【SS】サクラ大戦大活動写真−太正浪漫よ、永遠なれ− Rudolf@連投失礼 2016/09/27 19:46:29 ├その1. Rudolf 2016/09/27 19:47:09 ├その2. Rudolf 2016/09/27 19:48:02 ├その3. Rudolf 2016/09/27 19:49:10 ├その4. Rudolf 2016/09/27 19:49:32 ├その5. Rudolf 2016/09/27 19:50:33 ├その6. Rudolf 2016/09/27 19:50:49
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その6. 午前0時を皮切りに聖魔城に向けて歩みだしたのは当然大神達だけではない。ここまでは全員が無事に目的地に向かって夜道の楽しくはない遠足に勤しんでいた。楽しそうに行進していたのは、唯一エリカくらいのものである。 「あーこれでお弁当でも持ってくればピクニックになったのに残念ですね〜。」 「こんな所でゴハン食べてもおいしくないと思うよ。」 コクリコもやや呆れ気味に皮肉を交えてエリカに返した。このお気楽な年長者をも無事に大神との約束を守らせるには自分がしっかりせねばならない。コクリコは小さな体に二人分の責任を背負う覚悟を決めていた。 やがてコクリコ機の少し前を跳ねながら歩いていたエリカ機が何も障害のない道で転んだ時、状況は一変した。這い蹲っているエリカ機の上にぱらぱらと石が落ちてきたのだ。コクリコは石の落ちてきた上を向いて来客を迎えにきた下僕の存在を確認した。 「降魔だ!」 責任感の倍加のおかげで冴えていたコクリコは即応の体勢を取った。切り立った崖の合間にある道にいたコクリコ機では崖の上から自分たちを見下ろす2体の降魔に対して有効な攻撃手段を持ち合わせていなかったためである。彼女は敵が獲物を食らうため下りてくるのを待った。 「祈りなさぁい!」 エリカ機のマシンガンが降魔共をハチの巣にした。コクリコが即応して降魔を睨んだ時、視界外になったエリカはコクリコより鋭い反応速度で浮き上がり降魔に対ししたたかに鉛の弾を撃ちこんでいた。 「さあ行きましょう、コクリコ。」 「あ、ああ、うん。」 何事も無かったかのように平然と歩みを再開した彼女を見つつ、エリカもいつまでも成長してないわけではないのだなとコクリコは反省してほんの少しだけエリカを見直した。 「あれっ。きゃ〜!」 「あちゃあ…」 またも何もない道で転げる芸当を見せたエリカに、コクリコは直前の彼女に抱いた感情をすぐさまかなぐり捨てた。 帝撃一の名コンビにして迷コンビの二人に関して、もはや説明は不要である。襲いくる降魔との局地戦の悉くを無人の野を行くが如く労せず突破し、一歩また一歩と着実に目的地へと近づいている。 「無理すんなよ、降魔くらいいつでもアタイの拳が叩きのめすからよ。」 「あ〜ら、カンナさんにご心配していただくほどわたくし、耄碌してはおりませんわよ、おっほほほ。」 「って、あー!だからよ、あの、そのな。」 「なんですの、その口中に物の挟まったような言い草は。カンナさんらしくありませんわね、言いたいことがあるならちゃんと仰ってくださいな。」 「あ、ああ、そのよう…オメェ、体は大丈夫なのかよ。」 「はいぃ?」 カンナの意外な言葉に、明確な発言を求めた当人が驚きと怪訝の声を上げた。 「だってよぉ、オメェ一度は霊力がなくなるって引退してんじゃねえか。もしこんな所で光武も動かせなくなっちまったらアタイはよ、」 「ま、まあ何を仰るかと思えば。おっほほほ、霊力なぞ一晩休ませていただいたらすっかり元通りになりましてよ。やはりトッップスタァは体の出来もカンナさんのような粗野でお下品だけが売りの筋肉バカさんとは違いましてよ。」 一晩で回復などはさすがに出任せではあるが、すみれの霊力は光武を並以上に動かすには十分すぎるほど漲っていた。霊力が落ちるのもままならなかったが、復活するのもまたままならぬもののようである。