[サクラ大戦BBS]

MAKING APPEND NOTE
夢織時代 への返事
ミックスしてみるSS

 何度目だ。

 不意にそう思ったのは錯覚ではない。
 既視感と言う言葉がある。
 前にもこんなことがあった、という思いを抱くことをいうが、その理由は未だに解明されていない。
 単純に人類の歴史が繰り返しているだけかもしれないし、
 霊力が時に働きかけてなんらかの予言を行っているのかもしれない。

 だが、このとき大神一郎が抱いた思いはそのような既視感とは異なる。
 前にも同じことがあった、という感覚ではないのだ。
 前にあったと思う記憶とは違っている。
 だからこれは既視感ではない。

 その時大神一郎が抱いた、抱いてしまった思いを形にすればこうなる。


 何度目の、新春公演だ、と。


 大神一郎が大帝国劇場に赴任したのは太正十二年の四月。
 今が太正十六年。
 しかも太正十四年の正月は海軍に復帰していたから、多くても三回しか新春公演を経験していないはずだ。
 だが、何故六度もの記憶がある。


 彼がそれに気づいたとき。
 それが、フィナーレの始まりだった。





「帝国陸軍、対降魔部隊……」
「そう、ウチらの大先輩にあたる人たちや」

 憧れの花組さんたちと話せるようになったとはいえ、この状況は刺激が強すぎる。
 何しろ、花組のスタアの一人、李紅蘭さんの私室に入っているのだから。

「魔物と闘うということは、常に魔の力に曝されるということや。
 二剣二刀という絶大な霊具を持つ人たちでも、それは例外や無かった。
 部隊の一人、山崎真之介はんは、降魔戦争で魔物と闘い続けている間に、魔に飲まれた。
 うちは少なくともそう考えとる」
「じゃあ、花組の皆さんも……」
「うちらは問題ない。少なくとも霊子甲冑に乗って闘っているうちはな。
 霊子甲冑は魔物と闘うにあたって十分な攻撃力をうちらに与えてくれるけど、実はそれは副次的な要素に過ぎん。
 大元の発想は人型蒸気から来ているから……ってこれは話が飛躍しすぎたな。
 元々霊子甲冑というのは、魔の力から搭乗者を守ることを目的に作られているんや。
 敵を倒すためではなく、それに乗った仲間を守る為に設計されたものなんや」

 紅蘭さんの話は確かに飛躍しすぎていて、いくら奏組の隊長として勉強中とはいえ、その理解をあっさり超えるものだった。
 ただ、紅蘭さんがそのことを誇らしく思っていることは十分に伺えた。

「すごい人が作ったんですね。霊子甲冑って」
「ああ……。本当に、すごい代物なんや……」

 そこで紅蘭の表情が曇ったので思わずこちらは首をかしげた。

「どうしたんですか?」
「……その霊子甲冑を、最後に動かしてからどれくらいになるか、思い出されへんのや」
「え?」

 事件は前奏曲のうちに。
 あの方たちの手は患わせない。
 奏組の目的であり目標はそれだった。
 そのことが、結果として霊子甲冑を使わせないことになっている。
 その事実を責められているのではないかと思った。

「ああ、違うんや。別に音子はんたちを責めているわけやあらへん。
 実のところ、うちらも出動することはある。
 でもそのときには霊子甲冑を使わなくなっとるんや」
「…………」
「おかしいんや。いろんなことが。
 特に音子はんたち奏組に与えられた任務は過酷過ぎる。
 生身で降魔と闘えば降魔戦争の二の舞となる。
 それを防ぐための霊子甲冑であり、降魔迎撃部隊花組やったはずなんや」





 振り返れば、帝都に来て何年になるだろう。
 不意にそんな思いに囚われた。
 まだまだ未熟な新米の奏組隊長。
 そう呼ばれて、何年になる?
 何度目の、春公演になるだろう。

「音子くん。君が、それに気づいてくれるのを待っていた」

 いきなり声を掛けられて跳び上がった。
 そこにいたのは、モギリの大神さん。
 ……ではなく、帝国華撃団花組の隊長たる大神一郎中尉であることを、今の音子は知っている。
 それを知ったのは、いつだったか。

「魔の気配を見ることができる君の力ならば、霊力に満ちた帝劇内でも捜索が可能だと思った。
 だから、米田司令にお願いして、君という人材を帝劇に招き入れた。
 この箱庭から脱出するために」




「魔物を作らないといけなかったんです」

 にこやかに。
 これまで幾多の質問に答えてくれたときとまるで同じ表情で、ルイスさんは現実感の希薄な回答をしてくれた。

「あのお方がここにいるのは、魔物と戦うため。
 そういう約束で、あのお方はこの帝都に来たのです。
 お忘れですか?……いや、その約束をしたのは貴方ではなく、前副司令でしたか」

 私を庇っている大神さんの背中が、驚愕したように息を呑むのがわかった。

「だから、任務が終わったら帰らなければなりません。
 あのお方はそれを嫌がった。
 さりとて帝都が壊れるような魔物がはびこって貰ってはそれも困る。
 だから、この箱庭を作るにあたって、どうしても降魔を呼び寄せる必要があったのですよ」
「どうしてですか!?どうしてこんな世界を作らないといけなかったんですか!?」

 思わず叫んでいた。
 自分の欲望のためにそんなことをする人ではないと分かっている。
 少なくともそう分かっているつもりだった。

「我が祖国スペインはフランスとの繋がりが深いのです。
 スペイン継承戦争、というのをご存じですか?
 あまり帝都の方には馴染みが無いでしょうかね。
 まあ、そんな過去のいきさつもあって、実は私はあのお方に少なからず縁があったのです」
「あのお方、あのお方と……、君は誰を守っているんだ!」

 ルイスさんはそれを聞いて、ひどく悲しそうな顔をした。

「分かっているのでしょう。大神さん。
 あなたはとうに気づいているはずです。
 この時がこのままであるようにと、誰よりも変わりたいはずなのに、我が身が変わらないことを願ったこのお方のことを」
「……!」

 ルイスさんは、部屋の中心に置かれた鏡を撫でた。
 長身のルイスさんの身長よりもなお大きい姿見には、帝都が映っていた。
 私が知っている帝都と、同じようで少し違う、私のいない帝都東京が。

「潮時、なのでしょうね。
 かつては誰よりも強大であったあのお方の霊力が、この時を繰り返す間に少しずつ、だが積み重ねれば著しく衰えてきてしまった。
 もはやこの箱庭もこれまで。
 音子さん、貴女を呼び寄せると聞いたときに、どうあってもそれを止めておくのでしたよ」





*************************************
 レスを拝読していて思いついたネタと、五年くらい眠ったままのネタをミックスさせたらこんなものを書いてました。
 このSSは現実の奏組、歌謡ショウとは一切関係有りません。

メッセージ :

名前:
メールアドレス:
確認キー :
URL:
以後ステータス情報をブラウザに保存する(cookie)

書き込み