アインシナリオ・五日目第二ルート
select バーでマスターに尋ねる(ベルナデッドによるミキ誘拐直後)
小次郎常「そういえばマスターの話を聞いていなかったな……」
メル常「マスター……?レナードさんことでしょうか」
小次郎常「名前は聞いていなかったはずだが、情報通のマスターだ」
小次郎常「エルザが身につけていたブローチについて、昨日今日には調べがつくといっていた」
小次郎常「他力本願ばかりだが、やむを得ん」
小次郎常「なんとかパピヨン孤児院の場所がわからないか当たってみることにする」
小次郎常「ことの発端がエルザにある以上、孤児院でなんらかの手がかりがえられるはず……」
メル常「わかりました。私たちも独自に孤児院の場所を調べてみます」
シー常「オーナーに深入りするなって言われてるんですけど、こうなったらもう気にしません」
小次郎常「頼む……」
メル常「いえ、こちらこそ、どうか私たちの仲間をお願いします」
シー常「ええ、エルザとミキを、必ず救い出して下さい」
小次郎常「そうだったな。あいつはもう俺だけのものじゃなかった」
小次郎常「お互い、全力を尽くそう」
bg夜の街
小次郎常「さて……、俺もできるだけのことをしなければな」
小次郎常「念のため、エビヤンには言っておくか」
小次郎常「万が一、何らかの狙いで開放されるかもしれんしな」
bg警察署
cgエビヤン
エビヤン常「なんだと!この巴里で白昼堂々婦女子を誘拐とはふざけたことを!」
小次郎常「そんなわけだから、東洋人の少女が見つかったら俺のアパートに連絡を頼む」
エビヤン常「……わかった。部下たちには伝えておく」
エビヤン常「済まない、明智くん。まさかこんなことに巻き込んでしまうとは……」
小次郎常「あんたが巻き込んだんじゃなくて、敵さんが勝手に巻き込んだんだから気に病むな」
エビヤン常「うむ……、しかし、なんとも無念だ」
エビヤン常「肝心の事件には我らは動けぬだけでなく、こうして第二第三の事件を見逃すことになるとは」
小次郎常「奴らも焦っているのだと思うさ。こちらはやるだけやってみる」
エビヤン常「頼む……」
cgクリア
bg警察署外
小次郎常「そろそろバーが開く時間だな……」
bg路地裏
bgバー
cgレナード
レナード常「ずいぶん早い訪問だな」
小次郎常「済まないが待っていられなくなった。急いで情報が欲しい」
レナード常「店に来てただでメニューを食べようとは感心しないな。まずは状況の変化を話せ」
小次郎常「……わかった」
bg暗転
bgバー
小次郎常「こうなると一番有望な手がかりはやはりパピヨン孤児院ということになる」
レナード常「なるほどな。ノワール・フルーレが直接出てきたとなると向こうも本気だろう」
レナード常「一昨日の話の続きだがな、例の蝶のブローチ、どこで見たのかを思い出した」
小次郎常「メイリン以外で……、どこだ!?」
レナード常「この街を取り仕切っているクロード・ギャロスというギャングがいるんだが……」
レナード常「前に会ったとき、そいつの側近である若い女が、同じ物を付けていた」
小次郎常「パピヨン孤児院の、生き残りか……!」
レナード常「えらい美人だったが、奴の情婦にしては趣味に合わない若さだったので印象に残っていた」
小次郎常「ということは、霊力保持者としてそのギャングに仕えていると?」
レナード常「その可能性はかなり高い」
小次郎常「どこに行けば会える?」
レナード常「難しいな。アジトを知らんわけではないが、お前にそれを明かすわけにはいかん」
小次郎常「……情報通としてのアンタの立場は理解するが、何か方法はないか……」
レナード常「奴に近いところとなるとな……」
小次郎常「いつもここで飲んでるあいつらは?」
レナード常「あいつらは裏の人間じゃない。クロードについては噂程度しか知らん」
小次郎常「ギャングのボスなんだろう。賭博場などに出入りしているということはないのか?」
レナード常「ふむ。悪くない着眼点だが……、お前一人でカジノに突っ込ませると命の保証ができんな」
小次郎常「二人なら問題ないか?」
レナード常「言っておくがエビヤンと一緒に突っ込むというのは止めるぞ」
小次郎常「いや、有名な悪魔に声を掛けてみる」
レナード笑「……なるほど。優秀な案内役だな。せいぜい焼かれんように気をつけろ」
小次郎常「それで、そのパピヨン孤児院出身者の名前や特徴はわからんか?」
レナード常「見ればわかる。明らかに奴の取り巻きとは身に纏った気配が違いすぎる」
レナード常「それに加えて蝶のブローチを付けているんだ。間違えようがない」
小次郎常「わかった」
bg路地裏
小次郎常「さて……、この時間にサフィール、いやロベリアに連絡をとるとなると……」
小次郎常「……働いてもらうか」
bg日本大使館室内
cgより子
より子怒「それで、どうして私の所にいらっしゃるわけですか」
小次郎常「いるんじゃないかと思っていたが、こんな深夜にまだ仕事をしてるとはな」
より子常「うちの大使は仕事をしないことで定評がありますので……」
小次郎常「大使の仕事をな。どう見ても他の仕事をしているようにしか見えない」
より子常「……何をおっしゃりたいのですか」
小次郎常「この巴里に来てから、俺の霊力者との遭遇率は異常だ」
小次郎常「帝都ではそう簡単に出会えるものじゃない」
小次郎常「帝国華撃団にさぐりを入れた時以外はな」
より子常「…………ずいぶんと危険を冒していらっしゃるのですね」
小次郎常「元々の話からしておかしかった。何故、花火嬢はシュペングラーと同行していた?」
小次郎常「日本大使館の目的は、その花火嬢の安全を確保するため、ということで話を受けたが……」
小次郎常「シャノワールの周囲には、霊力者が多すぎる。エルザに、そして俺の妹もな」
より子悲「ミキさんは……」
小次郎常「攫われたよ。敵方の暗殺者がわざわざ姿を現してな」
より子驚「姿無き暗殺者が、暗殺ではなく誘拐ですか?」
小次郎常「驚き方が生ぬるい。多分メル嬢から連絡が来ていたんだろう?」
より子常「…………さすが、探偵明智小次郎。私の憧れていた姿以上ですよ」
小次郎常「こんなもの推理じゃない。単に帝都の状況を当てはめただけだ」
より子笑「ご謙遜を。シャノワールの正体だけならまだしも、ここに行き着くのは貴方の推理でしょう」
より子常「それでシャノワールの外部機関であるこの日本大使館に、いらっしゃったと」
小次郎常「サフィールと言った方がいいのか、ロベリアと言った方がいいのか……」
小次郎常「あいつの力を借りるには、アンタに連絡を取って貰うのが一番早そうだ」
小次郎常「コクリコをこんな時間にたたき起こすわけにもいかんしな」
より子常「お優しいのですね」
小次郎常「ミキより年下だからな。……ただ、あの子もそうなのか」
より子常「機密事項につきお答えできかねます」
小次郎常「ベルナデッドといい、コクリコといい、まったく……どいつもこいつも」
小次郎常「で、ロベリアに、巴里の悪魔に連絡は取れるんだろうな」
より子常「幸か不幸か、彼女は今奉仕活動中ですので連絡はすぐに取れます」
小次郎常「脱獄の推奨は気が進まないからな。助かる」
より子常「しばしお待ち下さい。呼びつけますので」
小次郎常「……怖いな」
cgクリア
小次郎常「呼びつける、か。携帯蒸気無線機でも持たせていなければできない芸当だな」
小次郎常「帝国華撃団と同程度の組織ならばわからなくもないが」
cgより子
より子常「来るそうです。ただし、相応の支払は覚悟しておけ、との捨て台詞付きで」
小次郎常「命か魂まで取られはせんだろう」
bg暗転
bg日本大使館室内
cgロベリア
ロベリア常「真夜中に女を呼び出すとは、アンタも隅に置けないね」
ロベリア常「大方、そこの堅物女じゃ満足できなくなったかい?」
より子怒「あなたは……!」
小次郎常「わざわざ来てくれたご本人にそれを言われると恐縮だな。実は深夜のデートを頼みたいんだが」
ロベリア笑「フン、二人揃って行き先が地獄のどん詰まりと聞いてるけど、本気かい」
小次郎常「地獄の親戚なら見て来たからな。別に構わんさ」
ロベリア常「いいだろう。付いてこい。確かにクロードならカジノにいる可能性が高い」
ロベリア常「だが、アタシの指示には絶対に従え。下手を打つとセーヌに浮かぶことになる」
小次郎常「心得た」
より子常「明智さん、どうかお気を付けて……」
bg暗転
bgカジノ
小次郎驚「……こ、これは……」
ロベリア笑「ククク、アンタのそんな顔が見られるとはね。それだけでも連れてきた甲斐はあったよ」
小次郎驚「(広い……。それにこの雰囲気……。日本の賭場とは違いすぎる……フランス恐るべし……)」
ロベリア常「さて、楽しんでばかりもいられないな」
ロベリア常「クロードが居るならその部下も既に各所にいる。田舎者丸出しでキョロキョロすると舐められる」
小次郎常「……心得た」
ロベリア常「多分こっちだ。ついてきな」
小次郎常「金を払わなくていいのか?」
ロベリア常「アンタ一人ならいるが、これでもアタシはここの常連でね。顔は利く」
小次郎常「(……いいのか?巴里の歴史的犯罪者が……)」
ロベリア笑「大体アンタが何を考えているかわかるが、要はそういうところなんだよ」
小次郎常「わかった。気をつけよう」
cgクロード
小次郎常「……あそこでブラックジャックをやっているのがクロードか?一人雰囲気が違う」
ロベリア常「そうだ。となると……」
cgバルカ
小次郎常「(ここからでは蝶のブローチは見えないが……あの女性が、おそらくマスターの言っていた)」
小次郎常「(北アフリカ系の出身のようだが……フランスはアルジェリアを支配していたな)」
ロベリア常「フン……、あの女で間違いなさそうだね」
小次郎常「どうする?」
ロベリア常「あそこまでがっちりクロードの傍にいたんじゃ小細工は無理だ。正面から行く」
小次郎常「了解した」
cgクロード
クロード常「ほう、不吉な顔があるな」
ロベリア常「そういうそっちは景気が悪そうだね」
クロード常「軍人が街中に出張るとギャングはあがったりでな。こんなところにいるしかない」
ロベリア常「ほう……さすがに把握していたか」
クロード常「お前の妙な善行も聞こえて来ているぞ。悪魔が堕落して天使にでもなりたいのか」
ロベリア笑「ククク、天国にでも連れてって欲しいのか?あいにくアンタは地獄行きだよ」
クロード笑「最後の審判で天国に行ける奴がカジノなんぞに来るか。ここの全員地獄行きだ」
ロベリア笑「珍しく気が合うじゃないか。そのついでに話を聞いて欲しいんだがね」
クロード常「そいつは貴様の妙な善行に関することなんだろうな?」
ロベリア常「もちろん、そういうことだ」
クロード常「なるほど、そこの東洋人が話題の探偵だな。さすがに部屋を変えるか」
ロベリア常「そいつは賛成だが、そこの女にも同行して欲しい」
クロード常「何?こいつをか……?」
クロード常「……なるほど、そういう話か。おい、構わないか?」
バルカ常「構いません。御意のままに」
小次郎常「(……ボスがわざわざ、了解を取った?)」
ロベリア常「どういう風の吹き回しだい……」
クロード常「こっちだ。三人とも来い」
bg別室
ロベリア常「懐かしい部屋だね」
クロード常「あの貴公子を殺さずに済んだのは、今思えば僥倖だったな」
クロード常「で、パピヨンがどうしたって?」
ロベリア驚「!……貴様」
小次郎驚「……クロードさん、どこまで状況を掴んでいるんだい」
クロード常「さあな。俺も実のところどこまで掴んでいるのかわからなくなった」
クロード常「糞ドイツ野郎をノワール・フルーレが片付けた、まではよかったようだが」
クロード常「ディビジョン・ノワールが大挙して動くとなると話は別だ」
クロード常「軍人くずれなんざ妄執に駆られた連中ばかりだ」
クロード常「止めねばならんが、何をやらかそうとしているのかさっぱり読めなかった」
クロード常「だが、このバルカに話を聞きに来たということは、手がかりはあるんだろう?」
バルカ常「……」
ロベリア常「クロード。お前、そこの女が何者かわかっているんだな」
クロード常「わかっているともわかっていないとも言える」
クロード常「ただ、今のこいつは俺の娘だ。それで俺にとっては十分だ」
ロベリア驚「は?」
クロード常「もう何年になるか。雨の中一人で彷徨っていたこいつと会ったのは」
クロード常「そのときは裏事情もわからなかったが、とにかく俺はこいつが気に入った」
クロード常「いい女になると思ってな。俺の目に狂いは無かったろう?」
ロベリア常「それだけで済むはずがあるか。お前ともあろう奴が、そいつの扱いは異常だ」
クロード常「さすが、悪魔は疑り深いじゃねえか。話が変わったのは昨年の騒動だ」
ロベリア常「……」
クロード常「あの大樹の周りを取り巻く化け物に、俺たちも例外なく襲われた」
クロード常「そのときに、こいつは初めて霊力を発現させて俺たちを守った」
ロベリア驚「カラミテを、生身で撃退しただと……?」
クロード常「信じられんのも無理はないが、俺の名に賭けてこれは嘘じゃねえ」
ロベリア常「……電撃系能力者か。確かに希有ではある」
クロード常「ほう、どうしてわかった?」
ロベリア常「バルカ……。確か北アフリカのヌミディア人の言葉で、雷光……」
クロード常「ずいぶんと博識じゃないか。そう、事件の後で俺が与えた称号だ」
クロード常「それ以来、こいつは俺の家族の中でも特別になった」
ロベリア常「なるほどな。格に五月蠅いお前の取り巻きがこの位置を認めるとは尋常じゃないと思ったが」
クロード笑「だが、そうなると生まれの両親がこいつを連れて行ってしまわんかと心配になってな」
ロベリア常「今度こそ大嘘吐きやがって……」
クロード常「親心ってのはお前もそのうちわかるようになるさ」
ロベリア常「それで、どこまで調べてくれたんだ?」
クロード常「パピヨン孤児院という存在と、そこにいたことまでは突き止めた」
クロード常「俺にとってはそれで十分だ。政府や軍が何を言おうと、こいつはもう俺の娘だ」
クロード常「だから、退役軍人らしい奴らが来たときは大して気にせず突っぱねたんだが……」
クロード常「どうやら、それがこの一件の前触れだったようだな」
クロード常「これだけ答えてやったんだ。今度はこちらの質問に答えろ」
クロード常「何が起こっている?パピヨンに関することでな」
ロベリア常「……おい、話せるだけ話してやれ」
小次郎常「ああ。まず確実にわかっていることから言おう」
小次郎常「パピヨン出身者が少なくとも二人、行方不明になっている」
小次郎常「一人は数ヶ月前。もう一人は数日前だ」
クロード常「俺のところには一ヶ月前だ。一連の流れだな」
バルカ常「……二人の番号は?」
小次郎常「一人目は04。二人目はおそらく07だ」
バルカ常「二人とも成績優秀者だ」
小次郎常「やはり、ブローチに追跡機能があるというのは間違いなさそうだな」
クロード常「それで、首謀者の名前は判明してんのかい?」
小次郎常「ほぼ間違いなく、ドレフィスという」
クロード常「……やはりディビジョン・ノワールの奴らか」
クロード常「当分大戦って気分でもないのに、今頃招集して何をやらかすつもりだ」
小次郎常「ここからは俺が調べた範囲での想像になる」
クロード常「構わん。話せ」
小次郎常「おそらく、霊力者を使って、強力なエネルギー機関を実施しようとしている」
ロベリア常「……」
クロード常「根拠は?」
小次郎常「並行して、元軍人たちによって霊子科学者が行方不明になっている」
小次郎常「その霊子科学者が行方不明になる前に、不穏なエネルギー話を聞いた」
小次郎常「世界中のエネルギー問題を解決するような、途方もない話をな」
クロード常「フン……、そんなことのために俺のバルカを使う気だったとはな」
クロード常「ドイツ野郎共がやった失敗を、このフランスが後追いでやろうってか」
クロード常「気に入らないな」
小次郎常「04と07は成績優秀と言っていたな。それは、霊力が、だな」
バルカ常「そうだ。特に銀髪に翠の眼をしていた07は優秀だった」
クロード常「それで、そこまでわかっていて、バルカに何を聞きに来た?」
小次郎常「奴らの根拠地を探している。それは、場所を秘したというパピヨン孤児院が最も有力だ」
小次郎常「パピヨン孤児院が解散になったとき、場所すら不明にして散らされたとは聞いている」
小次郎常「それでも、パピヨンにいた君ならば何か場所の手がかりを持っていないか」
バルカ常「……」
バルカ常「無いわけでは、ない」
小次郎常「……それは、困難なのか」
バルカ常「パピヨンにいた頃、私は一度だけ脱走を試みたことがある」
小次郎常「周囲に何があったか、覚えているのか」
