bg明け方の公園
アイン常「さて、聞きたいことが増えたでしょう?」
小次郎常「ああ、色々とな」
アイン常「蒸気機関についてやってるから、軍人がよく出入りしているのよ。うちの研究室は」
小次郎常「最先端の蒸気機関ともなれば、確かに軍が放っておかんか」
アイン常「ええ。蒸気併用霊子機関、というものがあるのよ」
小次郎常「……どこかで聞いた名だな」
アイン常「帝都に住んでいたら聞く機会があったかもね。これは二十世紀の技術論の著者による大発明よ」
アイン常「人型蒸気を凌駕する戦闘能力を有する霊子甲冑というものがあってね。各国が次世代型の開発にしのぎを削っているの」
アイン常「霊子甲冑は蒸気機関と操縦者の霊力とを併せて驚異的な出力を発揮する人型蒸気の一種だと思えばいいわ」
小次郎常「……それもどこかで聞いたな」
アイン常「元々は日本で制式採用されたものと聞いているわ」
小次郎常「なるほど」
アイン常「その霊子併用蒸気機関の被験者として、霊力の強い人間が必要なのだけど……」
アイン常「その調達を、研究室に出入りしていた元軍人たちが行っていたの」
小次郎常「その中に、調達名簿の中にエルザの名前があったということか」
アイン常「そう。……いや、はっきり言うわ。次の最有力被験者として勧誘に成功したという報告を受けていたの」
小次郎常「……勧誘、か」
アイン常「いえ、生やさしいものでは無かったとは思うわ。奴らは凝り固まった帝国主義者の集団だから」
アイン常「フランス人の彼女ならばまだましだったかもしれないけど……」
小次郎常「それが、お前を奴らに敵対させるようにした理由か」
アイン常「…………」
小次郎常「他に、理由があるな」
アイン常「……他と言うよりは……、同じ理由よ」
小次郎常「どういうことだ」
アイン常「奴らは、アジア人の被験者を人間だと思っていなかったわ……」
小次郎常「そのアジア人の被験者、メイリンと言っていなかったか?」
アイン驚「どうしてそれを!?」
小次郎常「やはりか。どうやら色々つながってきたな」
アイン常「……ええ、そう。メイリンと言ったあの子。人間というよりも、蒸気機関の一部のように扱われていた」
アイン常「次の被験者として、エルザって子を探していたのはね、メイリンが長くは保たないと思われていたのよ」
アイン常「エルザが見つかったことで、メイリンは用済みとして始末されるかもしれない……」
アイン常「同じアジア人よ。私と同じ黄色人種よ……。どうしても、許せなかったわ」
小次郎常「それで、こんな地図を入手してくれたということか。最初から俺に渡すつもりで?」
アイン常「警察に行っても無駄よ。奴らは警察にだって圧力を掛けられるわ」
アイン常「あなたが信じられる人かどうか、この三日間で確かめてみたのよ。試したことは謝るわ」
小次郎常「ずいぶんと重いものを託されたな」
bgサーカス
cgコクリコ
小次郎常「というわけで、一時的にでいいからアインを匿って欲しいんだ」
コクリコ悩「うーん、困ったなあ」
小次郎常「駄目か?」
コクリコ悩「団長に言えば多分聞いてくれるだろうけど、ここは出入りする人も多いから防御には向かないよ」
小次郎常「(十歳そこそこの少女の返答じゃないな……)」
小次郎常「いや、ここでなくてもいいんだ。どちらかというと、ベトナム人同士のコミューンみたいなものはないのか」
コクリコ笑「ああ、そういうことならなんとかするよ。前にパパの行方を調べたときの知り合いに聞いてみる」
アイン常「待って、コクリコ。それではみんなに迷惑が……」
コクリコ笑「アインね。ボクも昔言われたことだけど、何でも一人で抱え込まないで」
コクリコ笑「迷惑なんて思わないで。誰かを助けることって、すごく嬉しいことだよ」
小次郎常「(すごいな。この子はここまでいったいどんな人生を歩んできたのやら……)」
小次郎常「じゃあ、済まないがコクリコ、アインを頼む。いざとなればここから連絡を付けられるか?」
コクリコ笑「うん、なんとかなると思うよ。ボクがここにいないときはシャノワールに連絡して」
小次郎常「わかった」
コクリコ常「ところでコジロー。エルザは見つかりそう?」
小次郎常「その手がかりを掴んだところだ。今日はこれから候補地を総当たりする」
コクリコ常「ボクも同行したいところだけど、アインのことを頼まれちゃったからなあ……」
コクリコ常「エリカやロベリアに会うことがあったら、同行するように声を掛けてね」
小次郎常「エリカはいいとして……、ロベリア? エリカがそんな名前を言っていたが、シャノワールの一員か?」
コクリコ驚「あ、しまった……。えっとね、サフィールって名なんだ。今のは忘れて」
小次郎常「サフィール……、あの女か」
コクリコ常「……コジロー、サフィールと何かあったの?」
小次郎常「ああ。ちょっと殺されかけたくらいだ。実力は確かだな」
コクリコ驚「…………、サフィールのやつ」
小次郎常「もっとも、夜に会っただけだから昼にどこにいるか知らんぞ」
コクリコ常「うーん、出来れば連絡がとれるようにしてみるよ」
小次郎常「頼み事をしておいてなんだが、無理はするなよ」
アイン常「あなたもよ。連中は欧州大戦を経験した古参兵の集まりよ。一人で無茶をしないで」
小次郎常「心得た。少なくとも二人がかりで行くようにするさ」
コクリコ常「コジローがいるのは日本大使館のアパートだよね」
小次郎常「そうだ。よく知ってるな」
コクリコ常「うん……、まあ……ね」
小次郎常「いったんアパートに帰って、しばらくの間は近くのカフェか公園にいるはずだ。その後はわからん」
コクリコ常「うん、わかったよ」
bg公園
小次郎常「ひとまずいったん帰って、風呂を浴びないとな。コクリコが何も気づかないでくれて助かった」
cgベルナデッド
ベルナデッド常「今日も生きて朝日を拝めたようね」
小次郎常「よう、相変わらず物騒な挨拶だな」
ベルナデッド常「妹さんはお元気かしら?」
小次郎厳「何?」
lips何故お前が知っている 俺に妹なんかいないぞ ああ元気だぞ
小次郎厳「何故お前があいつのことを知っている?」
ベルナデッド常「やっぱり妹だったの。往来を背負って歩くなどと目立つことをすれば目にも入るわ」
ベルナデッド常「逢い引きにしては堂々としすぎだったわ。だとしたら妹あたりでしょう」
小次郎常「……ちっ。なんだか探偵として腹立たしいな」
ベルナデッド常「その妹を置いて、兄は朝帰りとはいい身分ね」
小次郎常「あいつはちゃんとした奴に見てもらってから心配はいらん」
ベルナデッド常「……そう。本当かしらね」
lipsout
lips俺に妹なんかいないぞ。
小次郎厳「……俺に妹なんかいないぞ」
ベルナデッド常「そう。ならば、家族でもない少女を背負ってどこへ誘拐したのかしら」
小次郎常「ぐぬ……見られていたとは」
ベルナデッド常「隠れているつもりだったの」
小次郎常「人聞きの悪いことをいうな。ちゃんと寮へ連れて行った」
ベルナデッド常「その妹を置いて、兄は朝帰りとはいい身分ね」
小次郎常「あいつはちゃんとした奴に見てもらってから心配はいらん」
ベルナデッド常「……そう。本当かしらね」
lipsout
lipsああ元気だぞ
小次郎常「ああ元気だぞ。心配はいらん」
ベルナデッド常「……そう。本当かしらね」
lipsout
小次郎常「こんな早朝から公園に出ているのか」
ベルナデッド常「普段はもう少し遅いわ」
小次郎常「じゃあ何しに来たんだ」
ベルナデッド常「貴方の生存を確認しに来たのよ」
小次郎常「物騒だな。昨日会ったときに俺の顔に死相でも浮かんでいたか」
ベルナデッド常「そんな生やさしいものじゃないわ」
小次郎常「ほう」
ベルナデッド常「貴方は今すぐにでも死んでいないとおかしい。そんな顔をしている」
小次郎常「散々な言われようだな。心配されるだけマシなんだろうが」
ベルナデッド常「心配しているのではないわ。戦慄しているのよ……」
小次郎常「ほう」
ベルナデッド常「もう一つ聞くわ。貴方の妹って、人間?」
小次郎常「お前は俺の妹を何だと思っているんだ」
ベルナデッド常「まともな人間ならばありえないわ。貴方の妹は」
小次郎常「どういうことだ?」
ベルナデッド常「貴方に詩を理解する心があるなら、もう少し話してみたかったけど……」
ベルナデッド常「さようなら。生きて顔を会わすことはもう無いわ」
cgクリア
小次郎常「わざわざ別れを告げに来た……ということか。黄泉の使いでもあるまいに」
bgアパート前
cgより子
小次郎常「(しまった……。外泊禁止令が出ていたのをすっかり忘れていた)」
より子怒「明智さん……。貴方の立場は不安定なものだと申し上げましたよね……!」
if三日目朝のlipsで「いや、それはしない」を選んでいると好感度激減。
小次郎常「す、すまん……。捜査の行きがかり上こうなった……」
より子怒「どういうことか、ええ、とくと説明して頂きます。警察に報告しなければなりませんからね!」
小次郎常「(そこまで怒らなくてもいいと思うんだがな……)」
より子怒「何かおっしゃいましたか!?」
小次郎常「いや、警察に連絡してくれるなら手間が省ける。それはそうと時間が惜しいので朝食を食べながらでいいか」
より子常「……わかりました」
bgカフェ
より子常「さあ、何がどうなったのか説明して頂きましょうか」
小次郎常「シュペングラー暗殺犯に二度襲われた」
より子驚「なんですって……!?」
小次郎常「手口というか相対したときの感覚から見て、実行犯本人で間違いないと思う」
より子驚「例の黒薔薇を見たということですか?」
小次郎常「一度な。昨日説明したエルザの捜索中に、エルザの過去を知る人物に会いに行ったんだが……」
小次郎常「その人物から肝心の証拠を得ようとする直前に、その人物が黒薔薇で暗殺された」
より子驚「……!」
小次郎常「あげくに館ごと火を掛けられるわ、警察に実行犯だと容疑を掛けられるわ、散々だった」
より子常「大使館に再び警察から連絡があったのはそういうこと……」
小次郎常「幸い、エビヤンが取り計らってくれたのでなんとかなったが、明らかに俺を罠に嵌める気だった」
より子常「二度襲われたと仰いましたね。もう一回は?」
小次郎常「エルザの手がかりを知る人物と会っているときに、姿の見えない敵が襲ってきた」
より子常「それは……、確定ですね。よほど貴方が邪魔になってきたと見えます」
小次郎常「だろうな。大体相手の目星も付いてきた」
より子常「誰です?」
小次郎常「実行犯自体はまだわからんが、エルザをそそのかして連れ去った集団はほぼ確定している」
小次郎常「ドレフィスという元軍人が率いる、ディビジョン・ノワールという退役軍人組織だそうだ」
より子常「ディビジョン・ノワール……。その名前は、どこかで聞いたような……」
小次郎常「わかるようならそっちでも調べてくれ。奴らは霊力の強い人間を被験者として欲しがっているらしい」
より子常「それで……」
小次郎常「奴らを裏切った情報提供者を保護する必要があったが俺のアパートは狙われる可能性があるので……」
小次郎常「こうして朝になるまで帰ってこれなかったというわけだ。納得してもらえたか」
より子常「その情報提供者は女性ですか?」
小次郎常「女だ。夜のパリに放り出すわけにもいかんだろう。信用できる者に身柄を預けてきた」
より子常「……やや釈然としないものを覚えますが、わかりました。一応それなら警察上層部への説明はできます」
より子常「ただ、退役軍人の組織が敵となると、これまで以上に厳しくなることが考えられますね」
小次郎常「情報提供者からも忠告された。これからアジトを強襲するんだがさすがに一人ではマズイらしい」
より子常「当然です。しかしこれでは警察に協力を仰ぐわけにもいかないし……」
小次郎常「いや、一応協力者が来るかもしれないんだが……」
ロベリア常「ああいたいた。朝からシケた面してんな」
cgロベリア
小次郎常「来たか」
より子驚「ロ……、いえ、サフィールさん!?」
ロベリア常「ん?誰かと思えば迫水んとこの苦労人か」
より子驚「苦労人……」
ロベリア笑「違うのか?」
より子泣「いえ、もう、いいです……」
より子常「そんなことより、どうして貴女がここにいらっしゃるんですか?貴女は一応……」
ロベリア常「仕方ないだろう、アタシだって好きで朝から出歩いているわけじゃない」
ロベリア常「うちのチビから、硝煙の臭いがひどい要請が入ったんでな。一応は許可付きだよ」
より子常「……そういうことですか。賛同はできませんが黙認は致しましょう」
ロベリア笑「はっ、相変わらず岩石みたいなアタマしてんじゃないか。そんなんじゃさらに嫁き遅れるぜ」
より子怒「さらに、ってどういう意味ですか!」
ロベリア笑「ははははは!いっそのことそこの探偵なんかどうだ?実力はアタシが保証してやるよ」
より子怒「貴女に保証されなくてもわかっています!」
小次郎常「何がどう間違ってお前ら二人が知り合いなのか理解に苦しむが……」
ロベリア常「余計なことは知らない方が身のためだよ。死にたくなければね」
lipsお前は探偵に死ねと言っているぞ わかった、聞かずにいよう>詰まらない男だねえ・信頼度低下
小次郎常「探偵に対して知らない方が身のためも無いだろう。それは探偵に死ねと言ってるようなものだ」
ロベリア笑「あはははは!好奇心は猫だけじゃなくて人も殺すんだよ。せいぜい早死にしないようにしな」好感度上昇
より子常「明智さん、残念ながら事情は話せませんが、あまり彼女に深入りしないで下さい。危険です」
ロベリア常「おうおう、ずいぶんと丁重に扱ってくれるじゃないか。心配しなくても取って食いはしないよ」
ロベリア笑「アタシはこれでも、身持ちが堅いんだ」
より子常「……、いいでしょう。明智さん、どうかお気を付けて」
小次郎常「コクリコとより子が信頼するからには、信頼していいんだな、サフィールさん」
ロベリア常「それはこっちの台詞でもあるんだよ。アンタの実力は少しは知っているが、アタシの目的の足手まといになるなよ」
lipsエルザか? 金か?>ああ、それがもらえれば一番だな。>信頼度上昇
小次郎常「目的か。ずいぶんとエルザは好かれているんだな」
ロベリア常「……。ちっ、これだから探偵ってヤツは」信頼度低下
ロベリア常「まあいい、とにかくエルザがいそうな場所をとっとと教えな。行くよ」
小次郎常「ああ、こっちだ」
cgクリア
