお教えしましょう。」
「うわぁあっ!」
 いきなり真横に現れた王行智に驚き、サニーサイドは慌てふためいて指揮シートからこけ落ちた。見事すぎる無様っぷりに杏理は隠れて、プラムは指を指しながらサニーの様子に笑い転げた。
「お、王先生。エイハブに乗ってらしたんですか、酷いですねえ、一言くらい仰っていただければ。」
「それは失礼しました。で、あのスターですが…実は私が、ある方より頼まれてこっそり開発しておいた物でして。」
「ある方…じゃあやっぱり。」
「察しがいいわね、サニー。」
 エイハブやスターに通信が入る、それは紐育華撃団の誰もがよく聞き馴染みのある声だった。
「ええっ、ラチェットさん!?」
「やっぱり君か、ラチェット…だから君の体は、」
 サニーサイドの喚起を遮ってラチェットの明るい声が入る。
「お気遣いなく。今、私も霊力がすごく充実しているの。ほらっ。」
 そう答えると、ラチェットは機首を目一杯上に向け急上昇を始めた。ぐんぐんと上り行くスターが突如停止したかと思えば、全速降下しつつ降魔の群れに攻撃を浴びせ掛ける。そのままスターは群れを突っ切り地上にまで達した。直後地上形態に変形して降魔数体に向けてナイフを放った。
「どうかしら、これで心配無用なのが分かってもらえたかしら。」
「分かった、分かったから無茶はしないでくれよ。」
「どういたしまして、サニー。」
 一筋縄ではいかないサニーサイドを、自らの力で以て説き伏せるのはさすがに千両役者のラチェットである。
「さあみんな、行くわよ。」
 呆気にとられていた三都の隊員達を鼓舞してラチェットが舞う、その周囲では魅了された観客さながらに降魔が次々と倒れていく。最新鋭機を優雅に乗りこなしている様はそれだけでも隊員達の士気を上げた。無骨な大神や柔和に過ぎる新次郎ではこうはいかないタイプである。
 空中の降魔はそのままスターファイブが担当しながら、花組達は自ずと適材適所に分かれ、近接戦闘を得意とする面々がラチェットを援護しつつ地上降魔の奔流を押し返す、そしてロングレンジ攻撃が可能な花組が氏綱の顔や腹に向けて攻撃を放つ。
「ぐっ、ぐおおっ、我が、天下に相応しい力を得た我が押されているだとぉ。」
 俄然気合の高まった相手の攻撃に、圧倒的な力の差があった氏綱の身体が揺らぐ。
「力だけで天下が取れると思ったか。本当に必要なのは、力を正しく使う事のできる心だ、氏綱!」
 新次郎、むしろ信長が威勢のいい啖呵を切る。
「そうだ。そして俺達はこの力を守るべき人たちのために使うんだ、だから俺達は勝つ、必ず勝つんだ。これで終わりだ、氏綱。」
 大神機が加速を上げた、脇を飛行形態に変形した新次郎機が並走する。
「捕まってください、一郎叔父。」
「新次郎、大丈夫なのか?」
 氏綱に蹴られた際の機体、搭乗者の心配をする大神に新次郎は言い放った。
「この位なんでもありません。ボクはでっかい男ですから。」
「よく言った、遠慮しないぞ新次郎。」
 大神機は新次郎機の上方の突起物、窪みに手を掛ける。新次郎機が上昇して氏綱の眼前まで来たところで再度変形し、地上形態となる。
「行くぞ、新次郎。」
「はい、一郎叔父。」
「狼虎滅却…」
「狼虎滅却…」
 二人の霊力の高まりを感じた隊員達が、彼らに呼応する。
「大神さん。」 「中尉。」 「隊長。」 「隊長。」 「お兄ちゃん。」 「大神はん。」 「中尉サン。」 「隊長。」
 帝都の可憐な花々の声が通り、
「大神さん。」 「隊長。」 「イチロー。」 「隊長。」 「大神さん。」
 巴里の美麗な花々の声が舞い、
「オッケーイ。」 「やっちゃえー。」 「お願いします。」 「任せる。」 「新次郎、決めて。」
 紐育の煌めく星々の声が踊る。
「行くぞ!」