バルカ常「いや……、覚えていない。おそらく何らかの催眠術を掛けられたのだろう」
ロベリア常「ちっ……、ありそうなことだ」
バルカ常「だが、私は確かにパピヨンの周囲を見ている。追跡は可能だろう」
クロード常「……アイツに頼むのか。だが確か今はオペラの真っ最中だろう」
バルカ常「はい。ですからボスのお力で、オペラ終了後すぐに彼女に渡りを付けて下さい」
クロード常「お前の頼みとあれば仕方がない。ずいぶんと入れ込むじゃないか」
バルカ常「07は好きでしたから」
クロード常「ふむ……、そういった話も気になるが、今は急ぐべきだな。行くぞ、お前ら」
ロベリア常「どこへだ?」
クロード常「オペラ・ガルニエだ」
ロベリア常「あいつか!」
小次郎常「?」
bgオペラガルニエ外観
小次郎常「一度観に来たいとは思っていたが、まさか公演が終わった時間に来ることになるとは……」
クロード常「兄さん、公演に興味がおありなら、別に俺が手配してやってもいいが……」
クロード常「こんな風に裏口から入るより、そこの女のボスに頼んだら堂々と表玄関から入れるぜ」
ロベリア常「そんな話をいちいちあいつにしろとでも言うのか。やってられるか」
bgオペラガルニエ室内
cgカトリーヌ
カトリーヌ常「お待ちしておりました。本来なら占い師としての私はここにいるはずはないのですけどね」
クロード常「明日の昼に広場で聞ける話じゃなさそうなんでな」
カトリーヌ常「貴方が私に無理を頼みに来る時は、このパリに大乱が起こる時……」
カトリーヌ常「聞かぬわけにもいかないでしょう」
クロード常「済まないな。この借りは忘れんよ」
カトリーヌ常「お戯れを。この街の影に生きて貴方に借りの無い者などおりますまいに」
カトリーヌ常「さて、この占い師に道を尋ねに来たのは……、そちらのお嬢さんですか」
クロード常「本気でやってくれて話が早い」
バルカ常「バルカとお呼び下さい。ボスの護衛としては幾度かお目に掛かっておりますが」
カトリーヌ常「覚えておりますよ。貴方ほどの星を見ずにいることは難しいもの」
バルカ常「それでは、お願い致します」
カトリーヌ常「見るべきものは……、そう。構わないのね?」
バルカ常「構いません。今はただ、私が閉じ込められていた場所を知らねばなりません」
カトリーヌ常「心を強く持って……」
小次郎常「(……水晶玉の中に、何かが揺らめいて……?)」
バルカ苦「……く……あ……!」
小次郎常「(あれは……、昔のエルザと、このバルカか……?)」
バルカ苦「……嫌……!嫌……あっ!」
小次郎常「(孤児院から……脱出して……)」
バルカ苦「ああああああああ!」
クロード驚「……まさか、こんなところにパピヨンが……!」
ロベリア驚「……あり得ない。こんな巴里の近くにあるのに、秘匿できたはずが……!」
カトリーヌ常「見えましたか」
バルカ常「…………はい」
クロード常「よく耐えた。パピヨン孤児院の場所は解ったぞ」
バルカ笑「はい……、ありがとうございます……」
ロベリア常「確かにわかったが……、こいつは一筋縄ではいかないぞ」
クロード常「何故だ?」
ロベリア常「アンタもおかしいと思っただろう。こんなところにあって見つからないはずがないんだ」
クロード常「……確かにな」
ロベリア常「これは推測だが……、アタシならここに、人払いを掛ける」
クロード常「魔術か?」
カトリーヌ常「妖精郷を実現する、と言えばわかりやすいでしょう。そこにあるのに人が知覚できないようにするのです」
小次郎焦「それでは、パピヨン孤児院に到達することはできないということか?」
ロベリア常「あることがわかっていれば、術を上回る精神力や霊力で到達しようとすれば突破できる」
小次郎常「あとは、術者との実力勝負か……」
ロベリア常「そういうことだ。まさかここで引き下がるなんて言わないだろうな」
小次郎常「愚問だ。何が何でも到達してやるぞ」
クロード常「本当なら俺もこのままにはして置けんところだが……」
クロード常「バルカを連れて帰らねばならん。業腹だが任せるぞ、巴里の悪魔」
ロベリア常「任せておきな。悪魔に魂を売った気でいるといい」
bgオペラガルニエ外観
cgロベリア
ロベリア常「さて、大体の位置はわかったが、一応の準備はしておきたいところだね」
小次郎常「敵の本拠地となるとさすがに慎重だな」
ロベリア常「当たり前だろう。昨日叩き潰したアジト程度じゃまず済まない」
小次郎常「秘密兵器でもあるのか?」
ロベリア常「できれば使いたいところだがね。せいぜい爆薬とか武器の調達くらいだよ」
小次郎常「俺は使い慣れない武器を持ってもしょうがないな」
小次郎常「バーで待っているから準備が終わったら来てくれ」
ロベリア笑「アタシのアジトに来ようって気にはならないのかい?」
小次郎笑「お前が、そう簡単に他人に自分のアジトをさらけ出すようには見えないな」
ロベリア笑「身の程をわきまえているじゃないか。この襲撃が成功したら招待してやらなくもないよ」
小次郎笑「それは魅力的な報酬だな。祝勝会の準備もしておいてくれよ」
ロベリア笑「ククク、時間があったら本気でやってるところだよ。じゃあ後でな」
cgクリア
小次郎常「さて、バーに行くとなると……、あの男はいるかな」
bgバー
レナード常「ほう、取り殺されずに生きて帰ってきたか」
小次郎常「ああ。収穫十分だ。済まないが待ち合わせに使わせてもらうぞ」
レナード常「あいつが来るのか。やれやれ……」
小次郎常「あと何か食えるものを頼む。酒は飲んでいられないから後にしてくれ」
レナード常「バーに来て不届きな注文をしているな」
酔客1「おお、まだ生きていたか、探偵」
酔客2「ここ数日騒ぎがあったようだが、お前が関与してるだろ」
小次郎常「俺は巻き込まれているんだよ。文句なら軍人どもに言ってくれ」
酔客1「色々やっているようだが、一つ頼んでいいか」
小次郎常「捜査の依頼なら今は受けれないぞ」
酔客1「積極的に動かなくてもいい。もしメイリンを見つけることがあったら、ここに来るように言ってくれないか」
小次郎常「04の焼き印の娘だな。それなら……、今の捜査中に見つかるかもしれん」
酔客1「頼む。いい娘だったんだ……」
レナード常「この店はいつから避難所になったんだ」
酔客1「ん?俺が死にそうな時に初めてたどり着いた頃からそうだったと記憶してるぜ」
レナード常「これで酒を飲めなかったら叩き出しているところだ」
cgロベリア
ロベリア常「ちゃんと来ているだろうな」
酔客1「……!」
酔客2「…………!」
小次郎常「ああ。そちらは準備万全か」
ロベリア常「正直言って万全とは言い難い。持ってこれるだけのものは持ってきたがな」
小次郎常「仕方がない。今は急がねばな」
レナード常「お前ら、飲まずにこの店を前線基地にするとは良い度胸だな」
ロベリア笑「フン、それじゃあ二人分予約しておいてやるよ。祝杯用に特上の瓶を開ける準備をしておきな」
レナード常「もし予約を踏み倒したら、わかっているな?」
ロベリア笑「わかるわけ無いだろ。この店で踏み倒しをするほど命知らずじゃない」
小次郎笑「怖いな。それは知らずにおきたいものだ」
ロベリア常「それが正解だ。よし、行くぞ……!」
cgクリア
bg孤児院への回廊
小次郎常「パリ中心からこんなに近いのか……。それなのに、誰も気づかない……?」
ロベリア常「さっきから妙な気配を感じている。どうやら軍もここを攻める気らしいな」
小次郎常「確かに気配は感じる。しかし、すぐ近くにいるようなんだが、見えない……」
ロベリア常「おそらく既に孤児院に掛けられた呪法の影響下に入っている。アタシから離れるなよ」
小次郎常「離れたら、お互いに姿が解らなくなる、といったところか?」
ロベリア常「最悪なのは幻影に囚われて同士討ちすることだ。アンタとやり合うとタダでは済みそうにない」
小次郎常「しかし、時折姿がぼやけるものの、なんとか孤児院は視認できる。この程度なのか?」
ロベリア常「アンタもか。正直言って、アタシもおかしいと思う。こんなに結界が弱いはずはない」
小次郎常「一応は残っているんだな」
ロベリア常「ああ。霊力が足りない軍の先発隊か諜報部員あたりは迷わされているようだ」
ロベリア常「だが、アタシやアンタには通じていない。これで封鎖していたはずが……」
小次郎驚「伏せろ……!いや、透明になれ!」
ロベリア驚「何……!?わかった……!」
小次郎焦「あれは……、新聞屋か。何故ここに……」
ロベリア常「ただの新聞記者ごときが入れるはずがない……。気をつけろ」
小次郎常「……」
cgカミュ
カミュ驚「明智くんじゃないか……!」
小次郎常「新聞屋、こんなところで何をしている」
カミュ常「もちろん仕事さ。新聞記者に用がない場所なんてこの巴里には無いよ」
小次郎常「ということはここで事件があったんだな」
カミュ常「これから起こる、というべきだろうね。軍の先遣隊が派遣されているとの情報を得たのさ」
小次郎常「ここに何があるかわかっているんだろうな」
カミュ常「それはこちらも同じ質問をしたいね。ここにあるのはフランスの恥部だよ」
小次郎常「そのようだな。それを再び呼び覚まそうとするとは」
カミュ笑「日本から来てわずか数日の君が、まさかこんなところにたどり着くとはね」
小次郎常「俺も聞きたいな。並の奴ならたどり着けないはず。お前、本業は何だ」
カミュ笑「僕を並のフランス人と一緒にしないでくれたまえ。本業はもちろん愛と正義の使者だよ」
小次郎常「これでも霊的災厄の多い帝都東京の出身でな。相手の霊力の強さくらいおおよそ解る」
カミュ笑「へえ。それはすごいね」
小次郎常「列車で初めて会ったとき、お前からはそれほどの霊力を感じなかった」
カミュ笑「そりゃそうだろう。僕の武器はペンなんだからね」
小次郎常「お前、命が惜しくないのか」
カミュ笑「正義のためならこの命、と言いたいところだけど、死んだら何も出来ないからね。惜しいよ」
小次郎常「ならばあの薬を使うな」
カミュ常「……」
小次郎常「肯定とみなす」
カミュ笑「恐ろしいね、君は。どうやってそこに思い至ったんだい」
小次郎常「赤城三郎はあの薬をシュペングラーから渡されたと言っていた」
小次郎常「そして、ここまでこの事件に絡んでいるお前があの列車に乗っていた」
小次郎常「偶然で片付けるには、出来すぎだ」
カミュ笑「ひどい推理だね。それじゃあ新聞記事にはならないよ」
小次郎常「そうだろうな。だが、新聞に載らなくても、探偵が動くには十分なんだ」
カミュ常「…………」
if赤城三郎を捕まえていないor解放している
カミュ常「仕方がないね。出来ればここで使いたくは無かったんだけど……」
カミュ常「出てこい!赤城三郎!」
cg狂化赤城三郎
小次郎驚「何……!赤城三郎……、だが、その姿はもう……」
カミュ常「元より大神一郎の眷属だけあって、素材としてはここまで優秀なものはなかなかいないんだよ!」
カミュ笑「さあ、実験型怪人ループよ!まずは同胞の血肉を食らって完全なものになれ!」
ロベリア叫「馬鹿野郎!ぼさっとしてんな!」
cgロベリア
sound衝撃音
カミュ常「巴里の悪魔……!まさかこんな切り札を伏せていたとはね」
カミュ常「丁度良い、こいつの完成度は君の身体に聞くとしようじゃないか!」
ロベリア常「アイツの眷属だと……!誰も、アイツの真似なんざ出来るものか!」
sound衝撃音
cgカミュ
カミュ常「そうそう、その意気だよ。君の本気とやり合えない程度では困るんだよ!」
小次郎叫「よそ見をしている余裕は与えんぞ!」
カミュ常「無粋だね……!記者に解説する時間くらい与えるものだよ明智くん!」
sound衝撃音
小次郎常「この霊力……、やはりあの薬を使ったか!」
カミュ常「霊力霊力と……、生まれながらの力があることがそんなに偉いのかい!」
小次郎常「偉い、か……。それはな、その力に責任を持って生きる者を言うんだ!」
カミュ常「虫酸が走る特権意識だね!君も大した霊力を持っているじゃないか!」
小次郎叫「これが……、この力が、生まれながらの力なんかであってたまるか!!」
sound衝撃音
カミュ叫「ぐあああっっ!」
小次郎叫「もはや手加減はせん!」
sound衝撃音
cgクリア
カミュ叫「が……っっ!!」
小次郎常「寝ていろ。悪運がよければ助かるだろう」
ロベリア苦「けっ……、さすが、なかなかやるじゃないか」
小次郎常「ロベリア、そちらは……」
ロベリア苦「ああ、なんとか死なずに叩き伏せてやったよ。まったく、戦いにくい前書きをくれやがって」
小次郎焦「その肩……」
ロベリア苦「ああ、喰いついて来やがった。服の上からとはいえこんな奴のキスは御免だね」
小次郎焦「……おい、強い酒を持っていないか?」
ロベリア苦「こんなときになんだ」
小次郎焦「こいつらは薬を飲んで力を強化していたらしい。噛まれたとなると薬が入り込む恐れがある」
ロベリア苦「ちっ……、そいつは考えなかった。出来るだけ傷を洗っておくべきだということだね」
小次郎常「ああ……」
ロベリア苦「く……!まったく……、こんないい酒を無駄にしようとはね」
小次郎常「おい、……かなりの深手だぞ。」
ロベリア笑「おいおい、勝手にアタシの肌を見るんじゃないよ」
小次郎常「冗談を言ってる場合か。せめて包帯で縛るぞ」
ロベリア笑「強引な男だねえ」
ロベリア常「……」
小次郎常「どうした?」
ロベリア常「……妙じゃないか?」
小次郎常「ディビジョン・ノワールの奴らが、まったく出てこないことか?」
ロベリア常「ああ。目の前で叫びながら一戦やらかしているバカなんざ、格好の的だろうに」
小次郎常「既にこいつらに全滅させられた、とも思えないしな」
ロベリア常「だが、こいつらは孤児院から出てきたように見えたぞ」
小次郎悩「どういうことだ……。ここはディビジョンノワールの根拠地ではない?」
ロベリア常「残念だが、その可能性は高そうだね……」
小次郎常「逆だということか。かつてドレフィスが使った場所を、敵対勢力が利用した?」
ロベリア常「バカな……。いや、土地に込められた怨念や秘匿条件を考えればあり得る……」
小次郎常「ならば、ここはこの新聞屋たちの隠れ家、ひいてはシュペングラーの本拠という可能性がある」
ロベリア常「エリカと探しに行って見つからなかったという商品の行き先だな」
小次郎常「ああ。そのシュペングラーが捌こうとしていた薬を、この二人が使っていた」
ロベリア常「黒確定だな。となれば、こいつらの情報をふんだくろうじゃないか」
小次郎常「ディビジョン・ノワールの本拠についての情報を、ここで探すと?」
ロベリア常「仮にもそいつは新聞屋なんだろう。遠慮無く資料を探そうじゃないか」
小次郎常「そうだな……。こいつの所持品でめぼしいものは……、手帳と、蝶の付いた鍵?」
ロベリア常「フン、わかりやすい持ち物じゃないか。孤児院の鍵で間違いなさそうだ」
ロベリア常「手帳はよこしな。ここでアタシが内容を改める。アンタは鍵を使って孤児院の中だ」
小次郎焦「(実際は容易に動けないほどに傷が深いのか……)」
小次郎焦「わかった。俺は中を捜索してくる」
bgパピヨン孤児院外門
小次郎常「この門は……、ただのかんぬきで閉ざされているだけか。本命は中だな」
bgパピヨン孤児院前庭
小次郎常「……この光は、螢ではないな。蝶、か?」
小次郎常「闇夜にあってさえこれほど輝く色鮮やかに蝶とは、見たことが無い……」
小次郎常「パピヨンとは、蝶の意味だったはず。これが、孤児院の名の由来か?」
bgパピヨン孤児院正面扉
小次郎常「……聖魔城の門とは比べるべくもないが……、不穏極まりないな」
小次郎常「確かに封印が施されている。この鍵で……開いてくれよ」
sound解錠音
sound扉の開く音
小次郎常「よし……」
小次郎驚「これは……、妖力……!?扉の中に、どれほどの妖力が……!」
小次郎常「く……、ひるんではいられん。新聞屋が出てきたのなら生存は可能なはず……」
bgパピヨン孤児院正面ホール
小次郎常「蝶だらけだ……。この蝶が妖力を持っているわけではないようだが……」
小次郎常「死臭……?そこか……。蝶が群がっているあれは、死体か?」
小次郎常「ほとんど骨だけになっている……。だが、かなり新しいな」
小次郎常「新聞屋は、ここで何をやらかしていたんだ……」
小次郎常「手がかりがあるとすれば、理事長室かどこかか……」
bgパピヨン孤児院廊下
小次郎常「この孤児院には、まともに窓というものが無いのか」
小次郎常「蝶のおかげで灯りには困らないが……」
sound吠え声
小次郎常「……動物の声?いや、人の声か?」
小次郎焦「この先から……、俺の接近に気づいているのか……」
小次郎焦「鬼が出るか、蛇が出るか……」