bgアジト1外観+黒服複数
ロベリア常「……おい、探偵。本当にここか?」
小次郎常「もらった地図が間違っていなければ」
ロベリア常「ディビジョン・ノワールの奴らじゃないか……。奴らが噛んでたのか」
小次郎常「知っているのか」
ロベリア常「知っているのか、じゃない。お前こそそういうことは先に言うんだ」
ロベリア常「まったく、お前を連れてくるんじゃなかったぜ」
小次郎常「そんなにまずいのか」
ロベリア常「まずい。アタシは軍人崩れと戦うことはそれなりに経験があるが、アンタはないだろう」
ロベリア常「探偵がぶつかるのはせいぜい警察崩れだろうが、訳が違うぞ。奴らは殺すことに本質的な躊躇いがない」
小次郎常「……。いや、ある」
ロベリア常「何?」
小次郎常「俺は帝国陸軍と戦ったことがある。殺されかけたこともある」
ロベリア笑「……ふうん、はったりじゃ無さそうだね。面白そうだ、今度酒の肴に教えて貰うよ」
小次郎常「それは困ったな……」
ロベリア常「まあいい。とりあえずそれならお前も戦力に数えてやる。アタシが突っ込むから銃で援護しな」
小次郎常「おい、それだけか」
ロベリア常「なんだ、アタシが信用できないのか。日本には毒喰わば皿までって言葉があると聞いたぞ」
小次郎常「そういう意味じゃない。それじゃ作戦も何もないだろう」
小次郎常「ここは可能性の一つだが、エルザが監禁されていた場合、銃声を響かせるのは危険だ」
ロベリア常「なるほどな。それじゃあしょうがない……。見張りはアタシだけでやるよ」
小次郎常「無音で三人、倒せるか?」
ロベリア笑「言ってくれるねえ。まあ、見てな。見えるものならね」
小次郎驚「(なんだ……?サフィールの姿が透けて……)」
小次郎驚「姿が……見えない……!」
ロベリア常「さあて、ただ働きしてやるかね」
小次郎驚「(気配が動いた……?移動したのか?)」
黒服1「がっ!」
黒服2「ぐふっ!」
黒服3「……!」
小次郎驚「一瞬で、三人を打ち倒したのか……」
小次郎驚「姿を、現した……。手招きしてるな。行くか」
cgロベリア
ロベリア常「ざっと、こんなもんさ」
小次郎常「サフィール、お前は……」
lipsパリの悪魔、か? 真犯人、か?>バカにされる サフィール、か?>呆れられる
小次郎常「お前が、噂に聞く、巴里の悪魔、か……」
ロベリア常「……フン。さすが探偵といったところか。パリに来て数日のくせによく調べているじゃないか」
小次郎常「しかし、どういうことだ。パリの悪魔は刑務所に収監されているとも聞いたぞ」
ロベリア笑「ああそうだよ。だから時々こうして社会奉仕活動に明け暮れて減刑に努めているんじゃないか。模範囚だろ」
小次郎常「フランス政府の特例措置ということか。今の俺には有り難い話だが」
ロベリア常「ふん、どこぞのバカと違って物わかりがいいじゃないか」
小次郎常「?」
ロベリア常「……何でもない」
小次郎常「ここを制圧したら聞きたいことがある」
ロベリア笑「さあて、拷問でもしてみるかい?」
小次郎常「後で考えよう。とりあえず今はエルザがいないか探すのが先だ」
ロベリア常「結構。じゃあやるかい」
bg暗転
sound激突音
bgアジト室内
小次郎常「……さすがは伝説の盗賊。恐ろしい腕だな」
ロベリア呆「バカ言え。アンタの方が化け物じみてるよ。なんだその戦闘能力は」
小次郎常「昔の訓練の賜物だ」
ロベリア呆「本当に探偵かよ。あのバカとやり合えるくらいじゃないのか」
lipsエビヤンのことか? 誰のことだ?>いちいち勘ぐるなと好感度低下
小次郎常「エビヤンのことか?」
ロベリア常「ん? ああ、エビヤンとやりあったらアンタが勝つだろうね」
小次郎常「それより、尋問だな。一時的にでもここにいたのなら行き先がわかるかもしれん」
ロベリア常「そうだな。じゃ、手近なこいつから聞き出すか。おい、起きろ」
黒服1「う……」
ロベリア常「今の状況はわかるな?余計なことはせずアタシの質問に答えろ」
黒服1「誰が……」
ロベリア常「断るのなら別に構わないよ。この炎がアンタの顔をゆっくり、じわじわと焼いていくだけのことだ」
黒服1「くっ……!」
小次郎常「(……えげつないな。さすが悪魔)」
ロベリア常「さて、エルザ、と言えばわかるな。どこへやった?」
黒服1「……」
ロベリア常「アタシは気が短いのが取り柄でね。五秒待ってやるよ。5,4,3、2、1……」
黒服1「!!……………………」
ロベリア常「ん?」
小次郎驚「こいつ、舌を噛んだぞ!口をこじ開けて舌を引き出させろ!」
ロベリア驚「何!?こいつ……!」
黒服1「…………!!」
ロベリア常「ええい、口を……開けろってんだよ!」
黒服1「…………」
小次郎常「はっ!」
sound打撃音
黒服1「ごふっ!」
小次郎常「くそ……っ、出血が多すぎる……」
黒服1「……」
ロベリア常「……死にやがった。軍人崩れどもってのは聞いていたが、何なんだこれは」
小次郎常「こいつらにとって、エルザの秘匿はそれほど重要らしいな」
ロベリア常「どうする?残りの奴らもやってみるか?」
小次郎常「止めておこう。無駄に死人を増やすことになりそうだ。エルザがここにいたのは確かなようだが」
ロベリア常「ちっ……。仕方がない、縛り付けておくか。」
小次郎常「とりあえず次のアジトへ向かおう。その道中に聞きたいことがある」
bgパリ郊外
小次郎常「その姿を消す方法、どうやっているんだ?」
ロベリア常「答える義理は無いね。なんでわざわざ手の内を明かす必要がある?」
小次郎常「今回の事件で俺の前に立ちはだかっている犯人は、姿を消せる」
ロベリア常「ほう?」
小次郎常「だが透明になる機械は未だ存在していないと聞いている。どうやっているのか知りたい」
ロベリア常「そいつはアンタの事情であって、アタシが話す理由にはならないね」
小次郎常「そうか。さっき見たあの炎が関係していると思ったんだがな」
ロベリア常「黙りな。そうすれば世間話くらいはしてやるよ」
小次郎常「……」
ロベリア常「姿を消す機械が無いってのはその通り。だから基本的には魔術になる」
小次郎常「……」
ロベリア常「物わかりがいいじゃないか。アタシが聞いた方法では、妖精の術を再現するってのがあったな」
小次郎常「フェアリー?」
ロベリア常「日本人じゃ聞いたことはないか。オベロンやらティターニアやら、おとぎ話の存在だがね」
ロベリア常「妖精たちは人の目を眩ませることができる。それは、目に見えていても、見えなかったと錯覚させることができるんだ」
小次郎常「見ていない、と思わせるわけか」
ロベリア常「そうだ。アタマが認識しなければ見えていても見えないのと同じだろう?」
小次郎常「……なるほど。車内にいた人間全ての目を眩ましたとなるとそれはそれで恐ろしいが……」
小次郎常「(魔術めいた手品なら過去に例はあるということか……)」
小次郎常「(それでも、捉えれば音はした。攻撃が通じないということでもない。なんとかなりそうだな)」
ロベリア常「時折、現れるんだ。先祖に妖精や怪人がいたりすると、不意にその能力を発現させるヤツがな」
小次郎常「(お前もだろう、とは聞かない方がよさそうだな)」
ロベリア常「おしゃべりはここまでだ。地図が正しければあれが次のアジトだろう」
小次郎常「……様子が、おかしくないか?」
ロベリア常「確かに、見張りがいないな。表に出ているヤツがいないだけならともかく、窓から外を窺っているヤツもいなさそうだ」
小次郎常「お前も気配を感じ取れないか……。突入するか」
ロベリア常「ああ」
bg暗転
bgアジト内
ロベリア驚「なんだ……これは」
小次郎驚「全滅、している……」
ロベリア常「ちっ、一人も息をしちゃいない」
小次郎常「こいつらは猛獣でも相手にしたのか?銃創が無くて、強い力で殴り殺されているな」
ロベリア常「……猛獣か。確かに、これはとても人間の仕業には見えないね」
小次郎常「鍵も叩き壊されている。荒っぽいことこの上ないな」
小次郎常「……どうやら、襲われる直前までエルザがいたようだ」
ロベリア驚「何?」
小次郎常「女ものの靴下だ。取る物もとりあえず逃がした、と思いたいところだが」
ロベリア常「襲撃者に攫われたってのは、ありえなく無いか」
小次郎常「嫌なことをずばりと聞いてくるな。どちらかというとその可能性は薄いと思う」
ロベリア常「その根拠は」
小次郎常「襲撃者はひたすら暴れ回ったようだ。エルザを奪取するといった様子じゃない」
小次郎常「見ろ、打ち破った扉の破片が反対側の壁に突き刺さってる。人質を気にした様子が無い」
ロベリア常「なるほど、これはまったく容赦ないね。攫うより叩き潰しそうだ」
小次郎常「パリの街に猛獣が出歩いたという話は聞いていないか」
ロベリア常「あのチビのところの猛獣管理が甘かったときに聞いたな」
小次郎常「真面目に聞いているんだが」
ロベリア常「……。思い当たることが、無いわけでもない」
小次郎常「どんな話だ」
ロベリア常「去年、このパリで争乱があったことは聞いているか?」
小次郎常「ああ、虚実取り混ぜてだが」
ロベリア常「その時にパリに暗躍していたのは、獣の力を宿して化身した怪人という存在だった」
小次郎常「狼男のようなものか」
ロベリア常「……そんなところだと思っておけばいい」
ロベリア常「だが、あいつらが昼日向に堂々と動くとは思えない。あいつらとは思えない……」
小次郎常「その理由も聞きたいところだが、今はエルザの捜索が先だな。三つ目のアジトへ行くぞ」
ロベリア常「ああ……」
bg暗転
bgアジト外
小次郎常「ここもか……!」
ロベリア常「今しがたまで襲われていたって感じだな」
小次郎常「生存者を捜す!手伝ってくれ」
ロベリア常「アタシの仕事は戦闘であって看護じゃないんだがね。……仕方ない」
小次郎常「……いた。こいつはまだ息がある」
ロベリア常「目をやられてるな……。おい、意識を取り戻させてうまく聞き出せ」
小次郎常「奴らの仲間のふりをしろということか。えげつないことを」
ロベリア常「文句あるのかい?他に手がかりがあるとでも言うならそうするけど」
小次郎常「やらないとは言っていない。さすがはパリの悪魔だな」
ロベリア笑「悪魔の誘惑に掛かったと思いな」
小次郎常「頭部をやられたショックで気絶しているようだから、これなら目を覚ましそうだな。ハッ!」
sound打撃音
黒服「う……」
小次郎常「おい、俺がわかるか?」
黒服「あ……ダメだ、目が見えん……」
小次郎常「今来たらこの有様だ。一体何があった?」
黒服「くろい……」
小次郎常「黒い?」
黒服「黒い髪の……、化け物が、一人で乗り込んできた」
小次郎常「人間だったか?」
黒服「人間だった……が、あれが人間であるはずが、ない……」
小次郎常「人の姿をした化け物、か……。あの娘はどうした。まさか逃げられたんじゃないだろうな」
黒服「大丈夫だ、大佐が辛うじて連れて逃がした……」
小次郎常「どこのアジトだ。二カ所は既に同じヤツに襲撃されている状態なんだぞ……」
黒服「本拠だ……。今の娘が使い物にならなくなったらしい……」
小次郎驚「……!」
小次郎常「……そうか。大佐はどうやって本拠に戻られた?その化け物と鉢合わせするルートじゃあるまいな……」
黒服「それは大丈夫だ……。化け物の襲撃中に動かれたからな」
小次郎焦「(ちっ、引っかかってくれないか……。場所がわかれば……)」
小次郎常「そうか。ならば安心だな。お前も本拠に連れていこう。お前は前に本拠に行ったのはいつだ?」
黒服「……四日前の集合以来行っていない。それがどうした?」
小次郎常「(くっ、集合が四日前では、行き方を忘れた、は通じそうにないな……)」
小次郎常「実は俺は先日軍から外されたばかりでな、本拠へは連れて行ってもらっていない。お前を連れて行くには案内を頼みたいんだ」
黒服「む……そうか。だがこの目ではうまく動けん。ひとまず背負ってくれるか」
小次郎常「ああ、動かして大丈夫か」
黒服「大丈夫だ。両手は動くからな!」
sound衝撃音
黒服「く……ナイフが……動かん」
cgロベリア
ロベリア笑「やれやれ、そんなナイフでもさすがにこの旦那の心臓には通させられないね」
小次郎常「なっ!?」
黒服「く……、もう一人いたのか!」
ロベリア笑「どうやらお仲間じゃないことが途中でバレちまったようだね。しょうがない。おねんねしな」
sound衝撃音
小次郎常「済まない、助かった」
ロベリア常「どうやらこいつの立場か階級かで違和感を覚えられたらしいな。仕方がない」
ロベリア常「エルザが本拠ってとこにいることはわかったんだ。そいつを探すしかないな」
小次郎常「心当たりはあるのか」
ロベリア常「残念ながら無いな。フランス軍人に知り合いは何人かいるが全員敵としての知り合いでな」
小次郎常「……なるほど」
ロベリア常「二手に分かれるか。アタシは独自の情報源から当たってみる。アンタも探偵らしく捜索しな」
小次郎常「そうだな。俺はこいつを縛って警察に連絡してから行く。お前は居るとまずかろう」
ロベリア常「確かにエビヤンに会うのは歓迎したくないね。それじゃアタシはおさらばするよ」
cgクリア
小次郎常「ちっ……、蒸気電話も破壊されている。警察には直接言いに行くしかないか」bg路地裏
小次郎常「……誰だ。アジトからずっと後をつけているのは。出てこい」
cg三郎
三郎笑「へ……へへ。やるじゃないか、探偵さん」
小次郎驚「(東洋人……? いや待て。憔悴しきってはいるが、この顔は、確か……)」
小次郎驚「赤城、三郎!?」
三郎笑「ああ……そうだよ。あんた、オレを探していたんだってな……」
小次郎常「(なんだ……この強烈な臭いは?どこかで嗅いだような……)」
小次郎常「ああ。日本大使館の依頼でお前を捜していた」
三郎常「そうか……、やっぱりあんた、日本人か……。あんたなら話が通じると思ってな……」
小次郎常「話だと?どちらかというと今すぐ保護して病院行きといった風情だが」
三郎常「へ……へへ、まあ、そう急くなよ、探偵さん……。いい話があるんだ……」
小次郎常「(そう言われて聞かされた話がいい話だったことなど一度もないがな)」
三郎常「なあ……なあ……、ここここの薬を買わないか?すすす凄い力が身体に漲って来るんだぜ」
小次郎驚「(あれは……!粉薬……!?)」
三郎常「お、し信用してくれないのかい?お同じ日本人のよしみで特別に売ってやろうってんだぜ……」