「俺が正義だ!」
 二人の究極技の霊力がみるみる一体化して、巨大且つ強力な霊力の球が形成された。そこから放たれる煌めきが氏綱にプレッシャーを与える。
「狼虎滅却・ビッグバーン!!」
「うぐ、うがっ、うがああああああて、我の、我の野望をよくもぉぉぉぉっ。」
 震天動地と超新星の合体攻撃、狼虎滅却・原始大爆発(ビッグバン)が氏綱に炸裂した。この技の前に氏綱は断末魔の叫びと共に光の中に消え去った。氏綱が消え去ると同時に、主を失った降魔は朝日の中で全て溶け失せていき、ここに三都華撃団の大勝利が訪れた。
「やった、やったぞ新次郎。」
「や、やりましたね、一郎叔父。」
 二人は霊子甲冑を飛び出すと、互いに右腕を交差し勝利を確かめ合った。
「…いい顔になったな、新次郎。それでこそ紐育華撃団の隊長だ。」
「いいえ、ボクがここまで来られたのも一郎叔父が紐育へ送り出してくれたから、そして紐育でみんなに会えたからですよ。」
「そうか、お前もいい仲間に巡り会ったんだな。」
 大神は自分が帝劇に、シャノワールに初めて入った頃を思い出しつつ、新次郎にも訪れた良き巡り合わせを祝った。
「はい。みんないい人達ばかりでボクは成長できました、一郎叔父には感謝しています。」
「おやおや、初めて来た頃は半ベソかいてたボクチャンが威勢よくなっちゃって。」
「サ、サジータさん、いつの間に。」
 今しがたまで大空で戦っていた隊員からの突然の指摘に狼狽を見せる新次郎。サジータの後ろにはスターファイブが既に全員降りてきていた。
「昴は言った、全員から不要扱いされて落ち込んでいた子供がすっかり見違えたものだ、と。」
「昴さんまで、む、昔の事はもういいじゃないですか。」
「そーだぞー、しんじろーは立派なタイチョーだぞ。いつもリカにゴハンくれるんだからな。」
「リカ、ボクが隊長らしいのってそこだけなのかい?」
「ははっ、これは確かにいい仲間達だな。よかったじゃないか新次郎。」
「からかわないでくださーい!」
 新次郎の必死の懇願も周囲の笑い声にかき消されてしまった。
「では、新次郎が成長したという事で、アレ、しようか。」
「そうだねジェミニ。やろう。」
「おー、アレだな。リカも大賛成だー。」
「じゃ、ここは大神司令と大河君に音頭を取ってもらうのが筋ね。」
「あ、ラチェットさん…さっきは危ない所をありがとうございます。」
 新次郎は丁寧に頭を垂れた。敬礼でない付近が軍人色に染まっていない新次郎らしい。
「ふふっ、いいのよ。それよりも、ねっ。」
「はい、一郎叔父。」
「ああ、花組のみんなも集まったしな。」
 見渡せば紐育星組の周りに帝都、巴里の両花組も集まってきていた。大神、新次郎、ラチェットまで合して21人。男女比を華やかな方向に著しく欠いた集まりは艶やかであるがまた姦しくもあった。
「はいはい、みんな。四方山話は後にして、アレをしましょう。」
 こんな時男性はなかなか前に出られない。結局マリアが仕切ってくれて隊長が再度表に立つことができた。
「恩に着るよ、マリア。」
「すみません、マリアさん。」
「礼には及びません、それよりも隊長、アレを。」
 妙にアレに拘るマリアを見ると、やはりマリアにはアレに対して一廉の思いがあるのかと思いたがった大神だが、また話が拗れるのを歓迎しない大神は言葉を飲み込んで再生成した。
「そ、そうだな、よし、行くぞ新次郎。」
「もちろんです。せーの、」
「勝利のポーズ、決めっ!!!」
Rudolf <lyyurczxxp> 2016/09/27 19:51:11 [ノートメニュー]
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その8.(最終章)