sound衝撃音
小次郎驚「!!」
小次郎焦「何奴……!俺に気配も感じさせないとは……!」
cg猫怪人
猫怪人「にゃあ?」
小次郎焦「人間サイズの猫……、猫又か何か?どちらにしても、好意的な存在じゃなさそうだな」
猫怪人「にゃあ……」
小次郎常「言葉は、通じそうにないか」
猫怪人「にゃあ!」
小次郎常「悪く思うな……!」
sound刺突音
cgクリア
小次郎驚「な……に……?」
cg蜂怪人
小次郎驚「貴様も……じゃ、ない……。妖力のせいで、気配がわからなくなっていたことに……」
小次郎驚「不覚……。ここは、いったい……」
badend
else赤城三郎を大使館で拘束している
カミュ笑「まったく……。君には恐れ入るよ」
カミュ笑「まさか東洋から来た探偵にここまで舞台を動かされるとは思わなかった」
小次郎常「別に俺は何も解決していないぞ」
カミュ笑「いやいや、謙遜しないでくれ給え。シュペングラーを失って正直困っていたんだよ」
カミュ笑「列車で北大路花火の関係者と見てけしかけてみたのが大当たりだ」
カミュ笑「まさか巴里華撃団に食い込んで、ディビジョン・ノワールをここまで追い込んでくれるとは」
小次郎常「シュペングラーと組んでいるというあたり、ドイツのスパイか」
小次郎常「フランスの原理主義的軍人だというドレフィスとは仲が悪そうだな」
カミュ笑「仲が悪いなんてものじゃないよ。こちらの裏工作を散々潰してくれた因縁の敵さ」
カミュ笑「しかもこちらが狙っていたエルサまでかっさらってくれた怨敵だよ」
カミュ笑「さて明智くん。僕は君にはそれなりに敬意を抱いている」
カミュ笑「そして僕らの当面の敵はあのドレフィスとディビジョン・ノワールの奴らだ」
小次郎常「……」
カミュ笑「ここは腹を割って手を取らないかい。君の目的は僕の邪魔をすることではないはずだ」
小次郎常「(どうする……?)」
lipsお断りだ ひとまず手を組むか(セーフ) タイムオーバー(先手を打たれる)
小次郎常「お断りだ。新聞記者にしてスパイにして麻薬密売人で、自分が信用されると思うのか」
カミュ常「君はもう少し賢いと思っていたんだけどね。残念だが所詮東洋人だったか」
小次郎常「そういう思想が態度から滲み出てよく新聞記者が出来るな」
カミュ常「下手に出るばかりが新聞記者じゃないよ。僕には他の肩書きもあるのでね」
カミュ常「君のことは、日本大使館が雇ってフランスの内情を探りに来たスパイとして処理してあげよう」
小次郎焦「(手に集まる霊力……、赤城三郎と同じくらいのことはできるようだな)」
カミュ常「赤城三郎と同じだと思っていると、痛い目を見るよ!」
ロベリア常「そうかい」
sound衝撃音
カミュ驚「がっっ……!!一体……」
cgロベリア
ロベリア笑「それだけ敵を作っておいて、目の前の敵しか見えてなかったとは笑わせるねえ」
カミュ驚「巴里の……悪魔……。ずるいよね、明智くん。悪魔に……魂を売るなんて……、……」
ロベリア笑「アタシの一撃で昏倒しないとは、それなりに大した腕なのは認めてやるよ」
sound衝撃音
カミュ常「………………」
ロベリア常「一丁あがり。餌役ご苦労だったねえ」
小次郎常「殺してはいないだろうな」
ロベリア常「それをやるとうるさい奴が多くてね」
小次郎常「身体検査ついでに縛っておこう」
小次郎常「……鍵?蝶の模様が施された……」
ロベリア常「どう見てもパピヨン孤児院の鍵だな。破る手間が省けそうじゃないか」
小次郎常「ああ……。だが、何故こいつが持っている?」
ロベリア常「スパイが何故か鍵を持っているなんてことはよくある話だろう」
小次郎悩「それはそうなんだが……、ひっかかる」
ロベリア常「使ったら死ぬ鍵、なんて罠は無さそうだけどね」
小次郎常「……うむ。あとは、手帳も没収しておくか」
ロベリア笑「地味にいい嫌がらせだな。悪人として誉めてやるよ」
小次郎笑「それは喜んでいいのか疑問だな」
小次郎常「いずれにせよ、鍵が手に入ったんだ。速やかに孤児院に潜入しよう」
ロベリア常「ああ。引っかかることは引っかかるが、とにかく入ってみることだな」
bgパピヨン孤児院外門
ロベリア焦「……なんだ、こいつは」
小次郎常「不穏なのはわかるが……、何を感じている?」
ロベリア焦「いや……、アタシの気のせいならいいんだが」
小次郎常「この門は……、ただのかんぬきで閉ざされているだけか。本命は中だな」
bgパピヨン孤児院前庭
小次郎常「……この光は、螢ではないな」
ロベリア常「蝶……だな。しかし、こんな蝶は見たことが無いぞ」
小次郎常「確かに、闇夜にあってさえこれほど輝く色鮮やかに蝶とは……」
ロベリア常「パピヨン……、か。
小次郎常「確か、そのまま蝶の意味だったな。この蝶が孤児院の名の由来か?」
ロベリア常「象徴的な意味はありそうだが……、理事長室の能書きでも探すんだな」
bgパピヨン孤児院正面扉
小次郎焦「……ここまで、一切迎撃が無いな」
小次郎焦「(ベルナデッドが迎撃してくるものと思っていたんだが……)」
ロベリア焦「生きている人間の気配がまったくしないのに……ひっかかる」
小次郎焦「生きている人間、以外なら感じるんだな」
ロベリア焦「ああ。生きていないものと、人間でないものと。両方な」
小次郎焦「…………」
ロベリア焦「確かにこの扉には封印が施されている。破るより、鍵を使え」
小次郎焦「ああ……」
sound解錠音
sound扉の開く音
ロベリア驚「……!」
小次郎焦「……妖力!それに……死気、か?」
ロベリア焦「おいおい……、これが本当に現世かよ……」
小次郎常「新聞屋が出てきたのならば、生存は可能なはず、だが……」
bgパピヨン孤児院正面ホール
小次郎常「蝶だらけだ……。この蝶が妖力を持っているわけではないようだが……」
ロベリア焦「死臭がする……」
小次郎焦「む、あの蝶が群がっているところか」
ロベリア焦「死体がほとんど骨になっているな……。だが、かなり新しいぞ」
小次郎焦「服を見るところ、ディビジョン・ノワールの奴らではなさそうだな」
ロベリア焦「ちっ……占拠されたわけじゃなさそうだな」
小次郎焦「もっとずっと前から、この孤児院はディビジョン・ノワールとは無関係に使われていたということか」
ロベリア焦「そうとわかればこんなところに長居は無用だ。さっさとアイツを締め上げようぜ」
小次郎焦「そうだな。ろくでもない場所であることは確かだが、今はミキたちの救出が先だ」
sound足音
ロベリア焦「なんだ……!?」
小次郎焦「人間……、いや……これは」
cg犬怪人
小次郎焦「……犬?いや、人、なのか……?」
ロベリア焦「こいつは……、まさか……」
小次郎焦「思い当たるところがあるのか?」
ロベリア焦「い、いや、そんなはずは……」
sound衝撃音
小次郎驚「!!ロベリア!」
ロベリア驚「うあっ!」
小次郎苦「気を抜くな……、どうやら一体じゃないぞ……」
ロベリア焦「アタシをかばったのか……!余計なことを……」
小次郎苦「あいにく、目の前で女に死なれるのはもう嫌なんでな……」
ロベリア焦「くそ!この一件が終わったら酔い潰して締め上げてやるから覚悟しておけ!」
小次郎苦「ああ、とにかくここを切り抜けねばな……!」
cg猫怪人
ロベリア焦「こいつも……か。まずい。こいつらが何体も出てくると……」
ロベリア焦「さっさと退却するぞ!アタシがしんがりをやるからお前が先に行け!」
小次郎驚「わかった!……何!?」
ロベリア焦「どうした!?」
小次郎驚「扉が、開かない……!エルザの話から予想しておくべきだった……!」
ロベリア焦「そうか……。エルザはここに閉じ込められていたんだった……!」
sound羽音
cg蜂怪人
ロベリア驚「三体目……!」
ロベリア焦「ええい!恨むなよオーク巨樹!フィアンマ・ウンギア!!」
sound轟音
小次郎驚「すごい……。一撃でこいつらをなぎ払うとは……」
ロベリア焦「そっちも気を抜くな!アタシの炎の直撃を受けたってのに、こいつら、まだ生きているぞ!」
sound衝撃音
小次郎焦「うおっ!動きが……、人間でなく動物のような……」
小次郎焦「こいつらも、霊力があるのか……。そうでなければあの炎に耐えきれるはずが……」
小次郎焦「そうか……。こいつらは、あの薬の実験体……。仮初めの霊力を与えられているんだ」
ロベリア焦「くそ……!さらに二体来やがった……。ここは方々から狙われて不利だ」
lipsここで踏みとどまる!>鱗粉を吸って暴走 ひとまず奥へ逃げる!>温室へ
小次郎焦「奥へ行くと脱出不可能になる!各個撃破していくしかない!」
ロベリア焦「正論だが厳しいぞ……!とりあえず毒の有りそうな蜂からぶちのめす!」
小次郎焦「ああ!」
ロベリア焦「これならどうだ……!デモン・ファルチェ!!」
sound轟音
小次郎焦「よし……、止めだ!」
sound刺突音
ロベリア笑「やるじゃないか……!そんな短剣で急所に一撃とは……」
小次郎焦「次だ!弱っている犬と猫から倒して数を減らす……!」
ロベリア笑「アンタ、本当に探偵かよ!」
小次郎焦「昔取った杵柄というやつでな!」
sound衝撃音
sound衝撃音
ロベリア常「狼に比べれば、犬なんぞ!」
小次郎焦「(まずい……、新しく来たこの蟷螂は攻撃範囲が……!)」
ロベリア焦「探偵!伏せろ!」
小次郎驚「!!」
ロベリア叫「巴里の悪魔に逆らうとどうなるか、思い知りな!!」
sound衝撃音
小次郎驚「(すごい……!ここまでの実力者はそうそう……)」
小次郎常「(なんだ?床に積もったこれは、埃じゃない……粉?)」
sound鼓動音
小次郎焦「こ……れ……は」
sound鼓動音
小次郎狂「が……あ……!」
ロベリア焦「おい……どうした!?おい!!」
小次郎狂「があああああああああああ!!」
sound衝撃音
sound衝撃音
ロベリア驚「こいつらを……、素手で……、一撃で……」
小次郎狂「が……ああああああああああ!!!」
ロベリア焦「く……!なんなんだよ、ここは!!」
sound衝撃音
bg暗転
badend
lipsタイムオーバー
ロベリア焦「おい!何をぼさっとして……」
sound切断音
小次郎驚「……!?」
sound落下衝突音
小次郎驚「(首を……、落とされた……?あの、蟷螂の鎌か……)」
小次郎焦「(くそ……今はもう……駄目か……)」
bg暗転
badend
lipsひとまず奥に逃げる!
小次郎焦「確かに……ここは分が悪すぎる……。やむを得ん、奥に行くしかない!」
ロベリア焦「仕方ない……!」
bgパピヨン孤児院廊下
sound走行音
小次郎焦「窓が……まったく無い……」
ロベリア焦「まったく……、監獄の方がまだ居心地よさそうな孤児院だね……!」
bgパピヨン孤児院開放扉
小次郎焦「開いている……?」
ロベリア焦「怪しすぎるが……、突っ込むぞ!」
bgパピヨン孤児院中庭温室
小次郎焦「こいつは……中庭か」
ロベリア焦「温室になっているのか?天井に仰々しく格子とガラスが入ってるぜ」
小次郎焦「……そのようだな。ここはさっきのホールに比べて大分と暑いし……この植物は熱帯のものだ」
小次郎焦「(あの異様な蝶をここで飼っていた……?)」
ロベリア焦「……!まずい、吸い込むな!」
小次郎驚「!?」
ロベリア焦「見ろ……!」
小次郎焦「(何か……キラキラと光るものが……そこら中に浮遊している?)」
小次郎焦「(舌先の妙に甘い感触……、頭が、眩む……大気中に散らばったこれのせいか……?)」
ロベリア焦「……」
小次郎焦「(ここにいては呼吸もままならん……、一旦出るしかないな)」
cg蜂怪人
小次郎焦「(くそ……!呼吸もできないところで……!)」
ロベリア焦「……!」
sound衝撃音
cg猫怪人
小次郎焦「(ここに来て……!)」
ロベリア苦「ぶはあっっ!」
小次郎焦「(吸い込んだ……?)」
ロベリア苦「ぐ……あ……!なん……これは……!?」
小次郎焦「(ロベリアの霊力が……増大してる……?)」
小次郎苦「(駄目だ……、俺も、呼吸が……)」
小次郎苦「ぐは……っっ!」
sound鼓動音
小次郎苦「ぐ……があ……!」
ロベリア焦「おい……!アタシとは違うのか……何が……!?」
小次郎苦「がああああああああああ!!」
sound衝撃音
ロベリア苦「な……、アンタ、まさか……!」
小次郎苦「ぐああああああああああ!!」
ロベリア苦「くそ……、これはアイツラの役目だろう!!」
sound衝撃音
bg暗転
badend
lipsタイムオーバー(カミュとの交渉時)
小次郎常「(正直言って敵の数を増やすことは得策ではない。だが、こいつは背中を預けるには危険過ぎる)」
カミュ常「どうだい?決して悪い提案ではないと思うけどね」
小次郎常「(……どうする……べきか)」
カミュ常「ふぅ……、よほど僕も疑われたものだね。それじゃあ仕方がない」
小次郎常「……」
カミュ常「僕を信用してもらえないとすれば、この話は無しだね」
小次郎常「ああ。普段の自分の態度を少しは見直すんだな」
カミュ常「それじゃあ君は君で頑張ってくれたまえ。できればいい記事になってくれよ」
小次郎常「貴様はこれからどうするんだ」
カミュ常「君が助けになってくれないのなら、僕は僕でドレフィスたちを倒す方法を考えるだけさ」
cgクリア
小次郎常「下見に来た、というにしては妙だな……」
cgロベリア
ロベリア常「とっ捕まえて拷問した方がよかったんじゃないか?」
小次郎常「交渉中の相手を不意打ちで拘束するのは性に合わないんだ」
ロベリア呆「日本のサムライってのはどうしてこうどいつもこいつもお人好しなんだろうねえ」
小次郎常「誰のことを言ってるのか知らないが、それが誠意というものだ」
ロベリア呆「まったく、よくそれでいままで死ななかったもんだよ」
小次郎常「無駄に時間を取ったな。とにかく急ごう」
bgパピヨン孤児院外門
ロベリア焦「……なんだ、こいつは」
小次郎常「不穏なのはわかるが……、何を感じている?」
ロベリア焦「いや……、アタシの気のせいならいいんだが」
小次郎常「この門は……、ただのかんぬきで閉ざされているだけか。本命は中だな」
bgパピヨン孤児院前庭
小次郎常「……この光は、螢ではないな」
ロベリア常「蝶……だな。しかし、こんな蝶は見たことが無いぞ」
小次郎常「確かに、闇夜にあってさえこれほど輝く色鮮やかに蝶とは……」
ロベリア常「パピヨン……、か。
小次郎常「確か、そのまま蝶の意味だったな。この蝶が孤児院の名の由来か?」
ロベリア常「象徴的な意味はありそうだが……、理事長室の能書きでも探すんだな」
bgパピヨン孤児院正面扉
小次郎焦「……ここまで、一切迎撃が無いな」
小次郎焦「(ベルナデッドが迎撃してくるものと思っていたんだが……)」
ロベリア焦「生きている人間の気配がまったくしないのに……ひっかかる」
小次郎焦「生きている人間、以外なら感じるんだな」
ロベリア焦「ああ。生きていないものと、人間でないものと。両方な」
小次郎焦「…………」
ロベリア焦「……鍵が掛かっているな。破るか」
小次郎焦「破れるのか?」
ロベリア常「アタシを誰だと思っているんだ?巴里の悪魔だよ」
sound燃焼音
小次郎常「錠前ごと焼き切る気か……」
ロベリア常「下がってな……!」
sound衝撃音
ロベリア驚「何……!?」
小次郎驚「扉が……炎を飲み込んで……いかん!伏せろ!」
sound雷鳴音
小次郎苦「があああああああっっ!!」
ロベリア苦「ぐああああっっ!!」
小次郎苦「(侵入者避けのトラップ……、それにしても、こんな即死級の罠とは……)」
小次郎苦「(パピヨン孤児院とは……一体……)」
bg暗転
badend
lipsひとまず手を組むか
小次郎常「いいだろう。当面のことを考えるとお前と手を組んだ方がよさそうだ」
cgロベリア
ロベリア常「おいおい、こんな奴を信用するつもりか」
カミュ驚「巴里の悪魔……!まさか切り札を伏せていたとはね……」
小次郎常「信用したわけじゃない。ただ、こちらに二面作戦を採れるほどの余力はない」
小次郎常「そして、今のところこいつの当面の目的は俺たちと共通している」
小次郎常「せいぜい役に立って貰おうじゃないか」
ロベリア笑「クククク……、こいつはいい。どっちが悪魔だかわかりゃしないよ」
カミュ笑「君は実に賢明だね。それでこそ交渉を持ちかけた甲斐があるというものだよ」
小次郎常「それでは早速教えて貰おうか。奴らの本拠にしてはここは妙すぎる」
小次郎常「その裏事情くらい、掴んでいるんだろうな」
カミュ笑「やれやれ、えらく手強い手合いと組んでしまったようだ」
カミュ笑「ご推察の通りさ。ここは奴らのかつての本拠であって、今の本拠じゃない」