小次郎常「あいにくだが精力剤など必要としていない」
三郎常「そそそんなこと言わないでくれよ、おおお同じ日本人のよしみじゃないか……」
三郎常「ここ今月中に売り捌かないとおお俺はシュペングラーさんに殺されちまうんだよなあ……」
小次郎驚「なんだと!?」
三郎常「おおおわ解ってくれるかい……やややっぱり義理と人情だなあ……」
三郎常「そそそんなあんたには特別に、そそその力を見せてやるよ。まあ見てくれ……」
小次郎常「(そんな細身の身体でふらふらして力も何も……)」
sound集中音
小次郎驚「(何!? 霊力……!?)」
三郎常「ここここれが……おおおおお俺の力だあああああ……!!」
sound破壊音
小次郎驚「(あの分厚い煉瓦の壁に、一撃であんな大穴を……)」
小次郎常「まさか、黒服どもを全滅させたのは、お前か……」
三郎常「あああああそそそうだよ、見てくれたかい?あああいつらはシュペングラーさんの敵だからな……」
三郎常「ぶぶぶちのめしておけばもう数日くらい猶予をくれるかと思ったんだよ……」
三郎常「ななななにしろここんところシュペングラーさんから連絡が無くて、怒ってるはずなんだ……」
三郎常「ははは早く売り捌いて金を持っていかないといけないんだよ……」
三郎常「ここここの薬を吸えば俺みたいなことができるようになるんだぜ……」
三郎常「へへへ……さささ最初の一回は特別に五十フランにまけておいてやるよなななな悪くないだろう……」
小次郎常「……お前は、元からそんな力を持っていた訳ではないんだな」
三郎常「へへへいい嫌だなああ、さささ詐欺かと思っているのかい……。全てはこの薬のおかげさ……」
三郎常「ままままああ素質があればちゃんと俺くらいの使い手になれるっていうぜ……」小次郎常「(いうぜ、か。それは多分、シュペングラーがこの男を踊らせるために言った台詞だな)」
小次郎常「他になれたヤツはいるのか?」
三郎常「ううう疑い深い探偵さんだな……。シュペングラーさん自身がそうだったよ……」
小次郎常「(他にはいないか。霊力は簡単に身につくものじゃない。それこそ人魔のようになるはず)」
小次郎常「(だが、元々素質があったら……?霊力者の中には休眠状態から覚醒する者もいる……)」
小次郎常「(その薬が、強制的になんらかのきっかけを与えるものだとしたら……)」
三郎常「あああももしかして手持ちが無いのか?そそそいつは困ったな……。ぶぶぶ分割でもいいんだぜ……」
小次郎常「(さて、この日本の恥さらしをどうするかだ)」
lips薬を買う 無視する 取り押さえる
小次郎常「わかった。買おう。50フランだな」
三郎常「へ……へへへへははは話がわかるじゃないか……。ままま毎度あり……」
小次郎常「次も買うとは言っていないぞ」
三郎常「そそそそんなことにはならないって……。いいいい一度使ってみたらわかるからさ」
小次郎常「本当だろうな」
三郎常「ほほほほほら、疑うんなら一度使ってみたらいいんだ……」
bg開封した紙片
小次郎常「(やはり……、このキラキラした粒子はシュペングラーのアジトにあったものと同じ……)」
三郎常「ははははは鼻から吸い込んでみるんだよ……」
小次郎常「(直接……?)」
sound鼓動
三郎常「どどどどどうだい?かかか身体から力が溢れてくるんじゃ……」
小次郎焦「(まず……い……っっ!!)」
三郎常「へ……?」
小次郎叫「にげ……ろおおおおおおおおおおっっっっっ!!」
三郎驚「ひいいいいいいいいいっっっっ!」
sound衝撃音
三郎驚「あ……な……ななんで……おれのからだに……あな……が……あい……」
小次郎叫「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」
bg暗転
ロベリア驚「なに……!明智……!?」
ロベリア驚「……これは、ダメか……。ミキ、恨むなら恨みな……!」
sound炎
BADEND
lipsout
lips取り押さえる
小次郎常「(こんな輩をパリで野放しにしていては日本の面汚しだな……。いずれにせよ依頼もある)」
三郎常「ははは話がわかる……、いてててえええ!!なななな何をしししやがあああある!」
小次郎常「(金を受け取ろうとする際にまったく警戒せずに手を出すとは素人だな)」
小次郎常「いくつか聞きたいことがある」
三郎驚「だだだだれがこんなことをされながら……!」
三郎驚「ここここの俺の力をあまくみるんじゃ……!ぎあああああ!」
小次郎常「その薬のせいだろうが、お前の身体は腐りかけている。下手に動くとこの腕がもげるぞ」
三郎驚「ななななな……」
小次郎常「ここまで後ろ手に捻られてその程度で済んでいるのがその証拠だ」
三郎驚「おおおお俺の……からからから身体が……?」
小次郎常「まず答えろ。シュペングラーとはいつどこで知り合った?」
三郎驚「ななななおおおおまえええ……しゅしゅしゅシュペングラーさんを知っていいいるのか……」
小次郎常「質問に答えろ。麻薬密売人にかける容赦はそれほど持ち合わせがないぞ」
三郎常「わわわわかった!ははは話す!」
小次郎常「(……肉が脆くなっている。この臭いは、肉が生きながら腐っているのか?)」
三郎常「しゅしゅシュペングラーさんに会ったのは三ヶ月前だ……」
三郎常「おおお俺が金に困っているときに、たたたまたまシュペングラーさんにぶつかって……」
三郎常「たた高い薬を無駄にしちまって、はははは払えないならってことで売り役になったんだ……」
三郎常「そそそそうしたら、げげ芸術家志望のやつとかにかなり売れて目をかけてもらえるようになって……」
小次郎常「どんな効果のある薬だ?」
三郎常「ささささっき言った通りだ!すすすごい力がみなぎってくるんだよ!」
小次郎常「芸術家志望の奴らにそんな薬が売れるわけがあるか」
三郎常「ひひ人によって違うんだよ!みみ見えないものが見えたやつとか、もも物を浮かせるやつとかもいた!」
小次郎常「(……やはり霊力を発現させているのか)」
小次郎常「この薬はどうやって調達した?」
三郎常「ししし知らん!おおお俺は受け取ったのを売ってるだけだ!」
小次郎常「既に三日が経つ。お前のところにそこまでの在庫を渡しているとは思えん」
三郎常「ななな何が三日だよ」
小次郎常「シュペングラーが死んでからだ。奴はもう死んでいる」
三郎驚「そそそそんなバカな!あのシュペングラーさんが死ぬもももんか!」
小次郎常「俺の目の前で暗殺された。それ以後奴と連絡は取れていないはずだ」
三郎驚「しゅしゅシュペングラーさんの代理人ってヤツが届けて来るんだよ!」
小次郎常「代理人……どんなヤツだ?」
三郎常「ききき金髪の若い男で、いいいいけすかないやつだ。ううう売り上げが悪いだのなんだのって……」
小次郎常「名前はなんと言っていた?」
三郎常「ししし知らない!ほほほ本当だ!本当にそいつは名乗ってないんだよ!」
小次郎常「本当だな?」
三郎常「ほほほ本当だ!こここれだけ話したんだから解放してくれるよな!?」
小次郎常「(……解放、ねえ)」
lips警察に突き出す 解放する>終盤にカミュにそそのかされて再び襲いかかってくる 大使館に連れて行く>より子による保護。エビヤンから薔薇を託されるのが遅れるのでベルナデッド迎撃の可能性が無くなる
小次郎常「そんな約束をした覚えはない。大使館から捜索依頼があったが麻薬密売人なぞ放ってはおけん」
三郎驚「なななななな……」
小次郎常「警察行きだ。もっともその様子では独房に入る前に病院行きだろうがな」
三郎驚「いいいい嫌だ!おおおお俺は偉大な芸術家になって大神一郎をみみみ見返してやるんだ!」
小次郎常「……何がどうなったのかしらんが無理だな」
三郎常「おおお俺の力なら、おおおお前なんかああああ!」
sound衝撃音
小次郎常「むっ……」
三郎常「おおお俺を捕まえておおおおこうなんてええできるわけがああああ」
小次郎常「……もう腕が折れていることも気づかないのか」
三郎驚「ひ……ひやああああああ!?」
小次郎常「麻薬どころか、おそるべき毒薬だな。それ以上無茶をすれば全身が崩れ落ちるぞ」
三郎驚「おおお俺の……俺の芸術の腕があああああ!」
小次郎常「どんな動機で巴里まで来たのか知らんが、哀れだな……」
sound衝撃音
三郎驚「……かっ……」
小次郎常「気絶させた方が早かったな。さて、エビヤンがいるといいが」
bg警察前
小次郎常「なんだ……?妙に慌ただしいな」
警官「どうした、喧嘩の仲裁か?それにしてはそちらの男の状態がおかしいようだが」
小次郎常「ああ。済まないがエビヤン警部を呼んでくれないか」
警官「警部をか……。今はきっと手が離せないと思うが……」
小次郎常「明智小次郎が密売人を捕まえてきた、と報告してもらえるか」
警官「ふむ……。わかった。しばし待ってくれ」
小次郎常「(フランスは警官の躾がいいな)」
cgエビヤン
エビヤン常「……明智くんか」
小次郎常「どうした、エビヤン警部。覇気がないな」
エビヤン常「うむ……。まあ立ち話もなんだ。入ってくれ」
bg警察内
小次郎常「さて、気絶しているが、この男がシュペングラーの手下になって薬を売りつけに来たんで確保した」
エビヤン驚「そいつは……、そうか、君は捜査が進展していたか」
小次郎常「こいつのポケットの中にあった薬だが、おそらくアジトにあった物と同じだろう」
エビヤン常「……そのようだな」
小次郎常「……エビヤン警部。何があった。ここ数日のアンタとは違いすぎるぞ」
エビヤン常「明智くん……、済まないが、シュペングラーの件でこれ以上捜査することができなくなった」
小次郎驚「何!?」
エビヤン常「その男を逮捕することもできん。それに関する捜査全てができなくなった」
小次郎驚「バカな……。アンタがそこまで従わざるを得ないなんて、どんな圧力が……」
エビヤン常「……はるか上の方から、だ。小官にも実のところどこまで上が関与しているかわからん……」
小次郎驚「(ドレフィスは退役前は大佐だと言っていた。いくらなんでもそこまでの力は無いはず……)」
小次郎驚「(おそらく政府中枢に、ドレフィスの活動に賛同する奴がいるんだ……)」
小次郎常「(しかし、大事過ぎる。政府が直接動くほどの事件だというのか?)」
エビヤン常「……ところでな、明智君」
小次郎常「なんだ?」
エビヤン常「証拠品も全て廃棄しろと言われていてな」
小次郎常「……」
エビヤン常「既にあらかた捨てさせられてしまったんだが……」
エビヤン常「特に重要な証拠はより徹底した廃棄が必要だと思うのだ」
エビヤン笑「そこでな、君に廃棄を頼みたいんだが、引き受けてもらえるかな」
小次郎笑「……仕方がないな。アンタには世話になったから、ただで引き受けないといかん」
エビヤン笑「済まんな。ああ、確か薬の分析結果も途中まで入っていたはずだ」
cgクリア
bg警察前
小次郎常「エビヤンが保護できた証拠は鞄一つ分か」
小次郎常「赤城三郎の拘束もあるし、大使館に行くか」
bg大使館内<警察に寄らない場合ここから
小次郎常「というわけで色々進展があった」
より子常「まさかこんなことになっているとは……」
小次郎常「赤城三郎は助かりそうか?」
より子常「わかりません。仰るとおり身体が腐敗してとても生きているとは思えない状態です」
より子常「阿片で精神的に犯された者は見たことがありますが、肉体がああなるのは……」
小次郎常「腐敗したというよりは、燃え尽きたというか、寿命が来たという方が適切かもしれんな」
より子常「霊力を持たない人間が霊力を駆使するということは、禁忌ですか」
小次郎常「本来なら山伏や修験者が何十年という研鑽の果てに行き着く領域に、薬一つで到達しようとしたんだ」
小次郎常「代償としては安い部類だと思うぞ」
より子常「そんな破滅の薬をばらまいて、売れたんでしょうか?」
小次郎常「売ることは主目的ではなかった可能性がある」
より子常「シュペングラーの事業の中心だったのでしょう?」
小次郎常「ばらまくことこそが目的だった可能性がある。売るならあんな阿呆に任せはせん」
より子常「辛辣ですね……」
小次郎常「霊力が持たない人間はああなるが、霊力を潜在的に持っている人間が使ったら違う結果になるだろう」
より子常「霊力が覚醒する……、つまり、潜在的な霊力者を見つけるのが目的だったと?」
小次郎常「その証拠があればよかったんだが……、さすがに鞄一つじゃ待避出来た書類は少ないな」
より子常「シュペングラーの目的が巴里中の霊力者を見つけることだとすると……」
より子常「霊力の強い人間を被験者として欲しがっていたディビジョン・ノワールとは対立しますね」
小次郎常「彼らにとってはパピヨン計画から目を付けていたエルザが奪われると思ったんだろうな」
小次郎常「いつの間にかこの巴里で霊力者の争奪戦が起きていたというわけだろう」
より子常「よりにもよってこの巴里で……」
小次郎常「ところで、赤城三郎は確保したし、シュペングラー殺害事件の裏も大体想像がついたんだが、どうする?」
より子常「そうですね。当初の目的はほぼ果たして頂きましたが……」
より子常「ことがことだけに引けなくなりました。エルザ嬢と実行犯の捜査を続行して下さい」
小次郎常「そう言うだろうとは思っていた」
より子常「どういうことです?」
小次郎常「あんたの依頼は、日本大使館としての立場を越えている」
より子驚「!!」
小次郎常「迫水は誤魔化していたが、シュペングラー殺害事件への捜査依頼自体違和感があった」
小次郎常「この依頼は、ディビジョン・ノワールとは対立するフランス政府関係に繋がるもの、だろう?」
より子笑「……それにはお答えできませんわ」
小次郎常「いい回答だ」
より子笑「お褒め頂いて光栄ですわ」
小次郎常「……いい対応だ。とにかく、エルザが連れて行かれた本拠を突き止めねばならん」
より子常「あてはあるのですか?」
小次郎常「赤城三郎が証人をあらかた潰してしまったからな。生き残っているアテは限られる」
より子常「ということはあるのですね。お聞きしてもよろしいでしょうか」
小次郎常「答えることができん」
より子常「そう来ましたか」
小次郎常「冗談だ。想像はつくだろう?」
より子常「朝仰っていた情報提供者、でしょう。元はディビジョン・ノワールの一員だったようですし」
小次郎常「そういうことだ。しかし、今あいつと接触するのはあいつに危険を及ぼすことになるから出来れば避けたい」