ままならぬだけに、しかも思考する行為自体に苦手意識のあるカンナにはただただ悪口のみが理解の範であった。 「んだとぉ!人が心配してやってりゃつけあがりやがって。誰が筋肉バカだってんだよ。」 「あなた以外の事に聞こえたのでしたら、わたくしの言い方が悪かったのでしょうね。」 「がぁー!もう許さねえ、勝負しや…」 「カンナさん。」 「ああ、またお客さんのご登場ってか。」 話の腰を折る才能に満ちた降魔が二人の前に現れた。人であれば邪魔を自覚させる罵詈雑言の1ダースも浴びせ倒されて精神が挫ける場面であったが、所詮人語を解する事はできぬ降魔である。二人も無駄な物言いはしなかった。 「丁度よろしいわ、わたくしの霊力の復活具合、その目でご覧になられればよろしくてよ。」 言うが早いか、すみれ機は猛ダッシュして降魔に対し長刀を振りかざしていた。 「神崎風塵流、孔雀の舞!」 降魔群の真ん中に長刀を突き刺し四方に炎が燃え上がり、降魔共は一瞬にして焼き尽くされた。実際すみれの霊力は実戦にも問題はなかった。彼女自身も内からふつふつと沸き上がるものを感じ、それが霊力の高まりに直結していた。 「ふっ、ご覧になりまして、カンナさん。」 「ああ、よーっく分かったよ。霊力もそのやかましい口もすっかり元通りになってんのがよ。」 「んまっ。カンナさん、どうしてあなたはいつもいつも一言余計なんですの!素直にわたくしの力をお認めになればそれだけでよろしいのよ。」 「てやんでぇ、やかましいモンをやかましいつっただけだろうがよ、このあばずれ女。」「なんですって、この頭まで筋肉まみれのオバカさん!」 「なんだとこのヤロォ!」 一方で、赤いイタリア貴族と青いフランス貴族の組は国風の違いか、貴族としてのモチベーションの違いからか、なかなか韻を踏んだステップで行軍というわけにはいっていなかった。 「だーから!フランス貴族は大人しくワタシの後ろをのこのこついて来ればいいでーす、これみよがしに先を歩かないでクダサーイ!」 「ええい五月蠅いぞ、赤い貴族。たとえ相手が平民であろうと貴族であろうとも我が身を盾として守り抜くのが我がブルーメール家だ。イタリア貴族は大人しくわたくしの影で昼寝でもしてるがいい。」 イタリア人のシェスタ習慣を小馬鹿にされたと思った織姫の口に一段と拍車がかかる。 「だーっ!昼寝なら出発前にたっぷりして来たデース。だいいち今は真夜中デース、シェスタの時間じゃありマセーン。フランス貴族は昼と夜の区別も付きマセンか?」 さしものグリシーヌも口撃内容の稚拙さに織姫と互角レベルで鍔迫り合いを行おうという気になれないでいた。 「四の五のとつくづく五月蠅い女だ。ソレッタ家というのはただのおしゃべり貴族なのか?」 「太陽の様に明るい貴族なだけデース!ムッツリ貴族は黙ってやがれデス。」 理性が感情を掣肘している時間は突如終了を迎えた、グリシーヌの口撃も戦端を開くのであった。 「ムッツリとはなんだ、ムッツリとは!無礼にも程がある、そこになおれ、斧の錆としてくれる!」 前を歩いていたグリシーヌ機が振り返ったと同時に両脇の地表から降魔が1体ずつ文字通り湧いて現れた。降魔としては決してタイミングを狙ったわけではないが二人にとって隙を突かれたことに変わりはなかった。降魔共が爪を振り被り牙を研ぎ澄ませてこれから獲物を狩ろうという矢先、二人の瞳の輝きが左右から交錯する。 次の瞬間、右の降魔はグリシーヌ機の戦斧に一刀両断され、左の降魔は織姫機のビームを四方から一身に浴びて斃れた。 「…ふっ、やるではないか。」 「…そっちもデース。」 降魔を屠った姿勢を維持したまま、二人はモニタ越しに互いの顔を見やった、お互いが互いの顔に誇りと自信に満ちた意志を汲み取っていた。 「オホン。イ、イタリアに貴族もなかなかできるようだな。」 「フ、フフン。フランス貴族も見かけ倒しではないようデース。」 険悪なムードはむしろ降魔が現れたことによって吹き払われた。数分前よりはいくらかましな韻を踏みつつ、彼女達もまた歩を進めていく。 険悪ではないのだろうが、良好な雰囲気にも傍目には見えない隊もあった。