[新しく発言をつくる] [EXIT] [サクラ大戦BBS]
【SS】サクラ大戦大活動写真−太正浪漫よ、永遠なれ−

  【SS】サクラ大戦大活動写真−太正浪漫よ、永遠なれ− Rudolf@連投失礼 2016/09/27 19:46:29
  その1. Rudolf 2016/09/27 19:47:09
  その2. Rudolf 2016/09/27 19:48:02
  その3. Rudolf 2016/09/27 19:49:10
  その4. Rudolf 2016/09/27 19:49:32
Re: 【SS】サクラ大戦大活動写真−太正浪漫よ、永遠なれ− [返事を書く]
その4.

 帝国華撃団の危機をモニタ越しに見つめる目があった。
「こいつはいけないね。」
「司令、どうします?」
 モニタの向こうの状況を心配しつつ、司令と呼ばれる女性に意見を求める青髪の女性。
「まあ落ち着きなよ、班長、そっちの状況はどうだい?」
 表面上は落ち着きはらったように見える司令の声が伝声管越しに行くと、班長とおぼしき男の声での声が返ってくる。
「問題なしだ、全作業終了してますぜ。」
「市民の退避も完了しています、起動準備も問題ないですぅ。」
 茶色い髪をした女性の報告まで耳に届いた司令の目付きが変わったのを、共にいた男は確認した。
彼女の名はイザベル=ライラック。またの名をグラン=マ、巴里華撃団総司令である。そして舞台は凱旋門支部司令室。
「メル、リボルバーカノン起動用意。シー、隊員に下令。今から巴里華撃団はニッポンに向けて出撃。」
「ウィ、オーナー。」
「ハイハーイ、わたし達、もうコンテナに乗っちゃってまーす。」
 エリカが真っ先に通信を送ってきた。次の指令、すなわち出撃が待ち遠しくて堪らないようだ。
「許せグラン=マ。命令を待ってるほど悠長なときでもないからな。」
 帝都の状況は光武F2にも逐一モニタリングされていた、切羽詰まる様子にグリシーヌも痺れを切らせる寸前である。
「エリカさんとグリシーヌがわたしが先です、いいや私だと譲り合わないので後がつかえて大変でしたわ、ぽっ。」
「バ、バカを申すな花火。何故私がエリカと同レベルで競い合うなどということ、あ、ありえん!」
 花火の状況説明に恥じらいを覚えたグリシーヌが、必死に無意味な抗弁を始める。
「ハッ、いつもながらにバカな奴らだ、付き合う方の身にもなってみろってんだ。」
 ロベリアが相も変わらず我関せずの口調で物申すのにエリカは批判があった。
「えー、ロベリアさんだってまだかまだかって怒りいかけてたじゃないですか。」
「そんな細かい事はいいんだよ、燃やすぞ!」
「はいはい、もぉみんなイチローに会いに行けるのが嬉しいならそう言えばいいのに。」
 コクリコの指摘に、分別ある者は皆黙りこくった。
「はいはーい、大神さんにまた会いに行けるの、エリカとーっても嬉しいでーす。」
 正直な者は、コクリコの指摘をそのまま受け止めていた。
「お喋りはそのくらいにおし。トーキョーの状況は見ての通りだよ、のっぴきならない様子だから覚悟して行きな。」
「了解!」
 通信を介して司令室に五人の声が響きわたる、了解を得たグラン=マはいよいよリボルバーカノン起動プロセスに入る。
「メル。」
「はい、リボルバーカノン、リフトアップ。」
 メルの操作により凱旋門に秘匿されていた巴里華撃団の秘密兵器、リボルバーカノンが動き始めた。凱旋門本体内の弾倉とシャンゼリゼ通下から飛び出した砲身部が結合され、リボルバーカノンがその全体像を太陽の下に現した。
 時同じくして、指令室のレーダーが妖力を検知したとシーが報告を上げる。
「巴里上空に無数の妖力が出現。こちらに向かってくきますぅ。」
「なるほど、簡単にはトーキョーへ行かせないってことかね。」
