アインシナリオ・三日目





bg黒
雛子常「私を追おうなんて……、バカなことを考えないでね……」
雛子常「今ならわかるわ……、光姉さんの心が……」
小次郎怒「よせ雛子……!それでは、お前が……!」
雛子常「断じてあなたを、八鬼門になんか、送ってやらない……!」
小次郎怒「雛子……!雛子……!」
bg自室
小次郎常「……また、か。どうして巴里に来てから、こうも昔のことを夢に見る……」
小次郎常「図らずも、朝か。より子が来る前に風呂に入るか」
bg黒
bg自室
より子常「明智さん、起きてらっしゃいますか」
小次郎常「時間に正確なことだ。昨日と同じ時間だな。入ってきてくれていいぞ」
より子常「失礼します」
soundドア開閉音
cgより子
より子常「おはようございます。こちらの監督下で行動下さりありがとうございます」
小次郎常「今のところ世話になっているからな」
より子常「おや?これらの本は……」
小次郎常「借りた本と買わされた本だ」
より子常「よくこんな本が手に入りましたね」
小次郎常「ん?二十世紀の技術論か。蒸気科学者と知り合って読むように言われたんだが」
より子常「大使の蔵書にもありました。現在の蒸気科学社会を語る上で欠かせない本だと」
小次郎常「ほう」
より子常「ところで、何故そういう方と知り合いに?赤城三郎は美大生だったはずですが」
小次郎常「知り合ったきっかけは偶然だが、姿の見えない暗殺者について問い合わせてな」
より子常「なるほど。手品なのか技術なのかということを調べていらっしゃったのですか」
小次郎常「ああ。それで、ちょっと相談なんだが」
より子常「なんでしょう?」
小次郎常「……捜査資金を追加で用立ててくれないか」
より子常「……」
小次郎常「(むう、これは、やはり怒らせたか……)」
より子常「明智さん」
小次郎常「あ、ああ……」
より子怒「どういうことですか!!」
小次郎焦「うわっ!いや、費用が色々発生してだな……」
より子常「交通費もかからないはずが、わずか二日でどうしてあれだけの資金が底を突くんですか!」
小次郎焦「落ち着いてくれ。情報料だ。俺はもともとこの巴里に情報網を持っていない」
小次郎常「なじみの情報屋がいるならともかく、異郷で口を割らせるには金が掛かるんだ」
より子怒「……内訳を説明して頂きましょう。まさか娼館ではないでしょうね!」
小次郎焦「いや、それはまだだが」
より子怒「まだということは、不潔です!明智さん!仕事上必要なら、誰とでも同衾するんですか!?」
lipsああ、ありうるな。 いや、それはしない。>内容説明へ。これを選んで三日目夜がアインルートだと四日目朝に好感度が激減
小次郎常「ああ、それもありうるな」
より子怒「遊郭の金を私に要求するつもりですか!あなたは!」好感度低下
小次郎常「(この反応……、ただの毛嫌いというより、何かあるな……)」
小次郎常「俺にどんな幻想を抱いてるのか知らないが、必要とあれば必要な手段は採る。それが探偵というものだ」
小次郎常「金田金四郎の書いた戯曲は、確かに俺の証言を基にしているが、虚構も多い。実像はこんなもんだ」
より子怒「……」
小次郎常「それにな。あんたのような才媛にはわからんかもしれんが、娼館にだって人間がいるんだ」
小次郎常「そこにしかいない人間、そこでしか聞けない話もあるし、そうしなければ救えなかった者もいた」
小次郎常「それが我慢できないというのなら、俺はあんたの意に添わないこともするだろう。契約を切ってくれ」
より子常「……」
より子常「才媛だなんて……そんな一言で片づけて欲しくありません……」
小次郎常「?」
より子常「……。嘘偽りで私の追求を逃れることもできたでしょう。何故正直に答えたのですか」
小次郎常「俺の流儀だからな。女に嘘をついたあげく、その女に死なれたらどうしようもない」
より子常「それが、紅蜥蜴?」
小次郎常「……」
小次郎常「厳密には違うが、まあ、そう言って差し支えないな」
より子常「……。失礼いたしました。ご無礼をどうかお許し下さい」
小次郎常「俺も言い方が悪かったな。怒るのも無理はない」
より子常「ありがとうございます……」好感度回復
<lipsいいえから合流。
小次郎常「とはいえ、主に奢って話を聞くしかなかったのでな。依頼料もこめてだいたいが酒代だ」
より子常「依頼料といいますと?」
小次郎常「俺が赤城三郎を探していることを、噂にしてもらっている」
より子常「ご自分を餌にするつもりですか?」
小次郎常「日本人の連帯意識を利用するなら俺が餌になるのが一番ひっかかりそうだろう」
より子常「腕に自信がおありなのですね」
小次郎常「そんな自信はないぞ。ただ、赤城三郎本人から接触があるなら、襲撃じゃなくて交渉になると思ってる」
より子常「仮に赤城三郎が何者かに殺されていたら?」
小次郎常「そんな抹殺をする奴が、わざわざ一探偵に手を出してこちらに手がかりを与えることは無いだろうさ」
より子常「なるほど。ハインツ・シュペングラー殺人事件の方はどうなっていますか」
小次郎常「そちらの方が厄介だな。科学者に聞いたが、現代の科学技術では透明になるのはほぼ無理のようだ」
より子常「……それで二十世紀の技術論が明智さんの手元にあるわけですか」
小次郎常「これは話のついでの翻訳依頼なんだが、そういうことだ」
より子常「お話を聞く限り、現場は客車の中央で手品が仕掛けられるような状態でも無かったようですし……」
小次郎常「ああ、犯人は、魔術師か、何らかの霊力者だろうな」
より子常「確かに厄介ですね」
小次郎常「ああそうだ。巴里の悪魔について、あんたは知っているのか」
より子驚「え!?……ええ、もちろんです。巴里に数年前から暮らしている者なら誰でも知っていますよ」
小次郎常「そいつが透明になれる、という話を聞いた。犯人がそいつである可能性がある」
より子驚「それは……!残念ですがありえません。巴里の悪魔が犯人である可能性は」
小次郎常「何故だ?」
より子常「……巴里の悪魔は現在、サンテ刑務所の特別監獄に収容されているからです」
小次郎常「いつから?」
より子常「昨年の秋からです」
小次郎常「身代わり、という可能性は?なにしろ姿を消せる奴だろう」
より子常「仰る通りですが、でも、ありえません……」
小次郎常「アルセーヌ・リュパンのお国だけに、何があっても不思議じゃないと思うがな」
小次郎常「とにかく犯人探しはまだそんな状態だ」
小次郎常「シュペングラーの取引関係を探したいところだが、営業所の書類はエビヤンが持っていった」
より子常「エビヤン警部と同行されたのですか」
小次郎常「今のところ嫌われていないのが有り難いな。あと、倉庫にあった妙な粉も鑑定すると言っていた」
より子常「粉?それがシュペングラー氏の販売物なのでしょうか」
小次郎常「薬かとも思ったんだが、妙にきらきらして見えたな。阿片の類ではなさそうだ」
より子常「鉱物でしょうかね……」
小次郎常「爆薬でもなさそうだったしな。いずれにせよ顕微鏡も分析具もないから鑑定待ちだ」
より子常「了解致しました。期待より遙かに早くことを進めてらっしゃるようですので、追加費用を給付します」
小次郎常「すまんな。助かる」
より子常「これから大使館に戻って、事務処理をして現金で持ってきます。昼前にはお渡しできるでしょう」
小次郎常「わかった。このアパートか、せいぜいカフェや公園あたりにいるようにする」
より子常「よろしくお願い致します。ではまた後ほど」
cgクリア
小次郎常「さて、朝飯を食べに行くか」
bg公園
小次郎常「持ち出しできるというのは面白いな。握り飯と同様に持ち運びできるサンドイッチは便利だ」
小次郎常「……水筒が欲しいところだが、これは仕方ないか」
cgベルナデッド
ベルナデッド常「砂漠でもないのに水を探し求める愚か者がいるわね」
小次郎常「相変わらず不吉なことを言ってくれるな」
ベルナデッド常「貴方の纏う気配に比べれば大したことではないわ」
小次郎常「随分な評価だな」
ベルナデッド常「これでも評価しているのだけど」
if図書館でメルから話を聞いている。
小次郎常「この詩集、ずいぶんと貴重な品らしいな」
ベルナデッド常「余計なことを知ったのね。単に私が気にいった人間にしか渡さないだけ」
ifout
小次郎常「何故、俺にこの詩集を渡した?」
ベルナデッド常「中身は読んでみたの?」
if二日目夜に詩集を選択 elseならば自分で考えなさい>ベルナデッドルート消滅
小次郎常「無茶だが読んでみた。辞書を片手に詩集を読むのは無粋だったがな」
ベルナデッド常「そう、それでどう思ったの」