「あっ。」
 勝利のポーズ直後にラチェットが膝を折った。表情にも疲労感が濃く映し出されている、それを見かねた大神が声を大きくした。
「どうした、ラチェット!?」
「ふふっ、ちょっと無茶をしたかしら。」
「無茶だなんて、ラチェットさんやっぱり無理してスターを。」
 新次郎は涙を落としていた。彼の初陣でもラチェットはやはりスターを動かすことにさえ不可能ならしめていた、それを経験してるのに自らの危機をスターに乗って救ってくれたラチェットへの謝罪と悔恨の表れである。
「こら、そんな泣きベソかかないの、貴方は紐育華撃団の隊長でしょ。」
「は、はいっ。グスッ、もうな、泣きませんから。」
「おいおい、もうグズグズじゃねえか。ハッ、でっかい男が聞いてあきれるぜ。なあ、隊長。」
「いやロベリア、新次郎はこれでいい、これで十分でっかい男さ。」
「はあ?叔父バカってやつかよ。まったくバカばっかりだぜ。」
 ロベリアは両手を降参のように広げ、天を仰いで呆れ返った。大神の甘さには時折ついて行けないが、またその甘さが彼の魅力と感じている自身もあり、両者の間の妥協点を見いだせなかった。
「ははっ、まあいいじゃないか。それはそうと、ラチェットをこのままにはできないな。」
「ちょ、ちょっと。何をするの!」
 すっとラチェットを抱き抱える大神の様を見た新次郎が複雑な表情を浮かべる。
「ああっ、一郎叔父。ラチェットさんはボクが抱えるんですよ。」
「いいっ、そ、そうなのか?」
 この時点で大神は少し早合点をした、いや早合点ではなかったのかもしれない。新次郎はただ初出撃の時にラチェットを救い出したことで彼女を抱えるのは己の役目であると思いこんでいただけなのかもしれない。しかし周囲の18対の目の色が変わるにはこれだけのシチュエーションで十分であった。特にこういう時に先陣を切るさくらの視線の鋭さと発生の冷淡さは大神をいつも当惑させる。
「へえ〜、大神さん。やっぱりラチェットさんとはやたら仲がいいんですね。」
「い、いや、さくらくん。これは別に、そういう事では。」
「しかも甥の想い人を横取りとは、なんと人の道に外れた所行。今日という今日は許せん。成敗してくれる!」
「ちょ、ちょっと待つんだ、グリシーヌ。」
「大河さん、ちょっとお話が。」
「ダ、ダイアナさん。その手のメスと注射器はなんなんですか。」
 多勢に無勢、その上相手側の気力の漲りようが尋常ではないのが二人には肌で分かった。こうなれば彼らに残された手はあまりに限られている。
「い、一郎叔父。こういうときは三十六計。」
「ああ、とにかく…逃げろおっ!」
 男達は一目散に逃げ出した。総司令に昇進しようとも、でっかい男と認められようとも、二人しての血筋なのかやはり彼女達には太刀打ちできなかったのである。
「逃がしませんよ、みなさん大神さん達を追いかけましょう。」
 エリカの意見に一同が賛成した。彼らは先刻の死闘の勢い何処へやら、すっかり敗残の一兵と化しまるで勝ち目のない戦いの最中に落ち込んでしまった。もはやとにかく逃げる、当てなどなくとも逃げるだけだった。
「ちょ、ちょっと大神司令。」
 大神の腕の中でラチェットが声を出す。隊員達の気迫に押されて一瞬忘却していたが、大神は彼女を抱き抱えたまま駆けていたのである。
「一郎叔父まだラチェットさんを抱いてたんですか、ボクがって言ってるじゃないですか。」
「あ、ああ、すまない。だけどこの状況では。」
「ずるいですよ、あ、もしかしてボクが配属されるまでにラチェットさんと何かあったんですか?」
「いいっ!?」
「ええっ?!」
 新次郎は妄想により真実を突いた。大神に回答を求めた新次郎であったが、正解は思わぬ方向からもたらされた。
「ラ、ラチェットさん?耳まで真っ赤になってどうして、ああ!やっぱりなんですか。」
「そ、そうじゃないわよ。」
 人前で、しかも異性の胸の中で嗚咽したなどという事実を新次郎や、ましてやサニーサイドになど知られる訳にはいかない思いも手伝い、ラチェットの顔は紅潮の極みにあった。
「じゃあ、どうだって言うんです。」
「そこはボクも聞きたいね、大神司令。ボクのラチェットにいったい何をしてくれたんだい?」
 遙か上空のエイハブから茶々を入れてくるサニーサイドには、このような状況でもラチェットは強気だった、むしろ強気。
「サニー、話がややこしくなるからあなたまで出てこないで。」
「えええっ、心配してるのにそりゃあないよ、ラチェットぉ〜。」
 サニーサイドはすぐに折れたが、女性陣はそうはいかない。しっかりと全員が彼らを追いかけてきている。
「い、急ぐんだ新次郎。」
「は、はい、一郎叔父。」
「だから下ろしてってば!」
 恥ずかしさの余り大神の頭を両手でぽかぽかと叩き散らすラチェット。彼女を抱えた彼らが逃げ仰せたのか、それを記す記録は何も残ってはいない。
「なんでこうなるんだぁー!?」
 大神の本日最大の叫びが大和に木霊する。だが今度ばかりはいかなる助けも現れてはくれなかった。そして彼らのその後の運命は、何処にも記録されることはなかった。