「司令、私が。」
 グラン=マの目つきが変わるのを確認していた男、迫水典通が声を上げた。
「ああ、頼んだよムッシュ迫水。」
「はい、では。」
 迫水はそう言い残すと指令室後方の滑り棒で颯爽と階下に姿を消した。
 階下、新設された凱旋門支部戦闘指揮所。迫水が下りてくるより先に戦闘班員が出現した魔物の状況を掴んでいた。この戦闘指揮所は新設されたもので、オーク巨樹との戦闘の際、凱旋門支部自体の戦闘能力の脆弱ぶりに被害が甚大であった反省に立ち、戦闘力を飛躍的に増加させた中核施設である。
 凱旋門頭頂部のレーダーで敵を素早く察知し効率的に迎撃するためのものであり、指令室と違い窓のない部屋の壁一面にレーダーから解析された敵のモニタリング情報を映し出す大小様々なスクリーンや計器類が犇めき合っている。凱旋門支部長にして「鉄壁」の二つ名を持つ迫水典が戦術力を買われて此処の指揮を執る。着地してきた彼は、早速状況の確認に入った。
「敵の状況はどうだ?」
 決して焦っていない風な、いつもの静かな口調で迫水は指揮所のレーダー手に尋ねる。
「北北東の上空より大群がこちらに向かってきます。あ、地上にも反応が。エトワール広場を囲むように出現、やはりこちらに向けて進行を開始しました。」
「敵は物量に物を言わせてこちらを包囲するつもりだな。司令、花組の出撃は一旦中止してください。例の物を使います。」
 上階で迫水の具申を聞いたグラン=マは直ちに出撃準備を停止させた。リボルバーカノンも一旦分離し、弾倉部が凱旋門に収納された。
「このやろ、ここまで来て中止はねえだろ。アタイは気が短いんだ!」
「黙っておいで、アンタ達の出発に盛大な花火を打ち上げてやるんだからさ。」
「え、花火さんを打ち上げるんですか?やっぱりグラン=マって残酷〜。」
「エリカ、お前は黙ってな。アンタが出てくると話がややこしくなるんだ。」
「はぁ〜い、しゅん。」
 グラン=マに一喝入れられたエリカは先程の明るさを何処かに失いすっかりしょげ返ってしまった。
「もぉ〜、いっつもそうなんだからエリカはいい加減に空気読もうよ。」
 コクリコがやや嘆息気味にエリカを諭した。
 戦闘指揮所では格納庫の漫談も聞こえず、淡々と皆がそれぞれの責務を果たしている最中である。
「ジャン班長、それでは例の物をお願いします。」
「よしきた!」
 迫水からの支持を今か今かと待っていたかのようにジャン班長は手短に言葉を発すると同時に手が作業に入っていた。
 花組を乗せた弾丸の詰まった弾倉がリボルバーカノンから取り外され、新たに違う弾丸が装填されている断層がせり上がってきてリボルバーカノンに接続される。
「よっしゃ、準備完了だぜ。」
「よし、リボルバーカノン迎撃モード、再リフトアップ。」
「リボルバーカノン、リフトアップ。」
 迫水の指示で、司令室のメルがリボルバーカノンを再起動させる。リボルバーカノンはやがて再び弾倉と砲身が合わさり雄姿を巴里の街に現した。
「リボルバーカノン、再起動完了しました。」
 シーの報告で迫水の視線が動く。
「戦術長、上空の目標にリボルバーカノン照準合わせ。」
 戦術長と呼ばれた隊員は復唱する。
「了解、上空の目標にリボルバーカノン照準合わせ。」
「目標敵集団、リボルバーカノン全自動射撃。」
 照準のセットと共に次の命令が走る。
「目標敵集団、リボルバーカノンに動力伝達。」
 リボルバーカノンの土台がやにわに回転しだす。
「方位盤、目標を補足。」
「自動追尾装置、セット完了。」
「圧力、臨界点を突破。装薬充填完了。」
「測的完了。誤差修正、上下角3度。」
「発射準備完了。」
「発射!」
「発射。」
