[サクラ大戦BBS]

MAKING APPEND NOTE
夢織時代 への返事
あけましておめでとうございます。夢織時代です。
二連続ツリーとなってしまいましたが、用途違いなのでご容赦を。

SSとは(以下略)。

というわけで新サクラ大戦SSです。
最終話戦闘からラストバトルまで完全なバレとなっていますので、クリア前の方は以下を読まないようにお願いします。


なお、クリア直後の衝動に任せて書いているため、設定面の詰めはかなり甘いと思われます。
あとでこっそり修正するかも。



























**************************
SS「もう一つの仮面の下」



 何が起こった。
「帝国華撃団……!」
 あいつらと切り結んでいたはずの、伯林華撃団エリス機の動きが、止まった。
 途切れ途切れに聞こえてくる音声からは、仮面に操られたとか言っている。
 先ほど会場で見たエリスとマルガレーテは確かに見慣れぬ仮面を被っていた。
 ……いや、見覚えはある。
 あの仮面は、開会式で我々をコケにしてくれたあの夜叉という女降魔と、同じではないか。

 帝国華撃団を食い止めていたはずの、伯林華撃団が、汚らわしい降魔と同じ仮面を被っていた、だと?
 では、我々は、いったい、何をしている。
 降魔に味方し世界に仇なす帝国華撃団を滅ぼし、世界華撃団を伯林華撃団の下で統一するように取り計らえと、命じられていた我々は。

 あの仮面をかぶせたのは……、確か……自らが、

「があああああああああああ!?」

 頭が割れそうになる。
 考えようとするとそれを押しとどめるように、視界が真っ赤に染まり激痛が走る。
 眼球に走る痛みを抉り取ろうとして顔面を掻きむしる。
 だが、できない。
 俺の顔を覆っている、これ、は……

 これから君たちは私の下で、幾多の任務に当たってもらう。
 ついては、これを与える。
 闇夜でも生き物の姿を捉えることができるようになり、また、太陽のように眩しい環境でも相手を見逃すことはない。
 降魔たちと戦うために、君たちの眼を強く守ってくれるだろう。

 この、サングラス、は……。
 思えば、あの日からこれを、眠るときでさえ外したことがない……。

「俺に、何をしたああああああああああ!!」

 剥がそうにも剥がれない。
 目の周りの皮膚と完全に一体化している。
 俺は今まで、こんなものを身に着け続けていたのか。
 ならば、もはや後生大事にする必要もないこんな仮面など!
 両目を覆うグラス周りの皮膚に両手の爪を立て、顔の皮の下からサングラスを握る。

「俺を、舐めるなああああ!!プレジデントGィィィィ!!!

 帝国華撃団には入れなかったが、こんな自分にもかつてはわずかな霊力があった。
 降魔と戦うには、あまりにも力不足だったが。
 残された霊力を限りに振り絞り、手の中のサングラスを握りつぶす。

 視界にあふれる血が流れ込む。
 だが、それ以上に世界がはっきりと、くっきりと見える。
 格納庫のような空間にいくつも電影板が据え付けられ、その電影板の一つ一つに武骨な金網がかぶせられている。
 明かりは蒸気灯ではなく、どことなく人魂のような輝きを放つランタンに似た形状の不気味な発光体が部屋の四隅に取り付けられていた。
 今自分がいる場所が、華撃団大戦の会場たる帝国競技場の関係者控室とは似て非なる異様な空間であることに、いやでも気づかされた。

「ミスターI!?」

 十余名を数える部下の黒服部隊が自分の方を驚愕した目で見る。
 まだ銃を向けられてはいない。
 驚愕している今のうちに、こいつらのサングラスも破壊する!

「俺の部下なら、死ぬ気で我慢しろ貴様ら!!」

 手近にいた五号の顔面を捕まえて、サングラスを引きちぎるのではなく握りつぶす。
 焼いた炭を掴んだような灼熱の痛みが手のひらを焼いたが、構うものか!
 両手はボロボロになったが、この場にいた六名のサングラスをなんとか破壊することに成功した。

「ミ、ミスターI……」
「我々は、いったい、何を」
「気が付いたようだな。ここは帝国競技場が変化した魔幻空間の中だ」

 聞かれたからというわけでもないが、自分の認識を確認する。
 うっすらと記憶している。
 伯林華撃団の不戦勝で終わったはずの華撃団大戦決勝戦。
 世界統一華撃団が為った宣言の直後に、プレジデントGは……あのクソ降魔野郎は、すべてが茶番だったとぶちまけやがった!
 道理で、ルール変更上等、帝国華撃団を廃止に追い込むためには整合性も何もないクソ大会の運営をさせてくれたものだ。