小次郎常「静かな記載がどうも叫んでいるように感じられたな。読み方が合っているのか知らんが」
ベルナデッド驚「……!」
小次郎常「所詮素人の読み方だ。お気に召さなかったか」
ベルナデッド常「いいえ……」
小次郎常「?」
ベルナデッド常「一応、私の目に狂いはなかったということかしらね」
小次郎常「どうやら、最大級に誉めてもらったと解釈していいのか」
ベルナデッド常「ええ。あなたには詩を理解する素質がありそうだと思ったのよ。感覚でね」
小次郎常「詩の感性がある自信は無いな。和歌なら昔詠んだが」
ベルナデッド常「ワカ?」
小次郎常「和、とは日本のことだと思ってくれていい。日本の古い詩歌だな」
ベルナデッド常「初めて聞くわ。それはどのようなものなの」
小次郎常「五、七、五、七、七の三十一文字で心情や情景を詠むものだ。千五百年ほど前からある」
ベルナデッド常「三十一語ではなくて?」
小次郎常「いや、文字数というか、音数だな」
ベルナデッド常「わずかそれだけで、語るべきことが語れるとは思えないわ」
小次郎常「別に語りきる必要はない。わずかの言葉を限って読むことで、万言を尽くすよりも伝わることはある」
ベルナデッド常「……ではそれを示して。万言を尽くすより一つの実物を教えて」
小次郎常「それももっともだな。ふむ……、異国で紹介するのであればあの歌か」
小次郎常「天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも」
ベルナデッド悩「……本当に三十一音ね」
小次郎常「千二百年前に、日本から大陸に渡り、ついぞ帰ることが出来なかった人の作品だ」
ベルナデッド常「無粋ながら意味を聞きたいわ。これでも少しは日本語を知っているのだけど」
小次郎常「あまのはら、は大きく広がる空を意味し、ふりさけ見れ、に掛かる。遠くを眺めてみると、だな。ば、は確たることを示す」
ベルナデッド常「知らない言葉だらけだわ。古語ね」
小次郎常「春日とは当時の都があった地のこと。三笠とはその地を代表する山だ」
ベルナデッド常「さしずめ、フランスならパリなるセーヌの川といったところかしら」
小次郎常「おそらくそんなところだろうな。で、その山から上る月と同じだろうか、と嘆じている」
ベルナデッド常「それで言うべきことは全て言ったということね」
小次郎常「ああ。そして、それで全部伝わるんだ」
ベルナデッド常「月は同じ。それ以外は何もかも違う。叫ばずとも望郷の思いは十分伝わるのね」
小次郎常「そう。帰りたいという言葉を紡ぐまでもない。叫んでもどうにもならない。だからこそ強烈なのさ」
ベルナデッド常「……興味深いわ」
小次郎常「似ているだろう。お前の詩と」
ベルナデッド常「それをわざわざ口にしなければもっと評価したわ」
小次郎笑「手厳しいな」
ベルナデッド常「お返しに尋ねてあげる。この歌がとっさに出たということは、貴方にも帰れない故郷があるの?この時代に」
小次郎常「……そうだな。帰れないといえば、もう、二度と帰れないな」
ベルナデッド常「そう。最後に忠告するわ。せめて異郷で倒れないよう精々気を付けなさい」
cgクリア
小次郎常「……その言葉に、語らなかったことがあると思っていいのかな」
小次郎常「さて、より子が戻って来るまであまり動けないな。教会に出向くわけにもいかんし、どうするか……」
cgミキ
ミキ焦「お兄ちゃん……!」
小次郎驚「ミキ!?今は本番前で準備があるんじゃ……、どうした、何があった!?」
ミキ焦「お兄ちゃん、エルザが……」
小次郎驚「エルザが?」
ミキ焦「帰ってこないの!昨日のリハーサル前から、ずっと……!」
小次郎驚「何だと!?」
ミキ焦「夜通し待ってたけど、結局帰ってこなくって……、今エリカさんやコクリコさんにも探してもらってるんだけど……」
小次郎驚「リハーサルは昨日の夕方か?」
ミキ焦「うん……」
小次郎悩「だとしたら、俺がエッフェル塔で会ったのが、姿をくらます直前ということになる……」
ミキ驚「ええっ!?そんな、エルザはなんて……」
小次郎悩「祖国のためなら、何でもしようと思うかと俺に聞いてきた」
ミキ驚「何でも……って?」
小次郎悩「わからん。だが確かにどこか危うい気配を漂わせていた。止めようとしたら逃げられたんだ。くそっ……!」
ミキ驚「じゃあ……、エルザは、エルザは自分でいなくなったの……?リハーサルの前に……今日が本番だったのに……」
小次郎常「本番、だった?ミキ……」
ミキ悩「ごめん……お兄ちゃん。私、エルザと一緒じゃなきゃステージに立てないってグラン・マに言って……」
ミキ泣「ごめんなさい……、ごめんなさい、お兄ちゃん。せっかく日本から来てくれたのに……」
小次郎常「泣くなミキ。そして心配するな。あの支配人のことだ、今回は降ろすとか言ったんだろう」
ミキ泣「うん……、うん……」
小次郎常「そして、お前が捜索に行くのを認めて、他の面子も捜索に当たらせている、そうだな」
ミキ泣「うん……」
小次郎常「やり手なことだ。エルザを探してくれば次の機会が与えてやるってことだろう」
ミキ驚「グラン・マは……。でも、エルザは自分からいなくなったんでしょう……。私とのステージより大事な何かが……」
小次郎常「何者かに勧誘されたか脅迫されたのは間違いない。一人でなら消える理由がないからな」
ミキ驚「あ……」
小次郎常「なら、その何者かを締め上げてエルザを取り戻せばいいだけだ。それで全て元通りになる」
ミキ泣「うん……、うん……」
小次郎常「あとは俺に任せろ。とにかくお前は休め。エルザが帰ってきたときにお前が倒れていてはどうにもならん」
ミキ泣「うん……、ありがとう……、ありがとうお兄ちゃん……」
cgより子
より子驚「明智さん?いかがされましたか?その子は?」
小次郎常「妹のミキだ。済まないが事情が変わった。捜索人が一人増えた」
より子常「……こちらが先約だと思いますが」
小次郎常「捜索人はミキの友人であるシャノワールのエルザ。生前のシュペングラーが出資話を持ちかけていた相手だ」
より子驚「それは……、シュペングラー暗殺の犯人がその人物の失踪に関与しているとお考えなのですね」
小次郎常「むしろ尻尾を出したと考えるべきなくらいだ。エルザの線から犯人まで繋がるかもしれない」
より子常「わかりました。大使にもそう報告しておきましょう」
より子常「ただし、無関係とわかればこの件の費用は報酬から差し引きます。できれば明細を出して下さい」
小次郎常「厳格なことだ。ひとまず捜査費用は助かる」
より子笑「期待を裏切らないで下さいよ」
小次郎常「心得た。なんとかなりそうだからな」
より子常「では私はこれにて。大使への報告がありますので」
小次郎常「あ、ああ……」
cgクリア
小次郎常「(エルザの件についてそんなに急いで報告する必要があるのか?まだ関係がありそうというだけだが)」
小次郎常「まあそっちは後だ。ミキ、ひとまずアパートへ帰るぞ。乗れ」
cgミキ
ミキ驚「え!?お、お兄ちゃん、ちょっと、その……おんぶなんて……」
小次郎常「おまえ、どれだけかけずり回っていた。足は張っているし死にそうなくらい疲労が顔に出ているぞ」
ミキ照「そ……そう……」
小次郎常「これ以上歩くのは兄として見過ごせん。いいから乗れ」
ミキ照「う、うん……。そうだよね、お兄ちゃんだもんね……」
cgクリア
bg町並み
ミキ照「お兄ちゃん……、みんな見てる気がするんだけど……」
小次郎常「気にするな。東洋人同士だから家族に見えるだろう」
ミキ照「そ、そうかな……」
小次郎常「そうだ、ミキ。ひとつ聞きたいことがある」
ミキ常「何?」
lipsエルザの持ち物について ミキの体重について>怒られる・好感度ダウン ステージについて>前座をエリカが代わる話。エリカは捜索していて大丈夫なのか→いつも暴走してるから大丈夫
小次郎常「言いたくなければ答えなくていい。エルザは、これと同じ蝶の装身具を持っていなかったか?」
ミキ驚「え?」
ミキ驚「……どうして、そんなこと知ってるの?確かにエルザは持っていたよ。裏に番号が彫ってあって……」
小次郎常「エルザの左肩にも同じ番号があった、か?」
ミキ驚「お兄ちゃん、エルザの裸を見たの!?」
小次郎焦「違う違う!見たことがないから聞いているんだ!」
ミキ常「そ、そうか、そうだよね……。うん、エルザとシャワールームで一緒だったときに、何度か見たよ」
小次郎悩「そうか……」
小次郎悩「(この蝶の装身具と左肩の番号が全てパピヨン孤児院固有のものなのは間違いなさそうだな……)」