 迫水の命令と戦術長の復唱のトーンが一層大きくなった所でリボルバーカノンから一発の弾丸が上空に放たれた。大きな弾丸は魔物の大群めがけて一直線に飛んでいき、進路上に陣取ったものは薙ぎ倒しやがて集団の中心部に達した時、大爆発を起こした。爆発によるものもあったが、更に戦果を高めたのは、弾丸内に仕込まれていた無数のシルスウス鋼の子弾が弾丸の爆発と共に四方八方へと飛び散り、魔物に突き刺さったものであった。
 金属としてのシルスウス鋼自体は大した強度を持ち合わせていないので、魔物と共に溶け消えた子弾以外の外れた弾も地上に落ちるまでに物理的破壊力を持ち合わせない位に細かく削られる。爆発地点に人的被害がない場合にのみ用いられる強力兵器であった。
「た〜まやぁ〜。」
「なるほど、見事な花火ですわ。同じ名前の者として誇りに思います、ぽっ。」
「すごいや、ボクのマジックでもあのくらい派手な仕掛けやってみようかな。」
 格納庫のギャラリーとは対照的に指令室、及び戦闘指揮所のスタッフは至って真面目だった。
「霊子クラスター爆弾、どうやら成功ですな。」
「ああ、じゃあ地上の残りも頼んだよ、ムッシュ。」
「お任せを。砲雷長、地上迎撃を開始だ。」
「了解、ガトリング砲撃ち方始めー。」
 砲雷長の命令によりエトワール広場に進軍してきた魔物たちも、凱旋門を中心として放射状に地下からせり上がってきたガトリング砲の一斉斉射で葬られた。これが武装強化を施した新生凱旋門支部の実力である。
「凄い威力だ、さすがはグラン=マ。抜け目がない。」
「ああ、あの女だけは本気にさせるとどんな手でも使ってくるからね。」
 自分一人を捕縛するために街一つを代価にする剛胆さを身を持って体験したロベリアは背筋に冷たいものを感じていた。
「敵、残らず殲滅しました。」
「よし、今度こそ行くよアンタ達。」
「待ちわびたぞ!さあ改めて出撃だ、私達が隊長を救うのだ。」
 グリシーヌの檄に花組の気合が入り直す。気持ちはひとつ、大神を救うために。
「リボルバーカノン、仰角最大。」
「目標、トーキョー大帝都スタヂアムを捉えましたぁ。」
「行くよ、リボルバーカノン、発射!」
 グラン=マの引鉄により、5発の弾丸が次々と発射された。さっきの霊子クラスター爆弾よりももっと高く、遥か空の彼方へ。自然と弧を描く軌道により弾丸が最高点を越え落下体制に入ってしばしの後、弾頭が二つに割れ、収容されていた積荷、光武F2が姿を現した。
「大神さん、もうすぐ参ります。あと暫くだけ我慢してくださいね。」
 宇宙からの視点では光武F2達の光は再び地上へと吸い込まれていった。

 大帝都スタヂアムの空気は重いままであった。歩幅も巨大化した降魔が一歩進む毎に光武は三歩の後退を余儀なくされた。後退しつつも幾度か食らわせた必殺攻撃もまるで効果がなく、気合を浪費しないよう山作戦で耐えるようになっていた。とはいえこのままではじり貧である、隊員の心に焦りが生じる。
「どうするよ隊長。下がるにしてももう後もないぜ。」
 カンナの言うことはもっとも
だった。降魔があと二歩も進めば花組の最後尾はスタヂアムの壁面と背中を付け合う仲に進展してしまう。そうなってしまえば大神は自らの身を挺して血路を開き、隊員達だけでも戦場を離脱させるつもりでいた。
 そして降魔の次なる一歩が踏まれた時、いよいよを覚悟した大神機の気合が上がっていく。だが、それを阻むかのように大神機の左腕をマリア機が、右腕をレニ機が押さえつけた。
「隊長、これから隊長がなさろうとしてる事は誰も望んでません。行き急ごうとなんてしないでください、みんな悲しみます。」
「そうだよ隊長、ボクに生きる翼を与えてくれたのは隊長だ。その隊長が命を投げ出すことはボクには肯定できない。」
「マリア…レニ…」
 他の隊員も意見は同じであり、皆が大神に頷いた。決して諦めない心を教えたのも大神である、今自分が全てを投げ出しては隊員に示しが付かない、大神は変心した。