 戦いが終わり、そして時は流れる。一度は帝都を逃げ出した人々も平和が戻ったことを知り次々と元の生活に戻り、街は再び元の活況に満ちた世界へと蘇った。巨大降魔に荒らされた大帝都スタヂアムも復旧なり、今ここでは帝国歌劇団、更に客演に巴里歌劇団、紐育歌劇団を加えた面々によるこけら落とし大レビュウが行われていた。
「みなさーん、今日はわたしのために集まってくれてありがとうございまーす。いいですか、幸せだコール行きますよー!」
「幸せだ、幸せだ、幸せだー。はい!」
「幸せだ、幸せだ、幸せだー!」
 エリカのとぼけた掛け声にも乗ってくる理解のある数万の観客、その大多数が舞台との共犯関係を進んで楽しんでいるようである。
「おっほほほほほ、エリカさん。少しだけ違いますわ。この皆々様はわたくしを、わたくしだけをご覧になりに来られたのですわ。そこだけはお間違えなきよう。」
「あーそうだったんですね。エリカ間違えちゃいました、エヘッ。」
 客席からすみれの意見に対する賛意の声と、エリカの返答に向かう訂正の声が同じような声量で巻き起こる。
「エリカサーン、そんな訳ないデース。お客様は舞台全体を見に来てるのデース。」
「えっそうなんですか。すみれさんはわたしを騙したんですか。」
 瞳いっぱいをうるうるとさせて追求してくるエリカに、すみれはいつものパターンとは違う状況に困惑した。普段真っ先に突っかかってくる彼女はといえば、すみれの困惑ぶりが非常に興味深いらしく、二人の成り行きを興味本位の一点で満たされた眼で見つめていた。
「おもしろくなってきたぞー、ウソつきはドロボウの始まりだ。金の銃と銀の銃、どっちで撃たれたい?」
「リ、リカさん。貴女舞台の上にまで武器を持ち込むなんてシャレになってませんわよ。」
「まあまあ、すみれさんもリカさんもエリカさんも、ここは舞台の上。お手打ちと言うことで。」
「そうだよ、みんあんで手を繋いで一緒に歩こう。」
 袖のラチェットが機転を利かせてコクリコの曲を流し始めて騒動は収まった、当然のように台本にはないし、アドリブとは称しがたい一幕である。
「ふう、助かったよラチェット。」
「どういたしまして、危機管理能力はまだまだのようね。」
 この一癖も二癖もある乙女達を任されてから幾年経っただろう。海軍出の実直男は柔軟性でブロードウェイのトップスターの感性の後塵を拝している。
「いいですね、なんだか恋人同士みたいで。」
「いいっ!?し、新次郎脅かすなよ。」
 目の前でレビュウの舞台に立つさくらの意識が乗り移ったかのような新次郎の言葉に肝を抜かれた大神、そして口走った当人は氏綱との戦闘後より叔父に対して何らかの壁を作っていた。言ってみれば、お気に入りの玩具を取られて拗ねる幼児のそれと酷似している、そのようなものだった。この発言もそのような叔父への卑屈な気持ちから発せられたのだが、さくらの口調と類似していた点はただの偶然か新次郎にそのような意識はなかった。