小次郎悩「(となると、数ヶ月前に失踪したというメイリンと、今回突如姿を消したエルザ……行き先は同じか)」
ミキ常「お兄ちゃん、それが、エルザがいなくなった理由なの?」
小次郎常「おそらく、な。エルザは自分の過去を知る人物から何かをそそのかされたか……」
小次郎常「エルザの過去を知っている人物への手がかりは掴んでいる。この事件、早々に片付けてエルザを連れ戻す」
小次郎常「お前はしっかりと自分の部屋にいろ。エルザがいつ帰ってきてもいいようにな」
ミキ常「うん……」
bgミキのアパート前
cgシー
シー驚「あ、明智さん!……ミキさんも」
小次郎常「シーか。エルザは……」
シー苦「ダメです。エリカさんとコクリコさんも探しているんですけど……」
小次郎常「わかった。あとの捜索は探偵に任せろ。本番間近の二人も一旦戻ってきたところで打ち切らせるんだ」
シー常「わかりました。お願いします!」
小次郎常「その代わりといってはなんだが、こいつを頼む。無理矢理にでも縛って寝かしつけてくれ」
ミキ驚「お、お兄ちゃん……」
小次郎常「こういうときにおまえは信用ならん。さと子のときも無理をして身体を壊したのを忘れたか」
ミキ焦「はい……」
シー笑「本当に、いいお兄さんなんですね。いいなぁ……」
小次郎常「頼む……」
シー笑「ええ、了解です。ご武運を」
cgクリア
小次郎常「ご武運を、か。まるで戦場へ赴くような物言いだが、この場合はあながち間違ってもいないな」
小次郎常「さて、探すのは猫だけじゃないというところを見せんとな」
bg教会前
小次郎常「今は礼拝の時間じゃなさそうだな……。行くか」
bg教会内
cgレノ
レノ常「ようこそおいで下さいました。……おや、明智さん」
小次郎常「お邪魔致します、神父様」
レノ常「スタンダールさんへの紹介状でしたね、こちらに用意できております」
小次郎常「無理を聞いて頂きありがとうございます。つきましては……」
レノ常「明智さん、一つお伺いしたいことがございます」
小次郎常「なんでしょうか」
レノ常「先ほど、エリカさんがこちらにいらっしゃいまして、エルザという人がこちらに来なかったかと聞かれました」
小次郎常「エリカが……」
レノ常「リハーサルの直前に、行方不明になったと聞きました」
レノ常「その方の名前は、エリカさんから何度か伺ったことがあります。孤児院の出だと……」
小次郎常「……」
レノ常「あなたがこの紹介状を必要としているのは、そのエルザさんを助けるためでしょうか」
小次郎常「ご明察の通りです。よもやこのようなことになるとは思っておりませんでしたが」
レノ常「親を亡くした子は、既に十分な試練を受けています。それ以上の試練は神の望まれることではありますまい」
レノ常「こちらはスタンダールさんのご自宅への地図です。これが必要でしょう」
小次郎常「かたじけのうございます……!」
レノ常「お気を付け下さい。こう申し上げてはなんですが……スタンダール氏も一筋縄ではいかぬお方です……」
小次郎常「ご忠告、ありがたく受け取ります」
cgクリア
bg教会前
小次郎常「善は急げ、とも言うな。すぐ行くか。他に当てがあるわけでもないしな」
cgスタンダール邸宅前
小次郎常「随分と辺鄙なところに住んでいるもんだ。パンでも買ってくるんだったな」
小次郎常「門は……動いた跡があるところを見ると、まだ住んでいるようだな」
小次郎常「呼び鈴があるわけでもなし、広い邸宅の割に門番や受付がいるわけでもなし……」
小次郎常「門を乗り越えることは出来なくはなさそうだが……」
lips大声で呼ぶ 門を乗り越える>邸宅に鍵を壊して入ることに。中で執事とバトルになり倒すことに。その後、、クリスを隠そうとしたスタンダールに遭遇するも目の前で暗殺される。そのままタイミング良く呼ばれた警察に執事が証言してお縄になりゲームオーバー。
小次郎常「それだと紹介状が無駄になりそうだな、とりあえず呼んでみるか」
小次郎叫「御免下さい、ヴァレリー・スタンダール殿!」
小次郎常「……」
小次郎常「…………」
小次郎常「反応が無いな。どうするか」
lipsもう一回呼んでみる 門を乗り越える>ベルナデッドフラグが立っていない場合、扉をこじ開けたところで、背後から暗殺される。立っていたら、庭で執事とバトル。クリスは既に隠されて遭遇できない。スタンダール暗殺以降は同じ。
小次郎叫「スタンダール殿!レノ神父の紹介で参りました明智小次郎と申します!門をお開け下さい!」
小次郎常「……」
小次郎常「内部から物音がするな……」
小次郎常「どうするか。入るか、いぶり出すか」
lipsパピヨン孤児院の名前を出す 門を乗り越える>フラグが立っていなかったら、庭で執事とバトル中に二人とも殺される。フラグが立っていたら、執事を独力で倒すことに。クリスは既に隠されて遭遇できない。スタンダール暗殺以降は同じ。
小次郎叫「スタンダール殿!パピヨン孤児院の子供たちの消息について伺いたい!」
小次郎常「……」
小次郎常「誰か出てきたな。執事か?」
cg執事
執事「ご主人様はどなたにもお会いになりません。お引き取り下さい」
小次郎常「東洋人ですが、身元の保証はございます。レノ神父からの紹介状をお読み下さい」
執事「ルネ・レノ様ですか……」
小次郎常「エルザの友人の兄が、エルザを探しているとお伝え下さい」
執事「心得ました。しばしお待ち下さい」
cgクリア
小次郎常「おい、せめて応接室に通してくれ……」
小次郎常「また待つのか」
小次郎常「……」
小次郎常「…………」
小次郎常「よほど警戒しているようだが……」
小次郎常「む、一応の返事はもらえるかな」
cg執事
執事「ご主人様がお会いになられます。ただし、武器はこちらでお預かりいたしますゆえ、身体検査を致します」
小次郎常「仕方がありませんな。どうぞ」
小次郎常「(これは……、既に事態を把握していると見ていいのか?)」
執事「拳銃と、ナイフ……。これだけですか」
小次郎常「丁重に扱っていただきたい」
執事「貴殿が何もしなければ確かにお返しします」
小次郎常「ごもっともだ」
bgスタンダール邸宅内応接室
執事「こちらでしばらくお待ち下さい」
cgクリア
小次郎常「(すごい応接室だな。人嫌いというわけではない、とすると、やはり警戒しているのか)」
小次郎常「(ん……?今、かすかに気配が……)」
lips気配に振り向く 振り向かない>小次郎甘しと見たベルにより回数カウントオーバー時に目の前で暗殺される
小次郎常「誰もいない?気のせいか……」
小次郎常「ん、今度ははっきりと物音が。来たか。今度は本人だろうな」
cgスタンダール
小次郎常「(執事も一緒か。やはり警戒しているのかな)」
スタンダール常「私がヴァレリー・スタンダールだ」
小次郎常「明智小次郎と申します。日本人です」
スタンダール常「ふん。中国人かと思ったが、日本人とはな」
小次郎常「(メイリンの関係者と思ったのか?)」
スタンダール常「レノ神父の紹介とあれば無下にもできんが、私は忙しいんだ。話は手短にな」
小次郎常「では早速伺います。パピヨン孤児院についてご存じですね」
スタンダール常「名前くらいはな。私は多くの孤児たちの世話をしてきたんだ。その中にあった覚えはある」
小次郎常「(レノ神父の言うことが正しければ、こいつはかなりの食わせ者だな……)」
小次郎常「どのような方が運営してらっしゃったのか知りたいのですが」
スタンダール常「……さあ、覚えていないな。もう閉鎖になって久しいはずなのでな」
小次郎常「(さて、どう攻めるかな)」
lips貴方は特殊な子供たちを集めていたそうですね 政府が運営していたようですね>国営だったかもしれんなとはぐらかされる。 エルザという子供がいませんでしたか>そんな子供がいたかもしれんなとはぐらかされる。正解選択肢まで繰り返し。ただし回数カウント。
小次郎常「特殊な子供たちを集めていたそうですね」
スタンダール常「……個々の孤児院の運営まで覚えていないな」
小次郎常「いいえ、貴方が、です」
スタンダール驚「!!」
小次郎常「パピヨン孤児院では特殊な訓練をしていたと聞きます。貴方はパピヨン孤児院に集める子供を意図的に探していたのでしょう」
スタンダール驚「貴様、どこでそれを……」
小次郎常「事実をつなぎ合わせただけですが、間違いありませんね」
スタンダール焦「ぐぬ……」
lips政府の特殊機関だったのでは? どこにあったのか教えて下さい>答える必要はないと言われる メイリンという少女を覚えていますか>やはり彼女の関係者か。東洋人は珍しかったから覚えている。わざわざ東洋から探しに来たのだろうがここにはおらんぞ。正解まで繰り返し。回数カウント。