「そうだな、みんなで力を合わせてこの場をなんとしても切り抜けよう。」
 大神の言葉に呼応したのは帝国華撃団・花組だけではなかった。遙か上空より声が届く。
「それでこそ我々隊長だ、隊長!」
 声のした空を見上げると、5つの点が見えた。点はみるみると大きく地上に近付き、やがてはっきりと五色の機体が確認できた。
「巴里華撃団、参上!」
 5体の光武F2が地上に降り立つ、彼女達の時ならぬ来訪に帝国華撃団の面々は沸き立った。
「巴里華撃団のみんな、来てくれたのか。」
「水くさいですわ、大神さん。大神さんにお呼びいただければわたし達は地の果てからでも参ります、と以前申しませんでしたか?」
「すまない、花火くん。呼びたいのはやまやまだったんだが、おっと。」
 大神の言葉を遮り降魔が腕を光武達の真ん中に降り下ろした。
「隊長、アタシが来たからにはもう安心だぜ。」
「もーロベリアさん、それを言うならアタシ達ですよ。言葉はちゃんと使いましょ。」
「ああ?バカかテメェは。いやバカだったな。」
 ロベリアは承知の上で一人称を単数で用いていたのだが、エリカがいたがために突っ込まれる論点が全くずれていたのに拍子が抜けてしまった。
「まあまあまあ、落ち着けよ。それよりオメェ達が来てくれたらもう百人力だぜ。」
「そうとも言えないわ。」
 カンナの楽観主義を、マリアの現実主義がひっくり返す。
「巴里もやはり私達と同じく、妖気にあてられていては無駄に帝撃と巴里双方の戦力を消耗するだけよ。」
 マリアの危惧は当然である。そもそもが謎の妖気があるがために苦戦を強いられているのに、同じ特徴にして同じ弱点になるもの、霊力を持つ巴里華撃団が援軍に足るかと言えば、この時点での答えはNONである。
「その点は大丈夫だ、マリア。」
「えっ?」
「その通りだ。わたしの力をとくと見るがよい。」
 勇んでグリシーヌ機が降魔に駆け出した。握りしめた斧が強い霊力により輝きを放つ。如何なく斧に霊力が伝わっている証拠だ。
「食らえ、ゲール・サント!」
 グリシーヌの一撃が降魔にまともに入った。斧が深く斬り込まれて降魔が苦悶の動きをする、彼女の一撃は確かに効いていた。
「こ、これは…どういう事?」
「えっとね、夕べイチローから通信があって霊子バリアの事を聞いたんだ。それで朝からジャン班長達がボク達の光武にもバリアを搭載してくれてね。」
「すぐに起動試験をしていましたら、F2に帝都の皆さんの光武二式に搭載されている追加蒸気ユニットを乗せることで出力を上げると、バリアを張りつつ普段の攻撃力を出せることが分かりましたの。」
「で、その起動試験中にココで木偶の坊が調子に乗ってるってんで片づけにやって来てやったのさ。」
 光武F2の基本出力は光武のそれとは比較にならない大きさがある。そこに光武二式の高出力を実現させた追加ユニットを搭載させれば、バリアに回した分の霊力を蒸気で補填することは数字上では可能である。巴里華撃団はそれを実現させていた。
「それでは皆さんに神のご加護がありますように、エヴァンジル。」
 エリカの回復行動で光武に蓄積されていたダメージが全て回復した。大神機の手にも得物の二刀が刀身を顕わにして完全回復ぶりを誇示していた。
「ありがとう、エリカくん。これでもう大丈夫だ、みんな行くぞ!帝国華撃団、巴里華撃団、出撃だ!」
「はい!」
 13人の一斉の返事が聞こえた、各機は機動力の上位を活かし降魔の周囲に展開していく。
「攻撃の効く光武F2を中心に各方向から攻撃する、帝国華撃団のみんなは巴里華撃団をフォローしてくれ。」
「ま、仕方ありませんわね。今日のところは遠い所からやって来て下さった皆さんに花を持たせてあげますわ。」
「はっ、珍しく話が分かるじゃねえか。暫く見ない間に角が取れたな。」