此処までに既に5体の降魔と出くわしながらも、黙々とランスだけがそれらを粉砕せしめていた。 「あの、レニさん。」 花火が辛抱堪らなくなりランスの主に話しかける。 「レニさんの攻撃能力が高いのは存じています。けど、無理をせず二人で戦った方がよろしいのではないでしょうか。」 「ボク一人の力でも降魔は十分倒せる、そう判断してるだけ。」 「それはそうなのでしょうが。」 物言いも抑揚も淡白な返答を示すレニに花火は少々困惑する。元々花火も人との付き合い方が得意な方でないのに、相手はそこに輪をかけたように口数の少ないレニである。今日になってから満足に会話したのはこれがやっと初めてだった。 そんな二人の前にまたしても降魔が、総じて4体現れた。降魔を認識するや否や、レニは最大戦速で間合いを詰め一気に勝敗を決しようとする。これまでの戦闘で、4体程度なら一人で方を付けられる、計算ずくの行動である。 「北大路花火、三の舞。雪月風花!」 花火が天に向かって矢を放ち、レニ機を跨いで無数に降り注ぐ矢がレニ機が攻撃範囲に降魔を捉えるより先にそれらを全滅させた。 「わたしの弓矢は、複数の敵に対して有効です。レニさんなら貴女のランスよりもわたしの攻撃の方が有効なのは分かってらっしゃると思うのですが。」 花火の指摘にレニは些か口ごもってから、本音を吐露した。 「ボクは…他の華撃団だからというだけでまだ君たちに距離を置いていたみたいだ。分かった、次からは花火の攻撃もあてにするよ。」 「はい、お任せ下さい、ぽっ。」 以前の戦闘機械というよりは、ただの人見知りの風なだけと花火は思った。数年前までの彼女は対話性を全く重要視していなかったのだからそんな所があっても不思議でもない。 「行こう、花火。合流地点はまだまだ先だ。」 「は、はい。」 レニが主体的に話しかけてきたのも本日最初、いや以前に経験していたかも思い出せないくらいの珍事に花火は戸惑いの色を見せた。レニには戸惑った理由が見えてこなかったのだが、戸惑ったためか少し大きく威勢がよくなった声で返してきた花火の肯定に不安材料を感じなかったのでこの問題は考えずにおいた。先を行くレニが、後ろをついて来る花火の表情が少し嬉しそうに柔らかくなったことに気付くことまではなかった。 無口を貫き通せなかった所があれば、過ぎた会話を楽しむ所もある。 「ほんでな、エリカはんがもう一回さくらはんの裾を踏みつけよってん。さすがに二度目ともなったら怒るやろ。」 「うんうん、すみれもさくらにされたらすっごい怒ってた。」 「せや、大方そのすみれはんにやらかした記憶が残ってたんやろな。さくらはん、必死こいて我慢しとってんよ。もーその時のさくらはんの顔ゆうたら傑作やったで。」 「あっはははははは、面白ーい、紅蘭のお話はいつも面白いね。」 「フッフーン、今更何言うとんねーん。そいでなそいでな、」 「うんうん、次はなぁーにぃ? 紅蘭の眼鏡が怪しく光った。きっと彼女の眼鏡は光を反射するではなくここぞという時に自ら発光できる細工が施してあるのであろう。 一連の紅蘭の会話は不真面目の表れではない、妖気渦巻く大和の上を感受性が飛びぬけて高いアイリスを向かわせるには、妖気の塊にまず精神が押しつぶされかねない等の大きなリスクがある。それを和らげるために大神は紅蘭というムードメーカーをアイリスと組ませていた。紅蘭は大神の期待を越えるだけの成果を果たしておりアイリスは今、大和の大地の上で最も正の感情に満ちた人間であった。そしてアイリスの光武は、周囲全ての敵対物に具現化した霊力を直接着弾させるもので、正の感情に溢れるアイリスはただでさえ強い霊力を更に強化していたために迫る降魔を何度も瞬殺の状態で葬っていた。 「えへへ、アイリスほんとーに強いんだよ。」 「ホンマやわ、おかげでウチめっちゃ楽させてもーてるで。」 実際に一発の弾も撃っていない紅蘭がアイリスを持ち上げる、乗せる上手さも紅蘭ならでわである。 「かまへんかまへん、えへへへー。」 紅蘭の真似をして慣れない関西弁で返す、そんなアイリスはまさに絶好調といえよう。