「プレジデントG、いや、そんな名前を名乗った上級降魔によって、我々は長きにわたって操られていたのだ」

 口に出して、我が身の無様さを改めて思い知る。
 汚らわしい、決して与する者ではないと思っていた降魔ども。
 10年前にも、22年前にも、俺の家族を奪ったあの降魔ども。
 あいつらを殺すために生きていたはずなのに、何を間違ってか、その降魔どもの首領の手先となって働いていたなどと!

「そん……な……」

 六名とも血濡れのまま、茫然とした顔でつぶやく。
 俺と同様に、正気を取り戻したことで、ここまでの華撃団大戦の運営の違和感にようやく思い至ったのだろう。
 望月あざみの師匠だったというジジイの捜索からして、すべては帝国華撃団を追い込むため。
 その陰謀の片棒を今の今まで担がされていたといたという事実は、容易に受け入れられるものではあるまい。
 俺だけではなく、黒服部隊のほとんどのメンバーは、かつての幾度かの戦いで、降魔に家族や恋人を殺された者たちだった。
 WLOFに入れば、対降魔弾を始めとして降魔を殺すための装備や環境が手に入ると、執念を燃やしていた面々だった。

「おいお前ら、クソ降魔どもにやられっぱなしでいられるか?」
「ミスターI、侮辱はやめて頂きたい。
 クソ降魔どもの顔面を100回は殴ってやらねえと気が済みませんぜ」
「手があるんですな、ミスターI、ご指示を!」
「ああ、ある。
 底なしにムカつく手がな。お前ら、どんな腹立つことでもやるか」
「やります。降魔をぶっ殺すためならなんだって!」
「なら、やることは一つだ。帝国華撃団を、あの神山を助けるぞ」

 度重なるプレジデントGの妨害にもめげずに、決勝まで勝ち上がってきたあの白銀の無限を電影板の向こうに睨みつけた。
 ムカつく野郎だった。
 海軍兵学校の首席卒業のエリート。
 俺にはなかった強い霊力を持つ男。
 望月あざみへの疑惑を植え付けてやったとに、何一つ疑わずに事態を解決した。
 あいつほどに、仲間や家族を信じていることができていたら、俺は、こうなってはいなかっただろうに。

「ミスターI!?正気ですか!?」
「正気も正気だ。
 神山は伯林華撃団のエリスすら破りやがったぞ。
 今あいつらは、プレジデントGの……あのクソ野郎の下へ向かっている。
 だが、あのクソ野郎がみすみすあいつらが来るのを待ち受けているとは思えん。
 俺たちが今できる最良の手段は、神山をプレジデントGのところに送り込んで、奴にプレジデントGをぶん殴らせることだ」

 気に入らん。
 気に入らんが、あいつらは、帝国華撃団は強い。
 だが、無限は華撃団大戦に向けて調整された基本的には地上型の霊子戦闘機だ。
 突進飛行こそできるものの、スターのような飛行型霊子甲冑に比べると細かい空中静止などは苦手としているはずだ。
 巨大な地割れ一つつくって、そこに高射砲を並べておくだけで撃ち落とせてしまう。
 あのプレジデントGが、迎撃態勢を整えていないはずがない。

「送り込む、って、どうやって?」
「どうやらこの空間は帝国競技場を使って作られている。
 競技場の制御室を奪取し、扉や昇降機を操って奴らの移動を手助けする。
 そうしなければ、奴らはプレジデントGのところまでたどり着けん」
「その制御室はどこに?」
「探すに決まってるだろう。
 ただし、おそらく降魔がうようよしている。
 生きて帰れる保証はない。どうする?やるか?」
「愚問ですな、ミスターI」
「貴方の部下を見くびらないでいただきたい」
「俺たちは黒服部隊に入るときに誓いました。
 この命、降魔を滅ぼすために使い果たすと」
「帝国華撃団には効きませんでしたが、対降魔弾はこの日のために開発したのです!」
「ようし、わかった。行くぞ、黒服部隊出撃だ!!」