より子常「手段を選んでいられる状況ではないと思いますが……」
小次郎常「実はもう一人、本拠地を吐いてくれそうな証人に心当たりがある」
より子常「誰です?」
小次郎常「シュペングラー暗殺実行犯だ」
より子驚「正気ですか!?」
小次郎常「奴とは三度遭遇している。昨日はわざわざ俺を罠に掛けてきたんだ」
小次郎常「奴は俺をどうにかしたがっている。昨夜は取り逃がしたが、暗殺者として今一度俺を狙いに来るだろう」
小次郎常「そこを捕まえて吐かせる。今度は自殺されんように気をつけねばならんがな」
より子常「……肉を切らせて骨を断つ、ですか。明智さんは探偵というよりも軍人のようです」
小次郎常「誉められたのか貶されたのかどっちかわからんな」
より子常「評価して非難したんです」
小次郎常「……それなら探偵らしく動くか」
bg黒薔薇
より子常「それが、シュペングラー暗殺に使われたという黒薔薇ですか」
小次郎常「犯人の手がかりとしてはこれが一番近い。エビヤンがなんとか待避させてくれたのを無駄にできん」
より子常「迎え撃つのではなく、こちらから追い詰めるということですね」
小次郎常「そうしたいところだ……が。この鑑識書類の結果をどう捉えて良いものか」
より子常「なんと書いてあるんですか。……少なくともこの品種の存在は知られていない?」
小次郎常「どこかで作られた新種だとすれば、植物に関する研究所ということになるが」
小次郎常「公にされていない秘密の品種だとするとこれはもうお手上げになる」
bg大使館内
cgより子
より子常「それでは、その薔薇を専門家に見せてはいかがでしょう」
小次郎常「この鑑定は専門家がやったはずだが、別の専門家に頼めということか」
より子常「はい。パリの名士が極めて高い評価をしている花屋があります。そこの店員ならあるいは……」
小次郎常「警察の鑑識を上回るのか?」
より子常「日本大使館だけでなく、シャノワールに出入りする方々がひいきにしているくらいです。目は確かですよ」
小次郎常「わかった。どこにあるか教えてもらえるか」
より子常「モンマルトルの中ですが……地図を書きましょう」
より子常「……これでおそらくおわかりかと」
小次郎常「ん?ここなら行ったことがあるぞ」
より子常「探索済みなのですか?」
小次郎常「妹への花束を見繕ってもらったんだ。そうか、あの店員か」
より子常「それなら話は早そうですね。ではそちらはお任せを……」
soundノック
より子常「はい?」
大使館員「より子さん、蒸気電話です。大使か秘書官に繋いで頂きたいと」
より子常「……またどこかでさぼっているのですか、あの大使は。済みません明智さん、しばしお待ち下さい」
小次郎常「ああ、構わんよ」
より子常「変わりました、大使秘書官の狭霧と申します」
より子驚「……え?なんで貴女が!?ええ……はい、わかったわ。幸い、今ここにいらっしゃるから」
小次郎常「ん?」
より子驚「明智さん、コクリコさんから緊急連絡です!」
小次郎驚「何!?」
bg蒸気電話
コクリコ驚「あ、コジロー!聞こえる!?」
小次郎驚「ああ、聞こえる。何があった」
コクリコ驚「アインがいなくなっちゃったんだ!」
小次郎驚「!……いなくなった、ということは、襲撃があったわけじゃないんだな」
コクリコ驚「うん。いなくなる前に、アインのお祖母さんが攫われたって連絡があったんだ」
コクリコ悲「そのときは大丈夫って平静を保っていたんだけど、ボクが目を離した隙にいなくなってて……ゴメン」
小次郎常「いや、お前は悪くない。よく知らせてくれた。先手を打たれたのは残念だが、取り返す」
コクリコ悲「うん……」
小次郎常「もしアインからそちらに連絡があったらまた大使館に言付けておいてくれ」
コクリコ悲「わかった」
小次郎常「巻き込んでおいてなんだが、くれぐれも深入りするな。相手は元軍人を含む危険な集団だ」
コクリコ常「うん……わかったよ」
bg大使館内
より子常「情報提供者が行方不明になったのですか」
小次郎常「説明の手間が省ける。本人はコクリコに匿ってもらっていたんだが、親族を人質に取られたようだ」
より子怒「元軍人が、なんと卑劣な……」
小次郎常「目的のためには手段を選ばない、軍人らしいだろうよ」
小次郎常「とにかく、情報提供者を奪われた以上、実行犯を早く確保するしかなさそうだ。まずは花屋へ向かう」
より子常「わかりました。くれぐれもお気を付けて」
bg花屋
コレット常「いらっしゃいませ。あら?先日もいらっしゃった方ですね」
小次郎常「ああ、妹に贈る花束を作ってもらった」
コレット常「妹さんにはよろこんで頂けましたか」
小次郎常「ああ。どうもそういったことには疎いので助かった」
コレット笑「それはよかったです。ところで、今日はどんな御用でしょうか」
小次郎常「本業ではないかもしれないが、鑑定をお願いしたい」
コレット常「鑑定?」
小次郎常「日本大使館やコクリコが、花についてはあんたの目は随一と伺った」
コレット笑「お世辞ですよ。コクリコさんったら……」
小次郎常「無粋者ゆえ頼れるのはあんたしかいない。どうかお願いする」
コレット笑「わかりました。私でお役に立てることでしたら」
小次郎常「ありがとう。この黒薔薇の出所がわからないか」
bg黒薔薇
コレット驚「……?これは……?」
小次郎常「わかるか?」
コレット驚「……わかりません。これは……」
小次郎常「そうか……」
コレット驚「これは、あり得ない黒薔薇です」
小次郎驚「あり得ない?」
コレット驚「だって、これは白薔薇でないとおかしいんです」
小次郎驚「何!?」
コレット驚「この茎と、この萼、この花弁の形を持っているのは……花弁が白の品種しか知られていません」
小次郎驚「では、これは白薔薇を染めたものに過ぎないということか……」
コレット驚「そうじゃないからおかしいんです」
コレット驚「薔薇に染料を吸わせて染めることは可能ですが、この黒はそうやって染めた色じゃないんです」
コレット驚「まるで最初から黒だったかのようにしか見えない。でもそれは存在しない品種なんです」
小次郎驚「……!」
小次郎常「……その元になる白薔薇はこの店に置いてあるか」
コレット常「ええ。見て下さい。これがこの子の本来の姿です」
bg白薔薇と黒薔薇
小次郎常「……」
小次郎常「この白薔薇を買った人間がどんなか教えてもらえるか」
コレット常「それは……お教えできません。お客様のことを話すわけには」
コレット常「一人ではない、とだけお伝え致します」
if <初日にベルナデッドについて聞いていて、かつ二日目に白薔薇と詩集を受け取っている場合>
小次郎常「詩人のベルナデッドは、これを買ったか?」
コレット驚「!!」
コレット常「……お答え、できません」
小次郎常「済まない。貴方の誇りを傷つけたことは深くお詫びする」
コレット常「一つ、教えて下さい」
小次郎常「何か」
コレット常「その花で、人が死んだのですか?」
小次郎常「……」
コレット常「ありがとうございます。それならば、貴方を咎めはしません」
小次郎常「かたじけない……」
bgパリの町並み
小次郎焦「(……妹さんはお元気かしら、とあいつは言った……!)」
小次郎焦「(それが意味するところは……!)」
bgシャノワールダンサー寮の前
小次郎焦「いない……いや、いるはず……姿を見せろ!ベルナデッド!」
cgベルナデッド
ベルナデッド常「貴方が生きている内に再会できるとは思わなかったわ」
小次郎焦「……残念だ」
ベルナデッド常「自ら呼んだくせに、再会を残念がるとは奇怪な思考ね」
小次郎焦「はぐらかすな。この黒薔薇、元は白薔薇だそうだな」
ベルナデッド常「愚か者だと思っていたけど、存外に頭を持っていたのね」
ベルナデッド常「貴方に言いしれぬものを覚えて興味を持ったのは不覚と言う他ないわ」
小次郎常「ずいぶんと絶賛してくれるじゃないか」
ベルナデッド常「模範解答は示してあげる。この白薔薇に私の霊力を込めるとね……」
cgクリア
bg白薔薇
bg黒薔薇
小次郎驚「霊力で……黒く、変色した……!?」
ベルナデッド常「この黒化した薔薇は鉄にも勝る硬度と、致死性の毒を持つわ」
bgシャノワールダンサー寮の前
cgベルナデッド
小次郎驚「解説痛み入るが、それは抹殺予告と思っていいんだな」
ベルナデッド常「ええ。ブードゥーの魔術師でも喋れさせることができないくらいに殺してあげる」
cgクリア
小次郎常「また消えたか……!」
ベルナデッド常「スタンダールの邸宅でも、その気になれば貴方を殺すことはできたのよ」
ベルナデッド常「貴方の命など、私の掌の上で許されていたに過ぎないことを思い知りなさい」
小次郎常「そのおしゃべりが大失敗だな」
ベルナデッド常「喋りながら接近すると思うの?必殺の一撃を加えるときは足音さえ聞かせないわ」
小次郎常「そこにいるとわかればな……!」
ベルナデッド常「見えない私に対して、そんな短剣一つで対抗するつもり?」
小次郎常「刀を手にした侍を舐めるな」
ベルナデッド常「っ……!?」
小次郎常「足音を消したようだが……、お前がそこにいるとわかれば……」
sound疾風
小次郎常「捉えたぞ!」
cgベルナデッド
ベルナデッド驚「私の術を……破った!?」
小次郎常「ああ、しかと見えているぞ。一メートル少々の高さに浮かんでいるお前がな」
ベルナデッド驚「そんな……、どうして!?」
小次郎常「あいつの推測通りか。お前は人の頭に働きかけて、見えていないと錯覚させていただけだ」
小次郎常「心眼でひとたび捉えてしまえば、そんなまやかし、通用しない」
ベルナデッド驚「それなら……これはどう!?」
小次郎常「念動力で操る薔薇か……!」
sound金属衝撃音
sound金属衝撃音
sound金属衝撃音
小次郎常「シュペングラーやスタンダールの延髄を的確に貫いたのはこれか」
ベルナデッド驚「……!」
小次郎常「見えない状態で背後から繰り出せば一撃必殺だろうが、見えれば打ち落とせる」
小次郎常「大人しく捕まれ、ベルナデッド。二人も殺したとはいえ相手が相手だけにわからなくはない」
ベルナデッド常「それが武士道と言うものなの?」
小次郎常「違うな。単に女を殺すのが嫌なだけだ」
ベルナデッド笑「それを騎士道というのよ。憶えておきなさい」
小次郎常「なるほど」
ベルナデッド常「貴方にもう一つ忠告しておいてあげる」
小次郎常「前にも聞いたな、その言葉」
ベルナデッド笑「これが最後よ。心して聞きなさい」
小次郎常「……」
ベルナデッド笑「自らを殺しうる者は神すらからも自由である」
小次郎驚「!!」
小次郎驚「(念動力で放った薔薇を、自分に向けて……!)」
sound金属衝撃音
ベルナデッド驚「な……っ!」
小次郎焦「これ以上、目の前で女に死なれて……たまるか!」
ベルナデッド驚「きゃあああっっ!」
sound鈍い衝撃音
小次郎常「おとなしく……しろ!」
ベルナデッド常「つ……っ、女を後手に拘束して地面に押し倒すのは騎士的とはいえないわね」
小次郎常「どういうつもりだ、ベルナデッド」
ベルナデッド常「最大の武器を封じられた今の私では貴方を倒せない」
ベルナデッド常「貴方の身体能力を考えると、姿を消せなくなった私は逃げられない」
ベルナデッド常「拷問されて素直に答える気はないけれど、貴方が相手では自信がない」
小次郎常「誉められたのか貶されたのか……」
ベルナデッド常「頭が悪いのね。絶賛したのよ」
小次郎常「……誉めていないだろう」
ベルナデッド常「ぼやきながら、スカートの中に手を入れるとはいい趣味をしているわね」
小次郎常「鞄も持っていないお前が、何本もの薔薇を隠し持っておけるのは、このスカートの中くらいだろう」
ベルナデッド常「……正解よ」
小次郎常「五、六、七……一体何本隠し持っているんだ、お前は」
ベルナデッド常「あと四十二本あったはずよ」
小次郎常「なるほど、四十三か四十四本だな」
ベルナデッド常「数も数えられないの」
小次郎常「全部へし折ったと油断させるつもりだろう」
ベルナデッド常「……女の秘密を全て暴くのは無粋な愚か者よ」
小次郎常「まったく、探しにくいな」
ベルナデッド常「私の顎を押さえている左手も使えば楽に出来るわよ」
小次郎常「舌を噛まれてはかなわんからな」
ベルナデッド常「手慣れすぎているわ、貴方」
cgミキ
ミキ驚「お、お兄ちゃん!?寮の前で女の子を押し倒して……何をしてるの!?」
小次郎驚「ミキ!?いかん!出てくるな!」
ミキ驚「え!?」
小次郎叫「伏せろ!」
ミキ驚「わ!わ!わ!えええ!?」
cgベルナデッド
ベルナデッド常「……無様な判断ね。私を放り出して妹を庇うなんて」
小次郎常「的確な判断と言って貰いたいな。お前に念動力があるなら小石一つでもミキを仕留められる」
ベルナデッド常「そうよ。だからさっさと私を殺せばよかったのに」
小次郎常「女を殺すのは嫌だと言ったろう」
ミキ常「お兄ちゃん……」
ベルナデッド常「……」
ベルナデッド常「大聖堂の地下に、いにしえの王の迷宮があるわ」
小次郎驚「ベルナデッド……」
ベルナデッド常「もう、私は帰れない。どうせなら帰る場所まで潰してくれていいわ」
小次郎常「……感謝する」
ベルナデッド常「暗殺者の言うことを信用するのは愚か者のすることよ」
小次郎常「もう一つの忠告か」
ベルナデッド常「最後の忠告はもう言ったわ。これはただの素直な感想よ」
小次郎常「……死ぬなよ。ベルナデッド」
ベルナデッド常「人間は、いずれ必ず死ぬわ」
cgクリア
小次郎常「……あいつを、救うことはできなかったか」
ミキ常「お兄ちゃん、あの人は……?」
小次郎常「詩人か、予言者だな」
ミキ常「そうじゃなくて……」
小次郎常「ミキ、今は討論している時間が惜しい。ようやくエルザの居場所がわかったんだ」
ミキ常「それが、あの人の言った大聖堂の地下?」
小次郎常「おそらくそうだろう。このパリで大聖堂というと、アレだな」
ミキ常「うん……。ノートルダム大聖堂を挙げる人がほとんどだと思う」
小次郎常「だが……迷宮となると、どこに入口があるか……」
小次郎悩「(この場にベルナデッドが来たのが、ミキを殺すためではなく、連れ去るためだとしたら……)」
小次郎悩「(ベルナデッドが一人でその迷宮の奥底まで運んでいくだろうか?)」
小次郎悩「(今なら、ディビジョン・ノワールの構成員が地上に迎えに出てきている可能性がある……!)」