カミュ笑「今ここを軍が攻めたとしても、残されているトラップによって手ひどくやられるだけだろう」
小次郎常「そんなわかりきった様をわざわざ取材するようなお前ではないはず」
小次郎常「ディビジョン・ノワールの今の本拠はどこだ」
カミュ笑「僕が知っていると確信を持っているようだね」
小次郎常「それくらいには有能なんだろう?」
カミュ笑「参ったよ。これじゃあ出し惜しみする余裕もない」
小次郎常「さっさと案内しろ。こちらはかなり急いでいるんでな」
カミュ常「二時間待ってくれないか。乗り込むには今の装備では心許ないんだ」
小次郎常「……待てて30分だ」
カミュ常「それだと根拠地に着かないよ。巴里の中心部にあるんだ」
小次郎常「良いだろう。一時間後にどこに集合すればいい」
カミュ常「君たちが襲撃した三つ目のアジトの前がいい。あそこが一番近い」
小次郎常「ずいぶんとこちらのことを把握しているじゃないか」
カミュ笑「これくらい脅かさせてもらわないと僕の立つ瀬がないよ」
cgクリア
bg暗転
bg巴里市街
ロベリア常「本当に来るのかね?」
小次郎常「来る。先に俺が赤城三郎を抑えた以上、今のアイツには手札が足りないはずだ」
小次郎常「ドレフィス側が本気で動き出したらしい今、ドイツから援軍を呼んでいる時間はない」
小次郎常「となると、アイツは今、自分を手札にしてでも俺たちを動かさざるを得ない」
ロベリア常「……なるほど」
cgカミュ
カミュ常「お待たせしたね。元々僕は肉体派じゃないから出来る限りのことはしておきたくてね」
小次郎常「来たか。さっさと案内してくれ。出来れば夜が明ける前に突入したい」
カミュ常「本拠地まではかなりかかるが、入口については賛成だ。急ごう」
bgノートルダム寺院外苑
ロベリア常「おい、まさか、ここか?」
カミュ常「君はご存じだよね。ノートルダムの地下に古い遺跡があるという話は」
ロベリア常「……あそこを使うということは、膨大な妖力を使うってことだ」
ロベリア常「今頃になってイカの後始末か。残業代出るのかね」
カミュ常「む、伏せてくれ……!誰か出てくる……」
cg黒服
小次郎常「(二人、か……。おそらくはディビジョン・ノワールの一員)」
小次郎常「(だが、あの二人がかりで抱えている荷物は、なんだ?)」
黒服A「もうすぐ夜が明けるぞ。どこにする?」
黒服B「セーヌ川に放り込めばいいだろう」
黒服A「バカを言え、本拠地に近すぎる。ある程度離れていて、見つけにくいところでなければ」
黒服B「面倒だな。こちらはほとんど楽しめなかったのに、なんでこんな手間を……」
小次郎焦「(あの大きさ、形……まさか)」
lips二人を倒す タイムオーバー>見過ごすことに
カミュ常「どうやら廃棄物の処理に出てきたようだね。ここが根拠地だと納得してもらえたかな」
小次郎焦「ロベリア、右の方、一撃で倒せるか?」
ロベリア常「同じことを考えていたな。左は任せた」
ロベリア信頼度up
カミュ常「君たち、何を考えている?ここで騒ぎを起こすのは……」
小次郎焦「新聞屋、失敗したときは騒がれないように補佐を頼む」
カミュ常「お、おい……!」
小次郎常「(ロベリアが消えた……、今あのあたりか……)」
小次郎常「(よし、今だ……!)」
sound刺突音
sound衝撃音
sound落下音
cgロベリア
ロベリア常「ふう……」
カミュ常「君たち……、僕の案内を無にするつもりか。手を組んだ以上勝手をして貰っては困るよ」
小次郎常「こちらの目的はやつらを潰すことではないのでな。どうだ?」
ロベリア常「ち……っ、どうやら当たりらしいよ」
カミュ常「何?」
小次郎常「新聞屋、蒸気灯を持ってきているか?」
カミュ常「目的はその荷物の中身か。わかった、今取りだそう」
cgクリア
bg袋詰めのメイリン
小次郎常「……違う。ミキでも、エルザでも、アインでもない……」
ロベリア常「……ああ。ミキに似ているが、別人だな」
カミュ常「ドレフィスがやっている実験の被験者かい?」
小次郎常「おそらく……な。死後一日程度といったところだろうが……尋常な死に方じゃないな」
カミュ常「衣服も何も無しに捨てようとするとは、ひどい扱いだね」
ロベリア常「そうじゃない。死体とはいえここまで生気が感じられないのは異常だ。どうやったらここまで……
小次郎常「(肩口に04の焼き印……。ということは、この少女が行方不明のメイリンか)」
小次郎常「可哀相だが、埋葬している時間は無い。後で回収するとして、ここに置いておくしかない」
ロベリア常「火葬ならこの場でしてやらんこともないけどね」
小次郎常「一応、知り合いに心当たりがある。後でそいつに連絡を取ってやりたい」
ロベリア常「お人好しだねえ。それならそれで構わないよ」
小次郎常「ところで新聞屋、お前、何をしている?」
カミュ笑「彼らの荷物検査さ。この先は迷宮になっているんだが、その地図を持っているはずでね」
カミュ笑「あったあった。うん、僕の手に入れた情報とほぼ一致している。間違いなさそうだよ」
小次郎常「……やるじゃないか」
カミュ常「少しは信頼してくれたかい」
小次郎常「実力はな」
カミュ笑「それは嬉しいねえ」
lipsout
lipsタイムオーバー
小次郎常「(気にはなるが……、ここで騒ぎを起こすのはまずい)」
ロベリア常「おい……あの中身が気にならないのか?」
小次郎常「……気にはなる。だが、仮にそうだとしてもここで動くのは不味すぎる」
ロベリア常「ちっ……」ロベリア信頼度Down
カミュ常「同行者が賢明で助かるよ。彼らが去ってから入口に入ろう」
黒服A「ブローニュの森あたりでいいだろう。あそこならこことの関連性は薄い」
黒服B「変な兎怪人が出没するというあそこか。なるほどな」
sound遠ざかる足音
小次郎常「……行ったか?」
カミュ常「よし。この先は迷宮になっているんだ。僕が指示を出すから先頭は頼むよ」
lipsout
bg洞窟入口
小次郎常「こんなところが入口か?」
カミュ常「洞窟と迷宮が奥で通じているとの情報だ」
小次郎常「俺は暗所でも夜目が利くが……、道順が解っているならお前が先頭でいいだろう」
カミュ常「とんでもない。地図を見ながらトラップを避けろと?さすがにそこまで器用じゃないよ」
小次郎常「いいだろう。だが、お前が真ん中で蒸気灯を掲げろ。ロベリア、最後尾でコイツを監視してくれ」
ロベリア笑「ククク、悪魔を信頼するのもどうかと思うけどね」
bg洞窟内A
小次郎常「人型蒸気でも入れそうな洞窟だな」
カミュ常「実際に昨年の戦いではここから蒸気獣が出てきたそうだよ」
bg洞窟内分岐
小次郎常「おい、どっちだ」
カミュ常「右の道でいいよ。左に行くと罠だらけだが行ってみるかい?」
小次郎常「そんな暇はない」
bg迷宮直線路
ロベリア常「洞窟から、石造りに変わったな。お宝の気配がするぜ」
カミュ笑「迷宮内のどこかにはあるかもしれないね。何しろ五百年以上前の遺跡だ」
小次郎常「さすがに五百年前の宮殿を歩くのは初めてだな」
カミュ常「ここからは迷宮が本格化する。細心の注意がいるよ」
小次郎常「そんなに凄まじい迷宮なのか」
カミュ常「当時の教会の注文は、ミノタウロスすら出てこれないように、だったそうだよ」
小次郎常「この奥に封じられていたものは、そんなに恐れられていたのか」
カミュ常「そういうことだよ」
bg迷宮十字路
bg迷宮直線路
bg迷宮右折路
bg迷宮丁字路
bg迷宮直線路
bg迷宮右折路
bg迷宮直線路
bg迷宮左折路
bg迷宮右分岐路
小次郎常「……待て」
カミュ常「どうした?」
ロベリア常「感じたか?」
小次郎常「ああ。生きている人間の気配を感じた」
カミュ常「もうすぐ迷宮を抜けるはずなんだが、待ち伏せかな」
小次郎常「この迷宮を抜けるというだけで尋常な話ではない、待ち伏せていても警戒は緩んでいるはず」
カミュ常「気配を悟られないように行く、と」
小次郎常「そうだ。灯りを消せ。不本意だが手を繋いでいくぞ」
カミュ笑「君と手を繋ぐのは気味が悪いで済むが、巴里の悪魔と手を繋ぐのか。恐ろしいね」
bg迷宮十字路
bg迷宮直線路
bg扉
小次郎常「……扉がある。この向こうに複数の人の気配があるぞ」
カミュ常「鍵があるとの情報は無い。おそらく開けられるだろうが……」
小次郎常「奇襲するしかないな。新聞屋、主武器は拳銃か?」
カミュ常「あいにくと機銃を持ち運ぶほどの体力はなくてね」
小次郎常「ロベリアは近接攻撃が主眼だったな」
ロベリア常「ん?……ああ、そうだな。銃とは相性が悪くてね」
小次郎常「仕方がない。扉を開けるのはロベリアが頼む。開放直後に、見える人影に片っ端から撃ち込め」
カミュ常「……ちょっと待った。手榴弾の持ち合わせがあるからそいつを彼女に使って貰おう」
ロベリア笑「お、イイ物持ってるじゃないか」
カミュ常「君の炎で誤爆させないでくれよ」
小次郎常「(一応、追い込んだら手持ちを出したか……)」
ロベリア常「じゃあ用意はいいな。5,4,3,2,1」
sound扉の開放音
sound爆発音
bg廊下・黒服四人
小次郎常「(四人……!うち二人は手榴弾でほぼ戦闘不能……!)」
黒服「て……敵しゅ」
sound銃声
カミュ常「おやすみ」
sound銃声
小次郎常「悪く思うな」
ロベリア常「おう、二人ともなかなかの悪人っぷりだ。誉めてやるよ」
カミュ笑「巴里の悪魔に誉められるとは光栄だね」
小次郎常「それより、わずか四人だから本隊は別だろう。音でばれていると思った方がいいな」
カミュ常「いや、ここはまだ宮殿の外郭だからね。うまくいけば中まではばれていないかもしれないよ」
小次郎常「それならいいが……。それにしても、なんだこの濃密な大気は……」
ロベリア常「この立ちこめている濃密な霊力……、オプスキュールやミカサ以来だ」
小次郎常「……何?」
カミュ常「少なくともすぐに駆けつけてくる気配は無さそうだね」
小次郎常「おい、この宮殿に牢獄みたいなものはないのか」
カミュ常「あるはずだけど、何をしにいくんだい」
小次郎常「俺は妹たちの救出に来たんだ」
カミュ常「それどころじゃないと思うけどね。おそらくドレフィスが何かやらかすまで時間がない」
カミュ常「足手まといを増やして、攻め落とせるとでも思うのかい」
小次郎常「居場所を確認しておくだけだ。お前の言う通り、作戦終了までは牢獄に居た方が安全だ」
カミュ常「分かっているのならいいだろう。幽閉に使えそうな小部屋は……こっちだ」
bg廊下
小次郎常「待て……、話し声がする」
カミュ常「……この声は、ドレフィス?」
ロベリア常「まずい、頭を出すな……!隠れろ」
cgドレフィス
ドレフィス常「東洋人ながら、その忠誠心は誉めてやるぞ、老婆よ」
フォン苦「貴様らフランス人のやる拷問は、五十年経っても進歩が無いのう……」
黒服「言わせておけば……!」
フォン苦「こんな老婆の命一つで姫様をどうにかしようなぞ、我が祖国も見くびられたものじゃ」
黒服「こいつ!」
sound衝撃音
ドレフィス常「よせ。こやつに何をやってもアインへの説得はせんようだ」
黒服「それでは……」
ドレフィス常「私なりの慈悲だったのだがな。仕方がない。それではその姫様に直接言い渡すとしよう」
フォン苦「貴様……姫様に何を……!」
ドレフィス常「私は祖国のためにすべきことをする。それだけだ」
小次郎常「(こいつが、今回の事件の首領……。今は護衛が一人……どうする?)」
lips打って出る タイムオーバー
小次郎常「奴を取り押さえる。お前は護衛をやれ。ロベリアは援護を」
カミュ笑「賛成だよ、明智君。今なら容易に倒せる……」
ロベリア笑「ククク、いい博打だね……!目くらましを打つよ。5,4,3,2,1……」
sound轟音
ドレフィス驚「何!?」
小次郎常「覚悟!」
ドレフィス驚「侵入者だと!?」
sound衝撃音
小次郎常「このタイミングで、俺の蹴りを受け止めるか……!」
ドレフィス常「素手でなんとかするつもりとは、このドレフィスを見くびるな!」
sound衝撃音
sound衝撃音
ドレフィス常「東洋人……、貴様がベルナデッドの報告していた探偵か!」
小次郎叫「その前に、お前らが攫ったミキの兄だ!」
ドレフィス常「その執念は見事と誉めてやろう!だが!」
sound激突音
ドレフィス焦「あの少女は恐るべき逸材だ。我が祖国のために、返すわけにはいかん!」
小次郎驚「なんだと……!?」
ドレフィス焦「まさかアンジュとパピヨンのどの検体よりも優秀な霊力者がこんな市井にいようとはな……!」
小次郎叫「人の妹を攫っておいて、偉そうな口を叩くな!」
ドレフィス叫「我が国に来た異邦人は全て我が国にために奉仕する義務がある!」
小次郎叫「恐るべき独善だな!」
ドレフィス叫「我が国の栄光は我が国の先人たちによる奉仕と犠牲によるものなれば」
ドレフィス叫「我が国の栄光に浴しようとする者はそれに準ずる義務がある!」
ロベリア笑「ご立派だねえ」
sound燃焼音
ドレフィス叫「ぐあああああっ!」
ロベリア笑「いやはや、ご立派なご高説だねえ。反吐が出るよ」
ドレフィス苦「巴里の……悪魔……!あの女狐め、こんな外道を野放しにするなと……」
ロベリア笑「鬼畜に外道呼ばわりとは光栄だねえ。ほら探偵、さっさとやらないと消し炭にしてしまうよ」
小次郎常「感謝する!」
sound打撃音
ドレフィス苦「が……っ!……あ……」
sound倒れる音
小次郎焦「ふう……、なんとか殺さずに無力化できたな」
カミュ笑「そちらも片付いたかい。ドレフィスを生け捕りとは恐れ入ったね」
小次郎常「(こともなげに一人を片付けたか……)」
フォン苦「……何者ぞ。そやつらの仲間割れ、というわけではないな……」
小次郎常「自信は無いが、一応味方のつもりだ。攫われた妹とアインを探しに来た」
フォン笑「そうか……。おぬしが姫様の仰っていた日本人の探偵……よくぞここまで来て下さった」
フォン苦「だが、姫様は先ほど、研究所の教授に連れられて行った。ここにはいらっしゃらぬ」
フォン苦「おそらく、大広間で実験に従うように強要されているはず……どうか助けて頂きたい」
小次郎常「もちろんだ。他に二人、銀髪の女と、亜麻色の髪の少女がいるはずなんだが、知らないか」
フォン苦「どちらも見たが……。銀髪の子は今、おそらく大広間にいるはず」
フォン苦「亜麻色の髪の少女は二人見た。一人はどこかへ連れて行かれたが……」
フォン苦「もう一人は、奴らに嬲り殺されておる……」
ifメイリン遺体を確認済
小次郎常「……一人は、なんだな。もう一人は生きているのなら、やることは一つだな」
ifout
elseメイリン遺体を確認していない
小次郎焦「まさか……」
ロベリア焦「待て。二人ってのが気になる。生きている方を確認するんだ」
小次郎焦「あ、ああ……。そうだな」
elseout
カミュ常「ところで、ドレフィスの扱いはどうするのかい」
小次郎常「縛っておいたくらいじゃ、配下が来て開放されるおそれがあるな」
小次郎常「(何しろまだベルナデッドがいるんだ。今この状況を見ている可能性もあるしな)」
小次郎常「おあつらえ向きに監禁に適した部屋があるんだ。遠慮無く使わせて頂こう」
ロベリア笑「いいね。一度他人を監獄に叩き込んでみたかったんだよ」
カミュ笑「元軍人、巴里の悪魔によって監獄に入れられる、か。是非記事にしたいねえ」
小次郎常「遊んでないで手伝え」
ロベリア常「閉じ込めるとして鍵はどうするんだい?」
小次郎常「俺が持っておく。それなら簡単には開放できまい」
ロベリア常「それなら、マスターキーが無いかも調べておきな……」
小次郎常「言われてみればそうだな。さすが有名盗賊」
ロベリア常「ふん……こいつの持っているこの鍵は、マスターキーじゃなさそうだな」
ロベリア常「とすると、あのあたりに……」
ロベリア常「……、……、お、あったあった。形状からして多分これがマスターだ」
カミュ笑「巴里の悪魔の仕事ぶり、後学のためになるねえ」
sound扉を閉める音
sound鍵を閉める音
小次郎常「さて、アインの祖母よ。済まないが連れて歩くと俺たちの行動が制限される」
小次郎常「後でアインを連れてくる。今はそこで待っていてくれ」
フォン常「心得た。それが一番足手まといにならずに済みそうだ。姫様をお願い申し上げる」
bg柱の間
小次郎常「見張りが一人いるが……だらけてるな」
カミュ常「それはそうだろう。まだ僕らに気づいていなければ、警戒するとしたら地上だろうからね」
小次郎常「この状態は維持しておきたい。ロベリアなら銃声も立てずに倒せるな?」
ロベリア笑「当たり前だろ。アタシを誰だと思ってる」
ロベリア常「……今、体よく使われた気がするんだけどね」
小次郎常「バレたか」