小次郎常「政府の特殊部隊養成所、だったのでは。フランスは確か欧州大戦で貴族部隊を喪失していましたね」
スタンダール常「……そこまでわかっているなら、いちいちこのわしに聞くな!」
小次郎常「何者によるものですか。当時のパピヨン孤児院の中身と子供たちを知っているのは、貴方以外に誰がいますか」
スタンダール焦「そんなことを……」
lipsエルザが失踪しました シュペングラーという男がいましたね>大外れでスタンダールが余裕を取り戻し追い出される メイリンが失踪しました>そんなこともあるだろうとはぐらかされる(メイリンの失踪は知っている)

小次郎常「エルザが、居なくなりました」
スタンダール驚「な、なに!?エルザもだと!!」
小次郎常「エルザも、ということは、メイリンの失踪もご存じですね」
スタンダール焦「ぐ、ぐぬ……」
小次郎常「パピヨン孤児院にいた子供たちを巡って、今何かが起きている」
小次郎常「貴方が首謀者の一員ならここで私を殺すべきでしょうが、貴方も狙われる側の人間なら……」
スタンダール焦「……おまえは、何者だ。カゲキダンか?」
小次郎常「ん?いいえ、ただの探偵です。もっとも、今はエルザの友人の兄としての活動です」
スタンダール常「そ、そうか……」
スタンダール常「……」
スタンダール常「仕方がない。どうやら話した方がよさそうだな」
小次郎常「(よし……!)」
スタンダール常「パピヨン孤児院は、君が考えている通り、欧州大戦で激減した霊力者を補うための施設だった」
スタンダール常「霊力者は貴族に多いが、長年の混血で市民にもそれなりの数がある」
スタンダール常「もちろん強度には差があるが、それは訓練で向上できると考えられた。だがもちろん、過酷なものだ」
スタンダール常「利用先としても、訓練の必要上も、軍の一部が直接ことに当たった」
スタンダール常「親のいる子供には出来ない訓練でも、孤児ならば文句も言われんし、耐えられるという目算もあったのだろう」
小次郎常「……なるほど。だが、それだと関与した人間はかなり多いな」
スタンダール常「いや、エルザの失踪に関与する者はかなり絞り込まれる」
小次郎常「なぜだ」
スタンダール常「パピヨン孤児院の計画は途中で中止になったからだ」
小次郎常「死人でも出たか?」
スタンダール常「……死人など、いくらでも出たそうだ。もっと大きな問題で計画そのものが危険視されたのだよ」
小次郎常「きな臭いどころじゃないな」
スタンダール常「仕方がないことだったのだよ。計画開始から数年後に大事件が起きたのだ」
小次郎常「起きた、のか」
スタンダール常「王党派の集団がある貴族の子供を誘拐したあげく、その子供が巴里の真ん中で霊力を爆発させた」
スタンダール常「文字通り、巴里全土を揺るがす大地震が発生し、巴里を守っていた霊的守護が破壊されてしまった」
小次郎常「(子供一人に六破星降魔陣をされたようなものか……。おおごとだな)」
小次郎常「精神力のある大人の貴族ならばともかく、制御の効かない子供を使うのは危険だと突きつけられたわけだ」
スタンダール常「そういうことだ。さらに騒ぎの中、大戦中にドイツでも子供による霊力爆発があったことも明らかになった」
小次郎常「決定打になったわけだ。それで孤児院も閉鎖か」
スタンダール常「そうだ。子供たちも全て処分されるはずだった……」
小次郎驚「ずいぶんと、勝手なことだな」
スタンダール常「計画そのものが国家機密だったからな。だが、閉鎖にも処分にも大反対した男がいた」
小次郎驚「!! そいつが……」
<振り返っていなければここでスタンダール暗殺>
スタンダール常「ドレフィス大佐。パピヨン計画の実質責任者だった男だ」
小次郎驚「(シュペングラーじゃない!?)」
小次郎常「(いや、考えてみればドイツ人らしい奴がフランスの機密に関与できるはずもないか……)」
小次郎常「そいつは、エルザにとっては、命の恩人というわけか……」
スタンダール常「そうなるな。大佐は、子供たちが成人すれば安全に再利用できるようになる可能性があると主張した」
小次郎常「(動機には反吐が出るな……)」
スタンダール常「結局、計画にかかった金額と大佐の執念が効いて、子供たちに暗示をかけて一時放出することになった」
小次郎常「記憶の操作か。えげつないことを……」
スタンダール常「処分よりはマシだというのが大佐の主張だった」
スタンダール常「最後まで脱落しなかった最精鋭の子供たちに番号を焼き印し、身分証たる蝶のペンダントを与えた」
スタンダール常「いつか必ず、訓練の日々が報われる時がくる。それまでこれを手放すな、とな」
lipsペンダントを取り出す ペンダントを隠しておく>
小次郎常「するとこれはただのペンダントじゃないな。居場所を突き止める呪法でもかかっているのか」
スタンダール驚「それは……!」
小次郎常「間違いないか」
スタンダール常「そうだ。調べようとすればかなりの精度で居場所がわかる。だがそれをどこで?エルザの物ではないな」
小次郎常「エルザに執心だった、ドイツ人実業家が持っていたものだ」(所有者は現在孤児院地下に幽閉中)
スタンダール驚「ドイツだと!? どこで計画を嗅ぎ付けたんだ……」
小次郎常「あいにく俺に言われてもわからない。そいつが殺された殺人事件を調べているところなんだ」
スタンダール驚「殺された……?」
小次郎常「あれだけ警戒しているから、あんたなら知っているかと思っていたんだがな」
スタンダール焦「……メイリンの失踪は知っていたからだ。かつての関係者に対して、何か動きがあると思ったからな」
小次郎常「執事の対応はそんな程度じゃなかったぞ。あんたは明らかに暗殺を恐れている……」
スタンダール怒「仕方が無かろう! パピヨン孤児院に送り込んだ儂を恨んでいる子供たちもいるのだぞ!」
小次郎常「メイリンやエルザに暗殺されるって思ってるのか?」
スタンダール焦「彼女たちは軍の下で徹底した訓練をされているんだぞ……、今でも並大抵の身体能力ではない」
小次郎常「(エルザがなんでも仕事ができたというのはそのためか……)」
小次郎常「メイリンやエルザが集まるとしたら、勝手には集まらないだろう。核になる奴がいるはずだ」
スタンダール焦「…………」
小次郎常「エルザは失踪直前に、祖国のために何でもすると言っていた」
小次郎常「だとしたら可能性が最も高いのは、命の恩人だっていうその大佐だ。違うか?」
スタンダール焦「…………その通りだ」
小次郎常「ドレフィスとか言った、そいつとは連絡を取っているのか?」
スタンダール焦「いや、ドレフィスは計画中止の後で軍を退役したと聞いているが、あれっきり会っていない」
小次郎常「退役した? では、軍が計画を再燃させたわけじゃないのか……」
スタンダール常「詳しくは知らんが、政府はパピヨン計画とは別の計画を実行中だそうだ。それはありえん」
小次郎常「政府に頼らず、自分で行動を起こしたってことは?」
スタンダール常「軍から離れたドレフィスが自費で義勇軍を作ったところで、政府はその義勇軍を採用する理由が無かろう」
小次郎常「なるほどな。大戦中ならともかく、今義勇軍の需要は無いか」
スタンダール焦「そうだ。それなのにメイリンだけでなくエルザも集めるなど、本当にドレフィスがやったのかもわからん……」
小次郎常「だが、義勇軍の可能性が無いとしても、一番集めた可能性が高いのはドレフィスだろう」
スタンダール焦「う、うむ……」
小次郎常「奴の周辺を洗いたい。写真か肖像画を持っていないか」
スタンダール焦「そ、そうか。調べてくれるか。確か計画時の集合写真があったはずだ……」
小次郎常「もらえるか。事実を突き止めればあんたの疑念も晴れるだろう」
スタンダール常「よかろう。しばし待て。ここから動くなよ。おい、こいつを見張っておれ」
執事「はっ」
cgクリア
小次郎常「(そういえばいたのか、執事。存在を忘れてたぜ)」
小次郎常「(わからんのはシュペングラー殺人の動機だ。)」
小次郎常「(事情を考えると、大佐配下の者が手を下した可能性が高い)」
小次郎常「(もしかしたら、失踪中のメイリンか?霊力で姿を消していた可能性はある……)」
小次郎常「(しかし、ドイツとフランスの仲が悪いとはいえ、勧誘対象の周囲をうろうろしていた実業家を殺すか?」
小次郎常「(いや、シュペングラーがエルザに執心だったのは、単に容姿を気に入ったからじゃない)」
小次郎常「(シュペングラーはエルザの霊力を知っていたはず。でなくば会社にこのペンダントがあるはずがない)」