小次郎常「ミキ、お前は、パリ在住歴の長い人間に、大聖堂の地下について聞いてみてくれ」
ミキ常「お兄ちゃんは……?」
小次郎常「千載一遇のチャンスがあるかもしれん。このまま大聖堂付近に潜入を試みる」
ミキ驚「そんな……!悪い人たちの本拠地じゃないの……!?」
小次郎常「そうだ。だが、安心しろ。お前の兄はそんなところに行ったくらいでいなくなりはせん」
ミキ常「お兄ちゃん……」
小次郎常「ただ……そうだな。出来れば日本大使館には連絡しておいてくれ。報告に行く時間がない」
ミキ常「うん、わかった。きっと……きっと帰ってきてよ、お兄ちゃん……!」
小次郎常「ああ、約束だ」
bgノートルダム寺院外苑
小次郎常「さて、喜び勇んでいたものはいいが、奴らがいそうな場所は……」
小次郎常「いた。見張りは……一人だけか?妙だな」
小次郎常「もうすぐ夕方か。人目の付きにくい時間帯を狙って、奇襲だな」
小次郎常「……」
黒服「……まだか」
小次郎悩「人通りが、絶えた?この観光施設でどういうことだ……」
小次郎悩「気温は高いのに肌寒いような……。何か、起きている?」
小次郎常「……行くか」
黒服「なんだ?東洋人の観光客か。帰れ帰れ。この一帯は立ち入り禁止だ」
小次郎常「解説に感謝する」
黒服「ん?……まさか、貴様」
sound鈍い衝撃音
黒服「が……は……?」
小次郎常「気づくのが遅い」
小次郎常「さて、こいつをどうするかだ」
lips持ち物検査する 尋問する>警報装置を押されてやられる 置いていく>地図無しで迷宮にて時間を食う
小次郎常「(できれば道案内させたいところだが、騒がれて警報でも出されたらことだな)」
小次郎常「(ベルナデッドは迷宮と言っていた。こいつが地図の一つでも持っていないか……)」
小次郎常「(あった!手書きだが概略はわかるな……)」
bg地図
小次郎常「(おそらくこいつの立ち位置から見て……、あの洞窟が入口か)」
bg洞窟内A
小次郎常「(ここはまだ迷宮に入る前段階の隧道か。人型蒸気でも通れそうな大きさだが……)」
小次郎常「(灯り無しでも、なんとか見えるな)」
bg洞窟内分岐
小次郎常「迷宮というには早いが……右の道でいいのか」
bg迷宮直線路
小次郎常「これがいにしえの王の迷宮……」
bg迷宮十字路
小次郎常「地図通りなら……こっちか」
bg迷宮直線路
bg迷宮右折路
bg迷宮丁字路
bg迷宮直線路
bg迷宮右折路
小次郎常「宮殿というよりは、封じたものを出てこれなくするためのもののようだが……」
bg迷宮直線路
bg迷宮左折路
bg迷宮右分岐路
bg迷宮直線路
bg迷宮十字路
bg迷宮直線路
bg扉
小次郎常「やれやれ、地図無しではどうなっていたことやら」
小次郎常「足跡がかすかに残っているところを見ると、正解のようだな」
小次郎常「この隙間の向こうに何かあるようだな」
小次郎常「扉の向こうから、……声はしていないな。気配もない」
小次郎常「見張りが鍵を持っていなかったから、ここは開くか」
bg廊下
小次郎常「開いたか。なんだ、この濃密な大気は……」
小次郎常「人の話す声が聞こえるな。こっちか」
黒服「貴様!何者だ!」
小次郎常「ちっ!見つかったか!」
sound銃声
黒服「ぐあっ!」
小次郎常「……見張りといいこいつといい、単独行動で助かったな」
小次郎常「赤城三郎にかなりの人員を潰されて、人員不足に陥っているのか?」
フォン常「誰だい……?」
小次郎常「(……老人の声?この扉の向こうからか)」
bg扉
フォン常「もしかして、姫様が仰っていた日本人の探偵かい?」
小次郎常「(姫様?)」
小次郎常「いかにも俺は日本人の探偵だが、あんたは?」
フォン常「その前に、名前を聞かせておくれ」
小次郎常「用心深いな。明智小次郎だ」
フォン常「ああ……よかった。姫様を助けに来てくれたんだね」
小次郎常「あんた、ひょっとして攫われたというアインの祖母か?」
フォン常「ああ、そういうことにして下されてたのかい。一応はそういうことになるのかね」
小次郎常「……実の祖母ではないのだな。ということは、姫様というのはアインのことか」
フォン常「そうだよ。お話になっていないのなら私からそれ以上話すことはできない」
フォン常「姫様をお救いして直接聞いておくれ」
小次郎常「わかった。ひとまずこの鍵を壊すから下がっていてくれ」
フォン常「いいや、私はこのままにしておいてくれるかい」
小次郎常「……足手まといになることが嫌か」
フォン常「今でさえ既に姫様は私のために意に沿わぬことをさせられているんだよ」
フォン常「既に歩くことさえ困難な私は、姫様の邪魔にしかならないね」
フォン常「いざというときに、姫様に対して私が人質にされてしまうことも考えられる」
フォン常「明智小次郎殿、どうかこの老婆を哀れと思うならば」
フォン常「いざとなれば私を見捨ててでも、姫様だけは必ずやお救いすると約束して下され」
小次郎常「……その忠義、見上げたものだ」
フォン常「我らが祖国にとって、私一人の命などどうでもよいのよ」
フォン常「だが姫様ならば、必ずや我らが祖国を救って下さる。この老婆など死んだものと思うて下されればよい」
小次郎常「心得た。アインを助けた後で貴殿を助けに来ると約束する」
フォン常「さすがは日本の男。まさか地の果ての欧州で侍に会えようとは。感謝申し上げる」
フォン常「ただ、一つ貴殿に別のことをお願いしたい」
小次郎常「何だ?」
フォン常「三つか四つとなりの部屋に、まだ年若い女の子が放り込まれているはず」
小次郎常「(エルザか……!?)」
フォン常「先刻まで酷い仕打ちがここまで聞こえて来たが、連中に招集が掛かってから呼びかけにも答えがない」
小次郎焦「……!」
フォン常「その子だけは助け出してやれないかね。人質にされることもあるまい……」
小次郎焦「……わ、わかった」
bg廊下
小次郎焦「三つか四つ……こっちは扉に格子窓があるな」
小次郎焦「エルザ……」
bg裸身で倒れたメイリン・焼き印のある肩がこちら側
小次郎怒「こいつは……酷いな。……息を、していない……」
小次郎怒「(あの焼き印、番号04……!元パピヨン孤児院のメイリンか!)」
小次郎怒「ミキとほとんど同い年くらいか……。惨いことを……」
bg扉
小次郎怒「済まない、既に殺されていて助けようがなかった……」
フォン怒「そうかい……。中国の娘もベトナムの娘も連中にとっては犬猫同然なんだね……」
フォン怒「スペアの代わりも見つかったから用済みとか言われていたよ……まだ年若い子だろうに」
フォン怒「やっぱり姫様の仰るとおりだね。私たちは戦力を持たなきゃいけない……」
フォン怒「欧州が制覇した陸海を上回る、空軍を……」
小次郎驚「……!?」
小次郎驚「……それを、アインが言っていたのか?」
フォン怒「ああそうさ。日本の探偵ならさすがに知ってるんだね。元は帝国陸軍の発想と聞いたよ」
小次郎常「そうか……。アインは、そう言ったか……」
小次郎常「アインはなんとしても助ける。助けねばならん。行ってくる」
フォン怒「お願い申し上げる……日本の侍よ……」
bg廊下
小次郎常「ベルナデッドが帰還しないことで異常を察して残った人員を招集したか……」
小次郎常「しかし……、スペアの、代わり?」
小次郎常「ベルナデッドはミキを攫おうとしていた。生け贄でも探していたというのか……?」
bg柱の間
小次郎常「(……黒服どもが打ち合わせをしている?エルザもアインもいないが……)」
小次郎常「(六人……。こちらにまだ気づいていない。接近して仕留めるか、狙撃で倒すか……)」
lips狙撃で倒す 接近して仕留める>三人まで倒したところでやられる タイムオーバー>見つかって霊力封入弾を撃ち込まれ死亡
小次郎常「(初手で二人か、三人……。これだけの柱があるなら、人数差は跳ね返せるか……)」
sound銃声
sound銃声
sound銃声
黒服「何!」
黒服「侵入者か!」
小次郎焦「(二人が限度か。立て直しが早い!さすがに欧州大戦を経験した軍人だけのことはある……)」
黒服「柱の影から出てこいとも言わん……!」
小次郎驚「(手榴弾……!)」
sound爆発音
sound銃声
sound銃声
黒服「がっ……!」
小次郎焦「(いぶりだしたところに火線を集中……、アジトにいた連中より手強い……!)」
黒服「東洋人……!貴様、我々を探っていた日本人だな!」
小次郎焦「おたくらに巻き込まれたんだがな。だが、今は、全滅してもらう……!」
黒服「ほざけ!我らフランス軍人の誇りに賭けて邪魔はさせん!」
小次郎怒「言うじゃないか。あんな少女を嬲り殺しておいて」
黒服「東洋人の女など消耗品だ!」
小次郎怒「それで誇りなどと、戦士として恥を知れ貴様ら……!」
sound銃声
sound銃声
sound銃声
黒服「ネズミは焼け死ね!」
小次郎怒「(その手榴弾を待っていた!)」
黒服「!!」
小次郎怒「爆風を避けるために、お前らが否が応でも柱の影に隠れる瞬間をな!」
黒服「速い!」
小次郎怒「この角度からなら全員的だ!」
sound銃声
sound銃声
sound銃声
sound銃声
黒服「が……」
黒服「お、おのれ……」
黒服「無念……」
小次郎常「……左上腕と、右脇腹か……。足を止められなかっただけマシか」
小次郎焦「アイン、エルザ、無事でいろよ……!」
bgカルマールの間の扉
小次郎焦「なんだ……この巨大な扉は……」
小次郎焦「扉の隙間から、とてつもない霊力が漏れてきている……」
bg扉の隙間から霊子櫓遠景・手前に小さくエルザ、アイン、ドレフィス、バレス
小次郎驚「エルザ……!なんとか無事だったか」
小次郎驚「エルザが収められているあれは……いや、そんなはずは……」
小次郎焦「くそ……っ、いくらなんでも、この扉は重すぎる……」
小次郎焦「鍵が掛かっているんじゃなくて、封印されているのか」
小次郎焦「どこか別の裏口があるはず……」
bg廊下
小次郎焦「くそ……この地下宮殿はどれだけ広いんだ……」
小次郎焦「ん?……声が、どこからか漏れているのか」
アイン怒「子飼いの暗殺者まで差し向けておいて、今更勧誘とはふざけているわね!」
ドレフィス常「儂とて裏切り者の東洋人など速やかに処断するつもりであったわ」
ドレフィス常「だが、教授が何が何でもお前の頭脳が惜しいと仰るのでな。一度だけ機会を与えたのだ」
小次郎焦「(教授……?アインの論文を拾い上げたバレスという教授か……)」
バレス常「アイン君。君が科学に背いたことは一度だけは許そう」
バレス常「我々は絶対にこの研究を完成させなければならん。それが今世紀の科学者としての責務だ」
バレス常「迷いを捨て、今一度、我々に協力しなさい」
アイン怒「いかに大恩ある教授のお言葉でも、従えません」
アイン怒「私はアジア人です。同じアジア人をあそこまでされて、黙っているわけにはいきません」
ドレフィス常「メイリンは既に任務を終えた。要件を満たさなかった者は速やかに処断するのがパピヨン孤児院の条件だ」
ドレフィス常「それは、メイリンがアジア人であることとは無縁である」
ドレフィス常「そこのエルザも、この実験に耐えきれなければ同様の扱いだ。私は人種で差別などせん」
アイン怒「貴方はそうでしょう。でも部下はそうではなかったと言っているの!」
小次郎焦「(エルザも……!?まずい、あれを動かせば、おそらく死ななくても再起不能になる……)」
小次郎焦「(くそ、急がねば……。入口が見つからないならいっそ……)」
ドレフィス常「部下が至らなかったことは認めよう。だが、全ては些末なことだ」
ドレフィス常「教授から今一度説明を受けたが、この炉の実験が完了してもまだ実用には遠い」
ドレフィス常「だが、これが実用出来れば我が国だけでなく、植民地も間違いなく潤う」
ドレフィス常「レユニオンからせっかく脱獄してここまで来た終焉がそれで満足か」
アイン怒「どこでそのことを……!」
ドレフィス常「レユニオンに残してきた成泰帝や維新帝がそれを喜ぶとは思えんな」
アイン怒「叔父上やホァンのことを、フランス軍人ごときが解った風な口を叩くな!」
小次郎焦「(そうか……レユニオン!どこかで聞いたと思ったが……)」
小次郎焦「(ベトナム王朝の皇帝が二代に亘って、フランスに島流しにされた場所だ……)」
小次郎焦「(それで、姫様、か……)」
ドレフィス常「否定はせんのだな。その判断だけは正しいぞ」
アイン怒「くっ……」
小次郎驚「(見つけた!中世風の扉……おそらくここから中に入れるはず……)」
バレス常「アイン君、この炉の基本思想を考案した君を失うのは、ヤマザキに次ぐ損失だ」
バレス常「アジア人というのならばなおさら、君の尊敬する科学者の後を引き継ぐことを考えなさい」
アイン怒「…………」
アイン怒「教授、貴方には、心底感謝致します。ですが、もう駄目です」
アイン怒「私はもう、フランスのためには働きたくない……」
ドレフィス常「よい回答だ。では私は祖国フランスのために、裏切り者を処断するとしよう」
アイン悲「……」
lips突入する 様子を見る・タイムオーバー>アインを目の前で殺害され、叫んだところを発見されてbadend
アイン悲「さよなら……」
小次郎叫「させるかーーーーーーーーーっっ!!」
ドレフィス驚「侵入者か!」
sound銃声
sound銃声
bgカルマールの間
ドレフィス驚「儂の銃弾を避けただと!?」
小次郎焦「(正確に頭と心臓を狙って来ると予想してなければやばかったぜ……!)」
小次郎焦「残るは、アンタ一人だ!」
ドレフィス驚「舐めるな小童!」
sound衝撃音
小次郎焦「体術もか!どの部下よりいい反応してるぜ!」
ドレフィス怒「アジトにいた部下たちを一掃したのはやはり貴様か、明智小次郎!」
小次郎常「厳密に言えば俺だけじゃないがな!」
ドレフィス怒「貴様は日本人だとベルナデッドから聞いておる。何故我が国の邪魔をする!」
小次郎常「あいにくもう、一国を背負うなんてのは御免被る。今の俺は、妹を泣かしたくないだけでな」
ドレフィス怒「そんなことのために我々の大望をつぶしに来たのか!」
小次郎常「そんなことこそが、一番大切だと今になってわかっただけだ!」
ドレフィス焦「くっ……!貴様……っ!」
小次郎常「(拘束具……は赤城三郎に使ったきりか……!やむを得ん!)」
sound骨折音
ドレフィス焦「ぐ……!!」
小次郎焦「うおりゃあああ!」
sound鈍い衝撃音