 が、次の瞬間袖を振り返ったさくらの突き刺すような視線は大神に科学だけでは解き明かせない存在の証明を予感させた。
「はいはい大河君、いつまでも拗ねてないの。」
「もうっ、子供扱いは止めてくださいよ。」
「あら、ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったんだけど。」
 新次郎の頭を撫でている様は主観的にはどうあれ、客観的には贔屓目に見ても彼を子供扱いにしていた。
「これでもけ、けっこうショックなんですからね。」
 立派に隊長職を務め、目を見張る成長ぶりを示したにも拘らず、ラチェットはじめ隊員達からも子供扱いされるのが抜けきらないのは新次郎にとって日々の不満の上位にあった。帝都に来てからは、大人びている叔父との比較で頓にそのような機会が増えたと感じていた。
「ふふっ、そういう所は子供なのよ。」
「ああ、まったくだ。ははっ。」
「も、もういいですよ。」
 今日、耳まで紅潮させたのは新次郎の方だった、おまけに頬まで膨らませているなどやはり子供っぽさがあるのは本人の自覚外である。
 歓声が一段と大きくなる。帝都花組が下手に消えたかと思うと、中央から巴里花組が現れ、彼女たちが上手に消えた次は紐育星組が下手から登場する、優雅な大河の流れにも似た様子が観客の心を打っているのだ。今日この舞台は訪れた四万の人々の心一つ一つに色濃く残ることであろう、大神は袖から眺める彼女達の姿にそれを確信していた。
 些細な事から拗ねていた新次郎も、舞台の素晴らしさに心を打たれる一方である。そこでふと彼は些細な事を気にしている自分とでっかい男という己の理想像との間の乖離に気付かされていた。
「そうだった、ボクはでっかい男になるんだ。」
 気付いた時の新次郎の顔つきからは子供っぽさは抜けていた。敬愛する叔父と前隊長に向いて凛々しく微笑んだ彼を、また二人もにこやかに返していた。
 三都華撃団が氏綱を討ったことで何かが変わったわけでもなかった。各地脈の設備は今までと変わらず帝都市民の豊かな生活のために動き続け、帝国華撃団もこれまでと同様、歌劇団としてまた華撃団として帝都の防衛を担う事となる。
 そして帝都はまだ進化を遂げる、その一端がこのスタヂアムでありそれと共に歌劇団も更なる進化を遂げる、遂げられるように彼女達の一層の弛まぬ努力が積み重ねられよう。今日の日の舞台もきっとその糧となるに違いなかった。今を生きる命、その尊さ、素晴らしさを教えてくれる花々の想いよ、永久に咲き誇らん。