小次郎常「(シュペングラーとドレフィスとの間で、エルザ争奪戦があった、ということか……)」
小次郎常「(なぜそこまでしてどちらもエルザを求めていた? そこまで優秀だったのか?)」
小次郎常「(スタンダールに聞いてみるか。孤児院の場所も聞かないとな)」
小次郎常「………………」
小次郎焦「おい……、あんたの主人、ずいぶん遅くないか?」
執事「う、うむ……。書類を探されるにしても、旦那様は几帳面に書類を保管してらっしゃるのに……」
小次郎常「…………」
小次郎焦「む、なんか焦げ臭くないか?」
執事「確かに……、しかし、旦那様の私室には……」
小次郎焦「どう考えても何かあったとしか思えんぞ……」
執事「ううむ、やむを得ん!付いてこい!おかしな真似はするなよ!」
小次郎常「そんなこと言ってる場合じゃなさそうだぞ……」
bg火事の部屋(スタンダールが倒れている)
執事「旦那様!」
小次郎驚「書類を、燃やされた!? くそっ!」
小次郎焦「おいっ!生きてるか!?」
執事「首の後ろに……、これは、黒薔薇!?」
小次郎焦「またかっ! おい、防火用水はどこだ!?」
執事「……この区画には、煙草の始末用のバケツがあるだけだ……」
小次郎焦「消火は無理かっ……!おい、遺体のそっちを抱きかかえろ!」
執事「貴様、旦那様の遺体に何をしている!?」
小次郎焦「火事で焼死じゃない!暗殺された証拠が無いと警察にどう説明する!」
執事「しかし、それよりも……、い、いや、わかった……!手伝う!」
小次郎焦「それから……、俺の武器はどこだ!?」
執事「玄関横の守衛室だ!」
cg邸宅内中庭
小次郎焦「ふぅ……、なんとか、遺体も荷物も運び出せたな……」
執事「旦那様が……、邸宅が……」
エビヤン「おーい、誰かおらんのかー!?」
小次郎驚「今の声は……、門の外からか?エビヤン警部だったような」
執事「警察だと!?」
エビヤン「警察だ!殺人事件があったとの通報を受けて来た!煙も出ておるし!この門を開けたまえ!」
執事「バカな……!早すぎる!」
小次郎焦「犯人が俺を罠にかけるつもりで呼び寄せたか……。こんな辺鄙なところに……」
執事「東洋人、今来ている警官を知っているのか?」
小次郎常「一応な。事情を話せばわかってくれると思うが……」
執事「やむを得ん。門を開けてくる……」
cgエビヤン
エビヤン驚「何!?明智くんか!?」
小次郎常「ああ、また会ったな。エビヤン警部……」
エビヤン悩「そちらが通報のあった被害者だな……。ううむ、とにかくそこから動くな!」
エビヤン叫「諸君!消火活動だ!無線で消防にも連絡しろ!」
執事「……、駄目だ。もう、助からん……」
警官「警部!バケツが数個あるだけです!」
エビヤン叫「むうう……、おい執事!邸宅には他に生存者は!?」
執事「……、おらん。私と旦那様の二人暮らしだ」
エビヤン悩「くそぉ……、ならば仕方がない。我々も避難せねば危ない!」
小次郎常「……そのようだな。このまま中庭にいると火に囲まれる」
エビヤン叫「撤退だ!あー、被害者を忘れるな!」
bgスタンダール邸宅前
小次郎常「いくらなんでも来るのが早すぎるぞ。俺と執事が遺体を発見してから10分も経っていない」
エビヤン驚「なんだと!?警察に電話があったのはもう一時間以上前だぞ。場所を突き止めるのに時間がかかったのだ」
小次郎驚「一時間!?ということは、俺がこちらに向かうのを確認して通報したくらいになる……」
エビヤン常「どうも事情が複雑のようだが、明智くん。君には少々済まないことになる」
小次郎常「どういうことだ」
エビヤン常「通報の内容は、家に侵入してきた日本人の男に篤志家が殺害された、というものなのだよ」
小次郎驚「!」
エビヤン常「さすがにこの状況で逮捕しないわけにはいかん。それは理解してくれるな」
小次郎悩「……くそ、アンタには世話になっただけに断れん。が、連行の前に話くらいはさせろ」
エビヤン常「もちろんそれはしよう」
小次郎常「被害者の首の後ろを見てくれ。説明するより見た方がわかりやすい」
エビヤン驚「……!これも、黒薔薇か!」
小次郎常「比較したわけじゃないが、シュペングラー殺しと同じ黒薔薇だろう」
エビヤン悩「むう。だがこれは君には不利な事実だぞ。どちらの現場にも居合わせたのだからな」
小次郎常「だが、アリバイはある。被害者の執事と俺は常に行動を共にしていた」
エビヤン常「本当かね?」
執事「本当だ。この男が暗殺者である可能性は訪問の時から疑っていたので、常に私の監視下にあった」
小次郎常「同時に、執事のアリバイは俺が証明する」
エビヤン常「ふむ。日本人の明智くんに彼との面識は無さそうだな。それは考慮されるだろう」
エビヤン常「燃えてしまったが、犯行前後の様子を教えてくれ」
小次郎常「ああ。といっても俺と話していたスタンダール氏が、書類を探しに自室に戻ったところでやられている」
小次郎常「その間、俺と執事は応接室で待ちぼうけだ。あいにく悲鳴の一つも聞こえていない」
エビヤン悩「それは……、あまり君に有利な状況ではないな」
エビヤン常「そもそも君は何故こんなところに来ているんだね。その動機から聞いておかないとな」
小次郎常「妹の友人が失踪してな。エルザといって」
エビヤン驚「何?シャノワールのバックダンサーのエルザさんか?」
小次郎常「おい、何故即答できる」
エビヤン焦「いや……その、なんだ。警察官たるもの色々と調べておかなければならなくてな」
小次郎呆「どれだけ足繁く通ってるんだ、アンタは」
エビヤン焦「こ、こほん。いや、それはともかくだな、エルザさんが失踪だって?」
小次郎常「昨日の夜からな。元々エルザの周辺には変にちょっかいを出している奴が他にもいてな」
エビヤン常「……シュペングラーか?」
小次郎常「さすがに察しがいいな。その通りだ」
エビヤン常「むうう、ちょっかいを出していた奴がいなくなったのに、本人が失踪したと?」
小次郎常「そうだ。そこでどうもエルザの昔の所属に秘密があるらしいと睨んで、こちらの旦那にその辺の事情を聞きに来た」
エビヤン常「で、わかったのか」
小次郎常「肝心要のところを聞こうとしたところで殺されたよ」
エビヤン驚「それは……、ただごとではないな」
小次郎常「この旦那が情報を漏らすのを恐れた奴の仕業なのはほぼ間違いないだろうな」
エビヤン常「そして、そいつが、シュペングラー氏の暗殺にも関わっていると」
小次郎常「だろうな。エルザについて嗅ぎ回られて何か知られるのを嫌がったんだろう」
エビヤン悩「この巴里にそこまで物騒な連中が活動していたとは、にわかに信じがたいな……」
小次郎常「巴里のギャングというか、裏社会の連中はそういうことをやらんのか?」
エビヤン悩「やらんとは言わん……が、ここまであっさりと死人を出すのは奴らの流儀ではない」
小次郎常「……なるほどな。日本でもしっかりしたヤクザほど死人を出すのは嫌がったもんだ」
エビヤン悩「どこのどいつらだ……、この花の都を荒らす奴らは」
小次郎常「(フランス政府が絡んでいる可能性がある、ってのはエビヤンには言わない方がいいか)」
小次郎常「(ギャングより死人に慣れた連中といえば、やはり軍人か)」
エビヤン悩「ともかく、詳しい話も聞かねばならんが、ひとまず君を逮捕する。恨まないでくれよ」
小次郎常「……早々に釈放するようにしてくれよ。こっちもエルザを捜さないといけないんだ」
エビヤン常「それは警察の仕事でもあるんだが……」
bg暗転
bg警察署前
cgエビヤン
小次郎常「……半日で釈放ってのは随分無理をしてもらったようだな」
エビヤン常「済まんが、さすがに二度目ともなると上もうるさくてな」
エビヤン常「小官の勘は君が無実だと告げているが、次は無いと思ってくれよ」
小次郎常「わかっている。三度も罠にはめられたんじゃ探偵の立つ瀬がない」
小次郎常「そういえば聞いておきたいんだが、通報したやつの声はどんなだったんだ」
エビヤン常「割り込みで掛けてきたらしくて蒸気ノイズが酷かったが、多分女だそうだ」
小次郎常「女か……。エルザじゃないと思いたいが」
小次郎常「それからもう一つ、黒薔薇の鑑定とシュペングラーの粉の鑑定はどうなった?」
エビヤン笑「その質問は二つだな。残念ながら、粉は薔薇の花粉とかじゃなかったぞ」
小次郎常「そうか。だがそれなら、黒薔薇の品種くらいはわかったんだろう」
エビヤン悩「いや、未だに判らんのだ」
小次郎常「図鑑の写真と照らし合わせるくらいはできただろうに」
エビヤン悩「……無いんだよ」
小次郎常「何?」
エビヤン常「少なくとも、パリ最新の薔薇の図鑑を手分けして見ても、あんな黒薔薇は載っていなかったんだ」