このようにこの二人の歩んだ道は、終始明るい笑い声が木霊し続けるルートとなっていた。 陽気に行く隊があれば、レニや花火とは違う意味で真逆の行軍を示す隊もあった。マリアのロベリアに向く冷たい視線が全てを物語っていたのかも知れない。 「やいやい、アタシは敵じゃねえってのになんだよその氷の視線はよ。気に入らないね。」 「気に入られるつもりならこんな目はしないわ。私は懲役1000年の大悪党をまだ確実に信じてはいない。」 視線だけに留まらず、言葉使いはおろか態度すらもマリアは冷淡であった、その証拠に彼女はロベリアの攻撃範囲に一歩も入らないでいた。彼女の機体は搭乗者よろしく遠距離攻撃を得意とするので絶えず射程にロベリアを捉えている。これがクワッサリーと呼ばれた女の忘れ去っていた感覚なのだろうか、その記憶を置き去ったマリアにも回答できない問題である。 「あー、やだねえ冷たい女は。そんなだと隊長も逃げたくなるぜ。」 「何とでも言ってなさい、もしあなたが少しでも妙な素振りを見せれば私は容赦しない。氏綱と戦う前に昔の、そう昔の血塗られた手を呼び戻させることになろうとも。ロベリア、あなたが感じてるのはその殺気よ。」 「ああん、お前もバカか?自分が何言ってんのか分かってんのかよ。」 「ええ、分かってるわ。」 「おやおや、いよいよバカが本当のバカになっちまったかい。じゃあ妙な素振りってのは…こういうのを言うのかい!」 言葉を言い終わるが早いか、ロベリアの姿がマリアの視界より一瞬で消えた。彼女がその瞬間ほんのコンマ数秒だけ焦燥した間隙でロベリアはマリア機の真ん前にすっと現れ 、その強靱な刃をマリア機に突き刺した。 マリアは目を瞑った、覚悟の念仏を唱えはしなかったが、実際に唱えていれば何小節まで行けたことだろう、痛みも何も感じないまま時が過ぎ、彼女は恐る恐る瞼を上げた。 「はっ、どうだい生きてる喜びはよ?」 現世を確認したマリアをロベリアの憎まれ口が迎えた。ロベリア機の爪はマリア機の頭の横をかすめ、後方にあった降魔の頭部を確実に貫いていた。 「えっ。」 「やれやれだね、アタシに夢中で本来の敵も見失ってんのかい。どうせ夢中になってくれるんならいい男のがいいんだけどね。こんな野暮な所じゃそんな奴もいねえか。」 不適な笑みを見せつつロベリアは述懐する。 「いいかい、またこんなブザマな真似しやがってもアタシはお前を助けやしねえ、自分で自分の身は守りんな。」 「あ、ありがとう…」 「あと1つ言っといてやる。隊長は何が現れたってアタシ達に辛い昔に戻るような真似、許しゃしねえよ。アタシよりアイツとの付き合いの長いアンタがそんな事も分かってねえとはな、こりゃお笑いだぜ。」 ロベリアの指摘はマリアの誤った感覚を的確に指摘していた。経歴柄、人物観察に抜群の冴えを見せるロベリアの指摘である、マリアに反論の余地はなく全面的に彼女の言葉を受け入れた。 「参ったわね、まさか私の方が盲目になっていたなんて。」 「実は隊長の奴、アンタにいらねえ気を起こさせねえためにアタシと組ませたのかもしれないね。」 ロベリアの独り言はマリアには届いていなかった。大神が気負っていたものを吐き出した瞬間、マリアにも同様の気負いを危惧した。その解消のため、気負いなく責任感に執着しない、それでいてマリアが聞き入れられる論を吐ける3点に合致したロベリアに白羽の矢を立てていた。 ここからは、マリア機もロベリア機と轡を並べる位置で聖魔城に向かい前へと進んでいった。 |
Rudolf <lyyurczxxp> 2016/09/27 19:50:49 [ノートメニュー] |
├その7. Rudolf 2016/09/27 19:51:11 └その8.(最終章) Rudolf@お付き合い下さりありがとうございます 2016/09/27 19:51:43 └ようやく感想 夢織時代 2016/09/28 00:16:50 └東京、仙台、神戸等々と Rudolf@今度は餃子オフゆるぼ中 2016/10/17 21:45:31