ロベリア呆「まったく、どういう度胸してんだよ、アンタ。まあいいや。やることはやるよ」
小次郎常「(人がいいんだか悪いんだかわからないな……)」
カミュ常「消えた……。これが噂に聞く、姿無き巴里の悪魔か……」
sound打撃音
ロベリア常「終わったよ」
小次郎常「完璧な仕事だな」
カミュ常「心強いねえ。……しかし、ここの扉は封鎖されているな」
小次郎常「この奥が根拠地なのか?」
カミュ常「根拠地というか、宮殿の王の間だね」
ロベリア常「お宝があるとしたら脇道くらいあるだろ」
カミュ常「そうだね。王の間に沿って動くとしよう」
bg通路
bgカルマールの間・遠景
小次郎驚「大江戸大空洞ほどではないが……」
カミュ驚「予想はしていたが……、なんて広い空間だ……」
ロベリア常「何かある……。蒸気演算機にも似ているが……、違う、あれは何だ」
小次郎常「あれはおそらく……、いや、当事者に聞けばわかるだろう」
カミュ常「ふむ、あれに見えるは理研のバレス教授とアイン助手だね」
小次郎常「見張りも、ベルナデッドの気配も無い……、堂々と入って構わないようだな」
カミュ常「首領を捕縛してしまったからね。まあ後は楽なものだろう。いささか拍子抜けだがね」
小次郎常「……念のため、ロベリアは姿を伏せて入ってくれ」
ロベリア常「心配性だねえ。……だが、賛成だ。そうしよう」
cgアイン
アイン驚「小次郎……!」
バレス驚「何者だ……!?」
小次郎常「どうやら無事だったようだな。安心したぞ」
アイン驚「どうして、ここへ……」
小次郎笑「おかしいか?助けねばならん人間がいるから探しに来た。俺は探偵だぞ」
アイン笑「……まったく、貴方は本当に探偵じゃないわ。日本の侍って貴方みたいな男ばかりなの?」
バレス常「ドレフィス君に知られずにここまで来たのか。悪いことは言わぬ、今のうちに逃げろ」
小次郎常「いや、ドレフィスなら既に倒した」
バレス驚「何!?」
小次郎常「叩きのめして、今は牢獄部屋で監禁中だ」
バレス驚「彼は欧州大戦の英雄だぞ……。そんなバカな……」
カミュ笑「いやいや、本当ですよ、バレス教授。この新聞記者がしっかりと見て確認しています」
小次郎常「いつから新聞記者に戻った……」
カミュ笑「心外だね、明智君。僕の素性は基本的には愛と正義の使者なんだよ」
小次郎常「片腹痛いとはこのことだな」
カミュ笑「いやいや本当だよ。今も取材したくて仕方がないのさ」
カミュ常「ねえ、バレス教授。そこの特殊な蒸気機関について教えて頂けませんかね」
バレス常「断る。どうせ素性は新聞記者ではあるまい」
カミュ笑「単なる研究の徒だと思いましたが、頑固ですね。既に貴方を守る壁は無いのですが」
カミュ常「あのドレフィスがわざわざ大事にしてまで作ろうとした機関……、どの国も欲しがるでしょうね」
アイン常「ええそうよ。だからこそ、そう簡単に話すわけにも渡すわけにもいかない」
小次郎常「悪いがアイン、これについては俺は引けんぞ」
アイン常「……そう。やっぱり、見ただけでわかるの」
小次郎常「おおよそな。何故ここに、霊子櫓がある」
カミュ常「……リョウシロ?」
アイン常「……本当に貴方は、なんでも知っているのね。貴方に本を貸したのが良かったのかどうか」
アイン常「極めて正解に近いけど、厳密には異なるわ。これは、アレそのものじゃないの」
アイン常「あえて言うのなら、霊子核併用圧縮蒸気機関ということになるわ」
小次郎常「……先日の授業の補習だな。高圧蒸気の理論は解っていないんじゃなかったのか」
アイン常「学会では、まだ、ね」
小次郎常「高圧蒸気のエネルギー保存則無視がお前の研究テーマだと言っていたな」
小次郎常「そういうことか。教授とドレフィスがお前を抱き込もうとした理由が」
アイン常「……ご推測の通りよ。私は圧縮蒸気機関についての理論をほぼ完成させているわ」
バレス常「だからこそ、強情を張らずに従ってくれるように説得しておった」
バレス常「まさかこのような事態になるとは思わなんだがな……」
小次郎常「……どこからなんだ」
アイン常「……」
小次郎常「どこから、来ているんだ。エネルギー保存則を崩しているように見えるエネルギーは」
アイン常「その言い方は、まるでわかっているみたいね」
小次郎常「この気配には覚えがあるからな……」
アイン常「さすがに、先の帝都での戦いをよく知っているのね」
アイン常「山崎真之介が発見した蒸気併用霊子機関が、最大の手がかりだったわ」
アイン常「圧縮蒸気を用いた第二世代型蒸気機関よりも、蒸気併用霊子機関はさらに効率が良かったの」
アイン常「単独での出力は純粋な霊子機関の方が上だったけれど……」
アイン常「蒸気併用霊子機関は理論上、上限が無かった」
小次郎常「上限が……、つまり、エネルギー効率が、最大で無限大になると?」
アイン常「ええ。だから圧縮蒸気には、霊力に絡む何かが作用していると考えたの」
アイン常「霊力介在下で、圧縮蒸気の最適条件に合わせて、エネルギー保存則が成立しない環境を観測したわ」
アイン常「そこでね、水分子が特異な挙動を示していたの」
アイン常「六角六芒型に水分子が共役してできる混成軌道が、一瞬だけ、その六角形の中心で消失した」
アイン常「その瞬間に、膨大なエネルギーが流れ込んで来ることが観測されたわ」
小次郎常「流れ込んできた……。生じたのではなく、流れ込んできたんだな」
アイン常「ええそう。圧縮蒸気を生じる特殊環境下では、一瞬だけど、別世界への穴が開いている」
アイン常「高エネルギー準位にあると推測されるその別世界からは、エネルギーが流れ込んで来る」
アイン常「エネルギー保存則は破られているわけじゃない。別の世界からエネルギーを受けていただけなのだから」
小次郎常「道理で……」
アイン常「驚いていないのね」
小次郎常「その別世界の名前を知っているか」
アイン常「ある程度想像はついているわ」
バレス常「知っておるよ。この現象を説明づける世界は一つしかない」
アイン常「魔界、でしょう」
小次郎常「………………そうだ」
小次郎常「道理で、霊力と圧縮蒸気の親和性が高いはずだ。霊力で魔界との孔を開け続けていたのだろうからな」
アイン常「厳密には違うわ。蒸気併用霊子機関では、既に活性化させた圧縮蒸気を使っている」
アイン常「霊力が、圧縮蒸気が有している魔界からのエネルギーと相乗効果を発揮していると推察されるわ」
アイン常「霊子水晶回路はまだ未解明な所はあるけど、少なくとも霊子甲冑の設計者はそれを知っていたはず」
小次郎常「霊力と相乗効果をもたらすということは、単純な熱エネルギーではないな」
アイン常「ええ、多変数の複素関数で表されるけど、一般的な自由エネルギーではないことは確かよ」
小次郎常「だとしたら、色々と納得できることがある」
アイン常「是非聞きたいわ」
バレス常「私もだ。君の考察には目を見張るものがある」
小次郎常「妹の……ミキの友人が死んだ帝都病については話したな」
バレス常「帝都病……。先天性蒸気症候群だな」
アイン常「ええ。あの後少し調べたわ」
小次郎焦「通常の人間には無害とされる、圧縮蒸気、という話だった」
小次郎焦「とんでもない。圧縮蒸気はやはり無害なんかじゃなかった。魔界のエネルギーが同伴しているんだ」
小次郎焦「あの子は、さと子はただ、魔界のエネルギーに敏感だっただけだったんだ……」
バレス常「一笑に付したいところだが、確かに、それは考えられる……」
小次郎焦「その後も帝都病の患者は増加している。帝都には魔界のエネルギーが蓄積されているはずだ」
小次郎焦「だとしたら、帝都で何度も魔物が跋扈するのも道理……」
小次郎焦「今の蒸気文明は、降魔実験をひたすら繰り返して成立していることになる……!」
アイン常「その仮説には異議を唱えたいわ。蒸気文明が魔物を呼ぶのなら紐育や伯林で魔物が発生していないのは何故?」
小次郎常「だが先日はこの巴里で魔物が跋扈したんだろう」
小次郎常「予言してやろう。遠からず、数年を待たずして紐育や伯林といった蒸気都市で魔物が跋扈する」
バレス常「…………」
カミュ常「…………」
アイン常「……それほどまでに、確信を持って言えるのね」
小次郎常「その装置、霊子核併用圧縮蒸気機関といったな」
アイン常「ええ。その言い方だと機構の想像はついているのでしょう」
小次郎常「おまえが言っていた、ベトナムのエネルギー問題の解消の切り札がそれなんだろう」
アイン常「ええ。従来の圧縮蒸気が引き出せる魔界のエネルギーは一瞬だったけれど……」
アイン常「高濃度の霊力集中場を形成させた上で蒸気を臨界に到達させるとエネルギー孔を長時間維持できるの」
アイン常「元より生体由来の霊力は水分子との相性がいいからと考えられるわ」
小次郎常「そこまでの条件に必要な霊力を搾り取って、霊力者がただで済むわけがない……」
ifメイリンの死を確認している
小次郎常「あのメイリンという子を死なせた直接の原因は生命力そのものの消尽だろう……」
ifout
else続行
elseout
小次郎常「だから、強力な霊力を持つパピヨン孤児院のメンバーを集めたんだな」
小次郎常「まずメイリンを。そしておそらく、使い潰すことになったのでエルザに声を掛けた……」
バレス常「その通りだ。実験段階で必要となった霊力は我々の想定を越えていた」
小次郎怒「虎の子の精鋭だった孤児院のメンバーをしても霊力を使い尽くす装置で何ができる!」
アイン常「……それは、ちがうわ」
アイン常「今は実験段階だから、どうしても強力な霊力者に頼るしかないの」
アイン常「でも、さっきから言っているでしょう」
アイン常「これは霊子併用圧縮蒸気機関じゃなくて、霊子核併用圧縮蒸気機関だと」
アイン常「霊子核機関が何か、は知っているわね。かの空中戦艦ミカサに搭載された、霊力を吸い上げる機関」
小次郎驚「………………まさか」
小次郎驚「人々から集めた霊力で、魔界への孔を恒常的に開け続けるつもりか……!」
アイン常「そう。石炭も石油も必要ない。誰もが微弱ながら持っている霊力と水だけで足りる」
アイン常「人がいるところならどこでも無尽蔵のエネルギーが手に入り……欧州とアジアの格差を打ち破れる」
アイン悲「……そう、思っていたわ」
バレス常「君の立てた理論に瑕疵はなかった。確かにそれは実現可能じゃ」
アイン悲「でも、あの子は殺されました……。私が殺したようなものです」
アイン悲「あの子の霊力が尽きた後の、軍人たちの姿も見ました……」
アイン悲「欧州とアジアの間にあるのは、格差などではなく、人間とそうでないものの違いなのだと知りました」
アイン悲「無尽蔵のエネルギーが実現できたとしても、私の夢は……」
カミュ常「悲しいことを仰いますね、アイン博士」
小次郎驚「……!?」
アイン驚「貴方は……」
カミュ常「以前に一度、取材させて頂いたことがあるのですが。申し遅れました。モルガン・カミュと申します」
小次郎常「取材、ね……」
カミュ常「西洋人の一人として、また正義と真実の人として、バレス教授に味方せずにはいられません」
小次郎常「(ロベリアがどうしているかわからないから、そう簡単には動けないはず……)」
カミュ常「どうか、貴方の見た西洋人たちだけが全てと思わないで頂きたい」
カミュ常「東洋人である貴方を受け入れたバレス教授が目の前にいらっしゃるのに、そのことをお忘れですか」
アイン悲「それは……」
カミュ常「あなた方のような偉大な研究を為そうとする人々は守られなければなりません」
カミュ常「その義務があるのは、何もフランスだけではないのですよ」
小次郎常「(そう来たか……)」
カミュ常「貴方を失望させたドレフィスの無礼は、同じ西洋人として心から謝罪致しましょう」
カミュ常「しかし、彼はもう何もできません。その代わり、僕が新たな舞台を用意して差し上げることができます」
カミュ常「バレス教授、アイン博士、どうか手を取り合って頂きたい」
カミュ常「それこそが、人類の融和と、輝かしい未来に繋がるのです……!」
バレス常「……いささか気になることはあるが、研究が続けられることは何にも代え難い……」
バレス常「アイン君、わかってくれんか。私も君を失うことはあまりに大きな損失だ」
アイン苦「私は……」
小次郎常「させんよ。大した名演説だったが、ここに俺がいる限りお前の好きにはさせん」
カミュ常「悲しいな、明智君。どうして君には人類の未来が見えないんだ」
小次郎常「そんなもの、今の時代を見たってわかりはしない。俺は聖人君子じゃないしな」
小次郎常「ただ、今の俺は、助けるべき人間を助けに来た探偵であり、約束を果たさねばならない兄だ」」
小次郎常「あの子が死んだ、と言ったな、アイン」
アイン驚「え、ええ……。でも、貴方の妹ではないわ。中国人の少女だった……」
小次郎常「お前の懸念は正しいよ。そしてそれこそが俺にとっては一番の優先事項だ」
小次郎常「妹も、妹の友人も、断じて死なせない。そんな実験は、俺の目の黒いうちは二度とさせない」
カミュ焦「…………なるほど。ドレフィスめ、余計なことをしてくれなければ……」
小次郎常「アイン。エルザと、ミキはどこだ……」
アイン苦「…………」
アイン焦「エルザは、そこにいるわ。この装置の制御のためのカプセルに入っている……」
小次郎常「ミキは……」
ベルナデッド常「貴方の妹ならここよ」
小次郎驚「何!?」
bgミキに薔薇を突きつけるベルナデッド
ミキ叫「お兄ちゃん!」
小次郎驚「ミキ!」
カミュ驚「ノワール・フルーレか!?」
ベルナデッド常「全員、その場で止まりなさい。動けばその探偵に殺されるわよ」
小次郎驚「何?」
ベルナデッド常「わからないの?誰かが動けば貴方の妹が死んで貴方が激昂してそいつを殺すということよ」
小次郎焦「ひどい他力本願もあったものだ……」
ベルナデッド常「私の言ったことが理解できているのかしら、巴里の悪魔……!」
ロベリア焦「チッ……!アタシの透明化をあっさり見破るとは……」
ベルナデッド常「殺気が殺し切れていないわ。悪魔にしては手ぬるいわね」
小次郎焦「生きて顔を会わすことは無いんじゃなかったのか、ベルナデッド」
ベルナデッド常「ええ、私にとっても意外だったわ。まさか貴方が生きてここまで来るなんてね」
小次郎焦「あいにくだったな。お前たちの首領は今牢獄だぞ。さっさと助けに行ったらどうだ」
ベルナデッド常「余計な忠告ね。不要だわ」
小次郎焦「何?」
ベルナデッド常「貴方たちにあっさり敗れたあんな男、私が殺したわ」
小次郎驚「な……!?」
カミュ驚「殺した……!?」
ロベリア驚「おいおい……真性かよ」
小次郎焦「あっさり敗れた、……ということは、お前、俺とドレフィスがやりあっていたのを……」
ベルナデッド常「ええ、見ていたわ。敵の本拠に来たら伏兵の存在は常に気をつけるべきものよ」
小次郎焦「何故手出ししなかった。隙を突けばお前なら俺を殺せたはず……」
ベルナデッド常「謙遜ね。ここまでの貴方の反応を考えれば、殺せない確率の方が高かったわ」
小次郎焦「ずいぶんと誉められたものだな。そしてしくじればロベリアにやられると考えたか」
ベルナデッド常「ええ。それにね、負けるはずはないと思っていたのよ」
小次郎焦「……本当にか?俺への評価と比べてもか?」
ベルナデッド常「嫌なことを聞くのね。ええ、そう、本当はただ、負けて欲しくなかったわ」
小次郎焦「単に上官だというわけではなさそうだな。暗殺者としてのお前を育てたのも奴だったか」
ベルナデッド常「さすがの貴方の推理もここまでかしら。間違いよ」
小次郎焦「……実の親だった、というわけではあるまいな」
ベルナデッド常「それならまだしもだったでしょうね。生み出させた、という意味では親と呼べるのかもしれないけど」
小次郎焦「……最初から、手駒とすべく生み出されたということか」
カミュ焦「そうか……!アンジュ計画だな!全滅したと思っていたが、唯一の成功例が残っ」
sound刺突音
カミュ驚「…………」
sound倒れる音
ベルナデッド怒「雉も鳴かずば撃たれまいに、というそうね。貴方の国では」
小次郎焦「……、シュペングラーと同じ殺し方か」
ベルナデッド怒「ええ。結託していた彼らにはせめて同じ最期を贈ったまでだけど」
小次郎焦「その計画の実行者がドレフィスで、その計画の被験者がお前ということか」
ベルナデッド常「情緒の欠片もない理解ね。端的に言えばそういうことよ」
小次郎焦「親には、なってくれなかったか」
ベルナデッド悲「…………ええ」
小次郎焦「長年お前を支配してきたものを、俺が砕いてしまったのか」
ベルナデッド常「これでも、貴方には感謝しているのよ。そうとわかってしまえば壊すのは簡単だった」
ベルナデッド悲「あの日々は何だったのかと、虚しくなるくらいにね……」