小次郎常「花弁の形や茎などを加工したんじゃないのか」
エビヤン常「乾燥させた上で固められている。だが、形を加工した痕跡はないのだ」
小次郎驚「どこかの新種か。それだと品種から犯人の絞り込みをするのは無理か……」
エビヤン常「それから、シュペングラーの倉庫にあった粉だがな、いい勘しているぞ、明智君」
小次郎常「ん?黒薔薇の花粉じゃなかったんだろう?」
エビヤン常「それを比べて確かめるくらいはしたのだ。あの粉には、顕微鏡で見ると表面に微細な棘が無数にあった」
小次郎常「鉱物ではなく、生物由来の代物だということか」
エビヤン常「かなり大量にあったであろうことを考えると、粉の正体がわかれば生産拠点を探せるかもしれん」
小次郎常「そっちは期待しているぜ」
エビヤン常「全部警察に任せて欲しいものだがね。こういっては何だが、君は妙に犯人に警戒されているようだ」
小次郎常「あんたでなきゃ二度とも犯人扱いだったろうな」
エビヤン常「わかっているならいいが、くれぐれも君自身が暗殺されんようにな」
小次郎常「ああ、あんたもな」
エビヤン常「それでは、小官も捜査に戻る」
cgクリア
小次郎常「さて、すっかり夜だな……。アインとの約束があるが、エルザも探さねばならんし、どうするか」
lipsアインに会いに行く 行かずにエルザを探す>アインが暗殺されアインルート、ベルルートとも消滅。ロベリアと遭遇して話を聞き、クロード・ギャロスの側近に会うことに
小次郎常「女との約束を破るのは目覚めが悪いな。会って早々に切り上げるにしても顔は出さないと」
小次郎常「本を返さないといけなかったな。一旦部屋に戻って……途中でパンでも買えればいいが」
bgバー
cgアイン
アイン笑「あぁ……。来てくれたのね」
レナード常「やっと来たか。美人を待たせるものじゃないぜ」
小次郎常「遅れて済まない。マスター、何か食えるものを頼む」
レナード常「バーに来ておいて贅沢を言うなよ。酒の肴になるものしかないぞ」
小次郎常「それでいい。とにかく食えればいい」
レナード常「どうやら色々忙しかったようだな。後で話を聞かせてもらうぞ」
アイン笑「そうね。袖にされたかと思ったわ」
小次郎常「済まんが、今夜はあまり時間が取れなくなった。ひとまず大事な本は返す」
アイン常「あら。今夜はすごく期待していたのだけど」
小次郎常「妹の友人が行方不明になってな、今はその捜索中なんだ。彼女が見つけた後ならじっくりと話せる」
レナード常「日本人捜しに実業家のあら探しに女捜しか。少しは身の程を知れ」
小次郎常「シュペングラーと関係があるから困ってるんだ」
アイン常「その子の名前は、エルザ・フローベール」
小次郎驚「なっ……!」
アイン常「違う?」
小次郎驚「……違わない。だがアイン……なぜ、一体……何を」
アイン常「今夜、その子を探しに行かないで私と付き合ってくれたら、その子についての情報を教えるわ」
小次郎悩「(はったりじゃ、ないな……。何故だ。この事件はどこがどう繋がっている……)」
小次郎悩「(しかし、エルザが行方不明になって既に一日……これ以上遅くなるのは……)」
lipsアインに付き合う エルザの捜索に行く>アインルート、ベルルート消滅。アイン暗殺される。
小次郎常「わかった。だが約束は守って貰うぞ」
アイン常「その前に、もう一つの約束があるでしょう?」
小次郎常「この本の内容を説明する、だったか」
アイン常「少しは目を通してきてくれたかしら」
if二日目夜で二十世紀の技術論を読んでいない場合、場面ジャンプ。信頼度低下
小次郎常「大まかには目を通した。難解ではあったがな」
アイン常「読み間違いをしていないか気になるわ。その本の骨子は何?」
小次郎常「タイトル通りの本だな。二十世紀の科学技術において必要なものと今後の展望について書かれてある」
アイン常「その内容は?」
小次郎常「主に二つの思想からなっている。一つは大規模に人間を助けるためのエネルギーの必要性について」
アイン常「ええ。それについては昨日軽く前提を説明させてもらったけど」
小次郎常「今後発展する人間の生活を支えるためには、膨大なエネルギーが必要になる。薪を燃やしていたような時代は過去のものになるだろう」
小次郎常「鉱物系の燃料、石炭及び石油の必要性について説いた後、それでも不足するだろうと説明していた」
小次郎常「そこで、アンタの説明してくれた圧縮蒸気の可能性に繋がる。それでも今世紀後半には不足するだろうという予言している」
小次郎常「水と蒸気と生体との親和性について言及していて、エネルギー問題は最終的に霊力に到達するだろうと言っていたな」
アイン笑「ありがとう。そこまでは読み間違えはしていないようね」
アイン常「でも、本当に聞きたかったのはもう一つの方なんだけど」
小次郎常「だろうな。これは日本人以外には恐ろしく難解だろう」
アイン常「科学は人間を助けるもの、だという思想は同じだけど……」
小次郎常「考える機械の必要性について。エネルギーだけでは人の生活は豊かにならない。人の助けとなり、人と共に生きる機械が必要となるだろう」
アイン常「そこよ。私が躓いたのは」
小次郎常「理解し難いかもしれんな。これはそもそも現代の科学者の発想じゃない」
アイン常「どういうこと?」
小次郎常「この思想は日本では四百年以上前から歴として存在する。確信を持って言える。この本を書いた奴は純粋科学者じゃない」
小次郎常「ありていにいえば、この記載は、陰陽師が書いたとしか思えない」
アイン常「オンミョウジ?」
小次郎常「西洋で言えば魔術師なんだが、ベトナムにもいないか?使い魔などを操る存在が」
アイン常「……魔術は詳しくないわ」
小次郎常「そうか。この本の後半で目指している機械は、自らの判断で人のために独自に動く機械と……」
小次郎常「道具でありながら、自らの心を持ち、人の活動に寄与する機械だ」
アイン悩「そう、その考えは先進的過ぎるのよ。衝撃ではあるけど、理解の範疇を越えているの」
アイン悩「でも本の前半のエネルギーについての指摘が正鵠を射ている以上、間違っているとも思えないのよ」
小次郎常「先進的、というのは少し違うな。この考えは、おそらく著者にとっては原点回帰に過ぎないだろう」
アイン常「四百年前から存在する、と言ったわね。にわかには信じがたいわ」
アイン常「機械とは、人が設計した通りに、エネルギーを受けて仕事を為すもの……。私はそう認識している」
小次郎常「どちらも日本には昔からあるものだ。ただし、機械ではなく別の形でな」
アイン悩「別の形、と言われると……、それが、魔術で?」
小次郎常「前者はな。自らの判断で人のために独自に動く、式神という存在があるんだ」
小次郎常「紙で作った人形や、小動物といった何らかの形に、言葉によってかりそめの命を与えるんだ」
小次郎常「多くのことができるわけじゃない。馬丁や、門番、兵士……内容は限定される」
小次郎常「ただ、その限られた範囲では、その場の情報を自ら得て、自ら判断してことにあたる」
アイン悩「それができる機械、なんて想像ができないわ」
小次郎常「現実に存在する。帝都ではここ数年、脇侍という自動で戦う人型蒸気が跋扈した」
アイン常「ワキジ?」
小次郎常「最初に見たときは式神のような魔術的存在だと思っていたが、奴らは蒸気で動いていた」
小次郎常「どうやら、論理的な判断を行うための機構を設けてあるらしい」
アイン悩「論理的な判断?敵が目の前にいたら攻撃、とか」
小次郎常「そんなところだ。人間の活動もつきつめれば実際の現場で起きる事態への論理的な対応の積み重ねだ」
小次郎常「脇侍は単純な戦闘に特化しているが、自らの判断で動く蒸気機械だった」
小次郎常「今にして思えば、脇侍の製造者はこの本の存在と中身を知っていて、実践したように思えるな」
小次郎常「本では、この機械の具体例として、死者を出さないで済む軍隊の実現を挙げていた」
小次郎常「もっとも、著者が目指していたところはもっと人間の生活全般を支えるものらしいが」
アイン悩「そういえば、近い存在が巴里にも出たわ。この国では蒸気獣と呼ばれているけど」
小次郎常「影響を受けていた可能性は否定できんな」
アイン悩「…………。前者は、と言ったわね。後者、つまり道具でありながら、自らの心を持ち、人の活動に寄与する機械とは?」
小次郎常「付喪神、というものがある」
アイン常「ツクモガミ?」
小次郎常「長年人に使われていた道具が、人の情念を受けて意識を持つに至った物だ」
アイン常「ペンや計算尺が意識を持つとでも?」
小次郎常「日本古来の考えではありえなくもないな。筆や硯……まあペン壷みたいなものが意識を持った例もあったな」