−我が命の花よ、君よ花よ。

Ende.
Rudolf@お付き合い下さりありがとうございます <lyyurczxxp> 2016/09/27 19:51:43 [ノートメニュー]
Re: その8.(最終章) [返事を書く]
ようやく感想
というわけで遅くなりましたがこんばんは、夢織時代です。


私はここんところ花組のSSを書いていないのですけど、ちゃんと書ける人が書けば、口調と指示語の区別で誰が誰に喋っているか説明文無しでもわかるようになっているのがサクラ大戦なんだということを改めて思い出されました。

日比谷公園でポケモン探しをしてきたところだったので、
なんとなく降魔がポケモンに思えてきて困るという変な話。

千葉助さん、割りと帝都の最前線近くで騒動に巻き込まれてる印象がありますが、彼自身が強運型の霊力者じゃないのかと思うこともしばしば。
紙芝居屋って過去のいろんな怨念の鎮魂浄化ですからねえ。琵琶法師みたいなもので。べべんべんべん。

昔は気づかなかったけど紅蘭による発明品の開発スケジュールはブラック企業顔負け……。発明が好きでやってるとはいえ、納期明日とか。実はずっと疲労続きなだけで、ちゃんと休息を取ったら紅蘭は割りと霊力があるのではないかと思うことも。

霊力勝負になったら本来マジで最強のはずのアイリス。普段の戦闘では相当に抑制されているはずなんですよねえ。

……ちょっと待って、薔薇組と奏組の共演って夢の共演のはずなんだけどなんでこんなに暑苦しいの(をい
そしてガチで花組と奏組を噛み合わせると大変すぎて隊長の音子さんの胃痛がヤバイことに。みんなやめたげてよう。


敵の正体が出たところで、サクラ二十周年に投入したネタがガチ被りだったことに気づいて頭を抱えました。げ、原点回帰と思えば彼に帰結するのは当然の結果だからいいんです!時期も違ってるからいいんです!(無理やり


迫水さんがカッコイイ場面ってなかなか無いのですが、
リボルバーカノンを武器として使うという発想は無かった!………………あれ?何かおかしいけどまあいいや。
到着した巴里華撃団への明かされる神速でのバリア実装……こっちもブラックだったー!
奏組と巴里華撃団の顔合わせって公式では無いんでしたっけ。なんか花火さんとは顔をあわせてても不思議ではないような心境ですが考えてみると思い出せない。
勝利のポーズの発祥はサクラ1以前ということは、桜華絢爛に出てきたんでしたっけ??あー、ダメだ、簡単に思い出せなくなってる。でもマリアが隊長当時に責任者として認めたのは間違いないわけでして、……あやめさんの発案だったっけなあ??自分のSSで、勝利のポーズが戦闘した場所の清めの儀式だってネタにしたような覚えはあるんですが。

13人の喧々囂々を待ってたら話が終わらないのを収めたかえでさんGJ……と思いきや阿弥陀クジってそんな真田昌幸な。でもまあ、大神との組み合わせだと誰であってもいざとなれば合体攻撃あるし大丈夫ですわな確かに。

さくらくんとの出撃前イベント!なんですかこの、真宮寺家の陛下の面目躍如と言わんばかりの素晴らしい最終回戦闘前会話っぷり。これは今の私には書けん。
そしてところどころでLipsを間違ってる大神総司令……。

>すみれくんとカンナ、グリシーヌと織姫くん。エリカくんにコクリコ、花火くんはレニと。紅蘭がアイリスと、マリアはロベリアとだ。
ふむ。ふむ。ふむ。おお?へえ?ふむ。
という組み合わせ感想でした。レニとアイリスが組むと思っていたので。
グリ様と織姫は組んだら絶対に反発し合いながらがっちり合うと思っていたのでこれは納得。
3ではマリアにやられっぱなしだったロベリアがここでは役者を上げたのが割りと嬉しい。

>「あ、大神さん見てください。あんな所に蝶さんがいますよ。」
このセリフを聞いて上級降魔蝶だと思ったのは内緒。

終盤まで来て、出ないまんまかなあ、と思ったところで
>「ミフネ流剣法、極意!ターニング・スワロー!」
このセリフで「キター!」という声を上げてしまったり。

>彼女が日本を発つ直前に大神に真相を吐露した時の事をさくらは知らないままでいた。それはある意味では全員にとって幸せなことなのかもしれない。
ですよね!(力説)

個人的には今作で一番凄いと思ったのが
>あるいは、彼の中に宿った信長が近い世代、同じ乱世を生きながら天下人たりえた己を、どこぞの田舎侍が侮辱したと捉え新次郎を揺り動かしたのかも知れない。
この邂逅。考えてみると凄まじい構図です。

最後は期待通り、一郎叔父と新次郎の合体攻撃。…………ん?何か間違ってるような正しいような。ああそうか。新次郎の女装が足りないんだ(マテ
そしてラチェットさんをめぐる過去に火が付いて素晴らしい地獄絵図に。
新次郎は一郎叔父と離れて立てる紐育で育ったのが正解だったんですなあ。しみじみ。