 もちろん、簡単にいくなどとは思っていなかった。
 制御室が弱点であることくらい、あのプレジデントGが予想していないはずがないのだ。
 ただ、帝国競技場をベースにしている以上、通路は人間サイズを基本にしているという構造上の特性がある。
 霊子戦闘機以上の巨大サイズの降魔は、人間用の通路にはそもそも入り込めない。
 設置可能なサイズの降魔が最も多く配備されている箇所が、制御室に他ならない、という目算が付いた。
 かろうじて、元の競技場の面影があることが助かった。
 だが、傀儡機兵ではなく、正真正銘の降魔が警備に五体。

 拳銃サイズの対降魔弾では、遠距離からダメージを与えられるものの仕留めきれない。
 天井が低く、降魔が飛び上がれないのであちらもこちらへ容易に接近できないので、膠着状態になった。
 いかん。このままでは神山を援護できん。

「埒が明かん。
 二号、四号、六号俺についてこい。
 あとの面々は、全力で援護射撃だ。俺を巻き込んでも構わんが、降魔はできるだけ頭部を狙え!」

 死ぬだろうとの予感はあった。
 それでも、降魔と戦うこの日のために、二十年前と十年前の無念を飲み込み続けてきたのだ。
 ここで死んで帝都の礎になれるならば、それも本望!

 駆け出す。
 途中で二号が降魔の吐き出した爆発性の弾をよけきれずに吹っ飛ばされる。
 それでも俺と四号が降魔に肉薄した。
 俺に二体。四号に三体が襲い掛かる。
 援護射撃を背に、至近距離からも降魔の頭部を狙う!

 瞬時に交錯する十数発の銃声と降魔の絶叫。
 次の瞬間、降魔の爪に貫かれた四号が身体を二つに割かれながら

「ざまあ、みやが……れ」

 と勝利の笑みを浮かべ、自らの血の海に落ちた。
 直後に、俺と四号、六号が確かに頭部を打ち抜いた五体の降魔が爆散した。
 あの二十二年前の、対降魔部隊のような真似を自分がやっているというのは不思議な感慨があった。

「よくやったぞ!二号、四号!
 来い!一号、三号、五号!帝国華撃団を助けるぞ!」

 長年の部下たちの死を悼むのに与えられた時間はわずか二秒しかなかった。
 飛び込んだ制御室は確かに生きていたが、神山たちの様子が待ったなしなのがすぐに見て取れたからだ。
 巨大化したあの影がおそらくプレジデントG。
 神山たちは競技場本体を改造したと思しき環境で、プレジデントGが降らせたと思しき岩塊にさらされていた。
 数も減っている。
 だが、ここに来るまでに伯林華撃団との直接対決を経ている。
 既に華撃団大戦の一戦を終わらせた後よりもコンディションは悪いはずだ。
 見たところ、飛行できるのはあと数度。

 それでも奴らがあきらめずに戦っていることはわかる。
 まったく、呆れるほどしぶとい奴らだ。
 巨大化したプレジデントGの周囲に残されたグラウンドの残骸を走り抜けようとしている。
 だが、間は穴だらけだ。
 下手に無限で飛行すれば降魔たちに迎撃されて一巻のお終いだ。
 なんとか飛行機能を使わずに奴らを移動させる。

「今奴らがいるのはグラウンドの跡だな。
 周囲の設備がここから動かせるか!?」

 グラウンドの周囲には、競技中に場外落下した機体を救助するための簡易飛行船があったはずだ。

「……動きます!」
「神山機の前にうまく動かして、奴らの動きをサポートしろ!」
「了解!」

 どうやら神山もこちらの意図を汲んで簡易飛行船の屋根に乗ってくれたようだ。
 今はいいが、これがプレジデントGのトラップだったらどうするつもりなんだ。
 もう少し人を疑うことを覚えろ、貴様は。

 だが、今プレジデントGらしき巨大な影が神山の動きをちらりと見た。
 通れないようにしていたはずのものが渡ってきているのだから、違和感も覚えるだろう。
 ここを俺たちが占拠したことに気づかれるまで、どこまで神山のサポートできるか。
 追加の降魔が送り込まれたら、今の人数では持ちこたえられないことは明らかだ。
 何か手はないか、と思いながら電影板に映る場所を次々と切り替えていく。