「言ってなさいな。」
 口では棘がある組もあれど、光武二式と光武F2のコンビネーションはどれも見事である。両華撃団同士の信用、信頼はもはや不動のものなのだ。F2が渾身の力をもって攻撃を叩き込み無防備になるF2を防御しつつ協力攻撃も放つ二式の様はさながらレビュウの様に優雅で美しい流れに乗っていた。
 戦場で唯一、この美しさが理解できない存在は光武の攻撃によって徐々に追い詰められていった。
「祈りなさい!」
「天罰デース!」
 そこでついに巨大降魔は片膝を突いた。
「よし、今だ!みんなの力を俺に預けてくれ!」
「了解!」
 ここで決着をつけるべく、大神機が前に飛び上がった。隊員たちの霊力を貰い受け、大神機の全体が光り輝く。
「これが俺たちの正義だ、帝都に仇なす降魔よ消えろ。狼虎滅却・震天動地!!」
 大神の繰り出す最強技に巨大降魔は断末魔の悲鳴を上げつつ、光の彼方へと滅し去った。華撃団の勝利である。
「やった、やったでえ。」
「やったぁ、イチローすごーい。」
「やっぱり中尉サンは頼りになりマース。」
「みんなのおかげだよ、ありがとう。」
 戦い終わって、光武から飛び出して大神の周りに集まってくる隊員たち。帝都と巴里が顔を直接合わせるのも久しぶりであり、四方山話にも花が咲く。
「みんな、話したいことはまだまだあるだろうけど先にアレをしましょう。」
 マリアの提案に、皆が乗った。
「じゃあ、言い出しっぺのマリアさんがここはやってもらいましょうか。」
「え、さ、さくら。私でいいの?ここはやっぱり隊長にやってもらったほうが。」
「構わないさ、やろうマリア。」
「は…では行くわよ、せーの。」
「ちょおっと待った。勿論アタシ達も参加させてもらうわよ。」
「琴音さん、当然ですよ。」
 琴音が薔薇組を代表して権利を主張してきた、無論花組にそれを拒絶する意志はない。
「あ、あの…」
 琴音とは対照的におずおずと手を挙げる緊張感と場違い感に胸が張り裂けんばかりの少女もあった、音子である。隊長として、奏組にも権利を主張したいところだが、こちらは隊長が最も奥ゆかしく最も花組と縁の薄い位置にいた。ましてや花組といってもこの場には巴里華撃団・花組も同席していたのだから。
「なんだ、このちんくしゃなガキは?」
「この子は帝国華撃団・奏組隊長の雅音子くんだ。これでも立派な帝国華撃団の隊長さ。」
「そ、そんな大神司令。立派だなんてわたしなんてまだまだ!」
「まあ、奥ゆかしいのですね。帝国華撃団の女性にこのような方がおられるとは新鮮ですね。わたくしは北大路花火、巴里華撃団・花組の一人ですわ。」
「は、はじめまして。ああー、帝国華撃団の花組さんにもお会いできた日に巴里の花組さんにまで、あああ。」
「よっと、音子くんはこういう子なんだ、長い目で見てやって頂きたい。」
 卒倒の音子を支えたジオがフォローを入れる。
「という事ですので、私達もお仲間に入れてもらいたいところです。」
「もちろんだよ、ルイス。という事で、いきなり待たせたねマリア、改めていいかい?」
「は、はい。それでは行きますよ、せーの。」
『勝利のポーズ、決めっ!』
 総勢23人になる久しぶりの大所帯の勝利のポーズ。大神はよく分からないが、全員収まっているかな?という謎の疑問に囚われた。

「あのぉ、ところでずっと前から不思議に思ってた事があるんですけど。」
「どうしたんですか、エリカさん?」
「この『勝利のポーズ』って、マリアさんが始めたというのは本当なんですか?」
「なっ…!!」
 エリカの奇襲にマリアは言葉を失った。思いがけない所から攻撃されるという点では、これ程見事な奇襲は華撃団の歴史の中でも随一であったろう。
「なんだぁエリカ?なんだってマリアなんだよ。」
「えー、だって大神さんに聞いたらそうだって。」