アイン常「……冗談のつもりで言ったのだけど」
小次郎常「よくある話では、手鏡や傘、櫛、少し違うところでは刀が意識を持つことも珍しくないな」
アイン常「……剣ならば西洋でも例があると聞くわ。グラムとか、エクスカリバーとか言ったかしら」
小次郎常「そうか。ならばそう珍しい概念でもないのかもしれないな」
アイン常「私の常識からは外れすぎているわ。それは魔術ではないの」
小次郎常「魔術じゃない。その道具に愛着を持った普通の人間の思いが、意識を形作るんだ」
アイン常「それを機械で実現するなんて、方法の見当が付かないわ」
小次郎常「それが二十世紀の課題だと言っているわけだろう」
小次郎常「人型蒸気という、人の形に沿った機械が生まれてきている今、従来の道具よりも意識を持ちやすいという見解だったな」
アイン常「人型蒸気の部品が操縦者の意に反して動いたら世界中の軍人がひっくり返るわよ……」
小次郎常「意を受けてではなく、持ち主の意に沿って動くものだ。付喪神というものは」
アイン常「……やっぱり難解すぎるわ。私に理解できるのは、前者の独立して動く機械の必要性までね」
小次郎常「そんなところかもな。二十世紀の技術論なんて言うんだ。まだ四分の一しか終わっていないぞ」
アイン笑「それでも達成したいと思うのが科学者なのよ」
アイン常「十分なエネルギーが確保できて、それで動く活動体が確保できて、農耕と防衛に用いることができれば……」
アイン常「先進国と植民地との力関係をひっくり返すことだってできるわ……」
小次郎常「……」
アイン常「もう一つ、この話の続きで聞いておきたいことがあるんだけど、いいかしら」
小次郎常「今夜は話に付き合うという約束だからな……」
アイン笑「ありがとう」
アイン常「…………、降魔とは、どんな存在だと思う?」
小次郎驚「!!!」
アイン常「……」
小次郎驚「……聞き間違いじゃ、無さそうだな」
アイン常「ええ。日本語でコウマ。帝都東京にいたのなら、あなたは一度はそれを見ているはず……」
小次郎悩「知っているさ……。よく、嫌と言うほど、知っているとも……」
アイン常「その話を、聞かせて欲しいのよ」
小次郎悩「何故、降魔のことを知ろうとする?」
アイン常「自らの判断で人のために独自に動く存在」
小次郎驚「!! あれは、そんな何とかなるようなものじゃないっ……」
アイン常「私はね、魔術も妖術も否定する気は無いのよ。ただ単に、今の科学ではまだ説明が付かないだけの現象と技術だと思っている」
アイン常「機械に意識を持たせるよりも、現在活動している意識あるものを扱う方が技術的には近道だと思うわ」
小次郎悩「扱うなどと、簡単に言ってくれる。できるものか……」
アイン常「別に私の独自の考えではないはずよ。帝国陸軍は降魔を操って軍団を作ろうとしたと聞いているわ」
小次郎悩「よく知っているな……」
アイン常「それはつまり、降魔を操って人のために扱う技術があったということではなくて?」
小次郎常「技術なんて生やさしいものか。あれは天才的術者が編み出した術法によるものだ。簡単にできてたまるか」
アイン常「魔術というわけ?でも、現にダグラス・スチュアート社はやって見せたでしょう。やり方はわからないけど」
小次郎常「ヤフキエルのことか。木喰の降魔兵器の簒奪品だな」
アイン常「モクジキ?」
小次郎常「帝都を荒らし回った組織の技術幹部だ」
アイン常「その人物は降魔の運用に成功していたわけでしょう」
小次郎常「大元の天才技術者の術法を機械で擬似的にやってみたんだろうがな。それも武蔵あっての技術だ」
アイン常「簒奪というけど、それならDS社の技術はより進歩しているはずよ」
小次郎怒「ブレント・ファーロングの末路も知って言ってるんだろうな」
アイン常「技術は一足飛びに進歩するものではないわ。運用することは可能だった、という事実が重要なのよ。解決策はあるはず」
小次郎怒「魔の力の恐ろしさも知らずに、よくそんなことが言える……!」
アイン叫「私はね、科学者なの。現象は理屈で考えるわ。魔物と言っても、この世界で活動している存在よ」
アイン叫「力にはベクトルがあり、エネルギーには正負があるだけよ。魔の力だって解析できるわ」
小次郎常「先ほど自分で言ったことを忘れたのか。今の科学で説明の出来ない現象があるとな」
アイン叫「だからといって怖がっていては真理も力も得られないわ」
小次郎常「恐怖のなんたるかも知らないくせに、いきがるな」
アイン怒「……っ! 知っているわ……。アジア人のあなたならわかると思ったのに……!」
cgクリア
小次郎常「おい、待てアイン!」
小次郎常「……知っているだと。何を見て来たのか知らないが……」
レナード常「そう言うな。アイツも今でこそああしているが、民族がああだけに色々ろくでもないものを見て来たんだ」
小次郎常「だが……あまりに命知らずだ。あのまま放っておいたら死にかねん」
レナード常「追いかけるならさっさと行くんだな。二人分の勘定はツケにしておいてやる」
小次郎常「済まん、行ってくる」
酔客2「おーおー、熱いねー」
bg夜の路地裏
小次郎常「……どっちだ……。酔った足ではそう速く走れるものじゃない……」
小次郎常「そう遠くへは行っていないはず……こっちか」
cgアイン
小次郎常「見つけた……」
アイン怒「何よ……。ああ、そういえば話す約束がまだだったわね……」
アイン怒「エルザ・フローベールを連れて行ったのはドレフィスという元軍人の一派よ」
小次郎常「(やはり……。だが何故そんなことを知っている?)」
アイン怒「退役軍人たちが作ったディビジョン・ノワールという組織があるのよ。今はそのアジトを転々と移動させられているはずだわ」
アイン怒「私が知っているアジトはこの紙に書いてあるわ。ただ、もしこれらのどこにもいなかったら……急がないといけない……」
小次郎常「……いずれも、パリ近郊だな」
アイン常「言っておくけど、一人で突撃なんてしないことよ。退役軍人といっても、欧州大戦を経験した精鋭がほとんどなのだから」
小次郎常「その忠告は半分聞いておこう」
アイン怒「もういいでしょう……。さっさとその子を探しに行きなさい!」
小次郎常「(そう言って無防備に背を向けられてもな……)」
lips脅かしておく 言われた通りにする>ベルルート、アインルート消滅
小次郎常「(恐怖を知っていると言ってもな……)」
小次郎常「細い腕だな」
アイン驚「な、何をするの!?」
小次郎常「騒ぐな。あまりに世間知らずだから、恐怖ってものを教えてやる」
アイン驚「え……」
小次郎常「こんな薄い服、すぐに破けそうだな」
アイン驚「や……、やめて……」
小次郎驚「(その目でその台詞は、制止の役には立たないな……)」
lipsそのまま襲うorタイムオーバー 脅すのを止める>生存ルート
sound鼓動音
小次郎狂「あ……」
小次郎狂「(久々の、獲物だ……)」
sound布を破る音
アイン驚「きゃあああっ!」
小次郎狂「(美味そうな身体だ……)」
sound噛みつく音
アイン驚「ああああああ!あ、あなたは……一体……!」
小次郎狂「はははああああああああははあああはあああああ!」
sound貫通音
小次郎狂「がああっ!?」
cgコルボー
コルボー「花の都の夜を彩る麗しき婦人の血に狂ったか、獣よ」
小次郎狂「カ、カラス……!?」
コルボー「その醜い身体を疾くこの舞台より退場せしめよ!」
sound貫通音
小次郎狂「があああああっ!!」
コルボー「逃がすか! レオン!」
cgレオン
レオン「ふむ、どうしても東洋人の男というとあやつを思い出さずにはいられんが……」
レオン「どうもあやつとは正反対のようだな。生かしてはおけんな」
小次郎狂「!?」
レオン「偉大なるカルマール公の名代たる我らの手にかかって死ぬことをせめて誇りと思うがよい」
sound衝撃音
小次郎狂「ガッ………………!」
bg暗転
badend
lipsout
lips脅すのをやめる
小次郎常「(……っっ、危ない。一瞬気が遠くなったな……)」
小次郎常「少しは解ったか。俺が恐ろしいのに、降魔が恐くないなんて笑わせるぞ」
アイン常「はぁ……。脅しにしては怖すぎるわよ……」
小次郎常「そんなスカートでへたり込むと足が汚れるぞ」
アイン笑「腰が抜けて立てないのよ……」
小次郎笑「なんだそれは……」
アイン笑「貴方のせいよ。まだ怖くて仕方がないわ」
アイン笑「まさかこんなところに女一人放って置く、なんてことはしないわよね」
小次郎常「……。まったく、世話が焼ける」
アイン常「あ、私の下宿、そっちだから」