ドレフィス焦「が……!!」
小次郎常「下手に動かない方がいい。左足を折って、右肩を脱臼させた」
ドレフィス焦「貴様……ベルナデッドを撃退したのはまぐれでは無かったのか……」
小次郎常「ベルナデッドに暗殺指令を出していたのも貴様か。殺してやりたいところだが止めてこう」
ドレフィス焦「ベルナデッドはどうした……」
小次郎常「殺してはいない。だが、どうやらアンタのところには帰らなかったようだな」
ドレフィス焦「アンジュ計画も……、ついぞ実らずか……」
小次郎常「……?」
アイン常「……小次郎、どうやってここまで」
小次郎常「無事で良かった、と言いたいところだが……聞きたいことが増えた」
アイン常「そう、見ただけでわかるの」
小次郎常「おおよそな。何故ここに、霊子櫓がある」
アイン常「極めて正解に近いけど、厳密には異なるわ。これは霊子核機関じゃないの」
アイン常「あえて言うのなら、霊子核併用圧縮蒸気機関ということになるわ」
小次郎常「……先日の授業の補習だな。高圧蒸気の理論は解っていないんじゃなかったのか」
アイン常「学会では、まだ、ね」
小次郎常「高圧蒸気のエネルギー保存則無視がお前の研究テーマだと言っていたな」
小次郎常「そういうことか。教授とそこの軍人がお前を抱き込もうとした理由が」
バレス常「その通りじゃ、日本の探偵よ。アイン君を失うことは世界にとって大きな損失だ」
アイン常「……ええ。私は、圧縮蒸気機関についての理論をほぼ完成させているわ」
小次郎常「……どこからなんだ」
アイン常「……」
小次郎常「どこから、来ているんだ。エネルギー保存則を崩しているように見えるエネルギーは」
アイン常「その言い方は、まるでわかっているみたいね」
小次郎常「この気配には覚えがあるからな……」
アイン常「さすがに、先の帝都での戦いをよく知っているのね」
アイン常「山崎真之介が発見した蒸気併用霊子機関が、最大の手がかりだったわ」
アイン常「圧縮蒸気を用いた第二世代型蒸気機関よりも、蒸気併用霊子機関はさらに効率が良かったの」
アイン常「単独での出力は純粋な霊子機関の方が上だったけれど……」
アイン常「蒸気併用霊子機関は理論上、上限が無かった」
小次郎常「上限が……、つまり、エネルギー効率が、最大で無限大になると?」
アイン常「ええ。だから圧縮蒸気には、霊力に絡む何かが作用していると考えたの」
アイン常「霊力介在下で、圧縮蒸気の最適条件に合わせて、エネルギー保存則が成立しない環境を観測したわ」
アイン常「そこでね、水分子が特異な挙動を示していたの」
アイン常「六角六芒型に水分子が共役してできる混成軌道が、一瞬だけ、その六角形の中心で消失した」
アイン常「その瞬間に、膨大なエネルギーが流れ込んで来ることが観測されたわ」
小次郎常「流れ込んできた……。生じたのではなく、流れ込んできたんだな」
アイン常「ええそう。圧縮蒸気を生じる特殊環境下では、一瞬だけど、別世界への穴が開いている」
アイン常「高エネルギー準位にあると推測されるその別世界からは、エネルギーが流れ込んで来る」
アイン常「エネルギー保存則は破られているわけじゃない。別の世界からエネルギーを受けていただけなのだから」
小次郎常「道理で……」
アイン常「驚いていないのね」
小次郎常「その別世界の名前を知っているか」
アイン常「ある程度想像はついているわ」
バレス常「知っておるよ。この現象を説明づける世界は一つしかない」
アイン常「魔界、でしょう」
小次郎常「………………そうだ」
小次郎常「道理で、霊力と圧縮蒸気の親和性が高いはずだ。霊力で魔界との孔を開け続けていたのだろうからな」
アイン常「厳密には違うわ。蒸気併用霊子機関では、既に活性化させた圧縮蒸気を使っている」
アイン常「霊力が、圧縮蒸気が有している魔界からのエネルギーと相乗効果を発揮していると推察されるわ」
アイン常「霊子水晶回路はまだ未解明な所はあるけど、少なくとも霊子甲冑の設計者はそれを知っていたはず」
小次郎常「霊力と相乗効果をもたらすということは、単純な熱エネルギーではないな」
アイン常「ええ、多変数の複素関数で表されるけど、一般的な自由エネルギーではないことは確かよ」
小次郎常「だとしたら、色々と納得できることがある」
アイン常「是非聞きたいわ」
小次郎常「ミキの友人が死んだ帝都病については話したな」
アイン常「先天性蒸気症候群、ね。あの後少し調べたわ」
小次郎焦「圧縮蒸気はやはり無害なんかじゃなかった……。さと子は魔界のエネルギーに敏感だったんだ……」
小次郎焦「その後も帝都病の患者は増加している。帝都には魔界のエネルギーが蓄積されているはずだ」
小次郎焦「だとしたら、帝都で何度も魔物が跋扈するのも道理……」
小次郎焦「今の蒸気文明は、降魔実験をひたすら繰り返して成立していることになる……!」
アイン常「その仮説には異議を唱えたいわ。蒸気文明が魔物を呼ぶのなら紐育や伯林で魔物が発生していないのは何故?」
小次郎常「だが先日はこの巴里で魔物が跋扈したんだろう」
小次郎常「予言してやろう。遠からず、数年を待たずして紐育や伯林といった蒸気都市で魔物が跋扈する」
アイン常「……それほどまでに、確信を持って言えるのね」
小次郎常「エルザが入っているその装置、霊子核併用圧縮蒸気機関といったな」
アイン常「ええ。その言い方だと機構の想像はついているのでしょう」
小次郎常「おまえが言っていた、ベトナムのエネルギー問題の解消の切り札がそれなんだろう」
アイン常「ええ。従来の圧縮蒸気が引き出せる魔界のエネルギーは一瞬だったけれど……」
アイン常「高濃度の霊力集中場を形成させた上で蒸気を臨界に到達させるとエネルギー孔を長時間維持できるの」
アイン常「元より生体由来の霊力は水分子との相性がいいからと考えられるわ」
小次郎常「そこまでの条件に必要な霊力を搾り取って、霊力者がただで済むわけがない……」
小次郎常「あのメイリンという子を死なせた直接の原因は生命力そのものの消尽だろう……」
小次郎常「エルザを、妹の親友をそんなことにさせられるか!」
ドレフィス苦「それは貴様の考えだ、異邦人よ……」
小次郎常「何?」
ドレフィス苦「エルザに何も説明せずにその装置に入れたとでも思うのか」
ドレフィス苦「全てを説明した上で招聘したとも」
小次郎苦「馬鹿な……!」
ドレフィス苦「わが国のために霊力を限りに散っていった騎士団の後継を、私は育ててきたのだからな……!」
小次郎叫「命と引き替えにしてでも祖国に尽くせなどと吹き込んだのは、貴様か!」
ドレフィス苦「そうだ。何が悪いというのだ」
小次郎怒「ほざけ!それならばメイリンはどうなる!中国人のあの娘を使い尽くしたあげくにあの扱いか!」
ドレフィス苦「わが国に来た異国人は全てわが国に奉仕する義務がある!」
ドレフィス苦「ましてメイリンは天涯孤独になった後わが国が生かしたのだぞ……」
ドレフィス苦「わが国から学び、わが国に救われた者は、わが国に命を捧げねばならぬ!」
小次郎怒「あんな少女に命を貸し付けて、存在の尊厳まで絞りとるのが貴様の正義か!」
ドレフィス苦「戦略の過程でやむを得ない犠牲はある。少数の犠牲で多数が救われるのならそれは正義だ!」
小次郎怒「どうしてこういう輩はいつも同じことを……!」
小次郎怒「大体、虎の子の精鋭だった孤児院のメンバーをしても霊力を使い尽くす装置で何ができる」
アイン常「……それは、ちがうわ」
アイン常「今は実験段階だから、どうしても強力な霊力者に頼るしかないの」
アイン常「でも、さっきから言っているでしょう」
アイン常「これは霊子併用圧縮蒸気機関じゃなくて、霊子核併用圧縮蒸気機関だと」
アイン常「霊子核機関が何か、は知っているわね。かの空中戦艦ミカサに搭載された、霊力を吸い上げる機関」
小次郎驚「………………まさか」
小次郎驚「人々から集めた霊力で、魔界への孔を恒常的に開け続けるつもりか……!」
アイン常「そう。石炭も石油も必要ない。誰もが微弱ながら持っている霊力と水だけで足りる」
アイン常「人がいるところならどこでも無尽蔵のエネルギーが手に入り……欧州とアジアの格差を打ち破れる」
アイン悲「……そう、思っていたわ」
バレス常「君の立てた理論に瑕疵はなかった。確かにそれは実現可能じゃ」
アイン悲「教授……、貴方がおっしゃるならできるのでしょう」
アイン悲「復讐のために来たこの国で、貴方に教えを請えたことは幸いでした」
アイン悲「祖国のためだけでなく、フランスのためにも働こうかと思ったこともありました……」
アイン悲「でも、私はもうこの国のために、何もすることができません……」
アイン悲「私一人ならばどんな屈辱にも耐えたでしょう」
アイン悲「でも、アジアの王族の一人として、アジアの敵に利することはもう、できません……」
バレス常「残念だよ……、アイン君」
バレス常「だが、それではこの実験を君へのはなむけとしよう」
バレス常「君の理論は間違っていなかった。君の敬すべき発想は、私が必ず完成させる……!」
カミュ笑「それは困るね」
小次郎常「……!?」
cgカミュ
カミュ笑「話は聞かせてもらったよ。そこまでだ、バレス教授」
小次郎驚「新聞屋!何故、貴様がこんなところにいる!」
カミュ笑「もちろん君のおかげだよ明智くん。君が予想以上に出張ってくれなかったら手遅れになるところだった」
小次郎常「後を付けられている気配は無かった……どうやった」
カミュ笑「君が本拠地に突入すると聞いて、慌てて情報を集めて来たんだよ」
カミュ笑「その機関をここに搬入するための別ルートがあるのさ。かつて怪人たちが使っていた道がね」
小次郎焦「ただの新聞屋じゃないとは思っていたが、政府機関の人間か」
ドレフィス苦「その小僧は、内閣諜報局の人間だ……」
小次郎焦「……」
カミュ笑「ハハハハハ!そんな情報しか掴んでいないから、この僕に出し抜かれるのさ」
ドレフィス苦「何だと……!」
カミュ笑「その新型蒸気機関も、エルサ・フローベールも、我がドイツが頂く」
ドレフィス苦「貴様、二重スパイか……!」
カミュ笑「ひどい言いぐさだね。僕は元々フランス人の母とドイツ人の父との間に生まれたんだ」
カミュ笑「……せめて、自らの国籍をダシにして、両国を弄ぶ権利くらいあると思うけどね」
ドレフィス苦「自らが苦しんだからといって、他人を苦しめてよい道理にはならんわ小僧!」
カミュ笑「鍛え上げた力で他人を踏みにじるのが仕事の軍人が、よくもそんなことを言えたものだね」
小次郎常「そこの軍人はいけすかんが、少なくとも貴様よりはマシだ」
小次郎常「国を背負い、民のために戦おうとするその男を、道化師が罵倒する資格は無いぞ」
カミュ笑「おや、ずいぶん嫌われたものだね。君にはどこか僕に似たところがあると思っていたのに」
カミュ笑「少なくともフランス人じゃない君を、積極的に殺す理由は無いんだけどね」
カミュ笑「どうだい、ここまで捜査に協力してきた者のよしみだ。僕とともにドイツに来ないかい?」
カミュ笑「これでも僕は結構君を評価しているんだよ。探偵とは思えないその胆力、実力をね」
小次郎常「お断りだ。友人をかっさらわれては妹が泣く」
小次郎常「まして、この国を心底愛するエルザの心情を聞かされては、ドイツへなど行かせん」
カミュ笑「エルサ・フローベールはシュペングラーが先に目を付けていた、伯林華撃団の最有力候補なのだけどね」
ドレフィス苦「エルザは孤児の頃から我らが育ててきた。先に目を付けていたなどと戯れ言を!」
カミュ笑「果たして、そうかな?まあ、そう思っているのならそのまま死ぬといい」
カミュ笑「まさか英雄ドレフィスを明智君が倒してくれるとは思わなかったからね」
ドレフィス苦「……貴様、余裕を見せられる状態だとでも思うのか……」
if 赤城三郎の申し出を無視する、又は尋問後に解放している
カミュ笑「もちろんだよ。後は、明智君一人ならなんとでもしてくれるさ」
カミュ笑「同じ日本人の、彼がね!」
小次郎驚「何!」
cg異形化した赤城三郎
三郎叫「あああああああああああああああ!!」
小次郎驚「バカな……!なんだ、その姿は!」
カミュ笑「あの薬は被験者の素養によって効果が大きく異なるのだけどね」
カミュ笑「怪人とは違うが、彼にはどうやら微弱ながら狼の素養があったようだね」
カミュ笑「武士の情けで彼を見逃したのが君の失敗だよ、明智君」
小次郎驚「く……!いかん、アイン!今すぐここから逃げろ!」
カミュ笑「さあ!赤城君!君をそんな風にしてしまった明智君を血肉を食らうがいい!」
sound切断音
小次郎叫「(俺の腕を……一撃で!?こいつは……一体!?)」
三郎叫「ああああああああああああああ!!!」
小次郎叫「やられる……!」
badend
else 赤城三郎を確保している
ドレフィス苦「シュペングラーの組織はこの数日でほぼ叩き潰した。残存兵力はあるまい」
カミュ笑「ああ。さすがはドレフィスだね。ドイツから援軍を呼び寄せるのは確かに間に合わなかったよ」
カミュ笑「だからね、明智君に倒されるまで待っていたんだよ。今の君はもはや拳銃の的でしかない」
ドレフィス苦「く……っ」
カミュ笑「さて、明智君も動かないでくれ。これでも結構銃の腕には自信があるんだ」
カミュ笑「ここまで存分に働いてくれた君をつい殺してしまっては僕も良心が咎めるのでね」
小次郎焦「よくもそんな言葉がすらすら出てくるな。それで、何をする気だ」
カミュ笑「その危険な状態になっている装置を止めるんだよ。君もそのつもりだろう?」
小次郎焦「そこまでは一致していると言いたいが、その後が違うぞ」
カミュ笑「それならいいじゃないか。この場は僕に従ってくれたまえ」
カミュ笑「じゃあ、バレス教授、その装置を一旦止めて頂けますかね」
カミュ笑「破壊して止めるのは嫌なんですよ。そんな英知の結晶を壊すのは人として忍びない」
小次郎常「この場を抑えておき、援軍とやらにドイツへ運ばせようという腹か」
カミュ笑「素晴らしい理解者がこの土壇場にいるというのは嬉しいよ明智君」
バレス常「断る」
カミュ笑「……なんと言われましたかね、教授。まさかこの拳銃が見えないとでも?」
バレス常「その拳銃ごときが何だ。我々は人類全てのためにこの研究を為そうとしておるのだ」
バレス常「貴様のような輩に手渡しては、この研究は完成するはずがあるまい」
カミュ笑「ドレフィスに出来て僕に出来ないとは言ってくれますね」