「隊長・・どうしてそういう事になってるんですか?」
 大神を見るマリアの目は先程までの喜びや嬉しさといった正の感情をかなぐり捨てた冷たいものであった。クワッサリーの血が呼び起されたのかもしれない。
「いいっ!?だって俺の前任の隊長はマリアだったし、マリア以外には考えられなくて、」
「違います。」
「でも、」
「断じて違います。」
 大神はマリアからのプレッシャーが一言ごとに増していたのをようやく感じ取った。このままでは危険だ、磨き抜かれた危機意識が心の中でそう囁いた。
「そ、そうだね。エリカくん、実は違ったんだよ、ははは。」
「なーんだぁ違うんですか。じゃあ、誰が始めたんですか?」
「いいっ?!」
 あちらを立てればこちらが立たず、次はエリカの純粋な瞳が大神に向けられた。
「ねぇー、誰なんですか?ケチケチしないで教えてくださいよー。」
「そ、それは…」
「はいぃ?」
「あの…」
「はいはい。」
「実は…」
「はいっ。」
「あっ、大変だエリカくん。巨大なプリンが空を飛んでるぞ!」
「えっプリンですか。どこどこどこ、どーこですか、おっきなプリンどこですかー?」
 大神の突拍子の無い、誰も騙されるはずのない大嘘にエリカはあっさりと騙された。エリカが『くるくるぽん』でよかった、大神は今心の底から思った。
 しかし、平和な時間はそう長くは続かなかった。スタヂアムの入口から大神に来客があった事から、事件はより一層の展開を見せる。
「お、大神…」
「加山じゃないか!どうしたんだこんなに傷だらけで。」
 大神の所まで辿り着いた加山はそこで膝を落とした。自慢の白スーツはあちこちが裂け、鮮血が滲み地が白なのか赤なのかを判別させないでいた。息も絶え絶えでかなり重い状態なのは誰の目にも明らかである。
「大神さん、私に。」
「そうか。エリカくん、頼む。」
 さっきの今まであらぬプリンを追いかけていた筈のエリカが状況に気付き、手当てを申し出てきた。彼女がさっと手をかざすと、加山の傷はみるみるうちに塞がっていき、呼吸も平常になっていった。
「これで大丈夫、神様が奇跡を起こしてくださいました。」
「ありがとう、エリカ君。奇跡を起こせる君がここにいてくれて俺は幸せだなぁ〜。」
 身体の回復と共に心も軽くなったと見える加山の軽口が出た。
「これも神の思し召しです、祈りましょう。」
「ああ、はいはい、と。い、いやそんなのんびりしてる場合じゃないんだ大神。」
 のんびりしていたのはお前だろ、と大神は心の中で呟いた。血まみれで現れているくらいだからよほどの事態なのは理解に易い。
「落ち着いて聞けよ、大神」ーーー
 話は数時間前に遡る。夕べ件を交えた武者の手がかりを追っていた加山は、日本橋で目撃例が多いことを察知し、付近を調査していた。
「日本橋か、ここは天海のアジトがあった所だったな。」
 あの頃は自分も若く、月組も未熟だった。ために天海のアジトは結局自分達で発見することあたわずさくらの予知とも言うべき能力の後塵を拝した、加山にとって苦い記憶である。常々その時の辛酸を心に留め、隠密部隊月組の実力を上げ、実績を重ねるようになっていた今である。
「昔を振り返ってる場合じゃないな、急がないと。」
 彼には胸騒ぎがあった。何かまたとてつもない何かが動いてる、そんな予感が夕べの事件から収まっていない。隠密にとって焦りは禁物、その位理解はしている。しかし時として本能は理解を越えて動くものである。彼の足は天海のアジトへと通じる入口へと向かっていた。虫の知らせ、表現する言葉に適切性を見いだす必要はなかった。
「あそこへ行っても入口は埋まっているのにな。」
 日本橋での戦いで天海を倒した時、洞窟の崩壊とともにアジト全てが落盤してきた岩で埋め尽くされているのは周知の事実であった。だが加山が入口跡に到着したときは我が目を疑った。