「ミスターI、T−7区画に7号たちがいました!」
「生きていたか!よし!放送で呼び寄せるぞ」
「連中はサングラスを被ったままですが、大丈夫ですか?」
「俺が全部割る。それくらいはまだできる」
「わかりました。黒服部隊、黒服部隊に告ぐ。ミスターIからの召集だ。
 そこから五階上、制御室に集合せよ」

 電影板の向こうで、連中が一斉に敬礼して動き出した。
 サングラスに支配されていたままでも、まだこちらの指示が通るなら、全員覚醒させることはできるはずだ。
 目が覚めれば、連中はきっと戦ってくれる。
 だが、それは……。

「いや、約束だったな」

 我ら黒服部隊、降魔を滅ぼすために命を賭けると誓ったのだ。

「7号たち到着しました!」
「制御盤をしばらく任せる!俺は連中を目覚めさせてくる!」

 廊下で到着した十名を迎える。
 保ってくれよ、俺の貧弱な霊力よ!

「全員整列!」
「その声はミスターI!?」
「しかもその怪我、何がありました!?」

 そういえばこいつらの前でサングラスを外したのは初めてだった。

「大事ない!必要事項を伝える!全員整列!」
「はっ!」
「全員目をつぶれ!」

 到着した十名に抵抗されて手間取ってると降魔たちが到着してしまう。
 サングラスに支配されながらも、俺の命令に忠実に従う部下たちに感謝しながら次々とサングラスを握りつぶしていく。

「ようし!全員直れ!」

 両手ともに、もはや何かを握ることはできそうにない。
 全身の疲労感で今にも倒れそうになるが、そんな暇はない。

「俺の顔が見えているな!」
「はっ!明瞭であります!」
「いいかよく聞け!プレジデントGはクソ降魔どもの首魁だった!
 この激変した会場は奴の仕業だ!」
「なんですと!?」
「いや、だが確かに今の状況は……」
「静粛に!今、帝国華撃団が奴をブチのめすために戦っている!
 俺たちの任務は、あのいけ好かん帝国華撃団の神山をプレジデントGの下へたどり着かせること!
 そのために、会場施設を制御するこの制御室を降魔どもから死守することである!」

 説明する俺の後ろには、先ほど死んだ二号と四号の遺体がそのままだ。
 二人の死が、この時間のないときに、仲間たちの説得の役に立つと信じていた。

「ミスターI、質問があります!」
「許可する!手短に」
「はっ!後ろの二人は、降魔と戦って死んだのですね」
「いかにも、この制御室を奪取するために二人は降魔と戦って死んだ」
「心得ました。二人に続きます」
「ミスターI、感謝しますぞ!」
「世界を守るために、降魔どもと戦うこの日を、夢見て参りました!!」
「この弾は降魔どもにぶち込むために!」
「この命、華撃団の正義のために!」
「いい返事だ黒服部隊!ただちにバリケードを組んで降魔の襲来に備えよ!」
「了解!!」

 十名が通路の前後に分かれて、そのあたりの機材をただちにふんだくってバリケードを組む。
 あとはこいつらを信じるだけだ。
 制御室に戻ると、事態はさらに進行していた。
 伯林華撃団と帝国華撃団が連携して、何やら光の柱を立てている。

「帝国華撃団の回線はキャッチできるか?」
「しています!神崎すみれが、北斗七星の陣がどうとか言っています。
 特異点に霊力者を配置して儀式を図る模様」

 北斗七星ということは、あれを七つ揃えるのか。
 それまで、ここを死守できるか。
 いやそもそも、七つ揃えるのに伯林と手分けしても、どう見ても戦力の分散がひどすぎる。
 あの神崎すみれがそんなミスを犯すか?
 ならば。

「……上海と倫敦の空中戦艦に通信できるか?」

 サングラスを破る前の朧な記憶だが、空中戦艦ミカサとともに戦った上海と倫敦の空中戦艦が沈んでいくのを見ている。
 だが、シャオロンもアーサーも、あの程度でくたばるような奴らではあるまい。

「いけます!回線、通じました」
「こちらアーサー。この回線を知っているとは、何者だ」
「こちらシャオロン!競技場の中から?プレジデントGか!?」
「こちらミスターIだ。倫敦、上海、神崎すみれからの指令は受けているな。
 こちらで観測できた特異点の座標を送る」
「おい、ミスターIってプレジデントGの部下じゃねえか!」
「そんなことを言ったら華撃団全部が元はプレジデントGの部下だ。
 ことは一刻を争う。急げ!」
「……なるほど。どうやら目が覚めたようだね、ミスターI」
「ふん、残念ながらな」
「そういうことかよ。いいだろう、今は信じてやる!
 だがてめえはことが終わったら一発殴ってやるからな!死ぬんじゃねえぞ!」