カミュ笑「それじゃあ仕方がない。我がドイツにもヴァックストゥームの生き残りがいます」
カミュ笑「ある程度の研究の後退は仕方がありません。この場で死んで頂きましょう」
アイン焦「教授!」
sound銃声
カミュ驚「な……!」
bgバレス教授を庇うドレフィス
カミュ驚「貴様、まだ立てるのか……!」
ドレフィス苦「貴様などに、思い通りにさせる、我らでは……ない」
カミュ驚「死に損ないが!貴様からさっさと死ね!」
小次郎叫「単身で乗り込んできて、そんな余裕を見せられると思うな!」
カミュ驚「明智君!?」
sound衝撃音
bgカルマールの間
カミュ驚「そん……な……」
小次郎常「一瞬ならず俺から意識を外したろう。舐められたものだな」
カミュ驚「く……、…………」
小次郎常「峰打ちだ、と言いたい所だが、手加減は出来なかった。後遺症が残っても悪く思うなよ」
バレス焦「ドレフィス君……、無茶をしおって……」
ドレフィス苦「教授……、あとはお願いします……」
バレス焦「……」
小次郎常「……いけ好かない男だったが、武人としては見事だった……」
sound駆動音
小次郎驚「……なんだ!?」
アイン驚「これは……」
エルザ眠「……」
アイン驚「いけない!機関のエネルギー準位が第二活性化エネルギーを越えている!」
小次郎焦「つまり……、何が起きている?」
アイン驚「このままだと、機関を止めることができずに、無尽蔵にエネルギーを生成することになるわ」
小次郎焦「それでは……エルザが」
エルザ眠「…………」
sound轟音
アイン焦「魔界の孔を開けるための霊力を使い尽くして……、死ぬ」
小次郎叫「!! そんなことさせるか!機関を壊してでも止めてやる!」
アイン叫「止めて!現時点でも空中戦艦ミカサの六分の一のエネルギーがあると言えばわかる!?」
アイン叫「この状態で壊したら仮に彼女は助かっても貴方は死ぬわ!」
アイン叫「お願い、私と一緒に逃げて!遠からずこの空洞ごと機関が吹き飛ぶわ!」
小次郎叫「……アンタは、それでいいのか。バレス教授、と言ったな」
バレス焦「よくはない。だが、ドレフィス君に託されてはここから逃げるわけにはいかんよ」
小次郎焦「機関が臨界状態を越えたのは何故だ。アンタが何かしたのか」
バレス焦「いや、儂やアイン君が仕掛けた安全装置が解除されている。強力な霊力でな」
小次郎焦「霊力……?」
lipsエルザ自身がそう望んだのか この場に誰か他にいるのか>捜索に手間取る間に爆発してbadend
小次郎焦「まさか、エルザが、自分自身で暴走させているのか?」
バレス焦「エルザはドレフィス君に心酔しておった。自ら試験体となったのも彼あってのことだ」
小次郎焦「……」
バレス焦「トランス状態の中、ドレフィス君の死を感じて、自らが為さねばと思っているのだろう……」
小次郎常「どうして……いつもこうなるんだ……」
小次郎常「機関が吹き飛ぶと言ったな、アイン」
アイン焦「ええ……。機関から噴き出しているあの霊力が見える?既に近づくことさえ困難よ」
バレス焦「だが止めねばなるまい。エルザの気持ちは買うが、今のままでは破滅にしか繋がらぬ」
小次郎常「ならばその役目、俺がやろう。どうやればあの機関を止められるのか教えろ」
小次郎常「俺ならばあの妖力に突っ込んでもなんとかなる」
アイン焦「そんな……無茶すぎるわ」
小次郎常「俺を信じろ、アイン」
アイン焦「…………。わかったわ」
アイン焦「安全弁を何重にも掛けていたのに暴走しているから、手段は一つですね教授」
バレス常「……」
小次郎常「外部からの蒸気供給を根元から止めるのか?」
アイン焦「いいえ、エネルギーは魔界から入ってくるからそれでは無理よ」
アイン焦「あの子を、エルザの霊力を切り離すのよ」
アイン焦「被験者収容カプセルの正面ガラスを破壊して、直接霊子水晶伝達管を引き抜いて」
小次郎焦「わかりやすいな。じゃあいくぞ」
アイン驚「ちょっと……!素手で!?」
小次郎焦「ガラスは問題じゃない。行ってくる」
sound強風音
小次郎焦「(問題なのは、この膨大な妖力風だ……!)」
小次郎焦「(耐性の無い人間がこれを浴びては長く保たん……!)」
小次郎焦「(急がねばアインも……。これ以上、目の前で死なれてたまるか……)」
小次郎叫「エルザ!目を覚ませ!」
エルザ眠「(……!)」
小次郎焦「今のは……?エルザ、聞こえているか!」
エルザ眠「(……!……!)」
小次郎焦「邪魔をするなと言っているのか。そこまでしてフランスに尽くしたいか」
エルザ眠「(……)」
小次郎焦「だが、それは間違いだ。エルザ、この道はフランスのためにはならん」
エルザ眠「(…………)」
小次郎焦「かつて、お前のように考えた人がいた。だが、そのために帝都は今もなお災禍に見舞われている」
エルザ眠「(………………)」
小次郎焦「それは、本来人間が手を出してはいけない力なんだ」
小次郎焦「お前が死力を尽くして呼び寄せる力は、フランスを繁栄させるのではなく、破滅させる……!」
エルザ眠「(……!)」
小次郎叫「だから今からお前を止める。いいな、エルザ!」
soundガラスの割れる音
エルザ眠「(…………………………)」
小次郎焦「うおおおおおおおっっ!」
アイン驚「小次郎!」
小次郎焦「(聖魔城にも勝るとも劣らぬ妖力……、こんなものを野放しにはできん……~」
小次郎叫「これが、霊子水晶伝達管だな……!いくぞおおおおおおおお!!」
sound機械音
小次郎叫「よし……!これで……」
sound爆発音
bg白
小次郎叫「が……は……っ!」
bgカルマールの間
小次郎常「……止まった、か」
bg鳴動音
バレス常「ああ……止まった。だが……、今の爆発で支柱のいくつかが破損したようだ」
小次郎焦「まずいな。バレス教授、だったか。頼む、アインを連れてひとまずここから逃げてくれ」
cgアイン
アイン驚「何を言っているの、小次郎」
バレス常「……君はどうする」
小次郎焦「今ので身体の何カ所かをやられた。これでは走ることもままならん」
小次郎焦「すぐにでも崩落しそうなこの状況では、まず動ける奴が逃げろ」
小次郎焦「俺はなんとか出来る範囲でエルザの救出を試みる」
アイン驚「いやよ!貴方を置いて逃げるなんて!」
小次郎常「そう言うな、お姫様。お前の命は一人だけのものじゃない」
小次郎常「何のためにここまで来たのかも忘れたのか。あのばあさんも助けてこい」
小次郎常「とにかく全てを急げ。俺も後から行く」
if巴里華撃団メンバーの合計信頼度一定未満
アイン苦「小次郎……」
小次郎常「無事に帰ったらお姫様のキスの一つでもくれると約束しろ」
アイン苦「あんなことまでしておいて今更それを言うの?」
アイン笑「……いいわ。あなたがお姫様嗜好というならそれにつきあってあげる」
アイン叫「だから、必ず戻ってきなさい!」
小次郎笑「ああ……必ずな」
cgクリア
小次郎笑「……魂だけならば、人は死んでも祖国に戻れる」
小次郎笑「済まないな、エルザ。できればお前も助けてやりたかったが」
sound轟音
小次郎常「単身乗り込んできたのが失敗だったのは、俺も同じ、か」
小次郎常「だが、霊子櫓を止めて死ぬのなら、この俺を生かしてくれた意義はあったろう、雛」
小次郎常「ミキ、お前はこの巴里で生きてくれ……」
sound轟音
bg暗転
badend
else巴里華撃団メンバーの合計信頼度一定以上
sound轟音
小次郎叫「いかん!上層部の崩落が始まった!急げアイン!」
アイン叫「あなたもよ!それにエルザも!フォンも!みんな生きて帰るのよ!」
小次郎叫「それでは全滅する!お前とばあさんだけでも……」
小次郎叫「(上空から……、巨岩……!まずい!)」
アイン叫「小次郎!そこから逃げて!」
sound波濤音
グリシーヌ叫「グロース・ヴァーグ!」
sound燃焼音
ロベリア叫「フィアンマ・ウンギア!」
小次郎驚「……!」
アイン驚「…………!」
cgコクリコ
コクリコ叫「コジロー!アイン!助けに来たよ!」
小次郎驚「コクリコ……!?どうしてお前がここに!?」
コクリコ笑「ボクだけじゃないよ。ミキから聞いて、みんなを集めて来たんだ」
小次郎常「みんな……?」
cg花火
花火笑「またお会いできましたね、明智さん。……ぽっ」
小次郎驚「花火嬢まで……、こんな戦場まで来るとは無謀すぎます」
花火笑「いいえ、これは本来、私たちがしなければならないことなのです」
花火笑「巴里を守ること。私たちの仲間を助けること」
花火笑「それを、ここまでやって下さったことに、感謝してもし尽くせません」
小次郎常「エルザ救出はともかく……、そうですか。そういうことですか」
cgグリシーヌ
グリシーヌ笑「貴公の察しの通りだよ。我らは元々そういうものなのだ」
小次郎常「やはりさっきの声、グリシーヌだったか」
グリシーヌ笑「覚えておいてくれたとは光栄だな。それにしても日本の男というものは、どういうものなのだまったく」
cgロベリア
ロベリア笑「あー、化け物だろ。あいつもこいつも」
グリシーヌ常「フン、口の悪い奴め……」
ロベリア笑「貸し一つだぜ探偵。きっちり払って貰うからな」
小次郎笑「やれやれ、高くついたな」
小次郎常「ところで、一番いそうな者が一人いないんだが」
cgグリシーヌ
グリシーヌ常「正解だ。来る途中の牢獄で衰弱している老女がいたのでな。すぐに来る」
cgエリカ
エリカ叫「あー、明智さん!大丈夫ですか!」
グリシーヌ笑「来たか。エリカ……結局その老女をおぶってきたのか」
エリカ笑「はい、フォンさんはもう大丈夫です」
アイン笑「フォン!そなたも助かったのか……」
フォン笑「ああ……姫様、ご無事で……」
エリカ笑「次は明智さんをさっさと治療しちゃいましょう」
小次郎常「治療?……エリカは看護婦だったか?確か……」
エリカ笑「明智さん。驚かないで下さいね」
小次郎常「この上何を驚けと……」
bg白
sound治療音
bgカルマールの間
cgエリカ
小次郎驚「!?」
エリカ常「まだ痛みますか?明智さん」
小次郎驚「……いや、まったく痛みが消えている。すごいな。まさかまたこの力の持ち主に会えるとは……」
エリカ常「へ?私と同じ力を持った人に会ったことがあるんですか?」
小次郎常「ああ。……ずいぶん昔にな」
小次郎常「感謝する。結局誰かに頼らなければ人は何もできんのだな」
ロベリア笑「ずいぶんと殊勝じゃないか探偵。だが、誉めてやるよ。お前のおかげでエルザも助かりそうだ」
小次郎常「なんとかなりそうか」
コクリコ常「うん。霊力を相当消耗してるから早く帰って休ませないといけないけど」
小次郎常「そうか。ならばなおさらだな。急いで撤収するぞ」
グリシーヌ常「そうだな。先ほど私とロベリアが吹き飛ばしたがここはいつ崩落してもおかしくない」
小次郎常「(……やはりサフィールが偽名でロベリアが本名だったか)」
sound轟音
小次郎焦「言った傍からこれか!」
グリシーヌ叫「急ぐぞ!ロベリア、エルザを!」
ロベリア常「言われなくても担いでるよ」
花火叫「明智さん、そちらのお二人も!地上への通路はこっちです!」
小次郎焦「(メイリンとドレフィスの遺体は……諦めるしかないか)」
アイン常「教授!」
バレス常「……生き残れということか」
小次郎叫「ああ、とにかく引っ張っていくぞ!」
sound轟音
bg暗転
bgシテ島地上
cgミキ
ミキ笑「お兄ちゃん!」
小次郎笑「ミキ、約束通り帰ってきたぞ」
ミキ笑「うん……。よかった。お兄ちゃん……、よかった」
小次郎常「ただ、俺は日本大使館に連絡してくれ、と言ったはずなんだが」
ミキ常「あ……。うん、それなんだけど……」
小次郎常「そもそもシャノワールの代行としてあんたが俺に調査を依頼した、ということでいいんだな」
cgより子
より子笑「さすがは明智さんです。ということはシャノワールの素性も大方おわかりですね」
小次郎常「帝都の帝国華撃団に相当する組織なんだろう」
より子笑「ご名答」
小次郎常「まったく……、それを避けるためにミキのフランス行きを認めたというのに……」
cgフォン
フォン常「さて姫様、こうなった以上、明智殿には全てをお話なされ」
cgアイン
アイン常「……わ、わかっています」
アイン恥「小次郎……実は私は……」
小次郎常「説明はいらんよ。俺は別にお前の素性に頼まれたわけじゃない」
小次郎常「その顔が見られただけで、報酬としては十分だ」
アイン恥「な……、え……あ……」
ミキ叫「あー!お兄ちゃんがめずらしく気障な言葉を言ってる!」
小次郎叫「ミキ!人がせっかく良い感じで事件を締めようってのにお前はー!」
bg暗転
bgシャノワール貴賓室
迫水常「退役大佐が関わったということで、警察ではなく陸軍が捜索したんだがね」
迫水常「君の言った通り、被験者の少女とドレフィス大佐以下ディビジョンノワールメンバーの遺体は見つかった」
小次郎常「人数は」
迫水常「供述で得られた総メンバー数と合わないので若干名は生き残りがいるようだ」
小次郎常「赤城三郎の時に逃げた奴もいただろうしな」
迫水常「ただ、内閣諜報局のスパイだったモルガン・カミュの遺体は見つからずじまいだった」
小次郎常「(あの新聞屋、そんな名前だったか)」
グラン・マ常「早急に国境に非常線を張ったけど、ドイツに逃げられた可能性はあるね」
小次郎常「帰り道で遭遇ってのは勘弁して欲しいもんだな」
小次郎常「それで、教授とアインの扱いはどうなるんだ」
迫水常「君の嘆願もあって、二人について直接の刑罰が下ることはなさそうだ」
迫水常「おそらく皆、ドレフィスの計画に強制的に参加させられたということになりそうだよ」
迫水常「陸軍や政府内部でも、どこまで内通者がいたのか突き止めようとするとえらいことになるのでね」
小次郎常「死人に口無しか……」
迫水常「気に入らないかい?」
小次郎常「武人としては敬すべきところもあった男だからな」
小次郎常「だが、鉄壁の迫水がそう計らったのなら今更じたばたはせんよ」
迫水笑「そこまで誉められると照れるね」
小次郎常「どこまで把握していたんだか。最初から最後まであんたの掌の上にいた気がするぜ」
迫水笑「ひどいな。僕はそこまで極悪人ではないよ」
小次郎常「そもそもシュペングラーは花火嬢に同行していた。花火嬢の関係だから日本大使館が出てきたと思ったら」
小次郎常「シャノワール管轄の秘密部隊の外郭機関という落ちで、この貴賓室への招待だからな」