「何だと、岩が…」
 入口を塞いでいたはずの岩に大人が余裕で通れるような穴がぽっかりと空いていた。岩を退かしたのではなく岩自体を何か鋭く強い力で削り取った感じの穴だった、その不自然な光景に加山は危険を省みずに穴へと飛び込んだ。
 穴は奥まで深く続いていた。正に天海のアジト跡まで続いている、そう思って間違いなさそうだった。加山の額に緊張の汗が流れる。
 一時間は潜り続けただろうか、穴はやがて広さを大きく増した。天海のアジト、そのなれの果てに着いたのだ。
「いったい誰がいつの間にこんな空間を。」
 目標物の力の大きさに思考しつつ広い空間に足を踏み入れたとき、加山は得体の知れない恐怖を感じて物陰に素早く身を隠した。
 恐る恐る身をちらっと乗り出して前方を確認したところに、彼は件の武者の姿とさらに驚く物の存在を確認した。
「いたな、大当たりだぞ。なっ!?」
 武者の霊は加山に背を向けた格好で印を結んで何やら呪文を唱えていた。
「オンキリキリバサラウンバッタ、オンキリキリバサラウンバッタ、オンキリキリバサラウンバッタ…」
 武者の視線の先にこそ加山を震撼させた物体、楔があった。太正12年、帝都を震撼させた六破星降魔陣を呼び起こさせたキーアイテムが今また帝都の地下にあったのだ。これが何を意味するのかは加山には判断が付かない、ただ人にとってろくでもないことに用いられるのはまず間違いない。
「あんな物を出してくるなんて、やはりあの武者の奴只者じゃないな。」
 そう認識した加山は武者の行動をより確認するためにさらに前方の物陰に移動しようとした、その時焦りからか隙が生じた。足下の小石を蹴り飛ばしてしまったのだ。
 音に過敏に反応した武者は振り向きざま、何者か認識できてない間で攻撃を放った。どす黒い妖力の大きな塊が加山を直撃した。
「うわあああああああっ!」
 敵を討ち取ったと思い込んだ武者は再び楔に向き直し、再度印を組み呪文を唱え直した。
「この氏綱の悲願、誰にも邪魔はさせぬ。オンキリキリバサラウンバッタ、オンキリキリバサラウンバッタ、オンキリキリバサラウンバッタ…」
「う、氏綱だと?」
 加山は無事だった、無事というには体中に傷を負っていたが今の所地獄よりの御使いが彼を誘うには至っていなかった。
「こうしちゃおれん、大神にこの事を伝えねば。」
 傷をおして加山が氏綱に気付かれないようアジト跡から姿を消した。加山は気付いていなかったが、その後この氏綱はこの地に封印された巨大降魔の霊体を引き出し、共に地上に上がって行った。スタヂアムに現れた降魔の集合体はまさにこの巨大降魔の姿をしていた。
 そして舞台は再び、戦い終わった大帝都スタヂアム。
「氏綱だと!加山、あいつは確かに氏綱と名乗ったんだな。」
「ああ、この耳でしっかりと聞いた。」
 氏綱、その名には覚えがあった。北条氏綱、400年の昔に降魔実験を行いその失敗により大和という陸地一つを歴史から消し去った男。降魔はその大和に住まう住民達の怨念が基となっていることを考えれば、氏綱こそ全ての元凶といえる。大神は突然のとんだ大物の登場に狼狽を感じた。
 一方、上空の翔鯨丸には帝劇より一報が入っていた。
「副司令、大変です!」
「かすみ、一体何が大変なの?」
「東京湾に妖力の集中を確認、妖力が急激に増大していってます。」
「何ですって!」
 かすみの報告はかえでに周章を感じさせた。
「まさか、ミカサに?」
「いいえ、ミカサではありません。もっと下、海中に妖力が集まっています、きゃあ!」
 かすみの叫びと共に通信が著しく不安定になった。
「どうしたの、かすみ!応答してちょうだい。」
「副司令、どうやら地震です。地上が揺れています。」
 妖力の増大に地震、吉兆とは言い難い事象の連鎖にかえでは嫌な予感がいよいよ極まった感覚になった。