小次郎常「ベルナデッド……」
ベルナデッド常「でも、いいわ。もうすぐ最期の願いも届くから」
小次郎常「何をするつもりだ」
ベルナデッド常「慌てなくてもこれから指示を出すわ。アイン、教授、機関を稼働させなさい」
小次郎常「……何?」
ミキ叫「やめて!これ以上その機関を動かしたらエルザが死んじゃう!」
ロベリア焦「……おいおい、穏やかじゃないね」
ベルナデッド常「言っておくけど、人質になっているのはミキだけじゃなく、この場にいる全員よ」
ベルナデッド常「動きたくないというのなら、毒の弱い薔薇で手足を打ち抜いていくわ」
小次郎常「つくづく優雅じゃないな。お前のここまでの皮肉らしい態度はどこへ行った」
ベルナデッド笑「私の根幹を粉々にしてくれた貴方に言われると、今すぐ殺したくなるわ」
ベルナデッド常「でも、私を怒らせないで。貴方は最期に殺したいから」
小次郎常「結局殺す気なんだな」
ベルナデッド常「ええ。私はそのための存在だから」
小次郎常「どうやら俺はまだ、お前の根幹を粉々にしきれていないようだぞ」
ベルナデッド笑「つくづく、腹立たしい男……」
ベルナデッド常「さて、貴方たちに足りないのは人参かしら、それとも鞭かしら」
バレス常「……機関を稼働させることに異存はない。だが、そなたの目的はなんだ」
バレス常「ドレフィス君を殺しておきながら、後を継ごうとでもいうのか」
ベルナデッド常「否定にして肯定といったところかしら」
ベルナデッド常「今のあの男の為そうとしたことを継ぐ気はないけれど……」
ベルナデッド常「かつてあの男が期待したことには応えてやるつもりだから」
小次郎常「今頃になって、お前が生み出された計画を達成しようということか……」
ベルナデッド常「ええそう。この力があれば、やっと私は完全になれる」
ベルナデッド笑「やっと、イリス・シャトーブリアンを超えることができる!」
小次郎焦「……何?」
ロベリア焦「アイリス以上とは、大きく出たもんだね……」
小次郎焦「まさか……よせ!エネルギーを取り出すだけでは済まなくなるぞ!」
ベルナデッド常「もちろんよ。それが目的だもの」
ベルナデッド常「この身体のままではもう、アイツを越えられないけど、人でなくなればいい」
小次郎焦「そんなことを……、あの紅き月の夜の再現などさせてなるものか!」
ベルナデッド常「動かないことよ。貴方の最大の弱点は私の手の中にあることを忘れないように」
小次郎焦「く……っ!」
ベルナデッド常「そう。いい兄でいること。……貴女、幸せね」
ミキ焦「お兄ちゃん!動いて!この子は私を殺せないから!」
ベルナデッド焦「く……!黙りなさい!戯れ言を!」
ミキ焦「殺せないわ……!あなたは私から聞きたいことがある……ううん、私と話したいと思ってる……」
ミキ焦「そうでなかったら、どうしてわざわざ牢獄から私を出して、自分の部屋に招いたりしたの!」
ベルナデッド常「……ただの、気まぐれよ」
ミキ常「おかげで私は助かったわ。軍人たちに弄ばれずに済んだ……。そうでしょう?」
小次郎常「……ベルナデッド?」
ベルナデッド怒「黙りなさい!」
sound稲妻音
ミキ苦「きゃあああっっ!」
ロベリア驚「……電撃だと!?」
ベルナデッド怒「今はこれが限界……、でも、魔界の力を得ればこんなものではなくなる……」
ベルナデッド怒「エルザとともに、鍵になるから生かしておいただけと知りなさい……!」
ミキ苦「う……」
ベルナデッド怒「さあ、機関を稼働させなさい!既に安全装置は焼き切ったわ。あとは臨界状態まで持っていくのよ」
バレス常「……よかろう。これは科学者の業だ。許されるわけではないが、その咎を背負ってでも見なければならぬ」
アイン驚「教授……!」
バレス常「元より、ドレフィス君と組んだときより覚悟の上だ。ドレフィス君が死んだとて、引けるものか!」
ミキ苦「やめて……エルザが、エルザが……、死んじゃう……」
ベルナデッド悲「その女も、私と同じようなものよ……」
小次郎叫「やめろ教授!」
ロベリア叫「仕方がない!デモン・ファルチェ!!」
sound燃焼音
ベルナデッド叫「機関を破壊など……させない!」
bgベルナデッドの傘
ロベリア驚「アタシの炎を食い止めるとは……こいつ!」
ベルナデッド常「さすがはアイツと同じ華撃団員だけど、ならばなおのこと、負けるわけにはいかない……!」
バレス常「いくぞ……!」
bgソレイユ機関
sound駆動音
ロベリア焦「……この霊力は……、あのミカサに匹敵する……!」
小次郎焦「ハッタリではなかったか……!」
ベルナデッド笑「ああ……、なんて力……!素晴らしい力……!私が求めていたものが、やっと……!」
小次郎驚「ベルナデッド……!何をするつもりだ……!?」
ミキ苦「やめて……、エルザだけじゃなく……あなたも、死んじゃう……」
ベルナデッド常「貴女の役目はここまで。ご苦労様。優しいお兄さんに助けて貰いなさい」
ベルナデッド常「……死ぬのは怖くないのよ。生き長らえていい立場でもないもの」
ベルナデッド常「ただ、私という無駄が生まれた意義を、果たしたいだけ」
sound床を蹴る足音
小次郎叫「ベルナデッド!」
小次郎焦「(あの膨大な霊力の中に、飛び込んだ……!?)」
ロベリア焦「霊力を……取り込んでやがる……。全力で死ぬ気か……!」
ベルナデッド常「……否定はしないわ。でも、その前に確かめておくの」
ベルナデッド常「立っていると転ぶわよ」
小次郎焦「……まさか」
sound轟音
小次郎焦「地震……!そんなバカな……っ!!」
ロベリア焦「こんなものを人間が起こせるってのか!そんなデタラメなことが……!」
sound轟音
sound破裂音
sound破裂音
sound轟音
ベルナデッド常「震度はそこそこ……。地割れまでは、なんとか再現できたようね」
ロベリア焦「再現……?まさか……アイリスの奴、こんな真似をやらかしたことがあるのか……」
ベルナデッド常「ええ、そうよ。記録によれば、欧州大戦勃発直後で当時一歳だったそうだけど」
ロベリア焦「一歳……?」
ベルナデッド常「やっと、追いついた……」
小次郎叫「気を抜くな!霊力の奔流に取り込まれるぞ!」
ベルナデッド驚「……この期に及んで私の心配をしようというの」
ベルナデッド笑「本当に、腹の立つ男……」
小次郎叫「ベルナデッド!!」
エルザ眠「…………」
ベルナデッド常「そう、貴女もなの。一緒に、下らないしがらみを果たしましょうか」
sound風切音
sound轟音
バレス常「これは……、まだ広がろうというのか。魔界への穴が……」
アイン叫「教授……!このままでは……」
小次郎焦「アイン、何が何でもあれを止めるぞ。やり方を教えろ」
アイン焦「危険すぎるわ!あの膨大な霊力の奔流が目に入らないの!?」
小次郎焦「わかっているから言っている。あれが暴走したらこの都が丸ごと滅ぶぞ」
アイン焦「帝都の霊的災厄を見て来た貴方が言うと説得力があるわね……」
バレス常「それは……困るな。それでは、この実験のデータも何も残らぬ……」
バレス常「実験に志願してくれた、あの少女の願いにも反することになる……」
小次郎焦「安全装置か何かないのか」
バレス焦「既に、私やアイン君が仕掛けた安全装置は解除されているようだ。強力な霊力なくば出来ぬはずだが」
小次郎焦「ベルナデッドに流れ込んでいるあの力があれば何でもありか……」
アイン焦「それでも、機関を支えているのはエルザの霊力なの。あの子の霊力を切り離すのよ」
小次郎常「切り離す、だけでいいんだな」
アイン焦「ええ。被験者収容カプセルの正面ガラスを破壊して、直接霊子水晶伝達管を引き抜いて」
小次郎焦「わかりやすいな……。そうなると問題は」
ベルナデッド常「ええ、みすみすやらせるとは思っていないでしょうね」
ロベリア笑「面白いじゃないか。あのガキはアタシがお仕置きしてやるから、アンタはミキとエルザを救い出せ」
ベルナデッド笑「悪魔が粋がるのね。でも、これを見てもそんな戯れ言が吐けるかしら」
sound風切音
小次郎焦「(ベルナデッドの服が破れて……あれは!?)」
ロベリア焦「黒い……翼?」
小次郎焦「あのときと……、まるで、同じ……」
ベルナデッド笑「さて、貴女と私と、どちらが悪魔に近いか、比べてみましょうか」
ロベリア叫「く……やるしかない!行け!」
小次郎叫「わかった!」
アイン驚「ちょっと……!素手で!?」
小次郎焦「ガラスは問題じゃない。行ってくる」
ベルナデッド叫「させない!」
bg降り注ぐ黒薔薇
小次郎焦「(霊力で作り出した薔薇か……っ!)」
ロベリア叫「フィアンマ・ウンギア!」
sound燃焼音
bg水平に走る炎の竜巻の中
小次郎焦「(薔薇の園を割いた道ができたか……いくぞ!)」
sound強風音
小次郎焦「(くそ!この妖力風も容易ならざる威力……ベルナデッドはこんな中に立っているのか)」
小次郎焦「(人間がこんな妖力の中に長時間いられるはずがない……)」
小次郎焦「(エルザやベルナデッドだけでなく、近くに倒れているミキも危ない……)」
小次郎焦「(そんなことを……させてなるものか!)」
小次郎叫「エルザ!目を覚ませ!!」
ベルナデッド叫「本来攻撃用のそんな炎を防御に回して、持ちこたえようなどと!」
sound衝撃音
ロベリア叫「うおおおおおっ!念動力……!か……!」
sound衝撃音
ベルナデッド叫「悪魔が人助けなどと似合わないことをした末路を思い知らせてあげるわ!」
小次郎焦「(ロベリアが抑えてくれるにしても、急がねば……!)」
小次郎叫「エルザ!目を覚ませエルザ!」
エルザ眠「(……!)」
小次郎焦「今のは……?エルザ、聞こえているか!」
エルザ眠「(……!……!)」
小次郎焦「邪魔をするなと言っているのか。そこまでしてフランスに尽くしたいか」
エルザ眠「(……)」
小次郎焦「だが、それは間違いだ。エルザ、この道はフランスのためにはならん」
エルザ眠「(…………)」
小次郎叫「お前がやろうとしていたことは、この都を滅ぼすことではないはずだ!」
ミキ苦「エルザ……!駄目だよエルザ!エッフェル塔も、モンマルトルも、凱旋門も……」
小次郎焦「ミキ……!いかん、意識が戻ったならそこから逃げろ!」
ミキ苦「ううん、逃げないよ。私が逃げるわけにはいかないよ、お兄ちゃん……」
ミキ苦「エルザ、あんなに、パリのことが好きだって言っていたじゃない……!」
ミキ苦「お兄ちゃんは、私の知らない世界を知っている……、お兄ちゃんの言うことは、間違いないよ……」
ミキ叫「このままじゃ、エルザが一番好きだったものが、消えてなくなっちゃうよ!」
エルザ眠「(…………!)」
小次郎焦「(妖力風が、緩んだ……!今だ……!)」
sound走る足音
小次郎叫「ミキ、済まん!先にエルザを止める!」
ミキ叫「うん!」
soundガラスの割れる音
エルザ眠「(…………………………)」
小次郎焦「うおおおおおおおっっ!」
アイン驚「小次郎!」
小次郎焦「(聖魔城にも勝るとも劣らぬ妖力……、こんなものを野放しにはできん……〜」
小次郎叫「これが、霊子水晶伝達管だな……!うおおおおおおお!!」
ベルナデッド叫「つくづく……、貴方という男は……!」
sound稲妻
小次郎苦「がああああああ!く……力が……」
ミキ叫「私も……手伝う!」
小次郎驚「ミキ!?」
ミキ叫「エルザを……助けるんだから!」
小次郎焦「よし……これなら、抜ける!」
ミキ叫「いっけええええ……!」
sound機械音
小次郎焦「!?ミキッ!」
ミキ驚「!?」
sound爆発音
bg白
小次郎叫「が……は……っ!」
ミキ驚「お兄ちゃん!私をかばって……」
小次郎焦「ミキ……怪我は、していないか……」
ミキ焦「うん……私は大丈夫……でも、お兄ちゃんは……」
ベルナデッド常「そのままだと命に関わるわ。いくらその男でもね」
cg有翼ベルナデッド
小次郎苦「ベルナデッド……、まだ治っていないのか……。ロベリアは……?」
ロベリア苦「悪かったな……くそ、まさか、ここまで強くなっているとは……」
小次郎苦「生きているか……、よかった」
ベルナデッド常「貴方が派手なことをやってくれるから、後回しにしただけよ」
ベルナデッド常「貴方を先に仕留めるべきだったわ。最後にしようなんてことが、ひどい驕りだったようね」
小次郎常「おかげでこちらは助かったがな」
ベルナデッド常「ええ。今の爆発で機関の主要部は破壊されてしまった。魔界への穴も閉じてしまった」
ベルナデッド常「でも、私にはまだ力が残っているわ」
小次郎苦「そのようだな……。まさかこんなものに二度も相対することになるとは……」
ベルナデッド常「貴方の昔話は聞きたいけれど、貴方を生かしておけば、きっと私の邪魔をする」
ミキ焦「やめて!もうやめて!ベルナデッド!」
ベルナデッド常「ミキ。貴女を殺せないのではなく、殺さないだけだと言ったはずよ」
ベルナデッド常「どけ、などと言うつもりはないわ」
sound衝撃音
ミキ苦「きゃああっっ!」
ベルナデッド常「よく堪えるわ。兄妹揃って、本当にしぶといのね」
ミキ苦「殺されたって、ここから退くつもりはないわ……」
ベルナデッド常「残念だわ……。つくづく……」
ベルナデッド常「さようなら。もしかしたら、地獄でまた会いましょう」
sound銃声
ミキ驚「え…………?」
ベルナデッド驚「あああああっ……!」
小次郎驚「(何が起こった……?ベルナデッドを、銃弾が貫いた……?)」
ベルナデッド驚「そん……、な……?巴里の悪魔はもう動けないはず……、一体、誰が……」
cgアイン
アイン常「学問だけで、何もできないお姫様だとでも思ったのかしら……」
小次郎驚「アイン!?」
アイン常「そこの新聞記者さんの荷物の中に、銃と霊力封入弾があったから、使わせてもらったわ」
ベルナデッド苦「ずいぶんと、的確な判断と射撃ね……。貴女、本当にベトナムの王女なの……?」
アイン常「一人でレユニオンから脱出して、軍の追っ手を撃退しながら来たのよ。銃くらい使えるわ」
ベルナデッド笑「ふふ……、こんなに眩しい女性だったなんて……。見くびっていたのは、謝る、わ……」
sound倒れる音
アイン常「ごめんなさい……、貴女が強いのは解っていたから、身体の中心を狙うしか無かったわ」
cgベルナデッド
ベルナデッド笑「……いい判断よ。手足を撃ったのでは、私は止められなかったでしょうね」
ミキ叫「ベルナデッド!」
ベルナデッド笑「誰もこれも、お人好しね……。私のことより、貴女の友人を抱えて早く脱出しなさい」
小次郎常「……ベルナデッド、お前」
ベルナデッド笑「さっきの爆発で空洞を支える柱が幾つか破損したわ。この空間は長くは持たない」
小次郎苦「そうか……。ならば、こんなところで倒れているわけには……いかんな」
ミキ驚「お兄ちゃん!そんな身体で無茶をしないで……!」
小次郎苦「エルザを連れて来なければならん。いくら何でもお前一人でエルザは運べんだろう」
ミキ悲「それは……」
小次郎苦「ベルナデッド……、お前は動けないか」
ベルナデッド常「肺と動脈の一部を貫かれたようね。我ながらまだ死んでいないのが不思議なくらいよ」
小次郎苦「では……念動力で動くのは無理か」
ベルナデッド常「あなたのその長い髪を餞別に毟らせてもらうくらいはできるかしらね……」
if巴里華撃団メンバーの合計信頼度一定未満
ベルナデッド笑「残念……、もう力が尽きそう」
ベルナデッド笑「やり残したことは多いけど……、不思議と、満足だわ……」
cgクリア
ベルナデッド眠「……」
小次郎苦「ベルナデッド……」
ミキ驚「え?お兄ちゃん、何を……」
小次郎苦「女の髪と違って、大した餞別になるとも思えないが……」
sound切断音
小次郎苦「俺の首の代わりにくれてやる」
アイン常「ごめんなさい……。もう少しやりようがあったはずだわ」
アイン常「あの子も、私たちベトナム人と、さして変わらない運命だったはずなのに……」
小次郎苦「いや、あれでいいんだ……。アイツを止めることができたんだからな……」
小次郎苦「アイン、お前は祖母を助けに行け。生きている全員、揃って脱出するぞ」
アイン常「わかったわ……。ただ、教授が……」
バレス常「今更この狂科学者まで生き長らえろというつもりかね、探偵よ」
小次郎苦「ああ。ついてきてもらうぞ」
バレス常「私が生きていれば、また同じことをするとは考えないのかね」
小次郎苦「その時はまた止めるさ。今の俺は殺すのが仕事じゃないんでな」
バレス常「……わかった。ここで死ぬのはたやすかろうが、生きてドレフィス君の分まで償うも道か」
アイン笑「教授……!」
小次郎苦「ロベリアは……、動けるか」
ロベリア苦「悪魔を舐めるんじゃないよ……。と言いたいが、歩くのが精一杯だ」