小次郎常「どうしてこうなった……」
cgクリア
bg暗転
bg天井
小次郎常「……」
アイン常「どうしたの?」
小次郎常「誰かと並んで天井を見上げるのは、久しぶりだと思ってな……」
アイン笑「こんなに安らいだのは本当に久しぶりよ……」
アイン笑「不思議ね。貴方はベトナムとは関係ないのに、貴方の匂いは故郷を思い出すわ」
小次郎常「これでも同じアジア人だからな」
アイン常「そうね……、思えば遠くへ来たわ。まだ道半ばだけど」
小次郎常「……聞いていいか?」
アイン常「私の昔話?」
小次郎常「ああ」
アイン常「ベトナムには、16のときまで住んでいたわ」
アイン常「私は飢えたことは無かったけど、フランスに簒奪され続けていた民は貧しかった……」
アイン常「それでも、よく覚えているわ。日に照らされた水田の美しさも、雨の匂いに満ちた森の美しさも」
アイン常「それに……、それらを潰して出来たたくさんのプランテーションも、フランス人の専横も……」
アイン常「帝都を含めて日本の話はその頃よく聞かされていたわ。列強に屈しなかったアジアただ一つの国」
アイン常「海の東郷、陸の米田……、日露戦争の英雄たちには憧れさえしたものよ」
小次郎常「米田中将か……。そうか、世界では日露の米田なんだな」
小次郎常「それで、16でフランスに渡ったのか」
アイン悩「……いいえ、しばらくマダガスカルの近くの島で暮らしていたわ」
小次郎常「マダガスカル……というと、アフリカ東岸のあの大きな島か。何故あんなところに」
アイン悩「レユニオンってフランスの植民地の島があるのよ。ベトナムからフランスに渡る足がかりとでも思って」
小次郎常「……」
アイン常「することが無かったから、とにかく必死で勉強したわ。日本の維新の英傑たちを見習ってね」
アイン常「でも、とにかくベトナムにはあまりにも色々なものが足りないことはわかっていたわ」
アイン常「現在の世界でフランスに対抗するためには、蒸気機関の技術とエネルギーが不可欠だと考えたの」
アイン常「そこからは理学と工学にのめり込んだわ。でもレユニオンでは手に入る本も限界があった……」
アイン笑「そうなったらあとは、密航よ」
小次郎驚「密航!?」
アイン笑「ええ。男装して船倉に入り込んだの。結局見つかってしまったけどね」
小次郎驚「おいおい……」
アイン笑「でも船長が度量のある人でね。船員の中にもベトナム人がいてくれたことも幸いしてなんとか連れてきてもらえたわ」
小次郎常「一歩間違えばサメの餌だぞ……。無茶をする」
アイン常「ベトナムの地では今も闘っている人たちがいるもの……。私一人、安全でいられるわけもないわ」
小次郎常「それで、このフランスの地でお前の戦いが始まったわけか」
アイン常「ええ。パリのベトナム人コミューンに身分を作ってもらってね」
アイン常「パリは図書館が充実していたし、レユニオンでやった勉強も無駄じゃなかったわ」
アイン常「主立った蒸気工学の教授に片っ端からレポートや論文を送って、なんとか研究室に入れるように頼んでみたの」
アイン笑「そうしたら、フランスの最高峰、理化学研究所のバレス教授から返事があってね」
小次郎驚「それは……凄まじいな」
アイン笑「晴れて理化学研究所の研究者になれて、今は蒸気科学者なんて立場になったわ」
アイン笑「ようやくエネルギーと蒸気技術のなんたるかも解ってきた……。次の十年でこれをベトナムに定着させるのが私の夢……」
アイン笑「ふふっ……色気の無い話になってしまったわね」
小次郎笑「構わんさ、痛快だった」
小次郎常「(何故エルザのことを知っていたかは……今は聞くのは無粋だな)」
アイン常「あなたの昔話も聞きたいわ」
小次郎常「俺の昔話か。どこまで遡ったものかな……」
アイン常「今の貴方を形作った人の話を聞きたいわ」
小次郎常「そうか。それなら……」
小次郎驚「……!」
アイン常「どうしたの?」
小次郎厳「静かに……。部屋の外に殺気を感じた」
アイン驚「!!」
小次郎厳「思い当たるところは……、あるな。エルザの行方をお前は知っていた」
アイン悩「ええ……。どうやら、派手に反対しすぎたらしいわ」
小次郎厳「詳しい話は後で聞く。毛布をかぶってベッドの下に隠れていろ」
アイン驚「そんな……、あなたは」
小次郎厳「迎え撃つしかない。むしろ刺客から色々と聞き出す好機だ」
小次郎厳「(服を着ている余裕は無いかもしれんな……。小刀と拳銃だけか)」
bg暗い室内
小次郎厳「(どう来る?扉を力づくで破って来るか?鍵を壊して来るか……)」
小次郎驚「なっ!?」
小次郎驚「(鍵の留め金が……ゆっくりと、ひとりでに、開いていく!?)」
小次郎驚「(落ち着け……、ということは幽霊でも、瞬間移動の使い手でもない……)」
小次郎常「(扉を開いてきた……。入ってきたところを先手で狙撃するか)」
小次郎常「(……入って、こない?)」
小次郎焦「(いや、気配は感じる……。まさか)」
lips姿の見えない暗殺者か! 窓側に回ったか!>振り返ったところを背後から暗殺される
小次郎焦「既に入ってきているな!貴様!」
sound銃声
小次郎厳「かすったと見たぞ!」
影「!!」
小次郎驚「(ひるんだ!?……好機!)」
小次郎叫「このあたりか!」
影「っ!」
ifベルナデッドフラグ完成
小次郎厳「(爪先に、手応えがあった!見えなくても実体はあるな……!)」
影「……っ!」
小次郎叫「そこだ!」
影「!」
小次郎叫「捉えた!」
影「きゃ……!」
小次郎驚「(この感触……服の装飾布か)」
小次郎厳「ずいぶんと、捕まえやすい服だな……!」
sound転倒音
小次郎叫「逃がさん!押さえ込んでやる!」
影「!」
小次郎驚「(……!?身体が……細い……!?)」
影「くっ!」
sound布を破る音
小次郎驚「しまった!」
sound遠ざかる足音
小次郎厳「……」
小次郎厳「…………逃げられたか」
アイン常「小次郎……、大丈夫?」
小次郎厳「ああ……。逃げられたようだが、服を派手に破っていったから手掛かりは……」
小次郎驚「(!!見覚えがある……この白と黒の服は……、まさか……)」
アイン常「どうしたの……」
小次郎常「いや……、なんでもない」
ifout
elseベルナデッドフラグ未完成
小次郎厳「(爪先で捉えたと思ったが……、見えないだけじゃなく動きがいいな……!)」
小次郎厳「無傷で捕らえるのはあきらめようか」
影「?」
小次郎厳「来い。俺に刀を抜かせた以上、俺を一撃で仕留められなければ、その瞬間に勝負が決すると思え」
影「……!」
小次郎厳「動きが止まったぞ」
影「……」
小次郎厳「貴様と会うのは二度目になるのか、姿無き暗殺者」
影「…………」
小次郎厳「背後から延髄に薔薇の一刺し。シュペングラーを仕留めたあれがお前の必殺の一撃だろう」
影「……」
小次郎厳「そうとわかっていれば、何が何でも貴様の位置を察してそちらに背は向けん」
影「……」
小次郎厳「どうした……。来ないのか」
影「……っ!」
小次郎叫「動いたな!取らせるか!」
sound扉の開閉音
小次郎常「…………退いたか」
アイン常「小次郎……、大丈夫?」
小次郎厳「ああ……、怪我は無さそうだ。暗殺者だけに毒の危険も考えたが、どうやら無傷でしのげたようだ」
elseout
アイン焦「とにかく、助かったわ……。貴方と一緒に帰宅していなければ今頃は……」
小次郎常「聞きたい話は山とあるが、とにかくここから避難するのが先決だ。服を着て最低限の荷物を纏めろ」
アイン焦「そうね……。最低限の荷物というと、この論文の草稿とペンがあればいいわ」
小次郎笑「見事な答えだな」
アイン笑「身一つでパリに来たのよ。大切な物なんて学問に関するものくらいだわ。成果は頭の中にあるもの」
小次郎笑「小気味いいことだ。よし、とにかく一旦ここを出るぞ」
bg夜の街
小次郎常「まるごと放火でもされたら危ないところだったな……。相手がまともな暗殺者で助かったのかもしれん」
アイン笑「姿も見えない暗殺者を身一つで撃退した貴方にますます興味が湧いたわ」
小次郎常「戦闘経験も役に立つものだ」
小次郎常「しかし、さて、どこに行ったものかな。俺の下宿はまず次に狙われる可能性が高いしな……」
小次郎常「身一つでパリに来たというが、縁者はいないのか?」
アイン常「いることはいるけど……、私の縁ということで調べがついている可能性は高いわね」
小次郎常「となると……夜が明けるのを待って彼女に頼むか」
アイン常「?」
bg暗転

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