 上海にも嫌われていたから仕方があるまい。
 もっとも、ことが終わるまで、俺が生きていられればだがな。
 扉の外からは部下たちが連携して降魔の来襲を食い止めている音が伝わってくる。
 なんとか、なんとか持ちこたえてくれ。

 神山の無限がこちらの誘導に従って次々と降魔たちを切り伏せていく。
 否が応でも思い出さずにはいられない。
 十数年前に見た、あの、白銀の霊子甲冑を。

 自分は、大神一郎にはなれなかった。
 その代わりに、霊子甲冑に乗れなくても降魔と戦うための手段を身に着けたつもりだった。
 そのあげくが、降魔の首魁に騙されてこのザマだ。
 だが、少なくとも降魔大戦に先立つ降魔戦争から、綿々と練られ続けてきた対降魔装備の技術は、今、こうして部下たちが生身で再び降魔と戦う力となってくれている。

 そして、決戦へと向かう帝国華撃団花組を、こうして支えることができる。

「行け……」

 七つの星が揃う。
 それはやはり、かつて帝都上空で繰り広げられた幾度もの奇跡を思い出させる。

「行け、神山……」

 最後のブロックを動かす。
 プレジデントGの眼前、最後に残った競技場のグラウンドへ、神山の無限をなんとか送り届けた!

「大神一郎になってこい!!神山誠十郎!!!」

 これでここでできる俺たちの任務は終わりだ。
 降魔を食い止めていた部下たちの増援に回らなければ。

 廊下に飛び出たそこは、死屍累々という言葉のままの光景だった。
 少なく見積もっても十数体の降魔がそこに死体となって積みあがっていた。
 倒されると破裂する降魔も多いから、実際に倒した数はその倍以上だろう。

 その代償として、六名は原型をとどめておらず、死体があったのが三名、息があったのはわずか一名だけだった。

「よくやった……よくやってくれたぞ、お前たち!
 帝国華撃団花組は、無事にプレジデントGの下へたどり着いたぞ!!」

 今ここに、地縛霊となって残っているのならばせめても聞けよとばかりに叫ぶ。

「神山は……たどり着きましたか……」

 ただ一人息があった8号が、3号に抱き起されながら、死力を振り絞った声に喜びをにじませた。

「ミスターI,今だから言っておくことが……」
「よせ、もうしゃべるな!」
「望月あざみを、腕だけ縛って逃げられるようにしてしまったのは、俺です……。
 あんな女の子を、雁字搦めに縛るなんてできなくて……」

 馬鹿野郎が。
 最期に伝えるのが、それか。
 だがあのとき、望月あざみを拷問にかけていたら、帝国華撃団の勝利はなかった。
 この戦いの、勝利はなかった。

「愚か者め……、お前のせいで、帝国華撃団が勝ってしまうではないか……」
「俺のせいで……、は、ははは……、それは、いいものです……な……」

 満足そうな顔で、8号の首ががくりと落ちた。

 遠くで、何か絶叫が聞こえた。
 この声、忘れもしない、プレジデントGの声に間違いあるまい。
 続く爆発したような衝撃とともに、周囲の魔幻空間に幾重もの亀裂が走る。
 グラウンド上にいる神山たちは助かるだろうが、中にいる自分たちは助かるまい。

 それでいい。
 プレジデントGに与した俺たちはその責任を取らねばならん。

「黒服部隊諸君、我々は、この日この時、勝利をもって解散する。
 長きにわたる忠節、ご苦労だった。
 ……本当に、苦労を掛けたな」
「いえ、我らの最後に降魔と戦う戦場をくださったこと」
「深く、感謝申し上げますぞ」

 どいつもこいつも、本当に、いい顔で笑いやがる。

 目を閉じれば、家族たちの顔ではなく、別の物が浮かんだ。
 スパイ疑惑で問い詰めたときの、神崎すみれの間近で見た顔だ。
 あれほど長く、彼女の顔を間近で見られたというのは、かつてを思えば僥倖という他ない。

 さらばだ、神崎すみれ。
 俺たちの永遠のトップスタア。
 俺も、かつての帝国歌劇団花組のファンだったんだよ。



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