ロベリア苦「腹立たしいが、救援を呼んだ。もうすぐ到着するそうだ」
小次郎常「救援?」
ロベリア苦「ああ。だが待っていられる時間は無いかも知れない。エルザを頼む」
小次郎苦「心得た」
バレス常「手を貸そう。約束を守れなかったことでこの子には恨まれようが、それも私への罰になろう」
小次郎苦「エルザと何を約束したんだ……?」
バレス常「必ずその命を、このパリのために使うことを」
小次郎苦「ドレフィスはエルザを罠に掛けたのではなく、エルザは自分で言いだしたのか」
バレス常「そうだ。この子は始めからそのつもりだった……」
小次郎苦「どうして年端もいかぬ少女がいつもこういうことを考えるのかな……」
バレス常「少女だからだろう……な」
小次郎常「目が覚めたらとくと説教してやるぞ……エルザ」
sound鳴動音
小次郎焦「まずい……、崩れだしたか……!」
バレス焦「走れるか、探偵……!」
小次郎焦「なんとか……!」
sound轟音
小次郎驚「崩落が……!」
ミキ驚「お兄ちゃん……!」
小次郎叫「(上空から……、巨岩……!まずい!)」
sound波濤音
グリシーヌ叫「グロース・ヴァーグ!」
soundポップ音
コクリコ叫「マジーク・ボンボン!」
小次郎驚「……!」
ミキ驚「……グリシーヌさん……?コクリコさん!?」
小次郎驚「どうしてここに……いや、そういうことか。巴里華撃団……」
cgエリカ
エリカ笑「はいはーい、巴里華撃団参上ですよー」
cg花火
花火笑「既にメルさんシーさんからご連絡を頂き、シテ島の間近にて待機していたのです」
cgコクリコ
コクリコ笑「そうしたら、地下から光が噴き出すし、地震は起こるしで、もう大変」
cgグリシーヌ
グリシーヌ笑「ロベリアめが救難信号を送ってくるに至って、これはもう突入するしかないと判断したわけだ」
小次郎常「迷宮からではなく、大聖堂の地上から実力で突入したわけか……」
グリシーヌ笑「これくらい暴れさせて貰わなければな。まさかここまで我らの出番が無くなるとは思わなかったぞ」
コクリコ笑「ホント、日本のサムライってみんなこんなにとんでもないの?」
ロベリア笑「あー?化け物だろ。あいつもこいつも」
グリシーヌ常「フン、口の悪い奴め……。しかし、お前が救難信号とはな」
ロベリア笑「けっ、アタシ一人働かせようったってそうはいかないよ」
エリカ常「はいはい、もちろんエリカも頑張りますよ」
ロベリア驚「げっ、近づくなエリカ!」
エリカ常「暴れないで下さい。怪我してるじゃないですか」
ロベリア苦「くそ……、こいつの世話になるとはね……」
小次郎常「エルザも診てやってくれ。霊力を相当消耗しているはずだ」
コクリコ常「うん……、霊力を相当消耗しているけど、これなら助かる」
グリシーヌ常「そうか。ならエリカ、小次郎を診てやれ。そのままでは脱出もままならん」
エリカ笑「はい、ロベリアさんの治療も終わりました。明智さんも動かないで下さいね」
小次郎常「治療?」
sound治療音
小次郎驚「この能力は……まさか」
エリカ笑「秘密ですよ。お医者さんの仕事が無くなっちゃいますからね」
小次郎驚「よもや、再びこの能力の使い手を見ることになるとは……」
エリカ笑「ふぅ……、はい。これで歩くくらいは大丈夫だと思います」
小次郎笑「感謝する。すごいな……」
エリカ常「すごくなんかないですよ……。死んでしまった人は、生き返られません……」
グリシーヌ常「あれはベルナデッド・シモンズではないか。そうか、彼女が……」
小次郎常「ああ……。これで、この事件は終わりだ」
小次郎常「(新聞屋も、ドレフィスも死んだ……。もっと俺に力があれば……)」
ミキ常「お兄ちゃん……。帰ろう」
小次郎常「そうだな……。お前とエルザとアインを助けることができた……」
花火常「急ぎましょう。既にいつ崩落してもおかしくありません。こちらです」
sound轟音
小次郎焦「言った傍からこれか!」
グリシーヌ常「行くぞみんな!」
ifout
else巴里華撃団メンバーの合計信頼度一定以上
ロベリア常「待ちな。勝手に格好付けて死ぬんじゃないよ」
ベルナデッド常「いまわの際に悪魔の顔など見たくないのだけど」
ロベリア常「死なせないって言ってんだよ。エリカ、こっちだ!」
エリカ常「はーーーーーーーーーーーーい!エリカ参上です!」
sound走行音
小次郎驚「え」
sound衝突音
ミキ驚「お、お兄ちゃん!!エリカさん!?」
小次郎驚「エリカ嬢……!?どうして……ここに?」
エリカ困「いたたたたたたた、エリカまたやっちゃいました……」
ロベリア怒「遊んでる場合か!いいからこっちこい!」
エリカ困「ちょっと待って下さいロベリアさん、明智さんが……」
小次郎常「よくわからんが、俺よりベルナデッドを優先してくれ。頼む」
エリカ常「……はい、わかりました」
ベルナデッド常「何を……するつもり?」
ロベリア常「アタシは行儀の悪いガキも嫌いだけど、それ以上に行儀のいいガキが嫌いでね」
エリカ常「はい、ちょっと動かないで下さいね」
sound治療音
ベルナデッド驚「この力は……、まさか、貴女、モンマルトルの聖女……?」
エリカ常「そう呼ばれることもあったみたいですね」
ベルナデッド常「……そう。私が持ち得なかった力は、こんなにすごいものなの……」
小次郎常「(ベルナデッドの黒い羽が抜け落ちていく……)」
小次郎常「(あのときの俺に、この力があったら……)」
小次郎常「(詮無いことか……)」
エリカ常「ふぅ……、これでバッチリだと思いますよ」
ロベリア常「おっと、動く前に縛り上げさせて貰うよ。あと目隠しもな」
ベルナデッド常「勝手にしなさいな。どの道もう何もする気は無いわ」
ロベリア常「アタシは心配性なんだよ。エリカ、お前は探偵を診てやりな」
エリカ常「その前にロベリアさんもずいぶん怪我をしてますね」
ロベリア怒「ええい!うるさい触るな!回数が限られてるんだから探偵とエルザを診ろ!」
エリカ常「ええー、ロベリアさんが反抗的です」
ロベリア怒「やかましい、とっとと動け!」
小次郎常「しかし、エリカ嬢、何故ここに一人で?」
エリカ常「一人じゃありませんよ。我慢できなくなって、みんなして乗り込んで来たんです」
小次郎常「みんな?」
エリカ常「ええ。コクリコさんはフォンさんを探しに行って、グリシーヌさんと花火さんは悪い人をやっつけてます」
小次郎常「……オールスターだな」
エリカ常「はい、動かないで下さいねー」
sound治療音
小次郎常「やはり……この力は……」
エリカ常「ん……」
小次郎常「感謝する。もうそこで十分だ。動くには支障ない」
エリカ常「ずいぶん我慢してますね」
小次郎常「君ほどじゃない。それは無尽蔵の力ではないだろう。それより、エルザの様子を診てくれ」
エリカ常「そうでしたね」
エルザ眠「……」
エリカ常「霊力を著しく消耗しています。怪我ではないので、私では治せません。とにかく休ませないと」
小次郎常「そうか……。とりあえずここを脱出するのが先ということだな」
sound鳴動音
小次郎焦「まずい……、崩れだしたか……!」
ロベリア焦「おい!急げ!ノワール・フルーレはアタシが引き受けた!」
小次郎焦「わかっている……!エリカ嬢、エルザは俺が担ぐ……!」
エリカ焦「はい!」
sound轟音
小次郎驚「崩落が……!」
ミキ驚「お兄ちゃん……!」
小次郎叫「(上空から……、巨岩……!まずい!)」
sound波濤音
グリシーヌ叫「グロース・ヴァーグ!」
soundポップ音
コクリコ叫「マジーク・ボンボン!」
小次郎驚「……!」
ミキ驚「……グリシーヌさん……?コクリコさん!?」
cg花火
花火笑「間に合ったようですね……ぽっ」
小次郎驚「花火嬢まで……、そうか。これが、巴里華撃団……」
花火笑「ええ、そうです。本来ならばこれは私たちがしなければならないこと」
花火笑「パリを守ること、私たちの仲間を助けること」
花火笑「それをここまでお任せしてしまって申し訳ありませんでした、明智さん」
グリシーヌ笑「まったくだ。よもやここまで我々の出番を奪われてしまうとは」
グリシーヌ笑「恐るべきは日本のサムライといったところだな。
ロベリア常「おいおい、深夜残業したアタシのことは綺麗さっぱり無視かよ」
コクリコ笑「いいじゃない、昼間寝てるんだし」
ロベリア常「このガキ……!」
コクリコ笑「それから、この人も助けて来たよ」
cgフォン
アイン驚「フォン……!よかった……」
フォン笑「恥ずかしながら生き長らえました」
アイン笑「ありがとう、コクリコ……」
コクリコ笑「いいっていいって。こういうときはお互い様だよ」
sound轟音
小次郎常「大団円といったところだな……。脱出するぞ」
グリシーヌ叫「エリカ、エルザを運ぶぞ!ロベリアはそいつを運べ!」
ロベリア常「言われなくても担いでいるよ」
ベルナデッド常「完全に荷物扱いね……。まあいいわ」
ロベリア常「大人しくしてないと燃やすよ」
小次郎焦「(ドレフィスと新聞屋の遺体は……諦めるしかなさそうだな)」
アイン常「教授!」
バレス常「……生き残れということか」
小次郎叫「ああ、生きている奴は引っ張っていくぞ!」
花火常「みなさん、こちらです!」
elseout
sound轟音
bg暗転
bgシテ島地上
cgメル・シー
シー笑「あー!帰ってきた!」
エリカ笑「はーい、帰ってきましたよー!」
メル笑「皆さん、おかえりなさいませ」
グリシーヌ笑「うむ。エルザたちは全員救出してきたぞ。至急搬送の手配を頼む」
cgより子
より子笑「はい、蒸気自動車の準備はできております」
小次郎常「おい。しれっといるじゃないか」
より子常「明智さん、さすがです。お帰りなさいませ」
小次郎常「やはりな。日本大使館が窓口となってシャノワール……巴里華撃団の外部機関として動いていたわけだ」
より子笑「はい。ご推察の通りです」
小次郎常「始めから終わりまであんたの掌の上で踊らされていた気がするぜ」
より子常「酷い評価ですね。明智さんの仕事は私の想像を遙かに上回るものでしたよ」
小次郎常「まったく。帝国華撃団を避けるためにミキのフランス行きを許したってのに……」
小次郎常「ところで……なんだこのシテ島全土を取り囲むフランス陸軍の偉容は」
メル常「明智さんたちが乗り込んだ後、地上からも巨大なエネルギーの奔流が観測されたんです」
メル常「そこで陸軍も、パピヨン孤児院ではなくこちらが本拠だと気づいて目標を変更したんです」
メル常「ただ、総攻撃を行えば救出は困難になるとオーナーは判断してなんとか止めさせていたんです」
if巴里華撃団全員の信頼度が一定以上
シー常「そうこうしている間に、グリシーヌ様がしびれを切らしまして……」
シー常「いつもなら花火さんが止めるところ、みんな乗っちゃって」
ifout
else巴里華撃団の信頼度が一定未満
シー常「丁度ロベリアさんから通信が入ったので、グリシーヌ様たちが直接乗り込み……」
elseout
シー常「解決するまで、一時間待て、ということで妥協させたんですよぉ」
小次郎常「まったく……。オーナー、ね」
メル笑「はい。後日、じっくりとお話下さい」
ifベルナデッド生存
メル常「ところで明智さん……、どういうことか説明していただけますか?」
メル常「なぜ、ベルナデッド・シモンズが明智さんと一緒にいるのか」
cgベルナデッド
シー常「そうですよぉ。この人、ミキさんを攫った人でしょう?」
ミキ悩「えっと……、色々あったんですが……」
小次郎常「取り押さえて助けて助けられて連れてきた」
ベルナデッド常「ずいぶんとあっさり説明してくれることね」
小次郎常「内容としてはそんなところだろう」
ベルナデッド常「情緒がないわ」
小次郎常「それなら今回の事件を叙事詩にしてくれ」
ベルナデッド常「悪くない提案ね。巴里華撃団の拷問を受ける間に考えておくわ」
グリシーヌ常「聞き捨てならんな。我らがそんなことをするとでも思うのか」
ベルナデッド常「イザベル・ライラックと迫水典通を貴女は甘く見過ぎているわ」
ロベリア笑「わかってんじゃねえか。あいつらの極悪人っぷりをな」
小次郎常「……逃げないのか」
ベルナデッド常「私の存在意義の大半は果たされたわ。この期に及んで逃げてどうなるの」
ベルナデッド常「いっそ尋問し返してやるとするわ。心配は無用よ」
小次郎常「そうか……」
ベルナデッド常「ええ。ただ希望を言えばね……」
小次郎常「ん?」
ベルナデッド常「これ以上悪魔に担がれているのは気分が悪いわ」
ロベリア笑「やかましいね、まだ悪魔の方が連中よりマシだろ」
ベルナデッド常「さっきから声が聞こえる迫水の番犬」
より子怒「私のことですか!」
ベルナデッド常「番犬で不服なら、貴女の素性を語ってあげてもいいのよ」
より子怒「……。ええ、お望み通り拘束して差し上げます。人道的にね」
小次郎常「本気で頼む。後でそいつには聞きたいことがあるんでな」
より子常「……仕方がありませんね。わかりました」
ifout
elseベルナデッド死亡
小次郎常「(結局、あいつを救えなかったか……。もう少しわかり合えたかもしれんが)」
小次郎常「(それに新聞屋に、ドレフィスもか……、探偵失格だな……)」
elseout
アイン常「あの……とにかく今は病院へ。機関の爆風を受けた小次郎の傷は軽傷ではありません」
エリカ常「そうですね……。本当なら私が完治させたいところなんですけど……」
グリシーヌ常「その様子ではこれ以上回復をさせるわけにはいかんな」
エリカ笑「あ、でも最後に一つやっておきたいことがあるんですよ」
ロベリア嫌「てめえ、まさか……」
花火笑「あ、あれですね」
コクリコ笑「うん、あれを忘れていたよ」
グリシーヌ笑「なるほど。片付いたとあらばやるしかないだろうな」
小次郎常「……なんだ?一体何が起こるというんだ」
エリカ笑「せーのっ」
????「勝利のポーズ、決めっ!」
bg暗転
bgシャノワール貴賓室
cg迫水
迫水常「怪我の具合はどうかね、明智くん」
小次郎常「あの後翌日に、エリカ嬢に治して貰ってこの通りだ。何の問題もない」
迫水常「ふむ……。ちゃんと回復したのなら何よりだ」
小次郎常「それはそうと、シテ島の捜索がどうなったんだ」
迫水常「退役大佐が関わったということで、警察ではなく陸軍が捜索したんだがね」
迫水常「君が言った通り、ドレフィス大佐以下ディビジョン・ノワールのメンバーの遺体が見つかった」
小次郎常「人数は?」
迫水常「供述で得られた総メンバー数と合わないので、若干名は生き残りがいるようだ」
小次郎常「赤城三郎の時に逃げた奴もいただろうしな」
迫水常「それから、内閣諜報局のスパイだったモルガン・カミュの遺体も発見できたよ」
小次郎常「最初に会ったときから、アイツだけは殺しても死なないと思ったんだが……」
ifベルナデッド生存
小次郎常「それで、教授とアインとベルナデッドの扱いはどうなるんだ」
迫水常「君の嘆願もあって、バレス教授とアイン君について直接の刑罰が下ることはなさそうだ」
迫水常「おそらく、ドレフィスの計画に強制的に参加させられたということになりそうだよ」
小次郎常「死人に口無しか……」
迫水常「生きた口が一人残っているので、彼女次第だがね」
小次郎常「そのベルナデッドの扱いはどうなっているんだ」
迫水常「比較的素直に取り調べに応じてくれているので助かっているよ」
小次郎常「拷問はしていないだろうな」
迫水常「嫌だな明智くん。いくらなんでも将来の隊員候補にそんなことはしないよ」
小次郎常「……やはりあいつを勧誘するつもりか。巴里華撃団」
迫水常「彼女ほどの人材は貴重だよ。是非とも巴里華撃団に欲しいからね」
迫水常「出来れば後で、彼女を説得すべく君からも一言彼女に言ってやってほしい」
小次郎常「あいつはどこにいるんだ」
グラン・マ常「後で案内させれるよ。以前ロベリアの奴を収監していた特別監獄さ」
小次郎常「そんなことをせんでも、あいつは逃げはせん。……逃げ行く先がない」
グラン・マ常「私もそう思うんだけどね。そっちの鉄壁が納得しないのさ」
小次郎常「鉄壁、か。より子を通じて俺の動きを逐一把握していたようだが……」
小次郎常「どこまで計画通りだったのか。最初から最後まであんたの掌の上にいた気がするぜ」
迫水笑「ひどいな。僕はそこまで極悪人ではないよ」
ifout
小次郎常「そもそもシュペングラーは花火嬢に同行していた。花火嬢の関係だから日本大使館が出てきたと思ったら」
小次郎常「シャノワール管轄の秘密部隊の外郭機関という落ちで、この貴賓室への招待だからな」
グラン・マ常「おや、このシャノワール貴賓室が気に入らないのかい」