「花組、薔薇組、奏組及び巴里華撃団を速やかに翔鯨丸に収容。収容後直ちに現空域を離れます。通信士は本部との回線復旧に努めて。砲術班は万一の事態に備えて戦闘態勢のまま待機。」
 矢継ぎ早に翔鯨丸各所にかえでの指示が飛ぶ。乗組員は指示の元、迅速且つ確実に職責を全うする。光武が順次収容され、地表の蠢きに悪戦苦闘していた花組達が翔鯨丸に乗艦してくる。
「かえでさん、いったい何が起こってるんです?」
「おかえり大神くん。でも呑気に出迎えていられそうにはないわ。」
 かえでの言い回しが、事の緊急次第を告げていた。そこに通信士から報告が上がる。
「副司令、本部との回線回復しました。」
「ありがとう、早速モニタに映して。」
 復旧なったばかりで不安定感の残る本部との回線にかすみの姿が映った。地震は既におさまっていたがかすみの表情には不安さが伺える。
「副司令、先程からの妖力の増大ですが、地震が収まるのと同時に妖力の増大も止まりました。恐らく必要量が貯まったものかと。」
「分かったわ、東京湾の方はこちらで確認します。本部の被害は?」
「劇場の外壁が剥がれたり、場内の荷物が散乱していますが、華撃団施設には特に影響ありません。人的被害もありません。」
「それは何よりだわ、」
「ああっ!」
 二人の会話を遮り、椿が叫んだ。
「どうしたのよ、椿?」
「由里さん、これを見てください。」
「どれどれ、ああっ!」
「どうしたの!」
 二人の驚嘆の内容が全く伝わらないのに業を煮やしたかえでの声が大きくなる。
「妖力集中地点の海底の隆起を確認…これは…」
「大和が…浮上します。」
 由里と椿は声が出ないところを振り絞って翔鯨丸に状況を伝えた。
「な、なんですって!」
「かえでさん、至急翔鯨丸を東京湾に。」
「ええ。カンナ、お願いね。」
「任しとけ、超特急でぶっ飛ばすぜ。」
 言うが早いか、翔鯨丸は大きく舵を切って東京湾に急行した。音子にしても憧れの花組を目の前にして話したいことは山ほどあったはずが、事態の推移を見守る一心で一言も話さずにいた。そのような重々しい空気の翔鯨丸が東京湾を視界に臨む位置まで到着したとき、一同はそこにある筈のなかった陸地を発見した。大和は確かにまたも太正の御世にその威容を現したのだ。そして大和の表面にはあのミカサまでもが突き刺さったままの状態であった。
「な、なんという姿なんだ。」
 大神は光景の異様さを嘆いた。海よりせり上がった大地は通常の生命の跋扈を許さぬ岩だらけの寂しい風景を広げ、大和の地図に特徴を与えてくれるような存在は、天に尻尾をそそり立たせたミカサと主を失った聖魔城跡くらいのものであった。
「隊長、光武も調整が必要だ。ここはすぐに帰還して対策を考えた方がいい。」
 冷静な戦略眼を持つレニが大神に助言する。体制を立て直し作戦を練る必要もあるところなので、彼女の言を用いるべしと考えた大神は全軍に一旦退却を命じ、翔鯨丸は花やしき支部へと踵を返した。
Rudolf <lyyurczxxp> 2016/09/27 19:49:32 [ノートメニュー]
  その5. Rudolf 2016/09/27 19:50:33
  その6. Rudolf 2016/09/27 19:50:49
  その7. Rudolf 2016/09/27 19:51:11
  その8.(最終章) Rudolf@お付き合い下さりありがとうございます 2016/09/27 19:51:43
   └ようやく感想 夢織時代 2016/09/28 00:16:50
    └東京、仙台、神戸等々と Rudolf@今度は餃子オフゆるぼ中 2016/10/17 21:45:31

[サクラ大戦BBS] [EXIT]
新規発言を反映させるにはブラウザの更新ボタンを押してください。