グラン・マ常「おや、このシャノワール貴賓室が気に入らないのかい」
小次郎常「居心地が良すぎて困る。そもそも貴女が俺を日本から呼んだことも計画のうちなのか?」
グラン・マ笑「さすがにそこの男ほど策士じゃないよ。ミキのことで話がしたかったというのが本音さ」
小次郎常「そう、その話だ。結局のところ、ミキにも霊力があったということか」
小次郎常「帝国華撃団に憧れている節があったからよもやと思ったが……」
グラン・マ常「アンタの見立ては正鵠を射ているよ。ミキとエルザの霊力は群を抜いている」
グラン・マ常「鍛えればエリカたちにも匹敵するくらいになる」
グラン・マ常「この巴里華撃団は人材不足でね。そんな人材を一人でも多く欲しいんだよ」
小次郎常「理不尽だな。アンタはミキの霊力ゆえにバックから引き上げたのか」
小次郎常「ダンサーとしての実力ではなく……」
グラン・マ常「帝国歌劇団のことを多少なりとも知っているアンタならわかるだろうけど……」
グラン・マ常「舞台にせよステージにせよ、そこに立っているからこそ魔を鎮めることができる」
グラン・マ常「ここは巴里を守るための最前線でもあるんだよ」
グラン・マ常「だけど、このイザベル・ライラックを見くびらないで欲しいね」
グラン・マ常「霊力だけで抜擢するほど私はステージを軽んじていないよ」
グラン・マ常「あの子はこの三ヶ月で私の想像を超えるほどの努力を積み重ねた」
グラン・マ笑「それを、ご覧に入れようと思ってね。この貴賓室に招待したんだよ」
メル笑「それではみなさん、お待たせ致しました。ただいまより当店の新星によるステージをお楽しみ頂きます!」
sound拍手歓声
小次郎驚「……」
グラン・マ笑「どうだい、ご自慢の妹のステージは」
小次郎驚「……ああ。確かに、俺は見くびっていたようだ」
小次郎笑「ミキとエルザの二人が、まさかここまで輝いて見えるなんてな……」
グラン・マ笑「一人ではあの子たちはここまで到達しなかったろう」
グラン・マ笑「あんな二人を育てたのは初めてだよ。いい子たちさ」
グラン・マ常「さて、保護者であるムッシュに頼みがある」
小次郎常「ここまで聞けば内容の推測はついているがな」
グラン・マ常「それじゃあ単刀直入に言おうじゃないか。ミキを巴里華撃団に欲しい」
小次郎常「………………俺が反対する意味はあるのか」
グラン・マ常「無いね。必要な人材なら親兄弟が泣きわめこうがスカウトするよ」
グラン・マ常「ミキは既に経済的にはアンタから自立している。自らの去就は自ら決める権利がある」
小次郎常「さすがは自由の国フランスだ」
グラン・マ常「ただ、気分の問題さ。どれほど華やかに飾ったところで戦場へ連れ出すんだ」
グラン・マ常「保護者であるムッシュが反対していると、ミキにはよくない」
グラン・マ常「アタシも寝覚めが悪いしね」
小次郎常「…………」
小次郎常「ミキはかつてな、帝国陸軍対降魔部隊に命を救われている」
迫水驚「何!?」
小次郎常「華撃団の前身に命の借りがある。ならば」
小次郎常「その力が必要とされたときには、誰かを助けなければならん」
グラン・マ常「……権利と義務の考え方だね。嫌いじゃないよ」
小次郎常「思えば偶然なのかどうかもわからんな。素養があったから降魔に狙われたのかもしれん」
迫水常「……ふむ、すみれの例を考えればあり得る話だな」
小次郎常「霊子甲冑に乗って魔物と戦うのは、思えばミキが本来為すべきことなのだろう」
小次郎常「アンタに頼まれれば、ミキは受け入れてくれるだろう」
小次郎常「俺の役目はようやく終わったということだ。ならば反対などできん」
小次郎常「イザベル・ライラック殿。迫水典通殿」
小次郎常「……私が託された最愛の妹を、あなた方に委ねます」
グラン・マ常「私の名に賭けて、明智小次郎、ムッシュの育てた最愛の妹の命を受け取った」
迫水常「娘を持つ父親の気持ちだろうが、私もわかるつもりだ」
迫水常「感謝するよ、明智くん」
小次郎笑「……」
小次郎悲「……」
エルザ笑「皆さんありがとう!」
ミキ笑「これからもよろしくお願い致します!」
小次郎悲「なあ……。それで、いいだろう……?」
bg暗転
bg小次郎のアパート
ミキ常「うん、これで全部かな」
cgミキ
ミキ常「本当に荷物これだけでいいの?お兄ちゃん」
小次郎常「野郎の一人旅なんてこんなものだ。来るときだって大した荷物はない」
ミキ常「巴里土産も何も無しで……?」
小次郎常「いらんよ。記憶に留めることができればそれでいい」
小次郎常「それより、シャノワールの面々にはちゃんと伏せているんだろうな」
ミキ常「うん……、何もこっそり帰らなくても……」
小次郎常「脇役はこっそり退場すればいいんだよ。お前に知られただけでも不覚だ」
ミキ笑「お兄ちゃん、私に隠し事できると思うなんて見くびらないでね」
小次郎常「やれやれ。さて、行くか」
cgクリア
bgアパートの外
cgアイン
アイン常「…………」
ミキ笑「……」
小次郎常「……………………」
小次郎常「おい、ミキ」
ミキ笑「なあに、お兄ちゃん」
小次郎常「どういうことだ、これは」
ミキ笑「うん。確かに、シャノワールのみんなには、何も言わなかったよ」
小次郎悩「………………」
小次郎悩「ミキ……」
ミキ笑「お兄ちゃん、私は先に駅に行ってるからね」
小次郎悩「……わかった」
アイン常「…………」
アイン常「理研をやめることにしたわ」
小次郎常「理研を、か。バレス教授はなんと言っていた」
アイン常「慰留されたけど、最後には納得して頂いたわ」
アイン常「フランスから離れても研究を続けることを条件にね」
小次郎常「まだ続けるつもりか。蒸気機関の研究を」
アイン常「止めないわ。あなたの言う危険性は分かったけど、ならばこそ止められないのが研究者なのよ」
小次郎常「取り憑かれたというわけではなさそうだな」
アイン常「ええ。むしろその逆。既に第二世代蒸気機関は先進国において必須になっているもの」
アイン常「代替手段も無しに全廃なんて出来るはずもないし、植民地は宗主国に追いつけなくなるわ」
アイン常「科学技術がどれほど世界を作り替えようと、それを正すことができるのも科学なのよ」
小次郎常「ならば、期待していいんだな。魔界のエネルギーを使わない時代が来ることを」
小次郎常「そう約束してもらえなければ、今度こそ力尽くでもお前を止めるぞ」
アイン笑「もちろんよ。でも、それはそれで魅力的な脅しね」
アイン笑「約束するわ。近くでしっかりと私が暴走しないか監視してね」
小次郎悩「近く?」
アイン笑「ええ。バレス教授に紹介状を書いて頂いたの。私の次の所属先はね」
アイン笑「帝大理学部物理学科よ」
小次郎驚「なにいいいいいいい!?」
アイン笑「帝大物理学科には二十世紀の技術論の著者山崎真之介の論文を受けた教授がいるのよ」
アイン笑「四度の霊的災厄に見舞われた帝都なら、実測のための環境としても申し分ないわ」
小次郎常「……それだけじゃないがな」
アイン笑「着任は来年の四月からだけど、年明けには帝都に移住して準備するわ」
アイン笑「というわけだから、一足先に帰国して、住居の手配をお願いね」
小次郎呆「……………………」
アイン常「何か不満でも?」
小次郎常「いや……」
小次郎笑「そうだな、そんな未来の到来をすぐ傍で見るのも悪くない」
アイン笑「……」
アイン笑「さあ、そろそろ行きましょうか。名残惜しいけど今日は駅までの見送りで我慢するわ」
bg巴里駅ホーム
cgミキ
ミキ笑「あ、お兄ちゃん、アインさん、やっと来た」
小次郎常「まったく……。大体、どこでアインと連絡を取るようになったんだ」
ミキ笑「お兄ちゃんが大聖堂から生還した後だよ。この人なら大丈夫だって思ったの」
小次郎常「……ということは、来年からの事情も」
アイン笑「ええ。ミキさんには先に了承済みよ」
ミキ笑「ね」
小次郎呆「おまえら……」
ミキ笑「お兄ちゃんのことはよくわかってるつもりだけど……」
ミキ笑「あのときからお兄ちゃんはずっと、私のために生きてきた」
ミキ笑「でも、もう私は大丈夫だから。だから、お兄ちゃんもこれからは自分のために生きて」
小次郎常「ミキ……」
sound汽笛
小次郎常「……時間か。ミキ、また格上げされたら手紙をよこせ」
ミキ笑「うん。こまめに書くからね」
小次郎常「ただでさえ頑張っているんだから、そんなことを頑張らなくていい」
小次郎常「アイン、俺の住所はミキに聞け。こちらからは追って連絡する」
アイン笑「頼りにしてるわ。……またね」
小次郎常「またな。二人とも」
ミキ笑「またね、お兄ちゃん」
cgクリア
bg車内
小次郎常「帰りの座席は特等車か。ライラック夫人もそこまでしなくてもな……」
????「……また会おう、明智くん」
小次郎驚「……!?」
小次郎常「……いまの声は……」
小次郎常「やはり、生きてたか。やれやれ……。まあ、また会うこともあるだろう」
sound汽笛
sound車輪音連続
cgエビヤン
小次郎常「あれは……エビヤン警部。わざわざ見送りとは、律儀な御仁だな」
エビヤン常「……」
小次郎常「……ん?向こうを見ろ、と言ってるのか?」
bg巴里華撃団見送り
小次郎笑「……ミキのやつ、結局黙っていなかったのか。あいつめ……」
小次郎笑「感謝する。ありがとう、巴里華撃団。ミキを頼む……」
goodend1
★
else<初日にコレットにベルナデッドについて聞いていない。又は二日目に白薔薇と詩集を受け取っていない場合・通常ルート>
小次郎焦「……ありがとう。推理が揃ったらまた来ると思う」
コレット常「……申し訳ありません」
小次郎常「いや、こちらこそ済まなかった。自らの責務に誠実な人は尊敬する」
cgクリア
bg巴里の町並み
小次郎常「(少しじっくり考えるか……)」
小次郎常「(この黒薔薇……なんらかの加工がされている。でないと延髄を貫けないだろうが)」
小次郎常「どうもわかるようでわからんな……。急がねばならんが手がかりが足りない」小次郎常「さて、今夜はバーに行くべきか否か。アインは連れ去られているしな」
小次郎悩「マスターに会うのは気が重いな」
select今日は帰る バーに行く>クロード・ギャロスルート?orベルナデッドのヒント?
小次郎常「考えが纏まらない……一旦アパートに帰るか。伝言が届いているかもしれないしな」
bgアパート内
if二日目に白薔薇と詩集を受け取っている
小次郎常「そういえば詩集を渡されていたんだったな」
小次郎常「迷ったときに助けになる詩でもあればいいが……」
bg白薔薇
小次郎常「そういえば、こんなものを渡されていたな」
小次郎驚「……!!」
小次郎驚「まて……これは!」
bg白薔薇と黒薔薇
小次郎驚「まったく、同じ形状だ……。どういうことだ、この黒薔薇は世の中に知られていないはず」
小次郎驚「白薔薇はベルナデッドが花屋で買ったものだと言っていた……」
小次郎驚「そういうことか……。この品種は本来白薔薇で、黒薔薇になる品種じゃないと……」
小次郎驚「ベルナデッド……!お前が真犯人か……!」
ifout
else二日目に白薔薇と詩集を受け取っていない
小次郎常「さて、こんなときお前ならどうする……」
小次郎常「こんな俺が他称名探偵か……。看板倒れも良いところだ」
elseout
soundノック
メル叫「明智さん!いらっしゃいますか!」
小次郎驚「メル嬢!?」
メル叫「大変です!ミキさんが、ミキさんが攫われました!」
小次郎驚「何!?」
bgアパートの外
bgメル
小次郎驚「攫われた!?ついさっきなんだな。どんな奴にだ……」
メル悩「それが……、一瞬だけ見えたあの姿は確か……ベルナデッド・シモンズ……」
小次郎驚「あいつが……!」
小次郎常「現場に何が残されているかわからん。駆けつける最中に悪いが状況を教えてくれ」
メル常「わかりました。15分ほど前のことです」
メル常「突然ミキさんの部屋から物音がして、直後にミキさんが誰何の声を上げたのが聞こえました」
メル常「私とシーがすぐに部屋に駆けつけたとき、ミキさんが丁度昏倒させられたところでした」
メル常「侵入者は黒い日傘で顔を隠しつつ、ミキさんを宙に浮かせました」
メル常「そこへシーが手近にあったミキさんの文鎮を侵入者に投げつけ、日傘が破れました」
メル常「そのときに私が見た顔が、間違いなくベルナデッド・シモンズのものでした」
メル常「彼女は私たちに顔を見られたことを確認すると、その場でミキさんとともに姿を消失させました」
小次郎常「……窓の外に飛び降りたとかではなく、その場から姿が消失した、のだな」
メル常「はい……」
小次郎常「(ならば、ロベリアの推察通りか。自分の身体だけを透明にしているのではない)」
bg寮前
小次郎常「……入らせてもらうぞ」
メル常「ええ、仕方がありませんから調べて頂きます」
bgミキの部屋
小次郎常「ミキの部屋は二階……。一階の階段の前には警備員が詰めているか……」
シー常「警備の人は、その前30分間に不審者が入口を通った形跡は無かったと証言していますぅ」
小次郎常「だとすると窓から侵入か。俺のときに失敗して作戦を変えてきたな」
メル常「窓から、傘を持ってですか?」
小次郎常「ミキを宙に浮かせていたんだろう。自分を浮かせるぐらいのことはできる念動力はあるだろうさ」
メル驚「明智さんって、どんな犯罪者を追いかけていたんですか。普通の探偵の考えじゃありません」
小次郎常「これでも闇に両脚を突っ込んだことがある人間でな……」
小次郎常「犯行声明などは無しか。ミキを攫ったのは俺への当てつけかと思ったが、違うようだな」
メル常「どういうことですか?」
小次郎常「奴らはミキが俺の妹だから狙ったんじゃない。ミキ本人に用があって攫ったんだ」
シー常「エルザさんに言うことを聞かせるためじゃないでしょうかぁ」
メル常「そうですね……。エルザさんは納得いかなければ梃子でも動かないでしょうが、ミキさんを介してなら」
小次郎常「(本当にそうか?俺が最後に会ったときのエルザの態度を考える限り……)」
小次郎常「(エルザは自発的に奴らに協力している。エルザのためにミキが要るとは思えない……)」
小次郎焦「(不吉な予感がする……)」
小次郎焦「(とにかく巴里の俺にはつてが無い……。奴らに繋がりそうな手がかりは……)」
select
ベルナデッドの居場所を探す バーでマスターに尋ねる 理学研究所に向かう
★