小次郎常「居心地が良すぎて困る。そもそも貴女が俺を日本から呼んだことも計画のうちなのか?」
グラン・マ笑「さすがにそこの男ほど策士じゃないよ。ミキのことで話がしたかったというのが本音さ」
小次郎常「そう、その話だ。結局の所、ミキにも霊力があったということだな」
小次郎常「それも、パピヨン計画の筆頭たるエルザに匹敵するほどの霊力が」
グラン・マ常「アンタの見立ては正鵠を射ているよ。ミキとエルザの霊力は群を抜いている」
グラン・マ常「鍛えればエリカたちにも匹敵するくらいになる」
グラン・マ常「この巴里華撃団は人材不足でね。そんな人材を一人でも多く欲しいんだよ」
ifベルが生存している
迫水常「ノワール・フルーレを勧誘するくらいだから、僕たちの台所事情は分かってもらえるだろう」
ifout
elseベルが死亡している
迫水常「何しろ実働部隊が五人なんだ。僕たちの台所事情は分かってもらえるだろう」
elseout
小次郎常「そっちは理解しよう。ひとまずベルナデッドの身の安全は確保されているとな」
小次郎常「だが、ミキには理不尽だ。アンタはミキの霊力ゆえにバックから引き上げたのか」
小次郎常「ダンサーとしての努力や実力ではなく……」
グラン・マ常「帝国歌劇団のことを多少なりとも知っているアンタならわかるだろうけど……」
グラン・マ常「舞台にせよステージにせよ、そこに立っているからこそ魔を鎮めることができる」
グラン・マ常「ここは巴里を守るための最前線でもあるんだよ」
グラン・マ常「だけど、このイザベル・ライラックを見くびらないで欲しいね」
グラン・マ常「霊力だけで抜擢するほど私はステージを軽んじていないよ」
グラン・マ常「あの子はこの三ヶ月で私の想像を超えるほどの努力を積み重ねた」
グラン・マ笑「それを、ご覧に入れようと思ってね。この貴賓室に招待したんだよ」
メル笑「それではみなさん、お待たせ致しました。ただいまより当店の新星によるステージをお楽しみ頂きます!」
sound拍手歓声
小次郎驚「……」
グラン・マ笑「どうだい、ご自慢の妹のステージは」
小次郎驚「……ああ。確かに、俺は見くびっていたようだ」
小次郎笑「ミキとエルザの二人が、まさかここまで輝いて見えるなんてな……」
グラン・マ笑「一人ではあの子たちはここまで到達しなかったろう」
グラン・マ笑「あんな二人を育てたのは初めてだよ。いい子たちさ」
グラン・マ常「さて、保護者であるアンタに頼みがある」
小次郎常「ここまで聞けば内容の推測はついているがな」
グラン・マ常「それじゃあ単刀直入に言おうじゃないか。ミキを巴里華撃団に欲しい」
小次郎常「………………俺が反対する意味はあるのか」
グラン・マ常「無いね。私は必要な人材なら親兄弟が泣きわめこうがスカウトするよ」
ifベル生存
グラン・マ常「ロベリアだって然り。ベルナデッド・シモンズも必ず引き込む。安心しな」
ifout
elseベル死亡
グラン・マ常「ロベリアだって然りさ。安心しな」
elseout
グラン・マ常「そしてミキは既に経済的にはアンタから自立している。自らの去就は自ら決める権利がある」
グラン・マ常「既にミキにはアンタより先に話をしている」
小次郎常「さすがは自由の国フランスだ。では俺の出る幕ではなかろう」
グラン・マ常「気分の問題はあるのさ。どれほど華やかに飾ったところで戦場へ連れ出すんだ」
グラン・マ常「保護者であるムッシュが反対していると、ミキにはよくない」
グラン・マ常「アタシも寝覚めが悪いしね」
小次郎常「…………俺が反対する可能性をミキは考えなかったか」
グラン・マ常「あの子がなんと言ったのかは私に答える権利は無い。直接聞きな」
小次郎常「いや。聞かずともわかる。あいつは俺の反対ではなく俺自身を心配したんだろう」
グラン・マ笑「ふん……」
小次郎常「自立できなかったのは俺の方か……」
小次郎常「ミキはかつてな、帝国陸軍対降魔部隊に命を救われている」
グラン・マ驚「何だって……!?」
迫水驚「何!?」
小次郎常「華撃団の前身に命の借りがある。ならば……」
小次郎常「その力が必要とされたときには、誰かを助けなければならん」
グラン・マ常「……権利と義務の考え方だね。嫌いじゃないよ」
小次郎常「思えば偶然なのかどうかもわからんな。元来素養があったから降魔に狙われたのかもしれん」
迫水常「……ふむ、すみれの例を考えればあり得る話だな」
小次郎常「霊子甲冑に乗って魔物と戦うのは、思えばミキが本来為すべきことなのだろう」
小次郎常「俺の役目はようやく終わったということだ。ならば反対などできん」
小次郎常「思えば、俺があいつの兄になれたのもそれ故か……」
小次郎常「イザベル・ライラック殿。迫水典通殿」
小次郎常「……私が託された最愛の妹を、あなた方に委ねます」
グラン・マ常「私の名に賭けて、明智小次郎、ムッシュの育てた最愛の妹の命を受け取った」
迫水常「娘を持つ父親の気持ちだろうが、私もわかるつもりだ」
迫水常「感謝するよ、明智くん」
小次郎笑「……」
小次郎悲「……」
エルザ笑「皆さんありがとう!」
ミキ笑「これからもよろしくお願い致します!」
小次郎悲「なあ……。それで、いいだろう……?」
bg暗転
ifベル生存
bgサンテ刑務所
cgベルナデッド(囚人服)
ベルナデッド常「あら。わざわざこんな地の底まで無駄足を運びに来たの」
小次郎常「……ずいぶんと居心地の良さそうな牢獄だな」
ベルナデッド常「巴里の悪魔が居住していた中古というのが気に入らないけど……」
ベルナデッド常「出来については誉めてやらなくもないわ。鉄壁」
迫水常「それはどうも。中途半端な監獄では君の前では東屋同然だろうからね」
迫水常「壁面の煉瓦は念動力耐性、格子はシルスウス鋼製、外周には転移封じの結界を設けたんだ」
ベルナデッド常「最後のはいい嫌みね。出来ないと言っているでしょう」
迫水常「失礼。詩人ならではの詩的な表現を理解できない粗忽者でね」
ベルナデッド常「それで、私に聞きたいことがあるという顔をしているわ」
小次郎常「ああ……」
ベルナデッド常「あの翼に因縁があるようね。初めて見た者の顔じゃなかったわ」
小次郎常「察しが良いな。あのとき、お前は何を見た?」
ベルナデッド常「黒い世界が見えたわ。自分がパイプになったかのようだった」
小次郎常「パイプ?別世界と連結していたということか」
ベルナデッド常「そうでしょうね。自分の中に膨大な霊力が流れ込んできていたわ」
ベルナデッド常「明らかに自分のものではない力を、わかりやすい形で自分の一部にしようとしたら……」
ベルナデッド常「人が本来持っていない器官として、あの形に帰結したまでのことよ」
小次郎常「俺は、お前が鳥になって逃げたかったのかと思っていた」
ベルナデッド常「……、それは否定しないわ。でも翼が欲しいというのは万人が持つ俗な望みよ」
小次郎常「そうだな。俺も、逃げ出したくて翼を求めたことがある……」
ベルナデッド常「意外だわ。貴方なら逃げるより討ち死にが似合うのに」
小次郎常「痛いところを突いてくれるな。他に声は聞こえなかったか」
ベルナデッド常「…………声?」
小次郎常「言葉にはなっていなかったかもしれないが」
ベルナデッド常「……いえ、声は聞こえなかったわ。本来聞こえるものなのかしら」
小次郎常「いや、聞こえなかったのならばそれがいい」
ベルナデッド常「そう。どうやら私は、行き着く前に踏みとどまってしまったようね」
小次郎常「おかげでこうして話すことができる」
ベルナデッド常「貴方に一つ思い出させてあげる。私は幾多の人間を殺してきた暗殺者よ」
ベルナデッド常「育ての親すら殺した……ね」
小次郎常「誇ることはできないが、俺はおそらくお前よりはたくさんの人間を殺している」
ベルナデッド常「そう。人殺し同士が格子の裏表で向かい合っているわけね。奇妙な話だわ」
小次郎常「そうだな。とかくこの世は不条理だ」
ベルナデッド常「だからどうしろとは言わないのね。それは評価してあげるわ」
小次郎常「言えるような立場でもないからな」
小次郎常「ただ、安心はした」
ベルナデッド笑「女の興味を惹くのが案外上手いのね」
小次郎常「そう誉められたのは初めてだな」
ベルナデッド常「今度はそこの無粋な土壁抜きで話したいわ」
迫水常「これでも鉄壁のつもりなんだがね。あいにくまだそこまで許可はできない」
ベルナデッド常「仕方がないけど、素直に屈服するのも気に入らないわ」
ベルナデッド常「いずれは貴方の勧誘にも応じるわ。でなくば探偵と話せそうにないのでしょう」
迫水常「君たちのデートを認めるのは時期尚早だね」
ベルナデッド常「こんなところで父親顔されても腹が立つだけよ」
ベルナデッド常「またいずれ合いましょう。華撃団に入ればいずれ日本に行ける機会もあるでしょう」
小次郎笑「そうか……」
ベルナデッド常「だから、安心して帰国なさいな。次に会うときまで日本語の勉強はしておくから」
小次郎笑「では、またな」
ベルナデッド常「そこで歌を詠まないから、貴方は駄目なのよ」
cgクリア
迫水常「どうやら、君は僕が考えていたよりも華撃団に近い人間なのかな」
小次郎常「あれ以上に話すつもりはないぞ。聞きたければ藤枝かえでに聞くといい」
迫水常「何?」
小次郎常「彼女との約束だ」
bg暗転
ifout
bg小次郎のアパート
ミキ常「うん、これで全部かな」
cgミキ
ミキ常「本当に荷物これだけでいいの?お兄ちゃん」
小次郎常「野郎の一人旅なんてこんなものだ。来るときだって大した荷物はない」
ミキ常「巴里土産も何も無しで……?」
小次郎常「いらんよ。記憶に留めることができればそれでいい」
小次郎常「それより、シャノワールの面々にはちゃんと伏せているんだろうな」
ミキ常「うん……、何もこっそり帰らなくても……」
ミキ常「エルザはお兄ちゃんにお礼をしたいと言ってたし、グリシーヌ様だって……」
小次郎常「脇役はこっそり退場すればいいんだよ。お前に知られただけでも不覚だ」
ミキ笑「お兄ちゃん、私に隠し事できると思うなんて見くびらないでね」
小次郎常「やれやれ。さて、行くか」
cgクリア
cgアイン(アオザイ姿)
アイン常「…………」
ミキ笑「……」
小次郎常「……………………」
小次郎常「おい、ミキ」
ミキ笑「なあに、お兄ちゃん」
小次郎常「どういうことだ、これは」
ミキ笑「うん。確かに、シャノワールのみんなには、何も言わなかったよ」
小次郎悩「………………」
小次郎悩「ミキ……」
ミキ笑「お兄ちゃん、私は先に駅に行ってるからね」
小次郎悩「……わかった」
アイン常「…………」
小次郎常「その服装は初めて見るが……、なるほど、お姫様というのも納得だな」
小次郎常「ベトナム王朝の皇帝は確かインド洋の島、レユニオンだったかに島流しされていたな」
小次郎常「流刑地からフランス軍を撒いてこのパリまで来たというわけだな」
アイン笑「……つくづく、呆れるほど優秀ね貴方は」
アイン笑「私は成泰帝の姪にして維新帝の従姉に当たる、ベトナム王朝の皇孫です」
小次郎常「それで納得だ。フランスに簒奪されたベトナムで子供の頃飢えたことがないというのは疑問だった」
アイン常「後は、あの夜に話しましたね」
アイン常「フランスの暴虐によって王朝と国土と国民が踏みにじられる中……
アイン常「私は、フランスに対抗するためにはフランスに行くしかないと考えました」
アイン常「フランスを破壊するにしても、フランスの強さを知るにしても……」
アイン常「だから16のとき、島流しの船に同乗してレユニオンに亘り、さらにそこから密航したのです」
小次郎常「あんまり思い詰めた顔をするな。美人が台無しだぞ」
アイン笑「……仕方がないわ。それが王族に生まれた者の義務というものよ」
アイン常「もっとも……、一度はそれを忘れようとしたわ」
アイン常「このフランスに来て、学問に打ち込むことは心底楽しかった……」
アイン常「欧州の英知が結集して蒸気革命を成し遂げなければ、世界はここまで到達しなかった」
アイン常「そのことを考えると、フランスに対する敵愾心が消えそうになった」
アイン常「故郷を救うだけでなく、フランスにも貢献できるのなら……と思ったの」
アイン常「それが、私がドレフィスに荷担した理由」
小次郎常「だが、考えを取り戻したんだな。察するところ……、あのメイリンの扱いか」」
アイン常「ええ……。どうしても埋めきれないものがあることも悟ったわ」
小次郎常「それで、これからどうするつもりだ。わざわざそんな服で来たということは……」
アイン常「……理研を、やめることにしたわ」
小次郎常「バレス教授はなんと言っていた」
アイン常「慰留されたけど、最後には納得して頂いたわ」
アイン常「……フランスから離れても、研究を続けることを条件に、ね」
小次郎常「ベトナム王族にして、なお研究者として生きるか。それも良いだろう」
小次郎常「だが、なお蒸気機関の研究を続けるつもりか」
アイン常「止めないわ。あなたの言う危険性は分かったけど、ならばこそ止められないのが研究者なのよ」
小次郎常「取り憑かれたというわけではなさそうだな」
アイン常「ええ。むしろその逆。既に第二世代蒸気機関は先進国において必須になっているもの」
アイン常「代替手段も無しに全廃なんて出来るはずもないし、植民地は宗主国に追いつけなくなるわ」
アイン常「科学技術がどれほど世界を作り替えようと、それを正すことができるのも科学なのよ」
小次郎常「ならば、期待していいんだな。魔界のエネルギーを使わない時代が来ることを」
小次郎常「そう約束してもらえなければ、今度こそ力尽くでもお前を止めるぞ」
アイン笑「もちろんよ。でも、それはそれで魅力的な脅しね」
アイン笑「約束するわ。近くでしっかりと私が暴走しないか監視してね」
小次郎悩「近く?ベトナムに戻るんじゃないのか?」
アイン笑「ええ。バレス教授に紹介状を書いて頂いたの。私の次の所属先はね」
アイン笑「帝大理学部物理学科よ」
小次郎驚「なにいいいいいいい!?」
アイン笑「読みの深い貴方を驚かせることがこんなに爽快とは思わなかったわ」
小次郎驚「ちょっと待て!単に私情で決めたんじゃないだろうな……!」
アイン笑「帝大物理学科には二十世紀の技術論の著者山崎真之介の論文を受けた教授がいるのよ」
アイン笑「四度の霊的災厄に見舞われた帝都なら、実測のための環境としても申し分ないわ」
小次郎常「……それだけじゃないがな」
アイン笑「着任は来年の四月からだけど、年明けには帝都に移住して準備するわ」
アイン笑「というわけだから、一足先に帰国して、住居の手配をお願いね」
アイン笑「ところで……、私情って、何のことかしら?」
小次郎呆「……………………」
アイン笑「何か不満でも?」
小次郎常「いや……」
小次郎笑「そうだな、そんな未来の到来をすぐ傍で見るのも悪くない」
アイン笑「……」
アイン笑「さあ、そろそろ行きましょうか。名残惜しいけど今日は駅までの見送りで我慢するわ」
cgミキ
ミキ笑「あ、お兄ちゃん、アインさん、やっと来た」
小次郎常「まったく……。大体、どこでアインと連絡を取るようになったんだ」
ミキ笑「大聖堂から生還した後だよ。この人なら大丈夫だって思ったの」
小次郎常「……ということは、来年からの事情も」
アイン笑「ええ。ミキさんには先に了承済みよ」
ミキ笑「ね」
小次郎呆「おまえら……」
ミキ笑「お兄ちゃんのことはよくわかってるつもりだけど……」
ミキ笑「あのときからお兄ちゃんはずっと、私のために生きてきた」
ミキ笑「でも、もう私は大丈夫だから。だから、お兄ちゃんもこれからは自分のために生きて」
小次郎常「ミキ……」
sound汽笛
小次郎常「……時間か。ミキ、また格上げされたら手紙をよこせ」
ミキ笑「うん。こまめに書くからね」
小次郎常「ただでさえ頑張っているんだから、そんなことを頑張らなくていい」
小次郎常「アイン、俺の住所はミキに聞け。こちらからは追って連絡する」
アイン笑「頼りにしてるわ。……またね」
小次郎常「またな。二人とも」
ミキ笑「またね、お兄ちゃん」
cgクリア
bg車内
小次郎常「帰りの座席は特等車か。ライラック夫人もそこまでしなくてもな……」
sound汽笛
sound車輪音連続
cgエビヤン
小次郎常「あれは……エビヤン警部。わざわざ見送りとは、律儀な御仁だな」
エビヤン常「……」
小次郎常「……ん?向こうを見ろ、と言ってるのか?」
bg巴里花組見送り
小次郎笑「……ミキのやつ、結局黙っていなかったのか。あいつめ……」
小次郎笑「感謝する。ありがとう、巴里華撃団。ミキを頼む……」
goodend3
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