振り返ってみて、そこらじゅうのセリフから感じる本編の気配がもう懐かしくて懐かしくて。
最近ミス巴里系くらいしか書いてない上に、今回の二十周年SSも当然のように花組ヒロインが誰一人として登場しなかったため、ほんとに公式メインキャラを書けなくなってきている自分に愕然。いや元から対降魔部隊SSの人間でしたけどね。
それに比べるとさすがに現役の空気をずっと味わい続けてた陛下は感覚が鈍ってないなと思わされることしきりでした。
現在生きているほぼ全ての主要キャラを網羅しての二十周年渾身のSS,お見事でした。




………あ、フワちゃんは?<無茶言うな
夢織時代 <zvoejguhin> 2016/09/28 00:16:50 [ノートメニュー]
Re: ようやく感想 [返事を書く]
東京、仙台、神戸等々と
ポケモンG○が出てからこっち、サクラに関係する都市もあっちゃこっちゃと回っておきながら
グラブルでメモリがパンパン(一番パンパンにさせてて且ついらんのはMii使う任○堂のアプリですが)
のためにG○を入れず、ユーザーからは勿体無いと断罪されそうな男です、ごきげんよう。

今回は拙著最初で最後の中編サクラSSお読みいただきありがとうございます。>長編に行くって意味じゃねえぞ!!
実を申せば構想と執筆に年はかかってて、しかもそのまま冷蔵庫に「ほりっぱ」していたから
20周年に合わせたものじゃないんですけどね。(笑)ただ、活動写真とサクラ大戦4が結局
消化不良だったのでそれを纏め混ぜコネコネして、且つ紐育と奏をふりかけちまおうと、
何本か奏SSを書いた直後に産み落とせました。(ってーか、結局まともにコソーリ公開に
己のGOサイン出せた奏SSって1本しか・・・)

>カッコイイ迫水っち
 中の人はとにかく嫌な男で冒頭にして死ぬ役が多い(笑)けど、迫水支部長はカッコイイですし、
ちょっと某2199の1シーンからパク・・・ゴホゴホッ!拝借して、戦闘班長っぽく射撃指揮官に
しちゃいました♪

>リボルバーカノン
 弾さえ交換すれば、ミカサの土手っ腹にも風穴開けられる、それ自体を立派な決戦兵器に
できますね(・ω・) つかこの運用はアリだと3で初めて出てきた頃からアリだと思ってたんですわ。
ただのスーパーエクレールでは勿体ナッシャブル。

>奏組
 舞台は見てないしPVも知らん、原作本だけの知識ですが、およそ実戦部隊(両花組、星組)との
接点はなさそうですね。夢キャスのコミカライズするなら、この辺でいくらでも奏新作用のネタなんて
提供できるのに。(笑)

>レニとアイリス
 名曲揃いのサクラ楽曲の中でも屈指の二曲をデュエットするくらい公式がもてはやしましたから、
もう私の所でわざわざいいかな?とか思うた・・・んじゃないかと昔の自分を考察します。(爆)
でもなんで紅蘭とアイリスを組ませたのかは、サッパリ思い出せません。>ヲイ

>新次郎の女装
 許してくれ、アレは私には書けない。(笑)

>フワちゃんは
 忘れてた。(笑)というか一応舞台が帝都なんで遠いお空の民間人(と呼称していいのかな?)は
エイハブでの遠征に乗り合わせるのも変だし、マジで出せなかったです。(苦笑)

 逆に私は、対降魔部隊の皆を動かせるに足る力量を持ち合わせてはおりませぬから(^^;
(10k程度なら過去作あるけど)書ける所が違うだけで夢織先生のも、むしろ殆ど描かれていない
部分の補完力の凄まじさは賞賛に値しますよ(^^)/
Rudolf@今度は餃子オフゆるぼ中 <lyyurczxxp> 2016/10/17 21:45:31 [ノートメニュー]

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